表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒塗の八岐大蛇 ~負けれない少年は、人道外れでも勝利をもぎ取りたい~  作者: 白亜黒糖
第6章 誇り高き青の王家と生贄喰らいの魔本
220/250

6-13 王女と死神 中



 朝が来た。

 ハッキリ言って、あまり眠れてはいない。

 起こった非現実を頭で整理するので、精一杯だった。

 彼の手掛かり、痕跡が消えた今、本当に現実だったのかが曖昧になる。



「……」



 ふと、気付けば、右の頬に触れていた。

 続けて、流れるように舌に指を這わせていた。



「っ!?」



 ハッとして手を離す。



「私は…何を…」



 やはり、現実であった。と、思い出してしまう感覚が教えてくる。

 それと共に、自分に呆れた。他者の感覚に飢えていたとはいえ、あまりにも鮮明に憶え過ぎていると思う。



「きっと、高位の存在に会ったから、憶えているだけ…きっと、そうに違いない」



 自分に言い聞かせるように、口に出す。

 確実に今の私は顔が紅くなっていることだろう。


 突如、コンコンというノック音が室内に響いた。

 同時に反射的に壁に掛かる時計に目を向ける。



「アトレ様、ロゼリアです。朝食とお身体を拭きに参りました」

「入っていい」



 気付けば、メイドのロゼリアが来る時間になっていた。

 まともに動けない私の世話をしに、決まった時間に来るのだ。

 いつもなら、起きてから余裕があるように感じるのだが、時間感覚が明らかに狂っていたせいで、気付かなかった。


 ドアが開き、栗色の髪のメイドが入ってくる。



「失礼します……アトレ様、何かありました?」

「っ……いえ、特に無いと思うけれど、少しだけ昨日、寝付きが悪かったくらい」



 ロゼリアの感覚の鋭さに驚きながらも、取り繕い誤魔化す。



「そうですか…では、お召し物を脱がしますね」



 ゆっくりと、身体を起こされ、ベッドに腰掛ける形になる。

 服に手を掛けられ、脱がされる。そして、生まれたままの姿になる。

 外気に晒された肌は、相も変わらず真っ白だ。日には晒されていないのがよく分かる。



「お身体、拭きますね」



 濡れた布が、身体の表面を滑る。その冷たさが心地よくて、思考が落ち着いていく。


 数分掛けて、全身を隈なく綺麗に拭かれる。非常に気持ちが良い。



「では、お召し物を着せますので、腕を上げてください」

「分かった」



 服は、また別の物を着せられ、これで一段落。



「それでは、ご朝食をゆっくりお楽しみください。時間になりましたら食器を片付けに参ります」

「ありがとう、ロゼリア」

「当然のことですので。失礼致します」



 パタリとドアが閉じられ、室内にまた一人になる。

 何故か、私はその瞬間に溜息を吐いていた。

 いや、理由は分かっている。使徒様のことをバレるのが怖いからだ。



「はぁ、そうそうバレる筈もないのに、ままならないもの」



 頭を悩ませながら、ベッドの横の机に置かれた朝食を手に取る。

 小麦の香る柔らかいパンを持ち、千切らずに口へと運ぼうと、



「私って、分かりやす――えっ!?」



 した途中で視界に入ったものに衝撃が走り、パンをベッドの上に取り落してしまう。

 即座に右手の袖を捲り上げる。



「何よコレ、どうなって……というか、何でロゼリアは何も言わなかったのっ」



 二の腕から手首にかけて、巻き付くような蛇の模様が刻まれていた。



「――それは当然。貴方にしか見えていないから、ですよ」

「ひぁっ」



 突然、後ろから手首を掴まれ、心臓が大きく跳ねる。



「ああ、すみませんね、突然現れて。少し仕事の前に時間があったので、言い忘れていたことを言いに来ました」

「し、使徒様、ビックリした」

「だから、すみませんって」



 隔絶した存在の筈なのにやはり何処か、親しみやすさというか、触れていたくなるような雰囲気がある。

 背中に感じる温もりが非常に心地良い。

 


「おっと、女性に気安く触れるのは、失礼でしたね」



 昨日、普通に持ち上げてたから、今更ではないか、というのは口に出さないでおく。



「それで、言い忘れていたことって?この蛇の模様のこと?」

「ええ、それは死蛇紋といいましてね。まあ簡単に言えば死へのカウントダウンです。それが最大まで進行した時に、貴方の死ぬ準備が整います。通常は、呪術的な呪いのものですが、薬で強制的にそれを起こしているわけですね」

「成程……」

「それは、僕と貴方以外には見えないので、特に見た目は気にしなくても大丈夫です」

「確かに、目立つからそれは嬉しい」



 改めて、まじまじと模様を見てみれば、少し格好良くも感じれた。

 少し一般の感覚からはズレているかも知れない。蛇は『蛇の王の伝説』があるから、悪く思われがちだけど、私はそこまでではない。



「それでは、僕は仕事があるので行きます。また、後で」

「はい、使徒様」

 


 そう言い切る瞬間には、彼は居なくなっていた。

 最初から、そこに居なかったかのように。

 だからこそ戸惑ってしまうのだ。あまりにも現実感が薄いから。



「……朝食、食べよ」



 だが、現実なのだと再度脳に刻みながら、パンを再度手に取り、私は口へと運んだ。




 時間が過ぎ、丁度昼を過ぎた頃。


 ノック音が響く。

 この時間は、メイド達も誰も来ない筈なので、少し不審に思った。



「アトレ、ボクだ。コーセルトだ」

「兄様?入って良いですよ」



 率直に言って、かなり驚いた。

 だって、既に見放されたと思っていたのだから。


 ドアが開き、青い髪に端正な顔の、私の兄が入ってきた。

 少し久しぶりに見る兄は、凛々しくなったように感じる。

 兄は、来客者用の椅子をベッドの前まで持ってきて、寝る私の横に来て座る。



「済まない、アトレ。兄でありながら、お前に会いに来れなくて」

「いいえ、大丈夫です。兄様」



 先ず、真摯に頭を下げる姿を見て、見放されてなどいなかったと自分の認識を改めた。



「唯の言い訳に過ぎぬが、実はだな。ドーカス公爵家の不正が遂に見つかったそうで、公爵家の面々の処刑やお取り潰しに関連して、兄上達は勿論、ボクまで駆り出されてしまって時間が喰われた。公爵家のお取り潰しなど、例のないことで、全く忙しなかった」

「そういうことだったんですか……」



 私には、そんな情報全く入ってきていない。

 まさか、公爵家が潰されるなんて、大事が起こっていたとは想像もしていなかった。

 何もかもが、下向きに考えすぎていたのかもしれない。

 この情報を知っていれば、私は踏みとどまっていたかもしれないと思った。

 しかし、私は、既に使徒様に殺してくれと願ってしまった。もう、死から逃れは出来ない。



「済まない、こんなこと話しても仕方がないな。もっと、明るい話をしよう――」



 兄の言葉がまとも入ってこない。

 見放されていなかったという安堵と、死ぬことが決まっている後悔と、そして嬉しさ。

 確かに見放されてはいなかったが、家族の重しなのには変わらない。

 ならば、やはり死んだ方が良いのだろう。

 大切にはされていても、必要とはされていないのだから。


 一瞬揺らいだ死への決意が再度固まる。

 そうして、迷いを拭い捨て、兄の話に集中する。

 今は、兄に魔法の教師がついたという話だ。

 どうにも、かなりの曲者のようだが、良い人ではあり、とても強いらしい。


 コレほどまでに笑顔で兄が、誰かを褒めている所は見たことがないので、死ぬ前に会ってみたいと漠然と思う私であった。



◆投稿

次の投稿は10/2(月)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆蛇足

語り部「意外と公爵家の崩壊ってデカイことだったんだな」

蛇の王「まあ、一見の身分で言えば、平民のライトの視点では重大さは分からぬよなぁ」

語り部「だよなぁ、ぶっちゃけライトは興味ないし」

蛇の王「にしてもライトの奴、色々と仕込んでいるな?……それと白槍は?」

語り部「ん?疲れたから寝るって」

蛇の王「では次話の語り部は誰がやるんじゃ?」

語り部「きっとそれまでには戻ってくるから」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ