6-18 良い物が眠ってそうな宝物庫
目の前には、堅牢且つ巨大な金属色の扉。
その前に、見慣れた王様がいた。
「ローガス、ちょっとぶりですね」
「待っていたぞ、少し遅かったが何かあったか?」
「まあ、作業に集中していて部屋の外から呼ぶ声に、気づけなかっただけです」
「そうか、ならばよい」
特に不信にも思っていなさそうなので良かった。
何がって?話が進めやすいからさ。
「話は聞いているか?」
「何か、僕の報酬を宝物庫から選ぶとか何とか、そんな感じですよね」
「その通りだ。ライト、主は情報を漏らさぬ対価に金銭を求めたが、そんな急に大量の金銭は準備できぬ」
「王家なのにですか?」
敢えて、ライトは煽るように言うが、ローガスは呆れた顔で言葉を返す。
「財ならば、莫大にある。だが金銭、硬貨としてはそう多くある訳でもない。それにそれも多く動かせぬ。大半が国の運営に使うものであるからな」
「成程、ですね。だから、財そのものである物品から渡そうと、そういうことですね?」
「相変わらず、理解が早くて助かるわ」
その顔に似合わない笑みを浮かべたローガスは、振り返り扉へと近づく。
今気づいたが、近衛騎士隊長のアルグと第二王子のルーカスが扉の近くに居た。
「コーセルト、お疲れ様です」
「ルーカス兄上、この程度どうってことないさ」
「頼もしい弟でよ」
どうやら、兄弟仲は悪くないらしい。
彼らから、視線をズラしローガスへと戻すと、彼は扉に触れていた。
「『我、青き血脈を継ぎし者、宝物の鍵。我が願いに応え、開かん』」
そのキーワードのようなものが紡がれると、重そうな扉がギギギッと音を立てながら、開いていく。
ライトは、扉に興味を惹かれた。
「この扉、魔道具なんですか?」
「ああ、王家の血筋でなければ開けられないようになっておる」
「どういう条件ですか?王家の血筋の者が触れていれば、キーワードは他者が言っても開くのか。それとも本人じゃなきゃ駄目ですかね?」
「なぜ、そんなことを聞く?まあいいがな。別に王家の者が触れてさえいれば、キーワードを他者が言うだけで開く」
「へぇ、でもそれ、何か不用心じゃないですか?」
彼は、ローガスの言ったことの危険性に直ぐに気がついた。
これでは、勝手に開けられてしまう可能性がある。
「キーワードさえ知っていれば、王家の人間を脅して触れさせていれば、開けられちゃうじゃないですか」
「確かにな。しかし、これには理由があるのだ」
「どんなですか?」
「そも、キーワードは王家は知らず、鍵守と呼ばれる王家に仕える由緒正しい家が管理していた」
「でも、それは王家に伝わってますよね」
「何十代か前の王が、その鍵守の家の娘と恋したらしくてな」
「はぁ、大体展開が分かりました。その二人が結婚した結果、キーワードが王家に伝わって、一つになってしまったと」
ありがちな理由で警備が少し落ちたということになる。
ライトは、呆れが隠せないが仕方ないのだろうと、その思考を放り捨てる。
結局の処、それは彼に対して関係なのだから。
「それじゃ、疑問も解消できたので入りましょうか」
「そうするとしよう、余が入った時点で扉は閉まる。皆、先に入るがよい」
「では、お先に」
他の面々よりも先に、宝物庫へと彼は足を踏み入れた。
内部は想像よりも広く、そして明るかった。
どうやら、人が入ってくると感知式の照明魔道具が点くようになっているようだ。
「へぇ、思ったよりも良い物がありそうですね」
壁に掛かる剣や、置かれた鎧、棚に飾られている宝石などの物品にさらりと見て、深い笑みを浮かべる。
思わぬ掘り出し物がありそうだと、ワクワクが止まらないでいた。
視線をあちらこちらへと向けるその様子は、宛らデパートに初めて来た子供である。
後方で、重い扉が閉まる音がする。
「暫く、好きに見――既に見ているようだな」
「だって、遅いですし、意外に面白そうな物が多くてですね」
「そうか。物にもよるが、大体三品で契約相当だ。好きに選べ」
「了解で〜す」
しっかりと貰える品について聞いてから、彼は集中し始めた。
(武器、でもいいですけど。便利そうな魔道具でも良いですよねぇ)
(良い杖があったら、ナイの為に持っててっも良かったんですが…あまり………)
彼の目には、一つの短杖が映っていた。
紫色の金属?に見える50cm程の杖。黄色の宝石が持ち手の部分に、装飾なのか不明だが付いている。
思わず、それに手を伸ばし、持っていた。
(これ、もしかして…)
―――明かし晒す探蛇
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名称-月蝕杖 エクリプス
ランク-God
詳細-干渉した現力・物質を蝕み、その本来の機能
を失わせる能力を持つ。狂気を内包しており
精神操作を容易に行うことが出来る。
系統-杖・神器
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「ナイにピッタリじゃないですか……」
そのあまりの嵌まり具合に、言葉を漏らしてしまう程には、運命を感じた。
壁に掛けられていた、その短杖を手に取る。
「思ったよりも軽い…ん?これ、中に何か…」
顔に短杖を近づけると、黄色の宝石の中で何かが動くのが見えた。
何かを確かめる為、しっかりと正面に持ってきて目を向ける。
宝石の中で『ナニカ』が揺らめいた。
「……――っぁ」
視界が揺らぎ、身体の力が抜けて膝を突く。
脳がガンガンと痛む。その原因が宝石の中の『ナニカ』だと即座に気づいたライトは、直ぐに手を目に当てた。
内蔵をかき混ぜられたかのような不快感と、途轍もない嘔吐感を抑えつけ、息を整える。
「油断、した…狂気を内包してるって、物理的にかよ…」
怒りを滲ませながら、漏らすように彼は呟く。
彼は、宝石の中の『ナニカ』、"狂気"と呼ばれるそれの本質が何か、一瞬で理解していた。
「アレは…"神の出来損ない"だ。神の力を持ちながら、神に成れなかった存在…神性は裏返り狂気となったと、そういうわけか」
何故、そこまで分かるのか彼自身にも分からなかった。
おそらくは、神化進行の影響による感覚の鋭敏化だとは、思うが確証はない。
「ナイにあげて大丈夫かは、ヨルに判断してもらいましょう」
「――ライト様!大丈夫ですか?」
「アトレですか、すみません。少し目眩がしただけです」
「なら良かったです…ライト様の身に何かあれば…」
「心配しなくて大丈夫ですよ」
例の一件から、色々と関係が深くなったアトレは、ライトのことを気にかけてくれている。
何かと動きやすいように取り計らってくれている、らしいというのは分かっているが、敢えてそれを口にしたりはしない。
「何か決まったのか?ライトよ」
「ええ、一つね。この杖を貰います」
「主、流石というべきか、よくそれを選んだな」
アトレが近付いたのを見たのか、ローガスがやって来る。
彼は、ライトが見せた短杖を見て、顔を少し歪めた。
「それは、曰く付きの杖だ。使用者が尽く狂人のようになり、人を殺めるものだ」
「そうですか。それはこの武器の本質を理解していないからでしょう。僕には問題ありません」
「そうか…ならば良い」
ローガスの溜息を共に、彼は内心ニヤリと笑った。
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次の投稿は10/16(月)です。
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◆蛇足
白き槍「思ったよりも神器っていっぱいありますね」
語り部「まあ、別に性能はピンキリだから、それでも別に問題はない。でも扱い方によってはどれも化けるけどね」
蛇の王「それに、鑑定が強力でなければ、神器ということを見抜けぬから。神器と思われず保管されていることも多い」
語り部「だからこそ、いっぱいあっても問題ないってわけ。使うには適性も必要だし」
白き槍「成程。そういうことですか」




