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黒塗の八岐大蛇 ~負けれない少年は、人道外れでも勝利をもぎ取りたい~  作者: 白亜黒糖
第6章 誇り高き青の王家と生贄喰らいの魔本
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6-30 宝物庫での企み ⑦





「全く、呆気ない」



 ライトは、脱力し息を吐く。

 それと同時に宙に浮いていた、レライカだった血溜まりが床へと落ちる。



「にしても、何が目的だったのか。あの本が悪魔関連のかなり危険な代物、だってことしか分からなかった。それも、もう潰――っ」



 血溜まりを確認する為に、一歩踏み出した瞬間、冷水をかけられたかのような感覚が襲う。

 見れば、血溜まりがあった箇所には"見覚えのある紅い卵"のようなものがあった。


 本能が訴える静止を振り切り、彼は剣を構えて駆け出す。



(確実に殺した筈っ!いや、そんなことはどうでもいい!脅威になりそうなら――殺すっ」



 血色の剣に魔力と王気を流し込んで振り上げ、対象斬り伏せようと振り下ろそうとした。

 その時、彼の視界に妙な物が映り込んだ。


 血色の剣が手から溢れていた。

 いや、正確には血色の剣を持つ右腕そのものが、黒い血を散らしながら床へと落ちていっていたのである。



「――ごふっ」



 腹に何かが当たり、その鈍痛が全身に伝播する。

 視線を落とせば、卵の下から伸びた、ドス黒い触手が腹を抉っていた。

 伸び続ける触手に押し飛ばされ、壁に叩きつけられる。



「――キヒヒヒヒヒッ!!イイネイイネ!!久方ぶりの世界は、心地がイイッ!!」



 先程とは、大きく毛色違う、気色と狂気に満ちた声が空間に響く。

 割れた卵の内から、ソイツは姿を表した。


 純白の肌、真紅の眼に黄色の瞳、三対六翼の漆黒の翼、レライカと同じ悪魔の角とそれに掛かる黄金の冠。

 黒を基調とした橙色の軍服、そして右手持たれた、金により装飾されて豪華になっているが、見たことのある赤黒い本。

 レライカのようでそうではなく、また悪魔のようでそれとはまた一線を画す、異質さを感じさせる存在。



「所で、ココはドコだ?ええ?教えてくれ、レライカとかいう嬢ちゃん!ふうむ?人界の――「うるっせぇなぁ」――アラ?」

「もう少し静かに喋れねぇのか?」



 切られた右腕から、ダラダラと血を流しながら、立ち上がったライトが不満をソイツにぶつける。

 危険な状態にも関わらず、そう言えるのは、彼の胆力あってこそだ。


 悪魔の意識が、ライトへと向けられる。



「アラァ?殺したと思ったんだけどネ?意外と頑丈だったみたい?ん?今代の『黒剛の王』アレが?ないよ!ナイナイ!こんな"弱そうな"奴がとかアリエナイ!」

「……」



 プツリと何かが切れるような音がした、気がする。

 相も変わらず、沸点の低い男である。



「黒の奴はねぇ、もっとイカれた奴なんだヨ?それに敵を――


―――神罰執行(しんばつしっこう)


――ア"コ"フ"ッ!?!?」

「黙れ、クソ悪魔」



 ベラベラと喋っている最中に、瞬間移動したライトが悪魔を殴り飛ばす。

 怒りを顔に浮かべる彼の様相は、少し異なっていた。


 漆黒の髪の一部分が空色に変化し、右の瞳には時計の紋様が刻まれている。

 コートにも空色のラインが入り、右肩には『Kronos』の文字、左肩には、立方体のような模様。

 後ろのウロボロスの紋様の真ん中に時計の紋様が描かれている。


 その身が纏う雰囲気や力の質の変化は、言うに及ばず。

 彼は、もう一つの切り札を切ったのだ。



(はぁ…感情に任せたとはいえ、ミスった。…いや、あのままだと≪愚者に許されし繰延法ポストポーン・コンペセイト≫の残り時間も短いし、ジリ貧だった。仕方のない選択だった、これは)



 使うなと言われたものを両方とも、使ってしまった後悔が募る。

 しかし、使わなかったら危険だったのも事実。

 見切りをつけ、目の前の敵に集中する。



「オオッ!この感じ、黒の奴と同じ!」

「チッ、頑丈なやつだ」

「キミ、やるね!けどまだまだ足りない。足りなすぎ!」



 難なく立ち上がったソイツが、嗤うと足元の影が赤黒く染まり広がる。

 そこから、一本の棒のようなものが上へと伸びる。

 ソイツは、棒を掴み一気に引き上げた。


 現れたのは、血色の刃を持つ戦斧。



「それじゃあ――ヤッていこう!」

「まともに付き合う気はねぇよ」


《黒剛彩王-虚の理-神罰執行-悪逆非道-暴虐非道-聡明》


―――神術・時空:無空(むくう)(かべ)


「アリャァ?」



 悪魔が床を蹴り姿がブレる瞬間、手を前に伸ばす。

 血色の刃は、首の前数十cmの空間で止まっていた。


 悪魔は、不思議そうな顔をしている。



「これ以上、進まない?」

「ただ、俺とお前の間にある空間を消しただけだ。"何もない"場所に、物体は進めない、ただそれだけだ」


―――神術・時空:空間破壊(エリアブレイク)



 説明と同時に、伸ばした手を何か握り潰すように閉じる。

 刹那、悪魔の存在する周囲の空間に罅が入り、亀裂になり、砕け散った。


 身体がバラバラになった悪魔が弾け飛んでいくのが、よく見える。

 だが、そう簡単に行くわけもなく。

 バラバラになった身体同士に、血の糸のような物が張り巡らされ、一箇所に集まるように引っ張られる。

 肉が集まり、塊になったかと思った瞬間には、ソイツは再構成された。


 呆れて、物も言えない。



「うーん、あーんまり身体が馴染んでナイネ!分が悪いカモ!だから、逃げル!」

「は?何言ってやが――」

「――サヨナラ!また会おう、今代の黒!」

「……チッ、何だってんだ」



 突如、口早に色々と言い残し、悪魔は消えてしまう。

 不満を表しながら、ライトは悪魔を追うことはしない。

 それは、彼自身も限界に近かったからだ。



(不味い、意識がブレ始めてる。≪愚者に許されし繰延法ポストポーン・コンペセイト≫の清算が始まりだした)



 朦朧とし始めた意識と思考を、何とか少しだけ働かせる。



(せめて、…このボロボロの空間を直さなければ)


―――神術・時空:逆巻け、記憶通りに(リザレント・メモリア)



 瓦礫が独りでに動き出し、元へと戻っていく光景を見ながら、彼の身体から力が抜けていく。

 倒れた彼の意識は、ゆっくりと、微睡みへ……。



◆投稿

次の投稿は11/20(月)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

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その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆技解説

スキル技録

神術・時空:無空(むくう)(かべ) 指定範囲の空間を消失させ物体の移動を阻害する 消失した空間には更に上位の力で干渉しない限り侵入することができない

神術・時空:空間破壊(エリアブレイク) 点で指定した箇所から一定範囲の空間を破壊する 破壊した空間は世界の矯正力により修復されるが干渉する強さによっては破壊したまま固定できる

神術・時空:逆巻け、記憶通りに(リザレント・メモリア) 使用者が存在する空間(使用者の認識により変動)を使用者の記憶に存在する状態まで物質的時間を巻き戻し修復する 生物には効果が反映されない



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