6-22 毒には毒を
ライトは取り出した小瓶の中の空間に意識を集中させる。
《黒剛彩王-虚の理-悪逆非道-暴虐非道-偽詐術策-聡明》
―――虚の理:≪猛毒支配法則・治毒生成≫
すると突如、白濁した"濃い”紫色の液体が生成され、内部を満たす。
小瓶の栓を即座に抜き、空いている手でコーセルトの口を開けて、流し込む。
アトレに飲ませた物と同様に、粘性の強いその液体は、ゆっくりながらも確実に彼の口から喉へ、そして身体の内へ流れていく。
寝ているのかどうかは知らないが、完全に意識がないわけでもない状態で、液体が喉を通るのに身体が吐き出そうとしないのは、そうライトが"創った"したから。
「今の液体は、私に飲ませた物と同じ物ですか?」
「そうと言えばそうですが、少し違います。アトレに飲ませた物よりも、即時の効果が出るくらい強力にしてあります」
「それは……どうしてですか?そう出来るなら、私のもそれで…」
ライトが行った一連の治療が、自分にしたものと同じだと直ぐに分かったアトレは、疑問をぶつける。
彼の答えから得た、新たな疑問をぶつけながら、そうしなかった理由を考えていた。
彼女は歳不相応に聡いので、他人に聞くだけでなく、自分で物事の原因についての考えようとする。
「偏に治療と言っても、アトレとコーセルトでは全然状態が違いますから。対応を変えるのは当然のことです」
「状態が、違う?でも、症状は同じじゃ」
「アトレは、百年掛けて造られた砦と一年で急造した砦が同じだと思いますか?」
「いえ、違うと思います」
「そういうことです」
「えっと…どういう?」
アトレはライトの例えで要領を得られていない。
外にも出られず、戦闘など血生臭いこととは無縁の彼女に、戦事の例えが分かるわけもなかった。
だが、逆に言えば、携わっていれば分かるということ。
「成程、そういうことか」
今、顎に手を当て髭を撫でている、ローガスのように。
「お父様?どういうことなのですか?」
「噛み砕いて言えば、アトレの魔流不全は長い時間掛かっていたせいで、原因が身体の深くに浸透していた。深く浸透している場合、一気に治そうとすれば、その分身体に負荷が掛かるもの。だからアトレの時は時間を掛けた、そうであろう?ライトよ」
「当たり、流石ローガス」
「反対に、コーセルトの魔流不全は今日判明した。長くとも昨日の夜からなので原因が浸透していない。深く浸透していないならば、原因を早急に排除した方が良い上に、その為の治療で身体に掛かる負荷が少ない」
王と言うだけあり、ローガスはライトの例えを即座に理解していた。
寧ろ、彼の例えでよくここまで分かったと言いたい。
恐らく、魔流不全の知識も事前に多くあるのも要因だろう。
「だが、魔流不全の原因である、負の魔力とコーセルトが関わる機会は無かった。アトレの時も同様だった。しかし、症状は魔流不全そのもの。故に余達は、手を尽くしに尽くした。結果は知る通りだがな」
「それなんですが、根本から間違ってるんですよねぇ。実は」
「根本、ですか?」
「そもそもアトレ、それとコーセルトは魔流不全を患った訳じゃないんですよ」
「その程度分かっておるわ。通常の治療法が聞かない時点でな」
「では、そも病ではないのは?」
「何?」
「本当ですかっ!?」
ライトの言葉に、ローガスが顔を歪め、アトレが驚き、レプシーが悲痛な顔をする。
「だとしたら、私達のやっていたことは…」
「無駄、ではなかったかもしれませんよ。完璧な効果は無かったかもですけど。この"毒"の効果を止めていましたしね」
「毒、だと?」
「二人が侵されていたのは、魔流不全と同じような症状を引き起こす。『魔壊毒』です」
ということは、だ。
彼が治療できたのは、自分の範疇である毒であったから。
運が良いだけなのか、つなり偶然なのかそれとも必然か。
それは、運命のみぞ知ることだ。
「本来、魔界にしかない特殊な毒なんです。不可解ではありますが、魔壊毒なのは僕が絶対の保証をしましょう」
「何故…いや、そういうことか毒は虚属性のうちか」
「正解。この魔壊毒は、掛かった初期は魔流不全に似た症状を引き起こします。ですが、その後は急速に体内魔力を破壊して対象を死に至らしめます」
「でも、私は」
「それが、ローガスとレプシーさんの試行錯誤の結果ですよ。何らかの要因で、魔壊毒の致死性が打ち消されたようですね。運が良かった、ということでしょう」
彼はアトレの魔流不全の原因を知った時、驚いた。
何故なら、彼女は既に死んでいなければ、可笑しかったからだ。
「毒は、放置しておけばおく程、身体に浸透していく。馴染んで効かなくなる場合もありますが、今回はそうならずに、効果範囲がじわじわと広がったみたいですね」
「だから、お父様の説明通り、少しずつ毒を打ち消していったってことですか」
三人は、それぞれ安堵の息を吐いた。
その様子を見るに、やはり家族の絆は強そうだ。
だからこそ、ライトは油断せず周囲を警戒し続けた。
「そういえば、だが、先程コーセルトに飲ませた物。話から推測するにアトレに飲ませた物と同じ物なのだろうが、一体何なのだ?」
「ああ、毒ですよ?」
「そうかそうか、毒か……毒ッ!?」
ローガスは、目玉が飛び出そうな程驚いている。
詳細を聞かずに、簡潔に言えば間違っていないのだが、色々と誤解は生まれるのは分かりきっていた。
ライトは、面白い反応が見たいが為に、敢えてそういう風に言った。
「どういうことだ!」
「薬変じて毒となる、毒変じて薬となる。どんなものも、使い方次第ですよ。毒のエキスパートの僕に失敗はありません」
「全く、大した自信だ。はぁ…」
彼が二人に飲ませたのは『偽治毒』という、元々の毒の効果を打ち消した後、更に強力にして再度効果を発させる、性格の悪い毒。
その改良品『治毒』だ。
偽治毒の、元々の毒の効果を打ち消す効果のみを残し、身体の調子を整える効果を追加した、善毒である。
毒魔法では、こんなことは出来ない。
毒魔法で生成出来るのは、既知且つ世界に元々ある毒だけだからだ。
存在しない毒を魔法のように創ることが出来るのは、生命の範疇では彼だけの筈だ。
ライトは、コーセルトの額に手を当てる。
「うん、熱が治まってますね。これでもう大丈夫だと思います。良かったですね、僕がいて」
「こればかりは、感謝しかあるまい。王として、一人の親として、余達の宝を守ってくれたこと。深く感謝する」
「大したことではありません。ですが、貸し一つですよ」
王らしく、頭を下げるローガス。
対して笑みを浮かべるライトは、とても悪そうだった。
「チッ、何故こう邪魔をしてくれるのか。これは、早く動いた方が良さそうですね」
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次の投稿は10/26(木)です。
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◆蛇足
語り部「毒を支配管理出来るなら、体内から直接毒を消すこともできそうだけどな」
蛇の王「じゃが、虚属性は須らく、操作が難しい。そうもいかぬよ」
白き槍「無理にすれば、毒を含む細胞や器官ごと消してしまうかもしれません」
語り部「別にそれでもよくないか?死んでなきゃ、時間巻き戻せば何とかなるし、それで事象改変で正常に戻せる」
蛇の王「あまりにも、倫理観の欠如が過ぎるじゃろ、それ」
語り部「えー、いい案だと思ったのに」




