6-10 魔法の授業、いや特訓
話し合いから一夜明け、朝早くも準備したライトは、とある部屋の前に立っていた。
「お〜い、コーセルト!お前の教師が来てやったぞ〜!多少動きやすい格好で中庭に来い!」
「何を急――」
「――じゃ、待ってるからな〜」
言うことだけ言って、話も聞かず彼は、動き出した。
傍迷惑にも程がある。しかし、彼は極まってる自由人なので仕方ない。
と、いうことでアウトラクス城の中庭に場面は移る。
ライトの目の前には、青い皮鎧を着た昨日見た白い服よりかは、確実に動きやすそうな格好のコーセルト。
と彼のお世話役と言っていた、ロゼリアも変わらないメイド姿で居た。
「全く、礼儀のなっていない奴だ。大体、朝早すぎる」
「いや、早くねぇよ。お前の行動時間が遅いだけだ。少し、頭を働かせれば分かるだろ?」
「何がだ?」
「この城の警備を行う者達は、もしもの襲撃に備え交代で寝ずに警備をする。朝食などを準備しなければならない料理人は、お前たちよりも早く起き支度をする。お前や他の王族の世話をする執事やメイドは、お前たちよりも早く起きていなければ、仕事にならない。ほら、早くなんか無い。それこそ、お前の隣に立つロゼリアだって、お前の為にお前よりも早く行動している。なぜ、それが分からない?」
「………」
ライトの言葉を受けたコーセルトは、ハッとした様子だ。今までそのようなことを考えたこともなかったのだろう。
それは、彼ら王族にとっては他が動くのが普通だから。
自分達が中心だからこそ、それが理解できない。出来るようになるのは、一定の歳を重ねた後。
目の前の王子は、やはり未熟と言わざるを得なかった。
「お前の普通は普通じゃない。自分が恵まれていることを理解しろ。そして、身の程を知れ。――じゃあ、魔法の授業と行こうか」
「気持ちの悪い切り替えだな」
「俺が依頼されたのは、お前の魔法の教師だけだ。それ以外は知らん。お前が認識を改めるのか、そのままの未熟な王族として行くのか。俺にはどうでもいい。全てお前次第だ」
「ボク、次第か」
先度よりも、少しだけ彼の顔つきが良くなったように思えた。
ライトは、軽く溜息を吐いてから、口を開く。
「では、授業を開始していく」
「よろしく頼む。ライト殿」
「ま、今日は魔法じゃなくて魔力の扱い方、基礎のことと魔力操作の特訓だ」
「魔力の扱い方?」
「ああ、お前は魔力をどんなものだと認識してる?」
「世界に満ち溢れた数多の生物の命を維持する力。また、何かに作用されやすい力。だと文献から記憶している」
「概ね、間違いではないな」
精確には、命だけではなく世界を維持する力だ。
全ての生命は、魔力を内包して生まれ、死して魔力に還る。
「では、魔法とは何だ?」
「魔力と意思によって引き起こされる超常の現象だ」
「大雑把に言えばそうだが、少し詳細が足りないな」
別にコーセルト言っていることは間違ってはいないが、ライトの聞きたかったこととはまた違う。
彼が聞きたかったのは、魔法という現象が起こされる過程だ。
「使用者のイメージを体内の魔力の放出と同時に伝播させ、それによって魔力が魔法陣を形成する。その魔法陣が周囲の魔力に作用し、作用された魔力が世界に干渉し、通常起こり得ない現象を起こす。これらの一連の過程や現象、技術のことを魔法と呼ぶ。周囲の魔力の部分は、体内の魔力で代替出来るが、その分消費する魔力も多くなる」
「そこまで詳細には、知らなかった。勉強になる」
知らないのは当然で、これは完全なる専門知識だからだ。その手の専門書でも読んでいないと、絶対に知らない。
日常的な物事の詳細など、きっかけさえなければ調べもしないのだが普通のだろう。
「さて、ここで問題だ。今のを踏まえて、なぜ虚属性魔法は魔力消費が多いと思う?」
「突然だな……う〜む…作用するものが多いから、か?」
「当たりだ」
パチンと指を鳴らしながら、彼は笑う。
「主な理由は二つ。一つ目、虚属性は目に見えない現象が多いからイメージがしずらい。イメージが曖昧だと、粗い部分を補填する為に無駄に魔力が使われる。ニつ目、虚属性が干渉や生成するのは、世界の機能が多いから。世界の機能って聞くと難しく感じるがそうでもない。分かりやすいのは、重力魔法だ。重力は、世界の方向を定める絶対基準の力。それを弄ったり真似るんだから、そりゃあ多く力が必要だよなって話」
「成程…」
「ぶっちゃけ、ニつ目の理由は俺達にはどうにもならん。世界がそう定めているからだ。なら、改善できるのは一つ目の方」
「イメージ、か。しかし、見えないのだろう?」
「ああ、だから――」
《黒剛彩王-虚の理-悪逆非道-暴虐非道-偽詐術策-聡明》
―――初級重力魔法:加重力
「――身を持って、体感して覚えろ」
「――うっぐ!?」
瞬間、コーセルトが膝を突く。いや、地面に引き寄せられたという方が、自然かも知れない。
彼はきっと体感していることだろう、この世界に等しく降りかかる不可視にして通常不変の力、重力を。
ケタケタとライトは笑いながら、彼を見下ろし言葉を放つ。
「目に見えないものを幾ら言葉で説明したところで、分かるわけがない。無駄ではないだろうが、一定以上の理解は得られない」
「身体が、重いっ」
「それが重力というものだ。そうだな、平常時の五割増しってところかね」
「これでは、動けないぞ」
彼の上げられた顔を見れば、既に汗が滲んでいた。
そんな彼を鼻で笑いながら、ライトは雄弁に語る。
「体内の魔力に意識を向けろ。そしてそれが、全身を巡るようにイメージし、そして実際に流せ」
「魔力が、全身を巡るようにっ……」
噛みしめるようにそう言った数秒後、コーセルトは立ち上がった。
不思議そうに自分の身体を見ている。
「これは…」
「魔力操作の基礎だ。そのまま魔力を循環させ続けろ。気を抜けば、さっきみたいに倒れるぞ」
「分かった」
「なら、その状態でこの中庭を100周しろ」
「分かった……ん?今100周と言ったか?」
「ああ、そう言った。だから、さっさとやれ」
「それに意味が――おぐっ!?」
疑問をぶつけようとしていたコーセルトが膝から頽れる。
「だから、魔力の循環を怠るなと言っただろ」
「しかし、100周とは――」
「――黙れ、やれば分かる。口よりも先に身体を動かせ。これ以上文句を言おうとしたら、掛ける重力を二倍にまで上げる」
「くっ、覚えていろよ!」
非常に忌々しげな顔でライト睨んだ後、彼は走り出した。
数分で彼は、この100周というものが如何にキツいか思い知ることだろう。
この中庭は、綺麗に円が入る正方形状のなのだが、その円が丁度一周1kmほどになるくらいに、馬鹿広い庭だ。
それ即ち1km×100周、つまり単純計算で100kmということになる。
因みに、フルマラソンは統一で42.195kmである。
「きっと運動不足だろう、王子様にはこれくらいで丁度良い」
酷く歪んだ笑みでライトは、それはそれは愉しそうに笑う。
補足だが、ライトは体力オバケなので12,000kmくらいまでは余裕だ。丁度日本一周くらい。
そう考えると、彼が扱う王気がどれだけ化け物染みた体力を消耗するか、想像するだけで震えてしまうね。
「き、キツいっ」
「ほら、喋ってないで身体動かせ」
「くっ!貴様後で本当に覚えていろ!」
中庭には、王子の悲痛な声と厳しく指摘する声だけが響いていた。
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