6-21 這い寄る毒
朝が来た。
あまり寝れていないくて、靄が掛かったかのような頭で、身体を動かして起き上がる。
窓へと目を向ける。
雨は、晴れていた。
「……さて、動きましょうか。ヨルが、ああ言ったんです。何か起きてる筈、確認しにいきましょう」
鈍った思考を叩き起こし、部屋を出ることにした。
ヨルは悪魔の使いが動くのは「近い内」と口にしたが、ライトは言葉通りに受け取ったが、受け取らなかった。
確かに近い内ではある。だが、彼の予想では、あの行為後の時点で近い内であり、既に行動を起こされている確率が高いと判断した。
となれば、手を拱いている暇はない。
「……先ず、向かうべきは…アトレのとこにしましょう」
向かう先を決めて、歩き出す。足取りは若干ふらついている。
寝不足の寝起きなので仕方がない。
ということで、宣言通りにアトレの部屋の前まで来た。
そこで、即座に彼は気付く。
「あれ、部屋に居ませんね」
室内にアトレが居ないことに。
ライトのレベルに成れば、室外から気配を探る程度は余裕である。
彼は、誰も居ないと理解した上で、ドアを開け彼女の部屋の中に入る。
ズカズカと入り、部屋の中央に立ち床に手を触れさせる。
―――初級記憶魔法:メモリード
黒い魔法陣が形成され、金色の光を放ちながら霧散する。
彼の脳内に、情報が流れ込む。
床から手を離した彼は、直ぐに部屋を出てある別の部屋に向けて、歩き出す。
「ふ〜ん。コーセルトが"アトレと同じ症状になった"と、それでロゼリアが呼びに来たと」
先程ライトが使ったのは、触れた物体の周囲の過去の記憶を読み取る魔法。
それで、彼女の部屋で何があり、そうして彼女がこの時間に居ないのかを知った訳だ。
かなり使いどころが多い、便利魔法だ。
魔法により得た情報から向かうのは、当然コーセルトの部屋だ。
「やはり、動き出しましたか」
彼の顔は、少し険しかった。
……まあ、普通に寝不足で顔を顰めてるだけかもしれないが。
少しの時間を掛け、コーセルトの部屋の前まで来た。
「複数の気配がありますね。コーセルト、ロゼリア、アトレ…ローガスにアルグ。そして、知らない人が一人」
ライトは、内部の気配で誰が居るかを確認してから、ドアをノックした。
「誰だ」
「僕です。ライトです」
そう言うと直ぐにドアは開いた。
声から分かったが、開けてくれたのは、アルグだった。
「失礼します」
部屋の中へと入り、奥へ行く。
流石、王子とでも言えばいいのか、部屋はとても広かった。
ベッドには、苦しそうな様子でコーセルトが寝ている。
そんな彼を、ローガスと緑色の髪の女性が心配そうに眺めている。
それを、少し離れた所でアトレとロゼリアが見ていて、アルグはドアの近くで待機している。
「何か、あったみたいですね」
「――っ、ライトか」
「ええ、一昨日ぶりです」
「コーセルトがな…」
「コーセルトに何があったんですか?」
ローガスの顔には、強い焦りが見えた。隣の女性も同様だ。
「…私と同じ特殊な魔流不全に…」
「成程ねぇ……」
アトレが背後から教えてくれたので、そちらを向き考えるように腕を組む。
実際は、魔法で先に知っているので、フリだけである。
「あのっ…ライト様…これは、本来駄目だと分かっています、でもお願いしますっ…兄様を助けてくださいっ」
「……」
ライトに縋り付くような声で、彼女は言う。
彼は表面上落ち着いていた。だが、内心は彼女を止めたくて仕方がなかった。
別に助けを求めるだけならば、良かったのだが、このタイミングが最悪だった。
他人に聞こえる、この場で言われるのがだ。
この場で言われるのは、あまりにもリスクが高いから。
「アトレ、何故ライトにそう言うのだ?」
「それは……」
ローガスの当然の問い掛けに、アトレは言い淀む。
溜息を吐きながら、動かざるを得ないライトは諦めて口を開く。
「アトレの、魔流不全を治したのは、僕だからですよ」
「何ッ!?そ、それは誠かっ!?」
「ええ、嘘ではありません。面倒臭くなりそうだから、黙ってたんですよ」
まるで何事でもないかのように、ライトは言う。
動揺や焦燥は見せない、居るであろう敵に隙は見せない。
「アトレ、本当なのですか?」
「えっと、本当です。"お母様"」
「ならば、先ずしなければならないことがあります」
アトレに話しかけた、彼女が母と呼ぶ女性が、彼の方へと近付いてくる。
「お初にお目にかかります。私は、第ニ王妃のレプシー・ヴォラクス・アウトライル、アトレの母になります。ライト様のお噂はかねがね」
「どうも、初めまして」
ライトは、王族にしては、えらく腰の低い人だと思った。
彼を明らかな目上として見ているかのような感じだ。
「アトレの病を治して下さったのですよね?」
「その通りです」
「ならば…――貴方様に最上級の感謝を」
レプシーは、深々と彼に頭を下げた。
その様子からは、感謝の心しか感じることができなかった。思惑は確実無い。
これが、子を思う親の真の姿かと、彼は感心した。
「いえ、そこまでされるようなことはしていません。彼女を治療したのは、唯の気分ですからね」
「それでも、この感謝はしなければ、私の気が済みません」
「そうですか。でも、今はそれ以上に気にするべきことがあると思いますよ」
ライトとしては、思惑ありありでアトレを治療したので、感謝されると少し気まずくなってしまう。
話題をコーセルトの方へ逸らす。レプシーから逃れるように、彼に近づく。
彼は、玉のような汗を浮かべていて、とても苦しそうだ。
「さっさと治療と行きましょう。遅ければ遅いほど、毒は進みますから」
ニヤリと笑い、ライトは『空の小瓶』を取り出した。
◆投稿
次の投稿は10/23(月)です。
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◆技解説
魔法技録
初級記憶魔法:メモリード 使用時に触れていた物体の周囲の過去の記憶を読み取る 遡れる過去には注いだ魔力量に依存する
◆蛇足
語り部「行動開始したねぇ。対象がコーセルトってのがまた、ねぇ」
蛇の王「そろそろ6章も終盤じゃし、どう進むのじゃろうな」
白き槍「立て続けに王族が死ぬ、とかでしょうか?」
語り部「いや、それはないと思うよ?なぁ、何で白槍は虐殺思考になってるんだ?蛇王」
蛇の王「コレに関して、主が悪いと思うんじゃが?自分の普段の行動を鑑みてから物を言うんじゃな」
語り部「っとぉ……知らな〜い」




