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黒塗の八岐大蛇 ~負けれない少年は、人道外れでも勝利をもぎ取りたい~  作者: 白亜黒糖
第6章 誇り高き青の王家と生贄喰らいの魔本
209/250

6-2 どいつもこいつも面倒だ



 目の前には、木製の大きな扉がある。



「此処の中に、王族の方々が居ると。それじゃ、入りますか」

「はい、分かりました――」



 ライトは、別に権力者相手に物怖じしないので、緊張とかはしていない。



「――ライト・ミドガルズ様がお越しになられました!!」



 突如、声を張ったロゼリアに応じて、独りでに扉が開かれる。

 どうしたら良いのか即座に理解した彼は、扉を潜り抜けてその空間に足を踏み入れる。



『――……』



 入れば、突き刺さるのは視線。内部に居た人数は思ったよりも少なかった。

 扉側から、上等な貴族服をきた数人の貴族とそれぞれ一人ずつの付き人。



「「…………」」



 中には、見知った顔もあった。まあ、デーウルスとイレーヌなのだが。


 その奥には、ライトを警戒してか分からぬが、青い騎士鎧を纏う者達。

 その更に奥、大きく段の上がった上で、彼を見下ろすように居る者達。



「…………」



 彼の丁度真正面に居る王冠を被った、深い青色の髪の軽く髭を生やした男。

 恐らく王なのだろうが、そうと王冠を被っていなくても認識する程にその姿は威厳に溢れていた。


 そんな男の左側には、同じく青系統に髪色の見ただけで最高級品だと理解できる服を来た子供と親に見える……面倒だ、王家の面々ね。

 右側には、王家よりは質は下がるが明らかに身なりの良い初老の男と、剣を携えた細身だが力強さを感じさせる壮年の男が立っていた。



(後は……この広間の所々で姿を隠している奴ら)



 魔道具でも使っているのか、姿を消している者がポツポツと。

 念を入れてのなのか知らないが、密偵か暗殺部隊か、どっちにしろ彼からしたら警戒するに越したことはない。


 そんなこんなな思考をしている内に、王の居る場所へ行く段差の手前まで来た。



「……アンタが、国王で良いんだよな?」

「如何にも。余がアウトライル王国42代目国王、ローガス・ヴォラクス・アウトライル。初めまして、と言うべきか?ライト・ミドガルズ殿」

「そうか、まあそれは正直どうでも良い。依頼の話をしようか」

「――貴様、陛下に不敬だぞ!」

「はぁ……」



 背後から放たれた怒号に溜息が出る。

 どうしてこうも、どいつもこいつも権力・立場というものに五月蝿いのか、ライトには理解しかねた。


 灰色の魔法陣が霧散する。



《黒剛彩王-虚の理-悪逆非道-暴虐非道-偽詐術策-聡明》


―――上級重力魔法:加過重力(グラヴィティエスト)


「――黙れよ。雑魚が俺に意見するな」

「ウグァッ!?!?」



 背後で床が砕ける音と汚い声が聞こえてきた。

 同時に、騎士達が動き出すのが分かる。


 紫色の魔法陣が霧散する。



―――超級毒魔法:激毒の泥沼(ベノム・マッドランド)


「雑魚は雑魚らしく下だけ見てろ、それなら足も取られねぇかもしれねぇからな」



 彼の立つ床が紫色に変色し、即座に後ろへと広がる。

 金属がぶつかり合うような音が耳に入る。


 ニつの無色の魔法陣が霧散する。



―――天級音魔法:指向性支配音響域サウンレータ・ラルドーム

―――天級音魔法:意識捕食の管弦楽団コンシャスイーター・オーケストラ



 耳には、何の音も響いてこない。だが、床から伝わる振動が、騎士達が倒れたことを知らせる。

 邪魔者の消えたライトは、段を上がりローガスに近付こうとする。

 彼が、ローガスの座る玉座の段にまで上がった瞬間、



「――フッ」

「――チッ」



 一瞬にして目の前に現れた剣を携えた壮年の男が、斬りかかってきた。

 体勢を崩し、段差を転げ落ちそうになり、空中に身体が浮く。


 空色の魔法陣が霧散する。



―――中級時空魔法:テレポート


「馬鹿が、遅ぇんだよ!」


―――上級杖術:(かた)()戦刃(せんじん)薙流(ナギリュウ)



 転移で男の背後に移動し、足に魔力を籠めて蹴りを放つ。

 ぶつかった瞬間に炸裂した魔力により、男が軽く吹き飛ぶ。

 直ぐにくるりと回転して着地した男は、床を蹴り距離を詰めてくる。

 刃が、空気を斬りながら迫る。



―――超級毒魔法:ヴェノムクリスタルソード


「お前、いい動きするねぇ!」

「ッ!」



 紫の魔法陣から現れた鋭利な剣で刃を弾く。

 男の顔が驚嘆で染まるのが、愉快でならない。


 そこからは剣戟のぶつかり合い。金属音が続け、戦いは加速する。



―――蛇剣舞:地蛇(ちだ)貫牙(かんが)


「ハッ!!」



 振り上げた毒晶剣に合わせて、牙のように隆起した床が男を貫こうとする。

 だが、そう簡単に行くわけもなく、牙は避けられ剣に切り落とされる。


 しかし、そこで生まれた僅かな隙をライトが見逃すわけもなく。



「――減点だ」


―――蛇剣舞:地蛇(ちだ)剛撃(ごうげき)


「――ゥグッ!?」

「おいおい、受け止めるとか正気かよ。よく耐えたなっ!」

「アグッ」



 振り下ろされた毒晶剣は、男の持つ剣の腹に受けられた。

 普通の剣ならば、地蛇(ちだ)剛撃(ごうげき)を受けた瞬間に砕けるのだが、そうならない辺り、上物の剣らしい。


 剛撃を受けた姿勢は隙も隙だらけ、その土手っ腹に蹴りを放つ。

 彼の脚力は、常人のそれとは段違いに重いので、マトモな防御なしならばどうなるのかは、分かりきっていた。

 後ろへと吹き飛び、男は床を転がる。



「ハァ……」

「おっ、起き上がるか。アンタ、丈夫だねぇ。それとも咄嗟に魔力を腹に籠めたか?まあ、だが正直に言やぁ、アンタもう戦えないだろ?」



 立ち上がり、こちらへと剣を向け、闘志を消さない男にライトはハッキリ言って驚いた。

 向け返してくるその瞳には、青い闘志が燃えている。

 けれども、ライトには分かっていた。



「手、震えてるぜ?そりゃそうだよな?剛撃は生身で受けられような威力じゃねぇ、剣は砕けなくても身体は壊れなくても、その衝撃は殺しきれない。本当は、立つのも辛い筈だ」



 僅かに、震える男の手、そしてよく見れば分かる、安定していない姿勢。

 男は、満身創痍だった。



「……それでも、私は陛下の剣である。折れることは許されていない」

「陛下の剣、ねぇ。良い忠誠心だ。嫌いじゃない。だが、面倒だ。さっさと折れろ――」



 ライトは、床を蹴り上げ跳躍する。毒晶剣を男へと振り下ろす。



「――今だ」


『――………――』



 広間の至るところから溢れた殺気が、膨れ上がると同時に彼に突き刺さる。

 全方位からナイフが飛んできていた。

 その状況で尚、彼は笑みを浮かべる。



「バーカ、気付いてるよ」


―――中級時空魔法:テレポート


「――アグガッ!?!?」

「おいおい何してんだよぉ!お仲間さんに攻撃しちゃぁ駄目だろ!」



 空色の魔法陣が霧散し、転移が行われる。

 ライトは、男を掴み上げ、盾にした。

 飛翔してきたのが早いナイフの方へと的確に男を向け、全てのナイフを男で防ぎきった。


 煽った瞬間、乱れた隠密達の隙を見逃さない。

 灰色の魔法陣が霧散する。



―――上級重力魔法:加過重力


「はい終了。殺気を漏らす、心を乱す。隠密としても暗殺者としても三流もいいとこだ。全く、コイツの作った折角のチャンスを不意にするとは、馬鹿だねぇ」



 深く息を吐いてから、男を投げ捨てる。

 伸びをして、毒晶剣も投げ捨てる、砕けた破片がキラキラと美しい。



「これで終わりか?」

「――まだだ」

「あ?」



 面倒事は、まだ続くようだ。



◆投稿

次の投稿は8/27(日)です。


◆読者の皆様へ

もう少しで一覧系を投稿するのですが、それに合わせて祝日系の番外編も纏めたいので、数日の間話数が増減したり、同じものが投稿されたりするかもしれませんが、作業なのでお心配なく。

ご迷惑をお掛けしますが、ご理解の程よろしくお願いします。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆技解説

魔法技録

天級音魔法:指向性支配音響域サウンレータ・ラルドーム 指定した範囲内に生まれた音を自由に操作できる領域を作り出す 領域内の音は外部には漏れない


超級毒魔法:ヴェノムクリスタルソード 剣状の水晶を生成する 水晶の硬度は自由に変更できまた毒の性質も自由に変更することが出来る 砕けた状態でも操作可能


◆蛇足

語り部「またしても絶対に問題を避けれないライトだな」

蛇の王「仕方あるまい、ライトの価値感覚は他とかけ離れているからのう」

白き槍「問題は避けられません」

語り部「問題面倒くさいとか言いながら、別に直そうとはしないんだよな」

白き槍「ライト様らしさですので」

蛇の王「偏に頑固なだけじゃろ」

語り部「固定観念は中々変えられないから固定観念なんだぜ?蛇王」

蛇の王「そうじゃな、我がお主をこうして殴るのを止められないようになっ!」

語り部「ぐべっ!?何で殴った!?固定観念関係ねぇ!」

蛇の王「ただ、そういう気分なだけじゃ。意味はない」

白き槍「そういう時もありますよね」

語り部「いや無いからね?白槍肯定しないで」



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