6-19 封印されし魔本
宝物庫に入ってから、小一時間。
ライトは、月蝕杖以外に良い物を見つけられないでいた。
そこそこの物は沢山見つかるが、貰いたい程ではなかった。
「おっと……ん?」
宝物庫の端にある台座、その上には宝石類が置かれていた。
その宝石類の一つを手に取って見ていた所、集中力が切れたのかそれを取り落とす。
宝石をしゃがんで拾い、立ち上がろうと視線を上げた時に、あるものが見えた。
台座の側面の下の方に、押すことが出来そうな真四角の模様のようなものがあることに。
好奇心には抗えない質の彼は、その模様に触れて力を籠める。
「あっ」
案の定、それはガチッと音を立てながら、奥へと押すことが出来た。
後方で何かが動く音がする。
振り向き、変化を確認する。
「おぉ〜、流石王家。秘密の通路の一つや二つあると思ってましたよ」
宝物庫の入口から見て真正面で一番奥にある本棚が横にズレており、そこには下へと降りる階段が見える。
少し離れた所から、特大の溜息が聞こえてきた。
音源は、ローガスである。額に手を当てている様子から、大分疲れているようだ。
理由は明白であろう。
「何でそう主は、見つけてしまうのか。王家の秘密ぞ」
「いいじゃないですかぁ、僕達ある意味、運命共同体ですし」
「脅迫する側とされる側とで全く立場は違うがな」
「それで、奥行って良いんですか?」
「もうよい。行ってもいいが、下は此処の物よりも貴重じゃ、無茶なことは絶対にせぬようにな。絶対に、だぞ」
「りょ〜か〜い、で〜す」
ローガスの注意を聞きながらも、流すように答え、飛び込むように階段へとジャンプする。
ライトの侵入と同時に、階段の左右についた照明が光り、通路を照らしていく。
数秒駆け下りた先には、一つの扉があった。
重そうな金属の扉、引く用の取っ手があったので、取り敢えず力を籠めて引く。
扉はかなり固く、宝物庫の入口のような魔道具かとも思ったが、魔力が感じられなかった。
なので、唯重くて固いだけという結論を出した彼は、万力を籠めて再度引くことにした。
「開、け!」
ズズッ、とゆっくり扉が開く。
「こんなの、普通は開けられないと思うんですけど…」
あまりの重さに、悪態を漏らす。
だが、彼はここで考えない。確かに魔道具ではない、ならばまた別の開く仕掛けがあっても可笑しくないと。
こういうところは脳筋である。
「さてと、中は……面白い。何故、そこまでして王国を狙うのか不思議でしたが、恐らく"コレ"を狙ってるんでしょうね」
中に入り、部屋を見れば中央にある『あるもの』に目が行く。
『あるもの』が特殊なものであろうことは、一目で分かった。
円形の形を空間。壁際には、棚や台座と共に武器や装飾品などが並んでいる。
しかし、そんなものには目が行かない程の異質なものが、中央にある。それは、金色の台座の上にある一冊の"本"だ。
そして、その本は何故か鎖によって、台座に完全に固定されていた。
吸い寄せられうように、ライトは本と台座に近づく。
台座の上の、赤黒い表紙の本と一体化しているように見える青い宝石から純白の鎖が伸び、二つを繋ぎ固定していた。
「一体、何なんでしょうねぇ」
―――明かし晒す探蛇
「当然のように、鑑定は弾かれる、と」
ライトは、浮かぶ笑みを抑えられないでいた。
鎖に触れて掴み、引き千切ろうと試みる。
魔力を流し、扉を開けた時の数倍の力を籠めるが、鎖はビクともしない。
終いには、力を籠めすぎて、手袋に血が滲んでしまった。
まあ、黒い手袋に黒い血なので、特に目立ちはしないが。
「けど、この感じ何処かで触ったことも見たこともあるような……」
本を固定する鎖の見た目と感触に、既視感を覚えた彼は、何だっただろうかと考える。
「っ!ミスティの首輪だ!」
数秒で、それがミスティアナの首輪であったと思い出し、鎖を注視する。
光を反射しないマッドな白さや僅かにある造形が、酷似している。
奇妙な繋がりだが、そんなこともあるか、と流した。
背後から複数の足音が聞こえてきた。
ローガス達が来たのだろう。
「――此処は、王家でもごく一部しか知らぬ、秘密の間。本来門外不出の場所なのだ。主を信頼して入れることを許可した。言わぬとも、分かっておるな?」
「此処のことは黙ってろってことですね。分かってますよ」
「ならばよい、此処の物は、上とは段違いの貴重品だ。それこそ、国宝と呼ぶぐらいのもの。主の契約の対価には大きすぎるが、先行投資とさせてもらおう。先程の杖と此処から一つ。その二つを持ってして、契約の報酬とする。よいな?」
「ええ、こちらとしても願ったり叶ったりです。僕には得しか無いので」
彼の提案に笑顔で答えながら、再度本へと目を向ける。
その後再度彼へと、笑顔を見せながら本を指差し、
「因みにこれ貰えたりします?」
と言う。
すると即座に、
「駄目に決まっておろう」
と返ってくる。
当たり前である。
この厳重さ加減で、普通貰えるわけがない。
「えぇ、欲しかったなぁ」
「これは、おいそれと与えられるような物ではない。我が王家が代々守り封印してきた『災厄の書物』だ」
「『災厄の書物』?何ですかそれ?」
軽い感じでねだれば、想像以上の顰めっ面で言われ、少しだけ反省するライト。
それでも疑問を聞くことは止めない。
好奇心には、やはり勝てないのだ。
「正式な名は知らぬが、代々王家ではこの本はそう呼ばれてきた。世界の理を乱した『悪魔』と呼ばれる存在の力が封じられた。生命を喰らう書物だそうだ。それが本当なのかは、封印を解かねば分からぬが。封印をされたものは、危険であるからに封印される。ならばこそ、敢えて解く必要はない。余は生命尽きるまで、これを此処に封じ、後世へと同じように伝え、封じ続けさせるつもりだ」
「懸命な判断ですね」
ローガスの言葉には、意志が覚悟が籠もっており、茶化す気にはならなかった。
実際確実に間違った判断ではない。死刑囚を態々檻から出してやる理由が無いのと同じだ。
君子危うきに近寄らず、ならぬ君子危うきを行わず、である。
「それじゃあ、他の物にするとしますかね」
「そうしてくれ」
ライトは、意識を広げ、警戒をしながら再度貰う宝物を探し始めた。
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次の投稿は10/18(水)です。
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◆蛇足
語り部「章タイトルの物のですねぇ、一体どんな代物なんだろうか」
蛇の王「少なくとも、封印されている上に悪魔関連ときた。まともな物ではないじゃろう」
白き槍「しかし、キーアイテムなのは確定です!これは取りに行くべきです!」
語り部「いや、RPGじゃないんだからさ。封印されてるものは、解いちゃ駄目なのよ」
白き槍「むむぅ…そうなのですか。ですが蛇王様が、良さそうなアイテムは即座に取っておくべきだと…」
語り部「おい、蛇王。お前、白槍にRPGゲームやらせたろ」
蛇の王「そ〜んなことないがぁ?唯少し暇だからと、取り寄せた訳ではないぞ?」
語り部「こっちを見て言え。それとそういうのは、後ろで散らかってるゲーム機を仕舞ってからにしろ」




