5-30 狡猾な毒蛇と血濡れの騎士団 ③
―――死毒・八岐大蛇
池そのものをひっくり返したかのような量の、毒々しい黒い液体が蛇杖から溢れ出す。
それらは、平原の一部を確実に染め上げた。
そして、一拍置いて液面が波打てば、八つの頭を持つ紫色の大蛇が勢い良く這い出づる。
―――透け見破る探蛇
「良い眺めだ」
<終わらせに行くのじゃ。退屈で堪らぬ、帰ってさっさと遊ぶぞ>
「はいはい」
白い蛇が腕に巻きつけば、遮るもの全てが透け視界が明瞭になる。
八岐大蛇の尾に乗り、見下ろす平原と兵は、実に綺麗だ。
八岐大蛇の周囲に出来上がった泥沼のような毒の領域の下敷きになった兵は、ドロドロと肉が溶け骨さえも溶けていくのが見える。
そのような様子からか、被害に合わなかった兵は領域から離れ遠巻きに、大蛇を警戒している。
「さあ、蹂躙の開始だ!」
《黒剛彩王-虚の理-悪逆非道-暴虐非道-偽詐術策-聡明》
―――天級毒魔法:壊毒苦開放槍・八連
八つの頭の眼が光り、それらの前に巨大な毒々しい液体が槍の形を為して生成される。
一瞬にして地面へと射出された槍は、何十もの兵を貫いた後に爆発する。
爆発により天高く跳ね上がった毒が、周囲に広がり兵たちへと降りかかった。
シューっと典型的な何かが溶けると共に赤紫色の煙が立ち上る。
「今ので、三分の一ってところか」
あまりの兵の多さにライトは溜息が出る。
だが、考えてみれば一連の魔法の使用だけで一万に近い敵の三分の一を殺したのだから、化け物染みているのは否定のしようがない。
「にしても、本当に普通の兵だ。じゃあ、あのゴミ公爵の疲弊のしようは何だ?」
<変ではないのなら、気にする必要はない。巻き込んで殺してしまえ>
「それは不味いんだよ。いや、面倒って方が正しい」
<ならば気にするな。我が蘇らせる>
「あ、その手があったか」
<原型がなくても大丈夫だが、身体の一部でもあれば蘇生しやすい>
その提案は、正にライトにとって青天の霹靂だった。
まあ、蘇生というのが彼の頭の中からすっぽり消えていただけなのだが。
彼は蘇生というのを経験したことがない、現世且つ彼の認識の中という条件にはなると思うが。
神による蘇生はあっという間過ぎて、実感が湧かない上に頭に残らないのである。
「了解ッ!」
―――超級毒魔法:ヴェノムクリスタルピラー・八連
八岐大蛇の眼が輝く。
兵達のド真ん中の地面に現れた八つの紫色の魔法陣が霧散すれば、透き通る紫色の水晶の柱が天に伸びる。
即座にそれらに罅が入り砕け散り、兵へと降り注ぐ。
水晶の破片に触れた者は、触れた箇所から石化しボロボロと崩れ去っていく。
因みにだが、別にライトは今の状態では八つの魔法しか同時に発動できないわけではない。
威力増幅が同時に可能な個数が八つなだけだ。
「残り三分の一!――だけど、バラけたな。殺しにくい」
魔法により残る兵の半分を難なく殺したライトは、意気揚々と次の魔法を放ち戦いを終わらせようとした。
しかし、敵のド真ん中に魔法を使ってしまった為、それを避けて動いた兵がバラバラになり一気に殺しづらくなった。
つまり、また面倒だということ。
「なら、広範囲を行ける魔法でいくか」
そう彼が言った瞬間、八岐大蛇の長い首が持ち上がり、それらは綺麗な孤を描くようにそれぞれ別の方向を向く。
大蛇の口が開かれる。
―――天級毒魔法:光毒集束波動砲・八連
各頭の口内に一瞬にして形成された魔法陣が霧散し、そこに紫色の光球が生まれる。
ゾクリとした感覚が襲うと同時に、周囲の魔力が薄くなるのを感じた。
いや、正確には、光球に周囲の魔力が集まっているのだ。
「八個一気には、不味かったかもな。増幅されてんの忘れてた。俺から出さないと、ここら一帯の魔力がスッカラカンになっちまう」
明らかに強すぎる魔力の吸収に危険を感じ、蛇杖で増幅した魔力を各頭に放つ。
それと同時に光球が急速に肥大化し、大蛇の巨大な口丁度のサイズまで大きくなった。
「終わりだ――消し飛べ!」
紫色の光球がカッと輝いた刹那、開放された光が波動となり、直線状に触れたものを全て崩壊させる。
各頭は、逃げ惑う兵を追うように顔の角度を調整し、兵を消し飛ばしていく。
数十秒照射された光の波動により、兵は見える限り完全に殺しきった気がする。
というか、立っている生物が見えない。
「ふぅ、終わったか」
<おい、我は体の一部を残した方が言った筈じゃが?トラッシュが完全に消えているように我には思えるのだが>
「分かってませんねぇ、ヨル」
脳内に語りかけて来て、若干の怒りを滲ませるヨルに笑みを返すライト。
彼は、八岐大蛇から跳躍し一気に飛び降りる。
同時にドロリと八岐大蛇が地面に広がる王気へと溶けていく。
地面に足が着く瞬間、強く蹴り上げて更に跳躍する。
「――ほらっ!ありましたよ!」
<む?これは……>
「トラッシュの腕です!」
彼が走り、遂に止まった場所には、一本の腕が墜ちておりその横の地面は削り取られるように消えて土色が見えていた。
「ギリギリ一部分が残るように調節したんですよ」
<あの雑多な状況で的確に残したのか?流石じゃな>
「僕は何でも壊す脳筋じゃありませんからね」
<それは誰のことを言っている?>
「もちろん、ヨル――じゃないですから安心してください」
ハッキリと言おうとしたが、膨れ上がった殺気にギリギリで方向転換することで危険を回避する。
口は災いの元なので、気をつけよう。
<じゃよなぁ、まさか我なんてことがあるわけがない>
「ですよ〜、さあさっさと蘇生させましょう」
圧から逃げるようにライトは、落ちている彼曰くトラッシュの腕を拾い上げる。
すると、
「――うわっ!?」
<何?>
拾った腕が真っ赤に染まり、独りでに動き出した。
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次の投稿は7/31(月)です。
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◆技解説
超級毒魔法:ヴェノムクリスタルピラー 任意の位置に水晶の柱を生成する 生成後柱は即座に崩壊し欠片が対象に突き刺さる 欠片が刺さった対象は石化し崩壊する 欠片が刺さらなければ効果はない
天級毒魔法:壊毒苦開放槍 毒の槍を生成しそれが突き刺さった周囲を爆発させ毒で溢れさせる
天級毒魔法:光毒集束波動砲 魔法発動箇所に光球を生成し周囲の魔力を集束させる 集束させた魔力を一方向に開放しその一直線上を消し飛ばす 方向は若干調節可能 化するだけでも何らかの状態異常に掛かる
◆蛇足
語り部「そんな簡単終わらないんだなぁ、これが」
蛇の王「余りにも直ぐにトラッシュの戦いが終わったかと思えば、そういうことか」
白き槍「もう一波乱ありそうですね」
語り部「その通り!一体相手は何なんだろうな?」
蛇の王「人間ではないことは確定しておるな。腕だけで動いておるし」
白き槍「ですが、ライト様には何の問題にもなりませんよ」
語り部「そう、かねぇ?」




