6-29 宝物庫での企み ⑥
漆黒に染まった刃が、赤黒いその紙片に食い込もうとした刹那。
「――あ"こ"ふ"っ」
「――それは困まります」
視界を掠めた何者かが、ライトの腹を強く抉る。
血色の剣を床へと突き刺し、身体を止める。
口の端から漏れた黒い血を拭い、息を整え前を向く。
「お前、何者だ?」
内心の動揺を抑え込みながら、視界に映る"女"がそう問いかける。
真紅の肌、漆黒の眼に紅い瞳、三対六翼の純白の翼、短くも太く威圧的な悪魔の角とそれに掛けられた赤銅で作られた王冠。
緑の貴族服を着て、同じような緑の装飾品を纏う女は、床から赤黒い本を拾い上げながら、こちらを見て口を開く。
「私は、レライカ。見ての通り、悪魔です。以後お見知りおきを、今代の『黒剛の王』よ」
「チッ、分かるのか。面倒臭い奴だぜ」
(この、気配…ムールマス以上の化け物だ。というかヨル…絶滅させたんじゃねぇのかよ。全然居るぞ)
悪態を吐きながら、剣を持つ手に力を入れる。
瞬間、視界が霞んで、作り物の左腕の感覚が消失する。
(しまった…集中力と精神力が切れたか…やっぱ複製模倣の黒剛腕は消耗が激しすぎる。これを使ってると、王気を使った攻撃が、出来なすぎる…改良の必要ありだな)
倒れないように踏み留まりながら、失敗を悟り反省する。
だが、あまりにも警戒心が欠けていた。
「その様子を見るに、ネビュロルは想像以上の働きをしてくれたようですね」
「お前の目的は、その本か?残念ながら、渡すわけにはいかねぇな」
「この本は、私達の『王』の力が封じられているのですよ。返してもらいます」
「こっちも仕事でね。渡す気はねぇ」
「あまり舐めてもらっては困ります。私は、ムールマスとは違って、健常な肉体に受肉していますので、同じに思わないでいただきたい」
「どこまで知ってるのか、聞きたいとこだが、そうもいかないか」
レライカの気配が、変わったのを感じ取り、認識を改め、戦闘態勢に入る。
だが、視界は霞んだままで、判然としない。
常人なら、戦闘に於いて大問題だが、彼にとってはそうでもない。
―――虚の理:≪拡張世界認識・時空≫
世界が紐解け、透かして見えるようになる。
「闇よ、集い矢と化せ」
それと同時に、レライカの後方の空間に歪みが生まれ、穴となる。
そこから、ズズッと現れた影のような物が、無数の大きな矢の形を模る。
即座にそれらは射出される。
《黒剛彩王-虚の理-偽詐術策-聡明-会心》
―――虚の理:≪愚者に許されし繰延法≫
ライトの左の瞳、その白目と黒目の色彩が反転する。
彼は禁を解いて、久しく使っていなかった術を使うことにした。
今の、燃料切れとも言える状態では、まともに戦えないと判断した為だ
―――八彩王法:複製模倣の黒剛腕
―――八彩王法:王の外套・黒虚
―――八彩王法:喰らい妨げろ、黒盾
無くなった左腕を再構成し、黒き外套を纏う。
目の前に創り出した漆黒の盾が、矢を防ぐ。
深く息を吐いた後、次の一手に移る。
「その、傲慢さが命取りなんだよ、悪魔サマ!――焼き尽くせ!」
―――再事翼蛇=火炎の理・変異:≪天喰らう焦滅の業蛇炎≫
空間全体を覆った、青黒い炎がレライカへと集束する。
空気が焼けるような感覚を覚えながら、炎が彼女を包み込み、潰すようにイメージした。
その瞬間、異様な爆発音が響き、衝撃が盾を超えて伝わってくる。
「さーてと――っぶねっ!?」
「随分と容易く強力な術を使いますね。流石は黒と言うべきでしょうか」
意気揚々と盾を消したところ、影の刃が顔のギリギリ横を通り過ぎる。
どうやら、死んではくれなかったようだ。
ライトの顔には、笑みが刻まれている。
面倒だし、戦闘続行なんてデメリットしかないように見える。
しかしながら、彼は戦闘を楽しむことが出来る。
故に、強者との戦闘は、彼にとって最高のメリットだ!
「死んでくれてなくて良かったよ!これで、まだ楽しめる!」
―――虚の理:≪空間支配法則・空間生成≫
―――虚の理:≪空間支配法則・空間圧縮≫
―――虚の理:≪現象保存記録≫=空間生成+空間圧縮
―――虚の理:≪現象再現捻出≫=空間生成+空間圧縮
彼の背後の空中に不可視の塊が、無数に創り出される。
手をレライカへと向けて伸ばし、彼は嗤う。
「さぁ、お前は凌ぎきれるかな?」
「っ!?」
不可視の塊が、レライカへと殺到する。
余裕の顔でしかいなかった彼女の顔が、初めて歪んだ。
これは、いつの日かクロノスにやられた仕打ちの再現だ。
生成した空間を圧縮し、唯ぶつけるという単純攻撃だが、これがまた強いのなんのって。
当たれば、魔力で防御した状態でも身体が弾けて飛ぶという、馬鹿火力。
難点は空間なので見えない、故に仲間が居て動き回っている状態だと、仲間に当ててしまう可能性があること。
だが、逆に言えば、敵からも普通は見えないので、大変避けにくいということだ。
一対一又は多対一ならば、仲間撃ちも気にする必要は無いので、この火力を十分に活かせる。
そう、今この状況が絶好だということである!
「闇よ、繰れ盾と化せ!」
レライカの足元から広がった暗闇から、ドス黒い触手が現れ、彼女を覆い隠す。
しかし、あまりにそれでは脆弱過ぎる。
「舐め過ぎだよ、悪魔サマ!」
ぶつかった不可視の塊が弾ければ、触手が優に弾け飛ぶ。
暗闇が弾けているせいで、よく様子は確認できないが、彼女が死んでいないことだけは、ライトには分かった。
魔法が、まだ使えないからだ。
「幕引きの時間だレライカ。静かに死んでいけ、それがお前に相応しい――終幕だ」
―――虚の理:≪重力支配法則・重壊天地蓋≫
彼が、両の掌を地面に平行になる状態で、重ね合わせる。
刹那、弾ける暗闇が宙に浮いたかと思えば、謎の力により煎餅のようにぺしゃんこになる。
ぐちゃりと、何かが潰れる音が空間に響いた。
◆投稿
次の投稿は11/16(木)です。
◆作者の願い
『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。
後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!
その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!
□■□■□
◆技解説
魔法技録
虚の理:≪現象保存記録≫ 使用又は視認した連続する現象を使用者の脳内に保存し記録する 記録数は使用者の記憶容量に左右される
虚の理:≪現象再現捻出≫ 現象保存記録で保存記録した現象を使用者の現力などを使用して即時に再現する 複数同時に再現可能だが当然その分コストは掛かる 同時再現数は使用者のイメージに左右される
虚の理:≪重力支配法則・重壊天地蓋≫ 対象に上下から挟むような異常重力を生成し対象を押し潰す 手の動きに連動して重力の操作や加算が行うことができる




