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黒塗の八岐大蛇 ~負けれない少年は、人道外れでも勝利をもぎ取りたい~  作者: 白亜黒糖
第6章 誇り高き青の王家と生贄喰らいの魔本
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6-31 謎の狭間の後、自室で目覚めて



 突然浮上した意識は朧気だ。



「こ、こ…は?」



 霞の掛かった思考で、身体を起こそうとするが、鉛のように重くライトは起き上がることはできない。



「――アァ?何で此処に来てんだよ。テメェが」



 すると、乱雑な言葉が投げかけられる。

 彼の記憶の中には、存在しない声だ。

 顔も動かせないので、相手を確認することも出来ない。



「ぅ?だ、れだ?」

「その感じ、偶々繋がっただけみてぇだな。リンクが脆弱過ぎる。多分、力貸してやったからか」

「……?」



 見えない誰かは、ライトが此処に居る理由を理解しているらしい。

 足音が近付いてくる。



「起きた時、覚えてるかぁ知らねぇが。この際だ、言いたいことを言わせてもらう」

「なに、いって」



 顔の直ぐ横で、足音が止まる。



「『八彩鉱王』に使われんのは、癪で仕方ねぇ、それもお前のような未熟な奴なら尚更だ。だが、お前の気質は嫌いじゃねぇ。その狂気とまで言える勝利への執着、その為なら全てをかなぐり捨てる大胆さ。オレ好みだ。それに、面白い運命の下に生まれたらしいしな」

「……」

「だから、これからも力は貸してやる。まぁ、相応の対価は貰うがな。そして、一つ約束しろ」



 隣で、その見えない誰かはしゃがんだ。



「お前が殺し損ねた、あの女。あの女は、オレで殺せ。大きな借りがあるからな、アイツには」



 見えない誰かが、ライトの顔を覗き込む。

 見えた顔は、黒いフードを被っているせいか、判然としない。



「お前は、まだまだ弱い。せめて、素の力で悪魔の一体や二体を殺せるくらいにはなれ。そして、オレを楽しませろ」



 くつくつと目の前の誰かは笑う。

 フードが揺れ、僅かに顔が見えた。



「――ライト・ミドガルズ、お前の生き様、楽しみにさせてもらおう」



 その顔は、整った女のものであり、口調とは酷く乖離していた。

 見下ろす、オレンジ色の瞳と三日月のように歪んだ笑みを最後に、彼の意識は再度沈んだ。



◆◇◆





「う、う〜ん…――ハッ!」



 陽光により僅かに覚醒した意識が、何かに引っ張られるように急速に浮上する。

 身体を起こし、辺りを見回す。

 借りている自室ではない、別の部屋であることに、彼は即座に気がついた。



「此処は…多分、治療室かナニカでしょうね。恐らく、戦闘音がしなくなって入ってきた、そうですね、アルグ辺りが僕を宝物庫から出したんでしょう。……あ、左腕無いままですね。あの時に治したのは右腕だけでしたから、序に治しておけばよかったです。まあ、直ぐ治せるので問題はありませんが」



 自身の状態や部屋の様子から、此処がどこであるかと自分がどのように此処に来たか、推測する。

 身体の重心の偏りから、治し忘れた左腕についても気付く。

 自分で切り落とした左腕では、王気で作っていたので、神罰執行時にクロノスの力で治すのを忘れていたのだ。


 そこでふと、耳に遠くから近づく足音が聞こえる。

 感覚で理解する、その足音が本当に遠くからのものだと。

 この部屋に入ってくるまで、約二分程の時間が掛かるだろうとも分かる。



「はぁ……感覚の鋭敏化。神に近付いてしまったということでしょうかね」



 空中へと溜息を吐き出す。

 神罰執行の代償により、ライト自身の身体が神へと近づく。それを実感したことへの溜息だ。

 別にそれほどの危険はないだろうとの結論には至ったのだが、危険がゼロではないのは事実。

 自分が自分でなくなってしまう。未知のその感覚は、表現の仕様のないモヤっとした感情を生む。



「まあ、逃げられたとはいえ、あの怪物相手にこの程度で生き残れただけ、マシでしょうかね」



 彼は、今回の戦いがギリギリだったことに気付いていた。

 それは冷静になってみて、身に沁みている。

 戦闘時は若干の後悔をしてから納得したが、後悔すら必要なかった。


 最純二択時に悪魔の剣について気付かなければ、≪愚者に許されし繰延法ポストポーン・コンペセイト≫の時間が足りなければ、無理をして神罰執行(しんばつしっこう)を使わなければ。

 使用した物全てが絶妙だった。

 あの生まれ変わったレライカのようで違う悪魔なのかも分からない、アイツが勝手に逃げてくれなければ敗北は濃厚であっただろう。



「もっと、強くならなければ。まずは、王気の扱いをもっと洗練させるところからですかね」



 そんなこんなな思考をしていれば、足音は部屋の前まで近付いてきていた。

 扉が開き誰かが入ってくる。

 その誰かは、青緑色の髪を首下まで伸ばした、簡素だが品のある水色のドレスを着た少女――アトレ・ヴォラクス・アウトライル。

 彼女は、起きているライトを見て、驚きながらも安堵したような表情で近付いてくる。



「ライト様っ!目覚められたのですねっ!"三日"も起きられなかったので、心配でっ」

「へぇ、三日経ってたんですか。意外と短くてよかったです」

「え、えっ?その、驚かれないのですね」

「まあ、そのくらいは前にもありましたし」

「色々なことをされてきたのですね……」



 アトレに≪愚者に許されし繰延法≫の清算で消耗したものの回復に掛かった期間を聞き、軽く返すライト。

 そんな彼に若干彼女は引き気味だ。

 すると、彼女は気まずそうな顔をして、彼の左腕を見る。



「その…手を尽くしに尽くしたのですが、ライト様の左腕は治すことが出来ませんでした。申し訳ありません、我が国の為に行動してくれたというのに、不甲斐ないばかりです」

「あ、気にしなくていいですよ」

「…腕が無くなって、悲しくない、怒らないのですか?」

「いえ、全然ですよ。直ぐ治せますし」

「え?……」



 彼女に、明らかに珍獣を見る目というか、奇妙なものを見る目を向けられた。

 当然の反応であるが、ライトは彼女の反応に対して、何かしらの反応はしない。

 価値観の相違というのを理解しているからだ。



―――(いや)(なお)聖蛇(せいだ)



 ぼそっと術を呟き、現れた白蛇が左腕に当たり弾け、左腕が修復され現れる。

 アトレが目を見開く。



「どっ、どういうっ」

「まあ、僕にかかればこれくらいは簡単に治ります」

「え、えっと…死神様の使徒様ですから、これくらいは…そう、これくらいは普通、なのですね」

「そういうことです」



 動揺していた彼女は、突如一度遠くを見てぶつぶつと呟き、納得したようである。

 何か悪いことを使用な気もするが、そんなこと知ったことではない。



「それじゃあ、今ローガスとかに僕が起きたと伝えて下さい。何が起きたか、話しますので」

「分かりました。それでは行ってきますので、お待ちください」

「はい、よろしくおねがいします」



 部屋を出ていく彼女を見送った後、笑みを浮かべ窓の外をライトは見た。

 そこには、それは綺麗に登る太陽が煌めいていた。



◆投稿

次の投稿は11/23(木)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

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