6-P 王都『セントライル』
視界に映るのは、人、人、人。
人混みしか映らない。まあ、実際には道や建物も映っているが。
「此処が王都ですか」
「王都なだけあって、流石に発展してるし、人が多いわね」
「居るのは、人族が多いです」
「人の国に王都ですし、まあ当然と言えば当然ですね」
此処は、アウトライル王国、王都セントライル。
王家からの依頼を受けた訳で、やってきた。
因みに依頼を受けてまだ四日であり、実際に王城に行くのは明日である。
「……流石、王都に住む、来る人達なだけあって、良い服着てますね」
「何で服よ?」
「そりゃ、服は貴重品ですし」
「そうなのですか?」
実は、ライトが視界に映していたのは人ではなく、服だ。
行き交う人々が良い服着てるな~と、見ていた。
尚、自分たちのことは棚に挙げてである。
彼らの服の方がよっぽど素材からして良いものなのは、間違いない。
「布は製作が難しいですから、自然と高くなります。今でこそ、魔道具のお陰で生産が楽になってだいぶ安くなりましけどね」
「貴方、その時代生きてないでしょ」
「まあ、飽くまで知識の中での話ですけど。でも、此処の人達が着てる服が上等なのは、間違ってません」
今を生きる皆様方には分かりにくいかと思うが、元来布というものは高級品である。
それは、布が税として納められていたことから分かる。米などの食料品に並んで納められる程の物なのだ。
生きる為に絶対に必要な食料に並ぶ、と言えばもっと分かりやすいかもしれないな。
「というか、魔法で布を作る作業出来ないの?」
「繊維を取り出したり紡ぐのは非常に繊細ですから、素人には魔力でやるのは難しすぎます。製作する人を魔法で出来るまでの練度に仕上げる時間があるなら、手作業でやった方が効率良いんですよ」
幾ら扱いやすいと言っても、常人が魔力を常日頃から使っている手以上に操作できる訳がない。
繊維を取り出し、糸を紡ぎ、布を織る、それらの作業は、繊細な故に難しい。
生半可な精度では出来ない、だからこそ通常は手の方が簡単というわけだ。
「大体、魔法で服を作るとなったら、魔力を魔法で物質化して服作った方が過程自体は早いですしね。その場合、魔力が掛かるので1日でも複数枚は作れないので、こっちも効率は悪いと言えますけど」
「確か、ヨルはそれで服作ってるのよね」
<そうじゃな、我の場合は、その魔力の服も自身に還元して戻すがな>
簡単に言っているが、魔力の物質化はかなりの繊細な操作と明確なイメージ、阿保みたいな量の魔力が必要だ。
つまり、一般的に使っている者は少ない。それを常用しているような輩はもっと少ない。
化け物しか使えないので、当然とも言える。
「さて、服談義も一区切りにして、先にセイク商会の方に行きましょうか」
「ええ、そうね」
「分かりました」
漸く一行は、足を進めることにしたらしい。
◆◇◆
目の前にあるのは、レンガ造りの建物。ラビルにある店舗とかなり似た造りだ。
「建物は統一してるんですね、流石トリスさん」
「同じ見た目の方が同じ店っていうのが分かりやすいからでしょ、普通じゃないかしら」
「でも、レンガは魔法で作る他の建物よりお金が掛かりますから、実は中々できないんですよ?」
「そう、なら凄いわね」
若干投げやりに感じる言葉と共に、ナイはそのセイク商会の店舗へと歩いていった。
当然、その後を追うライト。
そこでふと気付いた。本来なら、混み合っている筈のセイク商会が全く混んでいないことに。
いやまあ王都のセイク商会がどうかは知らないのだが。
そんな思考をしている内に、彼女は店の扉を開けていて。
いつもよりも行動の早い、彼女に呆れながらも追いついて一緒に入る。
「――待ってましたぞ」
「え?トリス?」
「トリスさん?どうして此処に」
清潔感と温かみが溢れる内装の、店内には見たことのある男が居た。
此処に居ると想像していなかった、恰幅の良いおじさんだ。
そう、エルトリス・セイクである。
「どうして、此処に…」
「当然、ライト殿達に依頼の説明をするためですぞ」
「五日じゃ、普通王都には来れないと思うのだけれど?」
「それは、前提が間違っておりますな」
「どういうことですか?トリス様」
何故トリスが居るのか三人は理解出来ていなかった。
凝り固まった考えのせいであるのは、確実だ。
「私は、別にいつでもラビルに居るという訳ではありませんぞ」
「……ああ、確かにそうですね。支店があるわけですから、そこの視察だったり何だったりしに生きますよね」
「そういうことですな。ライト殿の一回目の決闘が終わった少し後には、王都の方へ移動し始めていましたな」
「じゃあ、どうやって。いや、普通に通信の魔道具ですか……成程、そういうことだって普通にありますよね」
ライト的には、セイク商会の依頼ということはトリスに話が通っている=ソヨがトリスに直接依頼を取り付けた、という思考になっていた。
その場合は、トリスとソヨは直接会っていなければならないので、ラビルに居るのだと思ってしまった。
(というか、別にソヨさんなら遠くに居ても転移で会えるじゃん。なんで思いつかなかったんだろ、僕)
「はぁ……それじゃあ、依頼の説明をお願いしても良いですか?」
「では、初めていくと言いたいところですが、立ったままというのはアレですので、奥に案内しますぞ」
「ありがとうございます、トリスさん」
人が居ないとは言え、そのまま売り場で話すというのは変なので、普通だ。
「何か飲み物もあるかしら?」
「準備しておりますぞ〜!」
「それくらい別に僕たちで準備できるというか、ありますよ?」
「トリスにおもてなしとして、出してもらうから良いんじゃない」
「ナイは、そういうところありますよね」
「あらミスティ、文句でもあるのかしら?」
「そういうわけではなく、本当に傲慢不遜だなと思うというだけです」
「へぇ、言うじゃない」
「間違ってませんけどね」
「ライトまでっ――」
そんな軽い言い合いをしながら、彼らは店の奥へと歩いていく。
大きい建物とはいえ、それほど時間が掛かるわけもなく、その一室で一行は寛いでいた。
「ん〜!美味しいわね、流石トリス!」
「気に入って頂けたようで何よりですな」
「はい、ミスティ。あ〜ん」
「んっ……美味しいです、マスター」
トリスの出したアイスティーを飲んでご機嫌なナイと、トリスの出したケーキをミスティアナに食べさせるライト。
割と混沌とした状況の中で、浮いて困惑している者が一人。
「あの、会長…この方達は…」
「おっと、ロニアには説明してませんでしたな」
「――初めまして、Aランクパーティー〈黒蛇白塗〉のリーダー。ライト・ミドガルズです。そっちのアイスティー飲んでる紫のがナイ。こっちの可愛い白いのがミスティアナ、ミスティです。宜しくおねがいしますね、ロニア・ホロクニさん」
「あ、ご丁寧にどうも」
桃色の髪にゆったりめなワンピースを着た、小柄な女性がテーブルを囲うように置かれたソファに一行から少し離れた場所に座っていた。
彼女は、ロニア・ホロクニというらしい。
「――じゃなくて、どうしてこの方達をこの応接室に?そして、何故私を呼んだんですか?」
「まあ、それはこれから説明していきますから、落ち着いてくだされ。こちらのロニアが、このセントライル支店の店長ですから、来てもらったということですぞ」
「よろしくね、ロニア」
「んくっ、よろしくお願いします。ロニア様」
「よ、よろしくお願いします」
そんなこんなで、王都での活動は開始していく。
「それでは、依頼の詳細を話していくとしますかな」
第6章 誇り高き青の王家と生贄喰らいの魔本
―――Read Start.
◆投稿
次の投稿は8/22(火)です。
◆読者の皆様へ
さあ、皆様6章の開始です。なのですが、週末は少し立て込むので来週の火曜日から本格的な開始となります。本当に申し訳ありんません。
一覧系も休みの間には投稿できませんでしたが、既に3章分までは終わっていますので、今度こそ、恐らくもう一週間程度の内に投稿できそうです。
それぞれお楽しみにお待ちください。
◆作者の願い
『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。
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◆蛇足
語り部「王都に来た癖に町並みの描写がねぇ」
蛇の王「それなら、此処で補填しろ、そういうコーナーではないか」
白き槍「別にそうでもないと思いますが」
語り部「逆にそうともいえないわけでもないんだな、これが」
白き槍「そうなのですか?」
語り部「まあ、蛇足だし何でも話していいから、特に何が駄目とか気にする必要ないだけよ」
白き槍「成る程」
蛇の王「結局、町並みについては話さぬのか……」




