6-9 応接室で聖国の話
「記録として、ドーカス公爵家が聖国との関わりがあるのは、トラッシュが当主になってからです。初めて訪れたのは、当主就任の翌年です」
「そのときに何かしら洗脳でも受けたと考えるのが妥当でしょう。というか、何で聖国の者が来てるんですか?トラッシュが当主になった次の年である二十年前は、三国戦争の直後。緊張状態で外交なんてマトモにしてなかった筈ですけど」
「その、緊張状態の緩和の為だ。やむを得なかった」
「あと、確かトラッシュが当主になったのって、前当主が三国戦争で、それも聖国の人間に殺されたからですよね?尚更頭イカれてるんじゃないですか?」
オリバから過去の記録を聞き、ヨルから聞いた知識と合わせ、ローガスに言葉を投げる。
因みに、6章入ってから圧倒的にセリフの少ない蛇の王は、ライトではなくミスティアナ達の方に居る。予定なのだが現在は、ラビルの館に戻ってなにかしているらしい。
「だから、やむを得なかったと言っておるだろ!」
「だとしても、結果が全てです。選択の字結果として、貴方は失敗したんですよ。最善を尽くした?仕方がなかった?やむを得なかった?そんなもの、言い訳でしかありません」
言葉を荒げたローガスにライトは冷たい、というより冷め切った視線と言葉を向ける。
彼にとって重要なのは、過程ではなく結果だからだ。
「この世は、結果が全てです。過程に、前提に意味が無いとは言いません。ですが、結果が伴っていなければ、無駄です。失敗した結果に対して、どうのこうの言うのは、現実を見れていない愚者のやることです」
「手厳しい、な」
「いいえ、そんなことはありません。貴方は、戦争に負けてから理論上は勝てたとゴネる相手を見て、滑稽だと思わないんですか?僕は思いますけどね。そして、今の貴方はそんな奴と同じですよ。滑稽で仕方がない」
「…………」
「一国の王の姿ではない、とそう僕は言ってあげているんです。この場でなかったら、笑い者になっても可笑しくありませんでしたよ」
「忠告、感謝しよう」
ローガスの顔は、非常に苦々しい。
見た目が若造の相手(実際にそのままの年齢だが)に、間違ってもいないことを言われるのは気分の良いものではないだろう。
まあ、ライトは彼がそう思うだろうことを理解した上で、その話をしているのだが。性格が悪い。
「それで?その時に来た聖国の使者、また定期的に来てた使者の行方は?」
「ライト殿とトラッシュの決闘が決まった翌週から、行方を眩ましており未だに確保できていません」
「黒なのは、確定と……此処まで証拠が出てて、国家問題なんて気にする必要あります?真正面からの方が楽でしょうに」
まどろっこしいことが嫌いなライトはそう言うが、当然そんな簡単に出来るわけがない。
「我が国の情報を買っていたことは、完全な証拠として資料が残っている。幾らでも責め立てることが出来よう。だが、相手は我が国の情報を持っているのだ。迂闊には動けぬ。それに……」
苦々しい『表情』から決意を固めた「顔」となってライトを見て口を開く。
「余は、戦争は好まぬ。これは、国を治める者として駄目なのは理解している。しかし、余には、民が傷付くようなことを自ら行うことはしたくない。責任逃れかもしれぬ。唯の腰抜けかもしれぬ。それでも、余はしたくはない。国を治める者として戦よりも平和の方が、国は発展すると信じているからだ」
そう思いの籠もった言葉を紡ぐ青き国の王に、黒の王は笑みを浮かべた、それは深い深い笑みを。
今にも、面白い人だと言ってしまいそうな顔だ。
「実際は、そんなことありませんけどね。戦が闘争があってこそ生物は、文明は発展していきます。……でも僕は、戦闘が好きですが別に殺し合いが好きなわけではないので、その戦争にすぐ傾かない思考は、良いと思いますよ。正に知性を持つ、理性ある生物の思考です」
否定から入ったが、ライトとしては戦闘を好まぬ思考は非常に好ましかった。
白魔の戦闘力至上主義が嫌いなだけはある。
「そうか……」
「それに、王のあり方は色々ありますから、偏に駄目だと決めつけるのは早計ですよ」
「まるで、様々な王を、統治する者を、見てきたかのような言い方だな」
「見てきたと言えば見てきた。見てきてないと言えば見てきてない。という処ですかね。僕が言ってるのは、統治者としての王ではなく、『王』という座につく者達のことですので」
ヨルを始めとした『七種覇王』に『六天魔王』。統治者ならばクリムゾア帝国皇帝のフレグス。
また少し別枠となるが、ソヨもまた王だ。一応、成りたてだがミスティアナも。
各々が内に芯を持ち、それが悪い方か良い方かは関わらずそれを突き通す強靭さを持つ、凶悪さとも言っても良い。
その姿勢だけに焦点を当てれば、それは敬意を表するに値するだろう。
「彼らは、良くも悪くも芯を持ちそれを貫き通します。それこそが『王』という座につく者の前提であると僕は思っています。例えば、僕みたいなのも、意外と王かもしれませんよ?」
「己が芯を突き通す、か。確かにその点で言えば、主は王かもしれぬな。その傲慢を突き通し続ける姿、尊敬の念を抱いてしまいそうだ」
「どうぞ、それはご自由に」
軽口を言うくらいには、ローガスも分かってきたようだ。ライトの相手の仕方と王としてのあり方を。
「自信過剰くらいでなければ、王は務まりませんよ。ローガス陛下」
「であれば、気など使う必要はないな、ライトよ」
「さあね?時には必要なのでは?」
敢えて嘲るように言うライトに、今度は彼が深い笑みを浮かべた。
そして、大きな笑い声を出した後、オリバの方を向く。
「オリバ、資料の全てを持って来させよ」
「い、良いのですか、陛下」
「良い、この男相手に腹芸など馬鹿馬鹿しくてやってられぬわ。余らは既に、戻れぬ所まで来た。ならば、この沼にどっぷりと沈み込み、引きずり込み戻れなくなる程、やってやろうではないか」
「そう簡単に行くとでも?」
髪よりも明るい青い瞳が、黒を射抜く。
「行かせるのが、王の腕の見せ所であろう」
話し合いは、長く続いた。
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