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5-31 狡猾な毒蛇と血濡れの騎士団 ④



 真紅の腕は、独りでに動き先程まで八岐大蛇が存在した場所へと高速で移動していく。

 それがまた蜘蛛のようで気味が悪い。


 当然、その異常をライトがのうのうと見逃すわけもなく。



「チッ!よく分かんねぇが、不味い気がする!」

<……まさか、いや、そんな筈は……。アヤツ等は、確かに我らと八王で絶滅した筈じゃ……>

「何だヨル!何か知ってるなら教えてくれ!」

<もし、あの戦いを生き残った奴が居るならば……。もし、その生き残りが力を取り戻し、動き始めたのだとしたら……。全て、辻褄が合う…か>

「ヨル?」



 走り腕を追いかけながら、何やら知ってそうなヨルに声を掛けるが、思考の海に潜っているようで声を掛けても、ぶつくさと呟いていて反応してくれない。

 彼女らしからぬ様子に疑問を抱くも、それよりも腕の方が重要な気がしてそちらを優先することにした。



「待て!」


《黒剛彩王-虚の理-悪逆非道-暴虐非道-偽詐術策-聡明》


―――上級重力魔法:加過重力(グラヴィティエスト)



 灰色の魔法陣が真紅の腕の上に浮かび即座に霧散する。

 腕の周囲の空間が明らかに歪み、腕が地面に張り付く。

 次の瞬間には、地面が砕けクレーターのように凹んだ。



「なっにぃっ!?――ちょ、おいどういうことだよ!」



 腕の動きを止められたかと思ったのだが、直前の停止が嘘かのように真紅の腕は跳ね上がり、クレーターを抜け出し突き進んでいく。

 ライトは戸惑いを隠せない。かなり高出力の重力魔法を使った筈なのに、ああも易々と逃げられるわけがないと決め込んでいたから。



「一体何なんだよ!」

<――ライトッ!アヤツを死体に触れさせるな!!>

「何を突然――てかもう遅いかもしれんっ!」



 突然言葉を発したヨル。

 その内容は、真紅の腕に死体を触れさせるなというもの。

 だが、その言葉は余りにも遅かった。


 彼女の言葉が言い切られる瞬間には、既に真紅の腕はまだ身体の形を保っていた兵の死体に触れていた。



<クソッ!ライト今直ぐ空間を隔離するか何か防御を――>

「ッ!?――」



 真紅の腕と死体から赤い光が溢れ出し、巨大な魔法陣のようで違う禍々しい何かの陣が地面に刻まれる。

 ヨルの声と感じた死の気配により、ライトは即座に防御を行った。



《黒剛彩王-虚の理-偽詐術策-聡明-天啓》


―――虚の理:≪時空支配法則(AlberRule)時空断絶の牢箱(クロノシックキューブ)



 彼の周囲を薄黒い板が箱になるように囲む。

 土壇場で行われたそれは、この世界の現世に於いて彼以外に使用不可能の絶対防御。

 時空――時間・次元・空間全ての影響を断絶し遮るその箱は、通常は彼を超える権能を行使しなければ破壊は出来ない。


 赤い光が一層強くなり、そして爆ぜるようにして何かの力が開放された。

 地面が砕け、盛大に土煙が舞う。



「防御したけど、コレで良かったか?ヨル」

<上出来じゃ。寧ろよく発動できたな。時空断絶か、これならば簡単には壊されん>

「それで、"アレ"は何だ?」



 ライトには、腕に巻き付いた白い蛇のお陰で見えていた。

 力の開放の瞬間に生まれた()()()が。


 真紅の腕と融合した死体がブクブクと膨張し、人の形になっていく。



<アレは、かつて我らが絶滅させた種族――>


「粗末な肉体だが、まあ良いだろう――」



 土煙が吹き飛ばされる。



「――私の名はムールマス。御機嫌よう、そして初めましてと言っておこうか、現代の王よ」


<――名を『悪魔』という>



 中に居たのは、紺色の貴族服を纏った男。

 真紅の肌、漆黒の眼に青い瞳、背中から生えた鷲のような巨大な翼、上へ伸びる捻れた角、そしてそれに掛けられた赤銅で作られた王冠。

 明らかに異常なその男は、ライトに普通に話しかけて来た。



「悪魔、ねぇ」

「流石だ、私が何者であるか知っているようだな」

「まあ、軽くわ」

「王の座につくだけはあるということか。ならば、分かっているだろう――」

「――うぐっ!?」



 その瞬間、背後で嫌な気配が膨れ上がる。

 何かが砕けるような音が振動として鼓膜に伝わるのとほぼ同時に、背中に衝撃が走り吹き飛ばされる。



「――私達がどれだけ貴様らを恨み憎んでいるかを」

「げほっ、知るか馬鹿が」



 蒼き上がり、悪態を吐きながら自分の居た場所を見る。

 そこに居たのは、真っ赤な液体で出来た人形のような存在。

 液体の正体が血液であることを理解するのにそんなに時間は、掛からなかった。



(血の、人形?――鎧っぽいの着てるし兵士、いや鎧の感じからして騎士って方が適切か)

「ていうか待て、何であの箱をぶち壊して攻撃してきてやがる」



 浮かんだのは、疑問。

 していた防御は、素の彼ができる最高の防御だった筈。

 あのヨルが、「簡単には壊されん」と言い切る防御が簡単壊されたのが不思議で堪らんなかった。



<よりにもよって、公爵か!ライト!攻撃は受けるでないぞ!絶対に防御するな!回避しろ!>

「よく分からんが了解!」

「――何を言っている?」

「同じ攻撃は何度も喰らわねぇんだよ!」


―――中級時空魔法:テレポート



 再度感じた嫌な気配に応じて、ヨルの指示通りに転移で回避する。



「――っぐ!?」


―――中級時空魔法:テレポート


「どんだけ出せん―――がっ!?」



 転移した先で攻撃を血の騎士から攻撃を受け、再度転移で回避するがその先で先程までよりも更に重い一撃を腹に喰らう。

 吹き飛ぶ身体を脚の力で無理矢理に止め、周囲に目をやる。


 ライトは、溜息を吐いた。



「化け物が」

「生憎、此処には死者が多い。私の力を存分に発揮できる!」



 全方位から異質な気配が現れていた。

 その全てが、血で出来上がった騎士であり、それは正に騎士団と呼ぶに相応しい。

 血濡れの騎士団が、そこいらには居た。



(ヨル、詳細を早く!)

<面倒な説明は後回しということじゃな。奴は血液を操る能力と死者の魂を操る能力を持つ。恐らくあの血の騎士には、先程お主が殺した兵の魂が入れられておる。手動操作じゃないということだけ覚えておれ>

「成程」

<そして、コレが一番気をつけねばならぬ。悪魔には、"魔法が効かぬ">

「は?マジで言ってんのか?」

<マジもマジ、大マジじゃ。だが、それでも理ならば効果はある。理は各スキルの最上位といわれているが、真の意味では各スキルとは別物じゃなからな>

「なら、別に問題はないか」

「――いつまで暢気でいる!」


―――超級血操術:血槍天山(けっそうてんざん)

―――中級時空魔法:テレポート



 彼のしもとに集まった血が膨らみ、天を穿つ槍の山になる。

 当然、転移で回避した。



「魔法を回避に使う分には問題ないなら、攻略可能だ」

<油断はするなよ?>

「誰に言ってる!お前の婚約者で弟子だぞ!」



 奇妙な気配を放つムールマスに蛇杖を向け、挑戦的な笑みをライトは浮かべた。



◆投稿

次の投稿は8/2(水)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆技解説

魔法技録

上級重力魔法:加過重力(グラヴィティエスト) 対象に地面と垂直方向に働く異常重力を与える 対象の周囲の地面にも重力を与えクレーター状の穴を作り出す


虚の理:≪時空支配法則(AlberRule)時空断絶の牢箱(クロノシックキューブ)≫ 指定した範囲を時空からの影響を断絶した状態にする 指定範囲が立方体でなければ使用することが出来ない 解除は使用者の完全任意


スキル技録

超級血操術:血槍天山(けっそうてんざん) 指定範囲に血液がある場合のみ使用可能 指定した範囲から上へ向かうように血液を硬化させ大量の槍を生成する 長さ調節可能


◆蛇足

語り部「悪魔だってよぉ、新しいの出てきたな」

白き槍「ですが蛇王様達が絶滅させたと言っていましたよ?」

語り部「まあ、蘇ったってことっしょ。蛇王も意味深なこと呟いていたし」

白き槍「詳細は省かれていますが、一体どんな存在なのでしょうか」

語り部「そういうことは蛇王に直接――アレ?蛇王何処行った?」



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