5-29 狡猾な毒蛇と血濡れの騎士団 ②
投稿、遅れて申し訳ございません。
夏の暑さにやられ、熱中症となってしまう、作業時間が取れなかった次第です。
今後は、気をつけて水分補給に注意しますので、これからも宜しくお願いします。
「ヨルが居るから、初めから無茶ができる!」
そう言いながら、蛇杖を空中へと放り投げる。
素早く右腕だけコートを脱ぐ。
虚空から取り出したガラスのような刃のナイフ、魂喰剣で肩口から右腕を切り落とす。
スルリと刃は肉を切り裂く。重力に従いストンと右腕は地面に落ちる。
ドロリとした黒い血液から断面から、ドクドクと溢れ出す。
投げるように魂喰剣を虚空へ仕舞い、丁度落ちてきた蛇杖を左手で掴む。
蛇杖を短く持ち、杖先の水晶を断面に近づける。
《黒剛彩王-虚の理-悪逆非道-暴虐非道-偽詐術策-聡明》
―――八彩王法:複製模倣の黒剛腕
突如黒く染まった水晶から溢れた、流動体の黒き力が無くなった右腕を模る。
光を反射しない、光沢のない金属のような黒い腕。
ライトは、軽く手を握ったり開いたりした後、問題ないという風に一人で頷いた。
「――さあ、我が駒達よ!その命を賭して、その男を殺すのだ!!」
『…………』
すると、トラッシュの妙に大きい耳障りな声が響く。
いつの間にか集団の後方に移動し、拡声の魔道具を使っているようだ。
奴の声と掃除に、相手方の全てが武器を構え、ゆっくりと近づいてくる。
やはり、どうにも人形感が拭えない。
「たった一人相手に、その動き方は愚策だ」
―――切り刻め風蛇・二十連
右腕に開いた口が言の葉を紡げば、風の刃が複数放たれ、兵をバラバラに切り裂き刻む。
血潮が舞い、空を一時的に紅く染め上げる。
その惨劇的で刹那的な光景は、ライトの心を踊らせる。
「最高だなっ!!」
―――乱れ墜ちろ雷蛇・十連
言葉の後、空が数十回煌いたかと思えば、蛇を模した雷が兵たちへと降り注ぐ。
被撃と同時にバチバチと弾けたそれらは、周囲へと少し伝播しかなりの数の動きが止まる。
「受けてみろ!」
《黒剛彩王-虚の理-蛇王蛇法-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-暴虐非道-偽詐術策-回避錬術-怪力-聡明》
―――天級杖術・変異:天喰ラウ禍ツ蛇ノ絶牙
蛇杖から溢れ出した黒き王気が、ライトの全身を包む。
肥大した力は、巨大な黒い蛇となる。
心なしか前に使用した時よりも大きな気がする。まあ、それも結構前なのだが。
高速で滑り駆け出した黒蛇が、動けずにいる兵たちに突っ込む。
ボウリングのピンのように兵たちが吹き飛んでいく。実に爽快だ。
急停止した黒蛇がぐるりと円を書くように全身を振るう。
あまりの威力に、薙ぎ倒されるだけでなく、粉々に肉体が弾け飛ぶ者も居た。
「――次だ次ッ!――ん?何だ?」
溶けて地面に広がった黒蛇から出てきたライトは、凶悪な笑みを浮かべて次の攻撃に移ろうとする。
だが、そこで高い笛の音のようなものが辺りに響いた。
トラッシュの声が聞こえた方から、その音は響いてきていた。
『…………』
「成程、そういうわけね」
ライトの攻撃を警戒し、円形に近づかずにいた兵が笛の音が響いた瞬間、武器を構えて駆け出し、迫ってきた。
空いている右腕で虚空からイグニティを引き抜く。
(笛だか何だか知らないが、何かしらの魔道具でこいつ等を操作してるって――訳だ!!」
―――蛇剣舞:蜿蜒長蛇
―――蛇剣舞:炎蛇の咆牙
ウネウネとした蛇の模様が現れ、刃の伸びたイグニティで一回転するように全方向を横薙ぎする。
軌跡に炎の線が生まれ、それが綺麗な円になった一瞬の後、炸裂する。
高く舞い上がる炎が、空気を焦がし、敵を肉片に変える。
「やっぱ斬撃は、イグニティの方が良いね」
そう言いながら、放り投げるようにイグニティを虚空に仕舞う。
「さてさて、チマチマ潰していくか」
―――上級杖術・変異:閃突魔牙・黒鋏
攻撃方向を一方へ定め、地を蹴り杖を前方へ構える。
王気が作り出した顎が、大きく開く。
兵が射程範囲に入った瞬間、バクリと閉じ二〜三人の胴を潰し分ける。
「装備は、特別な能力があるわけじゃないな。別に仕込まれてかもしれないから、要警戒っと」
兵の装備の性能を確認しながら、右足を軸足にして左足を上げて着くと同時に、バットのように蛇杖を振り抜く。
紅い線が引かれるように、肉が弾け飛ぶ。
「こう、近接でやるのは、やっぱり楽しいな!」
<我は退屈じゃ>
「まあ、武器だし我慢してくれ」
不満げな声を余所に、蛇杖を縦横無尽に振るい兵を吹き飛ばしていく。
「そう言えば、復活しないな。兵には生命の血石を持たせてない…ふ〜むそこまでの量産化は出来てないようだな。……いいや、それでいいのか。犠牲的な意味でも相手の戦力的な意味でも」
殺した相手が蘇らないから、仕込み無しと確認するのは些か問題ありだが、間違ってはいない。
生命の血石が兵に回っていないということは、それだけ犠牲者少ないとも言えるので好都合なことには変わりないのだ。
同時に、ライトは意外と今回楽勝かもと笑みを浮かべる。
「大盤振る舞いと行こうか」
―――墜ち砕け氷蛇・二十連
―――墜ち爆ぜろ雷蛇・十五連
―――舞い荒れろ風蛇・八連
―――舞い踊れ炎蛇・十連
黒腕に開いた無数の口が術を為す。
上空で生まれた巨大な氷塊が降ってくる。それに合わせて墜ち始めた雷がそれらの間を伝い、バチバチと弾け出す。
巨大な雷の網のようになったそれらが、墜ちて地面を砕き割ると共に砕け散り、雷が放出される。
周囲に生まれた竜巻が一瞬にして散開して肥大し始める。
時同じくして、広範囲に撒き散らされた炎がその竜巻に巻き取られた。
大量の炎は、強風の中で消えるどころか燃え盛り、竜巻が炎に包まれていく。
肌の焼け焦がす熱波が、頬を撫でるが別にライトには関係ない。
ヨル製のコートがそこら辺のことから大体守ってくれるからだ。
「どうしたどうしたぁ!!弱すぎるぜ!!」
炎の中、無理矢理に近付いてくる兵を蛇杖で薙ぎ倒す。
「かかってこい、この雑魚共が!!」
(……そういえば、何故こうなってしまったんだろうか?)
ふと、そのような思考が、ライトの脳内を過ぎる。
別にそもそも、このような戦いなど求めておらず、平穏を欲していた筈なのだ。
元来、戦いが好きだったことは否定する余地もないが、唯好きなだけで別にいつでも戦いに身を投じる必要はなかった。
それにだ。
そうでなくとも、多対一で相手を殺すつもりなので別に最終的にヨルの技の強さを広める者は居ないので、実質この決闘契約からしても意味が無いのではないかとも思った。
ならばこそ、別に戦う必要なくね?と考える。
何処で道を間違ってしまったのかと、全然この状況を求めていなかった筈だと、自分自身に問いかける。
答えは、既にあった。
直近でこの戦いだけを考えれば、トラッシュのせいであり、戦はなければいけない思考になったのは、ヨルのせい。ヨルの場合は、お陰とも言えてしまうのが難しい。
トラッシュに関しては、思考を割くのすら必要ない、この決闘をふっかけてきたのは、あのゴミだから。
問題は、ヨルの方だ。彼女が全ての元凶なのは言うまでもない。だからこそ、認めることが出来なかった。
良い意味でも悪い意味でも、自分を変えたのは彼女であると理解してしまっているからだ。
「フッ!これだけ単純作業だと面白くないな」
蛇杖を使い兵を殴り殺すという作業が退屈になってきた。
仕方ないのだ、相手が余りにも弱すぎる。
そんな時、
「マスター、頑張ってくださーい」
「――ッ!……ありがと、ミスティ」
彼の思考を呼んでか、抑揚の乏しい少女の声援が聞こえる。
遠くに居るはずなのに、耳元で言われたかのような聞こえ方だったが、そんなことはどうでもいい。
彼女の声援が、ライトのその迷いの思考を断ち切る。
「おいおい、その程度かぁ?ゴミ公爵の下はやっぱりゴミしかいないのか?」
そんなこと、考える意味など無いと。
今あることが全てなのであると。
前を向き改める、己には結局の所、敗北は許されないのだと。
唯相手を殴り殺す、悪逆と暴虐の限りを尽くす現状を認めざるを得ないのだと。
この邪道の限りを尽くしてでも、もぎ取らなければいけない勝利があるのだと。
「もういいか――ヨル、一気に決めに行く」
<了解じゃ、暇じゃったし、大盤振る舞いと行くぞ>
「オーケー」
彼はこの状況になった根本である、ヨルがそのような言動をすることに、少し思考が巻き戻り怒りが湧く。
がしかし、それを精神力で押し込め意識を集中させる。
求める勝利を確実にさせるものへと。
―――死毒・八岐大蛇
死を齎す、狡猾なる毒蛇が今此処に顕現する。
◆投稿
次の投稿は7/28(金)です。
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◆技解説
蛇王蛇法技録
乱れ墜ちろ雷蛇 自身を中心とした範囲に複数の雷を落とす 麻痺効果あり
墜ち砕け氷蛇 上空から氷塊を落とす 物体に接触時本来の物理法則以上に砕け散る
舞い踊れ炎蛇 自身を中心とした広範囲に炎を撒き散らす 風による影響を受ける 炎を纏めるや更に細かくするなど操作可能
◆蛇足
語り部「ということで、プロローグ回収完了」
蛇の王「正確には、プロローグの内容をより詳細にした感じだったな」
白き槍「蛇王蛇法も豪華な使い方してますし、流石ですね」
語り部「蛇王蛇法って、よくわからんよなぁ。魔法みたいに合体するくせして現力つかってないし」
蛇の王「まあ、我の術だしのう!」




