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黒塗の八岐大蛇 ~負けれない少年は、人道外れでも勝利をもぎ取りたい~  作者: 白亜黒糖
第6章 誇り高き青の王家と生贄喰らいの魔本
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6-16 悪魔の剣と鍔迫り合い





「さてと、"アレ"を出しますか」



 アトレにネタばらしをした翌日。

 コーセルトの特訓兼授業を終えた後に、自室に戻ってきていた。

 前からやろうやろうと考えていたのだが、中々時間が取れずに保留にしていたことをやることにしたのだ。


 貸し与えられたアウトラクス城の一室の大きな机をベッドに近づけ、態々ベッドの上で胡座をかいている。

 セットで椅子も付いているというに。


 虚空からライトは"一本の剣"を取り出す。



「うへぇ、気持ち悪いなぁ」



 机の上に置かれたのは、赤い『肉々しい』歪な剣。

 最早、肉が剣の形をしているという方が正しいかもしれない。


 赤黒い柄は、禍々しい特徴的な形をしているだけで、特に可笑しくはない。

 可笑しいのは、刀身である。

 皮膚の無い生肉が刀身の形をしており、その刀身には眼球や歯のような器官があるのだ。



「何か、やっぱり生きてるみたいなんですよね」



 そう言うと同時に、刀身が生きているかのように脈動する。

 しかし、それだけだ。剣自体が動き出してライトに襲いかかってくるということはない。



「というか、よく考えたら、この剣切れなくないですか?刃ありませんけど」



 改めて、剣を見て彼は呟く。そして、それは的を得ていた。

 肉が刀身の形をしているだけで、特に刃が付いている訳でもないので、武器として機能してないのが分かる。

 そして、柄に対して"少し刀身が大きく"感じれた。



「『悪魔』って、馬鹿なんですかねぇ」



 この剣は何かと説明すれば、手に入れたのは一ヶ月と少し前。

 悪魔ムールマスの使おうとしていた剣だ。

 使う前に時間停止からの攻撃で、消滅させられたので使われていない。

 鎧を構成していたのは血液だったらしく、ムールマスと同じく消えてしまったが、剣は別物だったらしく。

 ライトの攻撃を受けて形を保って残っていたのを、回収したという訳。


 一度出した時の気持ち悪さと禍々しさに、中々再度出すことを躊躇ってしまったというのも、今の今まで巳蚓魑(ミヅチ)で死蔵されていた理由である。



「それか、悪魔が使用する時だけ特殊な効果を発揮する。又は、使用するのになにかの条件があるのか。どっちでしょうかね」



 剣の形をしているからに、その機能を持たない訳は無い筈。幾ら、機能を持たないように見えようとも。



―――()かし(さら)探蛇(たんだ)


「ん?鑑定が弾かれた?やっぱり、普通の品ではありませんか。……まあ、この見た目で普通な方が笑えますけどね」



 鑑定が、弾かれたことに笑みを浮かべる。

 分かってしまえば、調べる楽しみが無くなってしまうからだ。

 なら、最初から鑑定するなと思うだろうが、それは言ってはいけない。


 柄に触れて、その歪な剣を持ち上げる。



「……重いですね、見た目よりも確実に。……片手剣のサイズにしては重すぎます」



 持ってみて、ライトは怪訝な顔をする。

 その異常な重さに、やはり武器ではないのかと思ってしまった程だ。

 ここで注意してほしいのは、あのライトが『重い』と言ったということは、常人にとっては持ち上げられないくらいに馬鹿重いということ。

 70kg近くあるイグニティを軽々と振り回す彼が、『重い』と称したのだから、そうなのは絶対の事実だろう。



「でも、あれですね。訓練には使えそうです」



 この男、強くなることにしか頭が働かないのか。

 こんな気持ちの悪い武器を訓練に使おうとする馬鹿が何処に居るというのか。

 はい、此処に居ますね。



「何かこの剣、眼球が付いてるからか、見られてるような気がしますね」



 そう言った瞬間、ギョロリと付いている眼球が動いた。

 確かに、ライトを見つめている。



「いや、見てますねぇ確実に。なんですか、文句でもあるんですか。武器のくせにガン飛ばしてこないでくださいよ」



 傍から見たら、完全に異常者だが剣に語り掛け、不満をぶつける。

 すると、パタリと瞼が閉じられ、眼球はこちらを見なくなった。



「意思がある…んですかね?インテリジェンス・ウェポンと言うものでしょうか」



 歪な剣の反応からして、それは意思が、意識があるように思えた。

 ライトは、そのような武器の知識は持っていた。



「どうせなら、もう少し見た目が良い方が良かっ――あっぶない!?」



 再度不満を漏らすと、歪な剣が脈動すると刀身の上半ば、ライトから見て左上から右下に対角線を引くように"歯が生成され"、ガパリと開く。

 同時に独りで且つ無理矢理に動きだした剣が彼を噛み千切ろうとした。


 持ち前の腕力で、剣をギリギリで逸し頭が喰われるのを避ける。

 ガチガチと顔の横で歯の噛み合わさる音が響く。



「そんな見た目してるお前が悪いんだろうが!舐めんなよ、この畜生!」



 腕に魔力を流し、顔から歪な剣を遠ざけて床へと叩きつける。

 その重量と勢い故か、あまりよろしくない音ともに床が盛大に傷付く。



「はぁ、手こずらせんっ――」



 ガンッという音が響いたと思えば、刀身が跳ね上がり、ズラリと並ぶ歯が近づいて来る。



「離れろっ!」


―――中級重力魔法:加々重力(グラヴィティアー)



 焦ったせいか馬鹿げた魔力を籠めて魔法を使ってしまう。

 一瞬にして壁に落ちた剣。砕け散った建材が空を舞う。



「ふぅ……チッ、そりゃそうか。剣に痛覚なんてあるわけねぇもんな」



 壁の中から、這うように出てきた歪な剣には、目が増えており周囲をギョロギョロと確認している。

 全ての目がライトを捉えた瞬間、またしても跳ね上がり、迫り来る。

 


―――再事翼蛇(リントヴルム)=上級地魔法:大地の檻壁(グラウンド・ジェイル)



 砕けた建材が集束し牢を作り出し、歪な剣を閉じ込めた。

 かと、思った時には牢が"空間ごと抉り取られた"かのように一部が消失する。


 焦りが、一滴の汗となって落ちる。



「――この悪食め!」



 即座に虚空からイグニティをを取り出し、歪な剣の口の間に振りかぶる。

 切断の感触は返ってこず、鈍い音と共に剣が吹き飛ぶ。



「硬いなっ!」



 その後、数分間歪な剣との格闘を繰り返していた処…。



「っ!――不味いっ」



 ライトは、自分の部屋に複数の気配が近付いてくるのを、感じ取った。

 今の状態で部屋に入ってこられるのは、非常に困る。

 歪な剣の攻撃対象が、そっちに移らないとは限らないからだ。


 刻々と近付いてくる気配。

 遂には、部屋の前まで来てしまった。



「――ライト様!もの凄い物音がしていますが、どうかなされましたか!」

「――!――!――!」(あれ?声が出ない?)



 予想していた通りに、部屋前に来たのはロゼリアと誰かしらであった。

 しかし何故か、開けるなと言おうとしても声が出ない。

 いや、ライトの感覚としては、口から出る振動が空気に伝播していないという感じだった。


 この異常に対して、考えられる理由は一つだけ。



(この剣のせいかっ!)



 歪な剣が原因以外にあり得なかった。



(だとしたら、何かしらを喰ってる筈…何を喰って…)



 攻防を繰り返す間に分かったが、この剣は、基本的に何でも『喰らう』ことが出来る。

 物質は言わずもがな攻撃魔法や魔法によって生じた現象すら、喰らうのが分かった。

 最初は物質だけだったが、何だか段々と喰えるものが増えているような気がしなくもない。



(そうか、発された俺の声自体を喰って)

「音はするのに、声が返ってこないな。何か問題があったら困る。不躾だが、開けてみるしかあるまい」

「そうですね」

「だ、大丈夫?ライト様は、結構気難しい。無理にしたら、怒るかも」

「しかしだ、今回ばかりは奴が悪い。物音以外に、気味の悪い気配も漂わせているのだから」

(この声、コーセルトに…アトレっ)



 声から誰だか、判断したライト。更に焦りが募る。

 だが、声が届くことはない。


 そして、無情にもドアは開かれてしまう。



◆投稿

次の投稿は10/11(水)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆蛇足

語り部「ここでこの剣を出すってことは、意味があるってこと」

白き槍「キーアイテムなのかは、分かりませんが。重要ではありそうですよね」

蛇の王「意識のある変形する剣、成長もしそうじゃし、今後の登場回数は増えそうじゃな」

語り部「それは、お楽しみってことで」



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