間1-E 得たもの
「……っ!」
この場所で何度目か分からない…いや、それほど多くもない目覚めをするライト。
先程までの目覚めとは違い、僅かにふかふかとした感触が背面に感じる。
変わらずのタナトスの部屋、そこのソファに寝ていた。
「あ、起きた〜」
「えっと、はい」
真横から声がした。それは、明らかにリフィトースのもので、少し身体が強張る。
それは、警戒心があるが故、先入観は中々抜けないのだ。
「ライト……おはよ……」
「おはようございます…で、結局どうなりました?」
タナトスの声に応じながら、身体を起こす。
不思議といつもより身体の調子が良いような気さえする。
そんなことよりも、ライトは書部の結果が気になって仕方がなかった。
「正真正銘、ライトちゃんの勝ちだよ!バッサリとタナトスちゃん斬られてたし」
「む……リフィトース……」
「ごめんて、でもまさか、あんな"セクハラ"紛いの方法で勝つなんて、想像を超えてくれたね〜!」
起きたライトの隣に座ったリフィトースが、心底面白いという風に勝利を伝えてくる。
その言い方にまた別の椅子に座って本を片手にしたタナトスが、半目を向ける。
彼女に苦笑いを向けた後、リフィトースはニヤリとした、"良い"笑みを今度は彼へと向けてきた。
「そんな言い方しないで頂きたいです。あれは真剣勝負ですよ?気を抜いた方が負けの勝負です。故に隙を作るのは当然ですよ」
「でもだってさ、術を使用した時の快感で、攻撃の隙を作るとか…私も見たことなかったよっ」
ライトは反論するが、彼女はニヤニヤが止まっていない、頬が笑いで引き攣っている。
だが、言わんとすることは分からんでもない。
戦闘中に快感で反応を遅らせるなど、何処の誰が考えようか。
まあ、非常に有効だったのは否定の仕様がないがね。
「けど、ギリギリでもあったよね」
「お気付きでしたか」
「どういうこと?……ライトの勝ち筋……確かだった……」
「いえ、僕の作戦には大きな穴が、というか穴だらけでした」
一見すれば、最適解の上で攻略出来たように思えるが、実際はそんなことはない。
少ない時間で作られた分、伴うように危険を多分に孕んでいた。
「蛇形記章で出来るのは同調と模倣の二つ。同調出来るのは、思考・スキル・現力・身体操作。模倣できるのは、知識・スキル・現力容量含む基礎身体能力。使用した時の快感の強さは模倣よりも同調の方が強い。それぞれの同調や模倣はさっき先から言った順に快感が強いです」
加えて、模倣は相手に手が届く範囲でなければ使用出来ない。
同調は相手との接触が必要である。接触は必ずしも手でなければいけない訳ではなく、持っている物の接触でもいい。しかし、持っている物の所有権が自分になければならない。
「そして、蛇形記章は使用された側には快感が流れる。だけど使用した側、術者には負荷が掛かる、だよね?ライトちゃん」
「その通りです。模倣・同調したものを受け入れる筈の術者の器が小さければ、術者自身を圧迫します。当然、神の力を受け入れれる器が、一介の生物である僕にあるわけがありません。結果として、タナトス様から模倣しようとしたスキルで頭痛が起こり、同調により一気に流れ込んだ力で気を失いました」
これは前にも説明したことだ。模倣は勝手に器に水を注がれるような物、受け止めきれない分が負荷になると思えばいい。
ハッキリ言ってしまえば、模倣での頭痛などは現時点で神クラスが相手でなければ起きない。
黒魔の特性『食べた上位者の特性を自身に適応させる』で円環之蛇の特性『森羅万象への完全適応』を不完全ながらも自身に適応させたライト。
それにより、先程経験した模倣の負荷に適応した。不完全が故に、タナトス未満の相手ならば模倣で負荷を受けることはないだろう。
仮に完全適応、ヨルの場合、タナトス含む「神」という枠全体への適応で負荷はなくなる上に、「神」以下でも当然負荷が無くなる。
チートが過ぎる。
同調はまた勝手が違うので、何とも言えない。
「思考や知識にしなかったのは、そちらの方が情報が多いので、脳が絶えきれないと判断したからです。それに、思考を同調なんてしてしまえば、何をするか知られてしまいますからね。それ以前に攻撃する前に気絶していたかもしれませんし」
「ま、結局の所、快感に弱かったタナトスちゃんの負けで、痛みに耐えきったライトちゃんの勝ちってこと」
「まぁ……いいや……おめでと……ライト……」
「ありがとうございます」
少しムスッとしたタナトスからの言葉を、しっかりと受け止めライトはニコリと笑う。
「それで、報酬は?リフィトース様」
「リフィでいいよ〜呼びづらいでしょ?」
「では、リフィ様と」
「う〜ん、まいっか。あ、それで加護はもうあげてるよ、身体軽いでしょ?」
「それは感じてました。これが創造神の加護ですか…流石に普通じゃ感じれませんね」
「劇的に身体能力が上がるわけじゃないからね〜。まあ、運が良くなるみたいな?」
既に創造神の加護は貰っているらしい。
ライトは、いつもとは違う身体能力の高さから、直ぐに合点がいったようだ。
軽くも適当に効果を言うリフィトースに、溜息を吐く。
(創造神の加護が運がよくなるだけな訳ないでしょうに。世界の創造者…そして、ヨルが殺せなかった相手の力。調べ甲斐があります)
段々と孤を描こうとする顔を、抑えるのにライトは必死だった。
力を貰った相手を前にして、どう利用するか考えるのは、流石に失礼が過ぎるからだ。
そんな彼を興味深そうに見る瞳が二つ。
「ふ〜ん、ねぇライトちゃん」
「なんですか?」
「ヨルちゃんからさぁ、蛇王蛇法の"代償"って聞いてるの?」
「代、償?」
「その様子、知らないんだね〜。ヨルちゃんも人が悪い」
リフィトースの不穏な言葉に、背筋に冷たいものを感じた。
代償、という響きに嫌な予感を感じない者はいないだろう。
ヨルの人が悪いなんてのは、分かりきった話である。
(蛇王蛇法に、代償なんてあったのか…)
「そりゃそうだよね〜。無から何かを生み出す術なんて、あるわけないし」
「言われてみれば、ですね」
まるで、思考が誘導されていたかのように、ライトはその考えに到っていなかった。
それがヨルの企みであるというのに気付くには、そう時間は掛からない。
圧倒的黒幕気質のヨルに対して、そういう部分は信頼たっぷりである。
「蛇王蛇法の代償、それは――」
「――『術者への因果の収束』……」
「もう、タナトスちゃん!取らないでよっ!」
「まあ……いいじゃん……」
「因果の、収束?一体どういう意味なんですか?」
横からリフィトースの言いたいことを掠め取ったタナトス。
二柱がわちゃわちゃとしているが、彼としてはそんなことよりも代償が気になって仕方がない。
「因果、つまりは運命的なものが、蛇王蛇法の術者に収束される。それは簡単に言うと災厄から奇跡まで、あらゆる奇縁の中心に君がなったり、引き込まれたりするってこと。つまりはライトちゃんが台風の目になるってことだね」
「ライトが……厄介事によく絡まれるのは……蛇王蛇法のせい……ってことになる……」
「成る程…」
今までの、物語の主人公ですと言わんばかりの、巻き込まれ気質には理由があったのだ。
同時にこれからもそれが続くことは、直ぐに理解できるだろう。
蛇王蛇法を使用した瞬間から、この運命という名の呪いからは逃げられない。
「うっ…これは…」
ライトの視界が霞む、意識が遠のいていく。
これまでも経験したことのある感覚だ。
「ん……タイムリミット……」
「まあ、いつもから考えれば、相当長がかったんじゃない?お疲れ様。ライトちゃん」
「はい…それ、では……」
二柱の優しげな笑みを最後に、ライトは意識を手放した。
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