6-20 雨が降り風が吹く夜
宝物庫に入った翌日の夜。
風が吹き、雨が窓を叩く。
「雨が降っている夜は久し振りですね。というか、雨自体久し振り。良い気分です」
アウトラクス城の借り自室にて、ライトは薄い笑みを浮かべる。
彼は雨が好きだ。というより、雨音が好きなのだ。
理由はハッキリと言葉に出来ないが、聞いていると気分が落ち着くかららしい。
「雨は、大気から水滴が落下する現象のこと、また落下する水滴そのものを指す。大気中に含まれる水蒸気が冷却され、凝結した極小さな水滴が集まり視認できる状態になると雲と呼ばれる。その雲の中で、更に成長した水滴が重力によって落下したもの、それが雨」
ヨルから教えられた知識を、何とはなしに口に出す。
すると少しの間、感じていない彼女の温もりが、無性に恋しくなった。
元来、寂しがり屋の彼。
本当に一人の時はその感情を抑えられていたが、一度本物の温もりを確かに知ってしまったが故に、今は抑え難くなっている。
「はぁ……ヨル…好きです。…こんなの、最近言えてないですね…」
「忙しいまでは行かなくても、騒々しくはありましたから……色々ご無沙汰です」
「そのくらい、婚約者なら、伴侶とか言うなら気付いてくださいよ……」
「…………」
気付いた思いは、抑えられない。
ベッドに横になり、彼は悶々としだした思考を紛らわせる。
しかし、そう簡単に事が運べば、何でも苦労しないのだ。
「…ミスティは最近、一人で行動出来るようになってしまいました」
「こう、もっと頼って、聞いてくれたほうが僕は好きなのに…」
「嬉しいことなんでしょうけどね、感情はままなりません」
「…………」
今度は、ミスティアナに関して思考が移る。
彼女の最近の成長は非常に著しい。自主行動力が、鰻登りだ。
それ自体は、確かに喜ばしいことだが、ライトは、少しだけモヤモヤとしていた。
子供が成長して親離れ始まったが、親としてはそれが嬉しくも寂しいみたいな感じである。
「ナイも、何だか魔法の特訓とかで、あまり居ませんし」
「全く、も〜っと一緒に居てくれても……恋人のくせに」
「…………」
何だか、面倒臭い方向に思考が陥ってきた。
一人だからこそ、吐き出せないものもあるので仕方がない。大目に見てあげよう。
「あの温もりが、大好きなのに……」
「…………」
そこで、彼は寝返りを打つ。
天井を見るように寝ていたのを、窓の方を見るように。
「…………」
「…………」
「「…………」」
刹那、凍りついたかのように、彼は停止する。
そんな彼を見慣れた金剛の瞳が見つめている。
「……ヨ…ル?」
紡がれた言葉は酷く震えていた。
それは当然だろう。居ないと思っていた相手が居て、聞かれたくないことを聞かれてしまったかもしれないのだから。
「い、いつから…」
「『はぁ……ヨル…好きです』からだな」
《黒剛彩王-虚の理-偽詐術策-聡明》
―――天級音魔法:指向性支配音響域
「最初からじゃないですか!!」
「恥ずかしがっている割に、冷静じゃな」
「それはその…迷惑ですし」
羞恥で叫びと共にベッドを叩き割りそうになるのを抑え、魔法で音が響くのを防いだ。
感情任せに行動してしまう程、冷静を失えなかったからこそ、ライトは今羞恥心に殺されそうになっていた。
「それよりもっ、居たなら何で言ってくれないんですかっ」
「まぁ、面白そうじゃったからな。ミスティとナイにも声だけ共有しておいたぞ」
「はうえっ!?!?」
ヨルから知らされた、今最悪の事実により彼は即座に、毛布を被り自分の身体を抱く。
だが、蛇の王を前に抵抗は許されない。
「そう隠れても、もう意味はない」
「うぇ、やめてくださいよぉ」
「もうよい。お主が思ったよりも可愛いことが、分かって我は満足した。そういうお主も我は良いと思うぞ」
「でも、恥ずかしいんですよっ……聞かれたくありませんでしたっ」
意外にも滅多に見ない、彼の姿にヨルはニヤニヤと昂りが止められない。
彼女の口が孤を描く。
「だから、可愛いんじゃよ。全く最高の伴侶じゃ」
◆◇◆
少しの時間が経ち、双方が冷静になった。
何があったかは、別に私は知らない。
「それで、ヨル。来たからには、何か話があるんですよね?」
「その通りじゃ。しかし、お主があまりにも可愛いから、少し逸れただけじゃ」
「少し、ですか。まあ、それは良いです。それで話とは?」
いつもの調子を取り戻したライトは、横で寝るヨルに話しかける。
彼女が、何の用もなくこのタイミングで現れることがないことなんて、分かりきっていたからだ。
鷹揚に、彼女は語り始めた。
「近い内に、紛れ込んだ悪魔の使いが動き出す。警戒せよ、気を抜けば、失うものがあるかもしれぬぞ」
「露骨な忠告ですか、ヨルは本当によく分かりませんね」
「だが、意味がないことはせぬ。それだけは確かだと、言っておこう」
溜息を吐きながら、彼は仕方ないなぁという風な視線を、ヨルへと向ける。
意味深な言葉も、彼女の言葉なら彼は信用できる。
それほどまでに、好きだから。何が狙いだとか、考える必要もないし、無駄だ。
結局の所、分からないのは分かりきっているからである。
「何が来ようとも、叩き潰してみせます。だって、僕はヨルの、最強の、伴侶ですから」
「流石、我が夫となる者じゃ」
ヨルに引き寄せられ、唇を奪われる。
この重ね合わせる時間は、実に甘美で彼の生の中でも、鮮烈に残るものだ。
「ヨル……好きですよ」
「ふふっ、素直じゃな」
「その…ヨルはどうなんですか」
「当然、大好きじゃぞ!」
ギュッと身体を抱きしめられる。
これこそ、彼の求めた温もりだ。本当に心地が良い。
「あ、そういえばじゃが、さっきの行為中の声は、ミスティ達にも届いておるぞ」
「え?」
「次会う時は、気をつけるんじゃな」
「……え?」
ライトの思考は僅かに停止した。
そして、待ち受けるだろう未来を想像し、少し恐怖する。
「では、我は行くとするかの。此処に居るのが、此処の者にバレると面倒じゃしな」
「…そうですね、また後でです」
「うむ、頑張るのじゃ、ライト。期待しておるぞ」
ベッドから出たヨルは、既に服を着ていた。
いつもなら、そこですぐ彼女を返すのだが、今日は違った。
「ヨル」
「何じゃ?」
「もし、全てが上手く行ったら、ご褒美とかくれますかね?」
「ふ〜む……良いじゃろう。我が甘やかしてやろう」
「そうですか!じゃあ、頑張ります!」
少しだけいつもよりも素直な彼は、少しだけ欲張った。
そして、それは良かったらしい。
「それでは、またの」
「ええ、また」
ライトは、笑みを浮かべながら、消えるヨルを見送った。
◆投稿
次の投稿は10/20(金)です。
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◆蛇足
蛇の王「嵐の前の静けさ回じゃな」
語り部「雨降ってるけどな」
白き槍「蛇王様は、やはり黒幕ムーブが得意ですよね」
語り部「まあ、黒幕だし当然だよね」
蛇の王「黒幕ではないわ!まあ、全ては否定せぬが…我ではない時もある」
語り部「逆に言えば、蛇王の時もあるのね」
蛇の王「その通りじゃ!」
語り部「あんま、肯定しないでくれる?今後やりにくじゃん」
蛇の王「ぐぬはっ」
白き槍「語り部様が誘導したのに、それは酷いのでは?」




