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5-E 王家からの依頼



 此処は、ラビルの館のライトの個室。



「ふぅ……」



 紅茶を飲んでから、深く息を吐く。



「…………」



 トラッシュ・ドーカスとの決闘、悪魔ムールマスとの戦いから一ヶ月。

 ライトは、疲れていた。

 貴族関係の事柄に、結構な時間を費やされたからだ。


 パキリと封蝋を割り、机の上に置かれた手紙を開けて読む。



「……トラッシュ・ドーカスは死刑。公爵家はお取り潰し、っと全く面倒ですねぇ、貴族の世界は。あの人もせっかく蘇ったのに可哀想に」



 さて、この一ヶ月間の話をしよう。

 先ず話すべきは、トラッシュ・ドーカスについてだが、率直に言えば彼は生きていた。今はどうかは不明だが。

 正確には生きていたというか、ヨルが蘇らせた。完全に消滅してしまったかと思えば、割と余裕で生き返らしてて、ライトが呆れたのは言うまでもない。


 そんなトラッシュは、やはり操られていたようで、蘇った彼は全くの別人であった。外見は変わらないが、中身が大違い。

 アウトライル王国への愛へ溢れ、忠誠心も高く、頭の回転も早い。

 本当に操られていたということが、会話だけで分かり過ぎた。


 一応、一定期間この館の地下に住まわせていた。前話のミスティに言った"彼"とかの部分がそうだ。

 その後、無事にデーウルスの密偵がドーカス公爵家の不正の証拠を見つけた為、デーウルス本人が館に来た為、そちらに引き渡した。

 滅茶苦茶に監禁していたことを驚かれたが、言葉ほど酷い扱いはしていないので多分問題はない。

 監禁していたという事実が広まらなければ問題はないので、デーウルスに口止めはしておいた。


 そこからは、国の役人が来て、状況の確認、決闘の事実確認などをさせられた。

 どうやら、トラッシュがどうなったかの情報が不足していたせいらしい。

 とりあえず、本当のことを言っておきつつ、面倒なことは伏せ、複雑なところはデーウルスに任せた。

 それでも確認は多く、非常にライトは疲れた。


 それらが一通り終わった後は、デーウルスからどうなっているのかという報告の手紙が来るので、それで近況を確認している次第だ。

 今彼が呼んでいるのもそれである。

 

 内容は、トラッシュが処刑され、ドーカス公爵家が無くなったというもの。

 別にそんなこと、彼としてはどうでもよかった。

 あるのは、トラッシュへの僅かな憐れみだけ。



「――完全に死んだと判断するのは早計じゃぞ」

「ヨル?どういうことですか?」



 字面の内容そのままに受け取ったライトに対して、ヨルから声が掛かる。

 フードから這い出てきた蛇が人型に変化し、見目麗しい少女になる。



「表上は殺しておいて、名前を変えて生きさせておくというのもある。あの男は、優秀で国への思いも強かったからな。国王が頭の回る者ならば、そういうこともありえる」

「そういうのもあるんですか……面倒ですね。でも確かに、トラッシュには僅かに洗脳時の記憶も残ってましたし聖国の企み、その情報源を無くすのは、王国としても痛手ですしね」



 何故ここで聖国が出てくるかと言えば、ドーカス公爵家の不正に関わっている為だ。

 公爵家は、王国の内部情報を聖国に送る代わりに、聖国製の魔道具などを対価として受け取っていたらしい。

 そして、『生命(いのち)血石(けっせき)』もその対価に含まれていた。

 つまり『生命の血石』を製造しているのは、聖国ということになる。



「まあ、あの人が生きているからと言って、僕には――はい、何ですか?」

「――失礼します。マスター」



 コンコンとドアが叩かれ、応えればミスティアナが部屋に入ってきた。



「来客です」

「誰ですか?」

「ヒュープ様です。ソヨ様が、新しい依頼が来たからお呼びとのことです」

「成程……依頼ということは、ナイも一緒でしょうし、そっちにも行ってあげてください。僕は早急に準備しますので」

「分かりました、それではナイの所に行ってきます。マスター」



 ミスティアナが部屋を出てくのを見終わった後で、ライトは珍しく外していた手袋を着けて、コートをしっかりと着直して、自室を後にした。






「――失礼します。ソヨさん来ましたよ」

「待ってたよライくん達!」



 ギルド会館、ギルドマスターの執務室にいつも通り来たライトは、イスに座り何やら飲み物入っているカップを手に持つソヨに声を掛ける。

 彼女は、笑顔で彼らを歓迎する。



「それで、新しい依頼って何なのかしら?」

「やる気があって良いねぇナイちゃん。でも、今回依頼来ているの実はライくんに対してだけなんだよね」

「え?てことは、ワタシ達ただの無駄足ってわけ?」

「それがそう言うわけでもないよ」



 ナイが真っ先にソヨに問いかけるが、求めていた回答とは少し違っていた。

 今回の依頼は、ライトにのみ来ているらしい。

 彼の気遣いが仇になった…わけでもないようである。



「今回の依頼は『王家』から。内容は、第三王子の魔法の臨時教師になって欲しいって奴なんだけど。この時期に、寄越すんだからそれだけなわけ無いのは、三人共分かるよね?」

「ドーカス公爵家の問題が一段落したこの状況で、関わりのある僕を呼ぶからには、また別の意図は確かにありそうですね」

「それで、ワタシとミスティは何をすれば良いのよ」

「二人には、また別口の依頼を準備してる。セイク商会の王都支店の警備の手伝い。っていうのは建前で、本当はライくん近くに居て欲しいだけ」

「その意図は、伺っても宜しいでしょうか?」



 恐らく、トリスに協力を仰いでまで、三人を近くに居させようとするソヨに、ミスティアナが問う。

 別にライトだけが行っても何の問題もない筈なのだ。



「一つ目は、ミスティちゃんの心の安全の確保。これは私より、ライくん達の方が理解してるでしょ?」

「ああ、確か。それがありましたね」



 理由は聞けば納得できた。

 ライトが近くに居なければ、精神的に不安定になるミスティアナを心配してのことだった。

 だが、それだけでもないらしい。



「一つ目って言うくらいだから、ニつ目もあるのよね?」

「当然だよ。といっても、正直こっちの方が大きいけどライくん達には納得は出来ないと思うよ」

「どういうことですか?」

「ニつ目は、ぶっちゃけ勘だね」

「勘?」

「うん、勘。嫌な予感がするんだよねぇ、漠然とだけど。だから、それを防ぐ為に三人で居て欲しいなってわけ」

「確かにそれは…」

「納得は、できませんね」



 勘という言葉に、各々が微妙な表情を浮かべる。

 しかし、ライトは直ぐに真面目な顔に戻った。



「けど、ソヨさんの勘は馬鹿にできませんし、良いじゃないんですかね?なんたって神獣ですしね」

「もちろん、警備の依頼の方も報酬出るから、そこらへんは心配しなくていいよ。だからさ、頼めない?」

「ま、元々断る気なんてないわ。面白そうな依頼は受ける、それが〈黒蛇白塗(ケーリュケイオン)〉だからね」

「私も、不満はありません。依頼を受けます」



 ニヤリと笑みを浮かべたナイに続けて、ミスティアナも依頼を快諾する。

 ソヨの視線は、ライトへ向く。



「ライくんは――」

「――勿論受けます。王家ともなれば、報酬は弾みそうですし。それに、今回の件は結構気になることも多いですから、この際直接聞いた方が楽ですから」

「なら、良かった。じゃあ五日後、王城に着くように移動してくれる?まあライくん達だから移動なんてあるようで無いようなもんだと思うけど」

「了解です」

「それじゃ、今日はこれで終わり。依頼、三人共頑張ってね」



 これで、依頼の話は終わった。



「――当然ですよ」

「ま、頑張るわ」

「最善を尽くします」



 次の物語の舞台は、どうやら王都に決まったらしい。



 第5章 平穏欲す黒王と面倒な公爵家

―――Read Finish.



◆投稿

次の投稿は8/17(木)です。


◆読者の皆様へ

これにて『第5章 平穏欲す黒王と面倒な公爵家』終了。

ここまで読んで戴きありがとうございます。そして、面白いと思って頂けたなら幸いです。


今章は、元に戻ると言いつつ、バチバチに戦闘が行われてしましました。ここまで戦う予定じゃなかたんだけどなぁ…。

そのせいで投稿も不安定になるという悪循環、本当に申し訳ない。けど、楽しんでいただけたらそれだけで十分です。

次章は、舞台を王都へ移し新たな王族というキャラクターを混ぜて、悪意がまた動くみたいな感じです。


それと今回は、一週間のお休みを頂いた後にまた投稿再開という形になります。その間は、プロットの再編だったり、今度こそ一覧系を完全に作りたいと思っていますので、ご期待を!


あと何時も通り下の『◆作者の願い』通りにして頂けますとその通りに、大変励みになりますので是非に!特に評価はしてただけますと、作者が狂喜乱舞して投稿早くなるかもしれませんよ?


それでは皆様、お身体に気を付けて。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆蛇足

語り部「五章終了!」

蛇の王「六章は王都が舞台らしいな。然も王族とな?」

白き槍「帝国、帝都では皇族と深い関わりはなかったので、気になりますね」

語り部「依頼内容的に、関わらないことは不可。ということで、何か大事に合うのは多分王族」

蛇の王「分からぬぞ?王都全域で爆撃が起こるやもしれぬし」

白き槍「それが伝播して王国滅亡の危機まで……」

語り部「そこまでいったらもう、対応出来んだろ。あっても王都壊滅までだ」

蛇の王「可能性を捨ててはならぬ!人界崩壊もありえるぞ!」

語り部「次章への期待値を上げるな。困るだろう、作者が」

蛇の王&白き槍「「そんなもの――考える必要はない!」」

語り部「元気いっぱいだなぁ」



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