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黒塗の八岐大蛇 ~負けれない少年は、人道外れでも勝利をもぎ取りたい~  作者: 白亜黒糖
第6章 誇り高き青の王家と生贄喰らいの魔本
210/250

6-3 第三王子コーセルト・ヴォラクス・アウトライル





「――まだだ」

「あ?」



 (ようや)く終わったかと思えば、声が上がる。

 その状況に対して、ライトは少なくない苛立ちを覚える。


 視線を向ければ、そこに居たのは、青い髪に白い貴族服を着た、ライトより少し背の低い少年。

 立ち姿は様になっており、気品が伺えた。明らかにその姿は、王族のそれだった。



「今の戦いを見て、転がっている雑魚共を見て、実力の差ってのが、理解できないのか?」

「そんなものは関係ない。ボクならば」

「何だ、ただの馬鹿か。だが、度胸は認めてやるよ、王族様」



 ライトは、態度を変えずに会話を続ける。

 目の前に立っているならば、それは敵だからだ。敬う必要など無い。



「ボクは、コーセルト・ヴォラクス・アウトライル。この国の第三王子だ。父上の前、いやこの謁見の間でのコレ以上の狼藉は、ボクが許しはしない」

「お前が第三王子、か。良いね、その反抗的な目、叩き潰したくなる良い目だ」

「黙れ、賊が」

「一応正式な依頼で来てんだけどな!」


―――超級炎魔法:イグニスブラスト

―――中級毒魔法:ポイズンランス



 コーセルトが放った巨大な火炎弾に、即座に毒の槍をぶつけて爆発させる。


 次の瞬間、右後方で気配が膨れる。



「成程、時空魔法使えんのか」

「何ッ!?」

「気配が抑えられてねぇし、何より魔力で何をするか分かってたがな」


―――中級重力魔法:加々重力(グラヴィティアー)


「――うわぁっ!?――アッグッ」



 背後から振り下ろされた剣を身体を逸して避け、コーセルトに触れながら魔法を使う。

 床と垂直方向に急速に"落ちて"いく彼は、やがて壁にぶつかる。



「未熟も未熟だな」

「貴様ッ……今のは、重力魔法、か?」

「よく分かるねぇ、いや時空魔法使えんなら他の虚属性についても知ってておかしくないか」


―――中級時空魔法:テレポート


「――だから、転移がわかり易すぎんだよ。そして」

「ぐあっ!」

「剣の扱い方が、素人のそれだ。よくそれで戦おうと思ったな」



 再度、転移して斬りかかってきたコーセルトを反身で避け、彼の腹に右手を当てる。



「いい加減、身の程を知れ」


―――上級音魔法:集音爆波(トーンバース)



 耳が痛くなるような破裂音と共に、コーセルトが吹き飛ぶ。

 結構な勢いで壁に激突したので、直ぐには戻ってこないだろうと高を括り、広間に居る者達の様子を見る。


 前提として、王と第三王子とライトを除く広間に居る者は、壁際に移動している。

 大臣含む貴族達は、流石に大人なだけあり目に見えて動揺していないが、明らかにヤバイ奴を見る目で見られている。

 その中で例外なのは、ムルング辺境伯家。イレーヌは納得しているようで引いたような顔してるし、デーウルスはやっちまったなぁ、みたいな顔をしている。

 王族達は、強く驚いている者と冷静な者がいる、前者は比較的歳が若い者で後者は恐らく親に当たる者がしている。

 王は、全て知っているかのように冷静だ。



―――上級風魔法:エアロスカッター

―――超級風魔法:ブレイドゲイル


「お、意識戻ったか」


―――超級重力魔法:圧壊重力爆弾(パスガルボム)



 放たれた風の刃とそれより少し遅れて迫る波のような風。

 それに対して魔法を発動する。風が消えたかと思えば、爆発したような音が響き、風が頬を撫でる。



「同属性を順に放つなよ、意味ないじゃん」

「はあっ、貴様どうしてそうも虚属性魔法を軽々と使えるっ!」

「魔力量が多いからに決まってんだろ、それとイメージの差だ」



 疲労を滲ませてこちらを見るコーセルトに、淡々と返す。

 まあ事実なので、仕方ない。

 人間とは種族的にそもの魔力量が違い、虚属性特化で使ってきているライトのイメージ力に並の魔法使い程度が勝てるわけがない。

 虚属性魔法は、肉眼で捉えられるものが少なく想像しにくいので、尚更経験が物を言う。



「虚属性は、他属性の同規模の魔法に対して、ニ〜三倍の魔力を使うんだぞ!」

「だから、なんだよ。俺には、それでも連発出来るだけの魔力がある」

「化け物がっ」

「おいおい、随分言ってくれるねぇ」



 笑みを深くして、ライトは言い放つ。



「――人間風情の尺度で俺を測るな」

「っ!?」

「人間の強みは群れを成すこととその繁殖力、物量で戦う種族だ。反面個の力では他種族に敵わない。それは当然だろう?特性の違いという奴だ、そう悲観するな。……まあ、それだと個々では雑魚というのと同じだけどな」



 彼の放つ雰囲気が切り替わり、広間の空気が重くなる。

 どうやら、遊びは終わりらしい。



「そろそろ終わりにさせてもらう、お前で遊ぶのも飽きた。そも、依頼の話をしに来ただけだし」

「――イ"ッ、貴様何をっ」

「常に周りに意識を向けろ、罠ってぇのは。意識の外側にあるから罠なんだからな」



 コーセルトの右足には、"紫色の結晶"が突き刺さっており傷口から溢れる血が、その白い生地を紅く染める。

 何をしたかと言えば、前話で投げ捨てたヴェノムクリスタルソードの破片を操作して、突き刺しただけだ。


 ぐらりと、コーセルトとの足取りが不安定になる。



「素質はやっぱあるんだよなぁ」

「な、に?」

「それ、超強力な麻痺毒を仕込んであるんだよ。常人なら、刺されて一秒でぶっ倒れるね。立って意識を保ってるだけで十分だってこと」

「ふざ、けるな」

「――ただそれだけなんだがな」


―――再事翼蛇(リントヴルム)=超級体術:流麗転脚(リュウレイテンキャク)


「ア"ッカ"ッ――」



 立っているので、やっとな彼の腹に急加速からの強烈な蹴りを叩き込む。

 数回床を跳ねて転がった彼は、完全に意識を失っている。



「ふぅ、終わりだな。全く、面倒ったらありゃしない」



 溜息を吐いてから、ライトは王の目の前まで歩いて戻る。



「ライトさん!」



 途中で、声が掛けられた。

 そこそこ聞き慣れているその声に、振り向いて言葉を返す。



「何だ?イレーヌ」

「先に広間を戻して欲しいのだけれど、その毒の沼とかがあって元の場所に戻れないから」

「あ〜、ごめん。それは確かにそうだな」



 彼女は、広間を修復しろとライトに要求した。

 広間は彼が魔法をバカスカ使ったせいでボロボロである為、当然とも言えた。


 広間の天井に大きな空色の魔法陣が形成される。



《黒剛彩王-虚の理-悪逆非道-暴虐非道-偽詐術策-聡明》


―――神級時空魔法・変異:非想天の逆巻時計リラクリエイト・クロック



 崩れた石材などが独りでに浮き上がり、他の欠片と繋がり合いながら元の位置へと戻っていく。

 魔法の影響も消えてなくなり、ほんの数秒で、戦いが行われる前の状態に広間が戻った。


 その魔法の規模に広間にいた彼自身を除いて皆が息を呑む。



「さあ、広間も戻ったことだし。依頼の話をしようか」



 黒き王は、玉座にて見下ろす王へとそう言う。



◆投稿

次の投稿は8/30(水)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆技解説

魔法技録

中級重力魔法:加々重力(グラヴィティアー) 指定した対象に自由な方向の重力を与える


超級風魔法:ブレイドゲイル 波のような風を放ち接触した対象に裂傷を与える


上級音魔法:集音爆波(トーンバース) 周囲の音を集束させ放ち対象を吹き飛ばす 振動が対象に直接伝播する為、物体の場合崩壊を促し、生物の場合感覚に異常を齎す


◆蛇足

語り部「実はライト、子供が嫌いという設定があるんよね。正確には、身の程を知らない相手で、その場合大体子供が当てはまるってだけだけど」

蛇の王「だからやたらとコーセルトに当たりが強いのか」

語り部「王族って恵まれた環境を持っているってのもあるけどね」

蛇の王「性格が少し破綻しとるの〜」

語り部「それだけの過去があるからな。普段は表面化してないだけで割とクズだし」

白き槍「そんなことはありません。ライト様は高潔なお方です」

語り部「あ〜…うん、そうだね訂正する」

蛇の王「純粋な瞳に負けるな!頑張れ語り部」

語り部「いや、コレは絶対に無理」



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