間1-P 衝撃の事実
「――うへぁ?」
霞が掛かった思考で、ライトは目が覚める。
然も、何故か立ったままの状態で。
開き切っていない目蓋により、狭いままの視界がグラつき、前へと倒れる。
「危ない……ん?何か前と繋がり方が……変だね……」
「んぅ?」
何かにぶつかったかと思えば、柔らかげな感触と温もりを感じた。
聞こえてくる声には、確かな覚えがあり、徐々に意識が覚醒してくる。
そして、違和感を感じた。
誰かに抱き止められたのに、通常どんな相手にも絶対にある筈の、"匂い"が全くしないというのに気付いた。
ライトは、相手の匂い覚えるのが得意、というか匂いで相手を判断してるまである。
だからこそ、今目の前の居る、匂いのしない相手が誰か判断できなかった。
ゆっくりと、顔を上げた。
瞳に映るのは、灰色の髪と世の者と思えない程美しい顔、そして髑髏の模様が奥に見える薄い黄色の瞳だ。
その瞬間、即座に相手を理解し、急に冷めた思考で相手から離れる。
「た、タナトス様っ!?ど、どうしてっ、じゃなくて、すみません!」
「別に……気にしなくていい……何かしら……問題があった……みたいだし……」
「そうなんっ――てどうしたんですかっ!?その格好っ!?というか、此処何処っ!?」
完全に意識が覚醒したライトは、離れて見えたタナトスの全身を見て驚き、同時に明らかに今までとは違う周囲にも驚く。
タナトスは、これまでと変わらないゴスロリドレスなのだが、何だか血に濡れていた。
服のあちこちに、何らかの生物のであろう血液の跡があるのだ。
そして、周囲はいつもの白い何もない空間ではなく、白と黒と赤色だけで色が全て統一された家具が置かれた、何処かの部屋。
大きいが一つしかないベッドから、一人でこの部屋で生活しているだろうことは分かる。
此処が、誰の部屋か、その答えに行き着くのに、そう時間は掛からなかった。
(もしかして此処、タナトス様の部屋?だとしたらどうして、来てるんでしょう?僕)
「実はいつも……この部屋に……来てたよ……」
「ん?どういうことですか?僕はいつも真っ白な空間に来てましたよ?」
ライトの記憶では、これまで神と会う場合、まあタナトスとクロノスだけなのだが、地面や空も分からない真っ白な空間だった筈だ。
タナトスの言っていることは、彼からしたら間違っている。
だがしかし、それは彼から見た事実であり、彼女から見た事実はまた別だ。
「それは……君の目には……そう映ってただけ……本当にいつも……この部屋に居た……」
「でも、可笑しいですよ。この広さの部屋で、僕とタナトス様がしたような戦闘は出来ません」
「この部屋は……謂わば……私の領域……領域内なら……クロノス程じゃ……ないけど……空間操作は……お手の物……」
そう言いながら、タナトスが軽く手を振ると学校の教室くらいの広さだった部屋が、五倍ほど広さにまで拡大される。
改めて、彼は神様って本当にレベルが違うな〜と思った。
その程度の驚きで済むくらいには、彼の感性は壊れてしまったらしい。
「じゃあ、どうして、僕はタナトス様の部屋を認識できるようになったんですか?……いや、もしかして?」
「それは私には……分からない……でも……君は心当たり……あるみたいだね……」
「まあ、恐らく、神罰執行の代償による神化のせいかと」
「?……何言ってるの?……神罰執行に……代償はないよ?……それに……神化って……」
「え?」
タナトスが返した言葉に、ライトの思考が一瞬停止してしまう。
それは明らかな矛盾だ、あのヨルが神罰執行には代償があると断言……彼はそこで、ヨルが断言はしていなかったことに気付く。
あの時の彼女は、何やら考え事している、悩んでいるようでにも感じられ、珍しくも完全に断言するような口調ではなかった。
「でも、ヨルが代償があるって」
「いや無いよ……そんな危険なもの……私はあげない……それで……神化って?……」
「降ろされた神性が僕の身体を変質させて、徐々に神になってしまうそうです」
「そんなこと………………確かに……君から弱いけど……神の力を……感じる……どうしてだろ……」
ライトに近付いて、よく彼を全方位から隈なく見た後で、タナトスはそう言う。
その顔には、強い違和感、疑いが浮かんでおり、状態を正常に判断できていないように見える。
「でも……神罰執行には……代償はない……けど代わりに……結構……使用条件が……厳しい……」
「そうなんですか?使ってる身からしたら、そうとは思えませんが」
「それは……君が特殊なだけ……なんだよ……」
呆れた顔をした彼女が、神罰執行の使用条件を教えてくれる。
1つ目、系統-王位のスキルを所持していること。
2つ目、系統-理のスキルを所持していること。
3つ目、神の加護を所持していること。
4つ目、加護を受けた神を視認すること。
5つ目、加護を受けた神への反逆意識がないこと。
この五つらしい。
「う〜ん、まあ難しいんですかね。1つ目が満たせたら大体2つ目も満たせて、3つ目もそれほどの存在ならば分からなくもない。でも、4つ目が鬼門ですね。普通会うことなんてありませんし」
「そうだね……通常このスキルは……神が定めた……高難易度迷宮……その踏破報酬……として得る確率があるから……必ずしも……王が持つ訳じゃない……だから……普通は使えない……」
「僕が例外というのは理解できました。でも、僕が神に近付いてる件については、解決してませんよ?」
自分の特異性を理解したが、だからといって問題は解決していない。
彼はもう一度頭を捻らせた。
「仕方ない……私と一緒に……調べよう……いつもより強く……意識が来てるから……時間はたっぷりある……」
「分かりました、お願いします。タナトス様」
こうして、短い神界の調べごとが始まった。
間章1 神の部屋で調べごと
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