表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒塗の八岐大蛇 ~負けれない少年は、人道外れでも勝利をもぎ取りたい~  作者: 白亜黒糖
第6章 誇り高き青の王家と生贄喰らいの魔本
232/250

6-25 宝物庫での企み ②



 意識が薄れていく。流れる血が止まらない。身体に力が入らない。



(くっそ、何なんだよ。これ…俺に効くって、ことは、毒…じゃねぇ)



 意識を手放さないように、精神力で繋ぎ止め、思考を回す。

 されど、身体は動くわけもない。



「全くぅ、無様ですね。そんな貴方の前でぇ、良いものを見せてあげます」

「な、にを…」



 ネビュロルは、ある方向へと影から出した触手を伸ばしていく。

 それだけ、彼女が何をしようとしているのか分かった。分かってしまった。


 触手に縛り上げられたアトレが、ライトの視界に映る。

 酷く怯えた目で彼を見る彼女。口が塞がれている為、声は聞こえないが、そうでなかったら確実に叫んでいるだろう。



「や、めろ…」

(何で、俺は先に、アトレを…返さなかった?邪魔に、なることなんて…分かってた。筈、なのに…)



 因みにだが、二人が入ってきた時点で入り口は謎の力により、封鎖されていたので、この奥へ入る前に彼女を帰らせる必要があった。



「良いですねぇ、その顔。もっと不快に、歪めてくださいよぉ」



 蛇王蛇法を使おうとするも、言い切るまで喉が持たない。

 触手がアトレを縛る力を強めていく。ミシミシと嫌な音が聞こえてきそうだ。

 人間では、そう耐えられる訳がない。



「ク、ソが…」

「あぁ、貴方の弱さが招いた結果ですよ」

(どう、したらっ)



 後悔が募る。無力さが胸を焦がす。

 アトレの命に、諦めをつけようとした、その瞬間、



「――離すがいい、下衆めが」



 そんな声と共に、彼女を拘束する触手が切り裂かれた。

 開放されたアトレを抱え、その男はライトの近くに駆けてくる。



「アル、グ…お前…」

「ライト殿、今それを引き抜こう」



 腰からナイフが引き抜かれる。

 それだけで、ライトの気分は一気に落ち着く、力の入らない筈の身体に無理に魔力を流して立ち上がる。



「助かった。…その剣は?」

「宝物庫から、借り受けた。後で陛下に頭を下げなくてはならない」

「そん時は、俺も下げてやるよ。所で、アルグ…コーセルト、回収できるか?」



 震える足を押さえながら、軽口を言うようにアルグに問う。

 彼の顔には、微かに汗が滲んでいるように見える。



「可能だ。しかし、それまでというところだろう」

「ならそれでいい。この部屋は、恐らく外からは簡単に入られるが、内から外へは出られなくなっている。俺がそれをぶち抜いて、お前ら三人を出す。したら、お前と一緒に来てるであろう、ローガスに暫く入ってくんなって言っとけ」

「分かった。それで、ライト殿はどうする?」

「気にすんな、アイツを殺してさっさと戻る」

「……分かった」



 アルグも、ライトの状態が危ない程度のこと、理解していた。

 だがそれでも、彼の意思を感じて口を出しはしなかった。



「作戦会議はぁ、終わりましたか?」

「ご丁寧に待ってくれて感謝するぜ――アルグッ!目ぇ一瞬瞑れ!」


―――(くら)(まど)わす光蛇(こうだ)ッ!!


「目眩ましですかっ!?」

「行け、アルグッ!」

「感謝する!」



 閃光が弾けた刹那、隣の気配が高速で動く。

 ロゼリアの邪悪な気配を除く、この空間の気配三つが集まった時、ライトは全神経を集中させる。



(宝物庫の前の空間と三人の居る空間を入れ替える、イメージッ!)


《黒剛彩王-虚の理-悪逆非道-暴虐非道-偽詐術策-聡明》


―――虚の理:≪空間支配法則(SpaceRule)空間置換(Exchange)


「ハァッ、ハァッ…成功したか…」

「気配がぁ…消えた?…何をしたのですかぁ?」

「教えるわけねぇだろ」



 三人が、視界から消えたのを確認して、笑みを浮かべる。

 それほど怒ったり、焦ったりしている様子のないネビュロルに、不信感を抱きながら何でもない風を装う。



「目的は達しましたのでぇ、貴方という邪魔になりそうな存在さえ消せれば、終わりなんですよぉ」



 心を読んだかのように、彼の疑問に答える彼女の影は、大きく広がっている。

 そこから、先程よりも数段鋭利な触手のようなものが出てきた。



「はぁ…あんま調子乗んなよ」

「貴方こそぉ、いつまでも大きな口、叩いている場合ですかぁ?もう、限界でしょう?」

「……」



 彼女の言葉が的を得ているのは、沈黙が証明していた。

 未だに、流れ出す血からも分かるように、傷口が何故か全く塞がらないのだ。

 気分は良くなっても、体力は削られている。

 三人を転移させるので、集中力も精神力も切れかけていた。



(終わり――なわけねぇ!どうにか、考えろ考えろ考えろ!!)

「――それではぁ、さようなら!!」



 脈動した触手が、ライトを貫き殺そうと波のように迫る。

 思考を、回せど回せど、解決策が出ることはない。


 "不可能"と"死"が、思考を黒く塗り潰していく。



(……無理、だ)



 絶望に膝が崩れ落ちる。

 殺意が、彼へと迫る。



《最純二択-黒剛彩王-世界開闢言語理論-悪逆非道-暴虐非道-偽詐術策-聡明》



 これで終わってしまっては、面白くない。そうだろう?皆様方。


 彼は、見覚えのある異空間へと引き摺り込まれていた。

 姿勢が悪かったのか、そのまま地面らしき黒へと顔面が叩きつけられる。



「いっづっ!」



 痛みと同時に、身体の不調や疲労が綺麗サッパリ消えていることを理解する。



「此処は……また、来たのか」



 水をかけられたように、クールダウンした思考が、冷静に物事を考えさせる。

 立ち上がった彼は、これまでのように"問い"を探す。



「あった」




■=======================■

 最純二択(Select)―Q.4 貴方にとってはどちらが重要か?


        身体(Body)  or  精神(Spirit)


■=======================■


 そして、その行動は無意味ではなく、やはりそれは彼の前に現れていた。

 何の疑いもなく、彼はそれを受け入れ、考え始める。

 今この場での問いよりも、重要なことがあるからだ。



(また、これに助けられた…一体どんなスキルなんだか…分からないものは、考えても仕方ないか。それよりも……)



 問いの答えを考えるのと並行して、ネビュロルのことを考える。

 これまでのパターンから予測して、問いが終われば、全快の状態であの場に戻される訳だが。

 だからといって、何が出来るのか、ということを。



(触手は迫っている。魔法は使えない、武器は出せない、理を使う時間もない。詰んでるとしか言いようがない)



 状況があまりにも悪く、戻ってもどうしようもなかった。

 一旦並行思考を諦め、問いへ向き直る。



「身体か、精神か…こんなの精神に決まってる。精神は記憶と同義だ。一問目と対して変わらないだろ、これ。精神は変えがきかないけど、身体なら幾らでも治せる……ん?」



 自分で言ったことに、自分で引っかかりを覚えた。

 ライトはそこに何か、攻略の糸口が隠れているように直感的に感じたのだ。



「身体は、幾らでも治せる…身体、身体…血と肉…」



 言葉を分解し、その意味を改めることで、糸を手繰り寄せる。

 答えは、直ぐそこにある。



「……血肉…そう、血肉だ。少し、賭けになるが、試してみる価値はある」



 彼の口が、孤を描く。



■=======================■

 最純二択―Q.4 貴方にとってはどちらが重要か?


      Answer―精神(Spirit)―Decision


■=======================■



[□■□□■■□□■□□□■□□■□■□■□□□■□■]


 何かが、断ち切れるような音がする。


 意志に呼応して、答えは選ばれた。

 黒き王は、笑みを浮かべながら



「さあ、反撃の時間だ」



 と、そう言うのだった。



◆投稿

次の投稿は11/5(日)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆技解説

魔法技録

虚の理:≪空間支配法則(SpaceRule)空間置換(Exchange)≫ 指定した二つの空間を瞬時に入れ替える 更に上位の力以外の阻害を受けずに置換が可能


◆蛇足

語り部「最純二択の発動条件って、全然謎だよな」

蛇の王「大体ライトが負けそうな時に発動するが、そうではないのか?」

語り部「そうだけど、そうじゃないんだよなぁ、これが」

白き槍「では、語り部様は答えを知っているということですね?」

語り部「おっと、口を滑らせた」

蛇の王「まあ、詳細の開示は、当分先じゃろうがな」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ