間1-7 無理ゲーの攻略
無理ゲーはそれでも攻略できるから面白い、とはヨルの言葉だ。
ライトは、それを言われた当時は無理ゲーの意味すら知らなかったが、その言葉の意味するところはなんとなく理解できていた。
それは偏に、彼もまたヨルと同じように戦闘狂だからである。
(認識を壊せ、常識を捨てろ、タナトスの想像を上回り、勝つ!)
呆れる程難易度の高い"無理ゲー"ではあるが、クリアできない"クソゲー"ではない。
可能性が0と1では全く別なのは言わずとも分かると思う。
その1を死にものぐるいで試行錯誤し掴むのが無理ゲーの楽しさだ。
彼にとって、高い壁はやはり、楽しめるものなのだろう。
タナトスが鎌を構えたのと同時にイグニティを構える。
《黒剛彩王-虚の理》
―――虚の理:≪拡張世界認識・時空≫
世界が紐解かれ透けて見える。
五感の全てを前回と同じように遮断する。
ライトは当然馬鹿ではない、同じ結果にしない為に強く認識する物を変えた。
(……来るっ)
タナトスが行動した瞬間、認識する範囲を周囲2mに限定する。
要領は、先程とさして変わらない。限界まで集中し繰り出された攻撃を受け流す。
認識範囲内に入った鎌の刃は"二つ"。
左前方上部から首を狙う刃が一つ、真正面から横一文字で胴を切り裂きに来る刃が一つ。
(首を狙う方が力の塊、真正面が本物だ!)
上半身だけを左後方にズラすように動かし、左足に力を籠めながらイグニティを真正面の鎌の刃へと、振り上げぶつける。
彼自身の耳には届かない凄まじい金属音が響く。
それ即ち、彼がタナトスの一撃を防いだに他ならない。
即座に認識範囲を5mまで広げ、タナトスの全身を認識する。
(全力を出さなきゃ負ける。ならば、一撃に全てを乗せる!)
《黒剛彩王-虚の理》
―――虚の理:≪愚者に許されし繰延法≫
―――虚の理:≪時間支配法則・時止めの全舞≫
ライトの左の瞳、その白目と黒目の色彩が反転する。
それとほぼ同時に、回転しながら彼の首元に現れた淡く光る全舞が、ギリッと音を立てて止まる。
世界から色が抜け落ち、世界の時間が停止を知らせる。
彼は本気の一撃をぶつける準備を始める。
時を止めていられるのは、そう長くない。長すぎるとクロノスからの説教が待っていそうだからだ。
―――八彩王法:我覆う理不尽の鱗装よ
銀河のような刃を王気が覆い、鱗ではなく巨大な牙のような、漆黒の片刃の刀身になる。
更にその刃を混じり気のない不透明な漆黒が染め上げ、罅のような紋様が走る。
イグニティを万力を籠めて振り上げる。また同時に首元に浮かぶ全舞が解けるように消えた。
世界に色彩が戻りだす。
―――八彩王法:黒刃は、天地を壊す・深染重剣
刃が空間を黒く染め上げると共に切り裂きながら、タナトスへと触れた。
―――神術・死:刎戡
かに思えた刹那、視界がズレ落ちる。
意識が消える最中見えたのは、空いた手で"手刀"をしたかのような姿のタナトスだった。
「……次を」
「分かった……」
またしても目を覚ましたライトは、すぐさま立ち上がる。
自ら首に触れて、魔法を使う。
《黒剛彩王-虚の理》
―――初級記憶魔法:メモリード
認識できなかった死亡の記録が脳に流れる。
そこには、まるで漫画のコマが飛んだかのような速度で振るわれた手刀に沿って、肩から上が斜め一文字に切断されて死んだ自分の姿が映った。
(いや、可笑しくないか?)
意味が分からなかった。
何処の世界に手刀で触れずに物体を切れる者が存在するというのだろうか。
などということではなく、気になったのはその切断の仕方だ。
(手刀の延長上の空間が…『理ごと世界そのものがぶった斬られてる』んだが)
手刀で切られたのは、ライトだけではなかった。
ライトが存在した周囲そのものが、存在している為の機能ごと切られていた。
つまりは、空間が存在するしないに関わらず、"写真を鋏で切る"ように、分断されたということだ。
(回避不可能かは不明だが、現状防御不可能なのは確定)
策を練りながら、イグニティを構える。タナトスもまた鎌を構える。
やはり、というべきか、強すぎる。軽い一撃(即死する)は防げたが、時間停止からの攻撃すら当てられない。
ライトはニヤリと笑みを浮かべ、イグニティを一を書くように剣を振るう。
小さく言葉を紡ぎながら。
(けど、先ずこれは試す価値あり)
―――再事翼蛇=神術・死:刎戡
―――神術・死:刎戡
タナトスが放った手刀と同じものをイグニティで放った。
そして、それと同時に意識を失った。
「……まあ、駄目ですよね」
「でも……作戦としては……悪くない……当然……私にも効くし……」
皆さんも直ぐお分かりの通り、再事翼蛇でタナトスの技を再現して放ったが、そんな安直な思考を読んだ彼女に、同じ技を放たれ制限により押し負けてライトは死んだ。
(再事翼蛇の制限上、どうやっても反射速度で同じ技を放たれて負けて死ぬ…)
その時、バチッと閃きが彼の脳に走る。
(逆に言うと、それにさえ勝てれば、俺の勝ちってことだ)
間違いでは、確かに無い。しかしながら、それがどれだけ難易度が高いことか、直ぐに分かる。
文字通り、生物の範疇を超える反射速度で攻撃出来るタナトス相手に、勝てる訳がない。
普通なら、だが。
(時間停止から放つのは……)
「多分……時間停止の状態が……正常じゃないから……使うと同時に……死ぬよ……」
「ですよねぇ…理ごとぶった斬るなら何となく想像ついてましたよ」
時間が停止した状態でやれば、速さなど関係ない。けれども、時間停止は理あって成り立ってる。
理ごと切ると、時間の奔流にでも飲み込まれて消滅するのだろう。
(なら……これを試そうか)
「っ……成程……上手くいくかな?……」
「いくかいかないではなく、いかせるんですよ」
少しだけ怪訝な顔をしたタナトスの言葉に、ニヤリと笑みを浮かべたライトがそう返す。
彼女は、彼の瞳の奥に揺るがぬ意思のようなものを見た。
自然と彼女もまた、笑みを浮かべていた。
「じゃあ……やろうか……」
「ええ、そうしましょう」
双方が武器を構える。
僅かに緩んでいた空気が引き締められ、張り詰める。
「「……」」
どちらも動かずに、少しの時間が経った後。
「――ッ!!」
―――虚の理:≪重力支配法則・拘束の吸引球≫
ライトの左手の平の上に、群青色の球体が生まれる。
分かりにくいが、それは高速で回転しており、周囲の物を引き摺り込もうとしている。
術者である彼を除いて。
「『死ね』」
―――虚の理:≪空間支配法則・空間置換≫
―――虚の理:≪空間支配法則・空間置換≫
―――神術・死:刎戡
「おっと、危ない」
「……」
タナトスの言葉と同時に、球体が消滅する。
同時に消されるだろう周囲に巻き込まれないように、タナトスの背後に転移したライト。
また間髪入れずに彼は転移し、最初に居た場所の少し前方に戻った。
視界には後方に手刀を放ち、世界を切断する彼女の姿が映る。
(やっぱ転移じゃ反応でほぼ確定死。直接近付くしかない!)
ライトは、床を蹴り距離を詰める。
距離はそうない、二人ならば、ほぼ無と言ってもいい。
接近と同時にイグニティを突き出す。
「想定済み!」
「くっ……」
振るわれた鎌の柄を下からぶつけられ、イグニティが跳ね上げられる。
だが、それは仕組まれたもの。攻撃を受けるよりも先に剣を手放していたライトは、武器がぶつかった瞬間に、鎌の柄を掴む。
笑みが浮かぶ。
―――蛇形記章・才能模倣
「あっ……」
「――うぐっ、だがもらった!」
武器が触れれる範囲は蛇形記章の模倣射程範囲内。
そして、蛇形記章を使用された対象には、"快感"が流れるので、反応が若干遅れる。
だが、同時に模倣したスキルといえばいいのか、不明なタナトスの力が強力すぎるが故に、ズキリと頭に痛みが走る。
生み出した隙で、手刀を放とうとした所で、嫌な予感を覚えた。
(いや、もう一段階踏む!)
ライトは攻撃を放つから更なる妨害に移る。
鎌を持つタナトスの手を掴む。
―――蛇形記章・才能同調
「はうぐっ!?」
ビクリと跳ねた彼女の身体を確認した上で、空いた手で容赦なく手刀を放つ。
この状況でも、全く手を抜く気はない。
―――再事翼蛇=神術・死:刎戡
手刀の軌跡が黒く染まり広がった。
世界が切り裂かれる感覚が僅かに、身体へと伝わってくる。
しかし、同時に頭痛が酷くなる。
狭まる視界と滞る思考に押し潰されるように、ライトは意識を手放した。
確かに放った彼の攻撃は、果たして勝利の一撃、足り得たのだろうか?
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◆技解説
王法技録
黒刃は、天地を壊す・深染重剣 剣に「我覆う理不尽の鱗装よ」を使用時使用可能 黒刃は、天地を壊す+『未使用の為、未開示』
スキル技録
神術・死:刎戡 斬撃の延長線上の世界を切断する 使用には斬撃の動作が必須 基本防御不可 切断範囲は術者の技量で調節可能
魔法技録
虚の理:≪重力支配法則・拘束の吸引球≫ 指定箇所に重力球を作り出し周囲の術者以外の生命を引きずり込む 引き摺り込まれた生命は術が解除されるまで内部で保持され続ける
蛇王蛇法技録
蛇形記章・才能模倣 使用した相手のスキルを模倣し使用者に加算する 使用には対象と接触可能距離まで接近する必要あり 使用者の瞳にウロボロスの紋様が現れる




