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5-27 お仕置きと共に練る戦略





「「…………」」


「ふ〜む、どうしましょうかねぇ」

「……」



 決闘と百人斬りの翌日。

 ライトは、ソファに座り紅茶を飲みながら、思案に耽っていた。

 そんな彼を隣に座るミスティアナは、無言且つ微妙な目で見ている。



「「…………」」


「集団規模的に幾ら予測しても黒塗を使うまでじゃない。ならまあ、死毒になりますよね……でも基本伝播性の魔法だから使用に気をつけないと」

「……」



 彼は、トラッシュ・ドーカスとの決闘に使う術について考えていた。

 ソヨの予想では、確実に騎士団などの集団で攻めてくるだろうとのこと。

 ならば、対集団用の攻撃を準備する他ない。

 

 神器を八個も使う、黒塗(クロヌリ)()八岐大蛇(ヤマタノオロチ)は強力過ぎて面白くない。

 それに、アレは相応の消耗をする為、結果に対しての苦労が見合わない。

 故に久しぶりに死毒(シドク)()八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を使うことにした。

 だが、アレは使用する魔法などが毒にほぼ絞られるので、一瞬で殺してしまわないように注意しなければならない。


 そも、何故殺さないように気をつけているかと言えば、トラッシュが公爵家当主だからだ。

 幾ら決闘で然も、相手方が卑怯な手を使ってくるとしても、貴族を殺すのはあまりにもリスクが大きい。

 別に権力がどうとかは関係ないし、国が攻めてくるならば返り討ちにするが、それが何よりも面倒だとライトは感じている。


 見え見えの地雷を踏み抜く必要はないのは、誰でも理解できることだろう。



「最初はそのままヨルを使って蛇王蛇法と近接で攻めるとして、どれくらいで八岐大蛇を使うかが――」

「――マスター」

「なんですか?ミスティ」



 辛抱堪らずという様子で、ミスティアナがライトに声を掛けた。

 当然、彼女の呼びかけに彼が応えないわけもなく、そちらを向く。



「その、良いのでしょうか」

「何がですか?」

「ナイやヨル様のことです」



 彼女が指差して示したのは、この部屋の中に居た残りの二人。


 テーブルから少し離れた場所で、二人して正座しているナイとヨルだ。

 ピクリとも微動だにせず、まるで彫刻のように見える。

 因みに、ナイの首には「ズルをした敗北者」と描かれた看板が、ヨルの首には「約束をした浮気者」と描かれた看板が下がっていた。



「ああ、"ソレ"は気にしなくて良いですよ。唯の置物ですから、ねぇ?」


「「っ……」」


「あれぇ?置物は反応しない筈なんですけどね?どういうことでしょうか」

「マスター……」



 コレは、ライトが彼女らに与えたお仕置きである。

 ナイはまだしも、ヨルに対しては徹底的に何もしないの方が罰になることので、本気で何もしないことにした。

 直接的に何かをすると、その分彼自身が疲れてしまうというのもある。



「だから、ミスティも気にしなくても良いですよ。ソレは今日一日ソレです」

「成程……」



 彼の言葉に納得したミスティアナは、ソファから立ち上がり、二人の前まで移動してしゃがみこむ。

 そして、何故か虚空から取り出したライト手作りのクッキーを食べ始めた。


 ライトには、その行動の意味は分からなかったが、特には気にしなかった。

 思考を再開する。



「集団規模の予想がつかないことには、やっぱそこは決められませんよねぇ……じゃあ、これは当日、ということで」



 現状決められないことは後回しにする。

 ドンドン決められる所から決めて、練り上げていく。

 不確定要素を混ぜ籠めることは出来るだけしない。

 それが、彼の作戦の作り方だ。



「あとは……後のことを考えて置かなければいけませんね」



 ライトとしては、決闘自体も楽しみではあるが、その後の方が重要と言っても良い。


 この決闘は、ある意味囮のようなものだ。

 ライトがコレをやってる間、というかトラッシュが騎士団を連れて出た時には、デーウルスの密偵が公爵家の不正の証拠を見つける算段になっている。

 ならば、出来るだけ帰還を遅らせるのも彼の役目となる。


 本当に重要なのは、これの後だ。


 もしもの話なのだが、仮に公爵家の不正の証拠を発見できなかった場合、ライトが共犯として罪に問われる可能性がある。

 相手は公爵家だ、此処ぞとばかりに権力を全力で使うに決まっている。

 きっと、デーウルスはそうならないように徹底するであろうが、この世に絶対はない。

 別に彼を信頼していないわけではないが、仕方のないこと。


 もう一度言うが、国が敵になるのはどうでもいいが、面倒なので対応を考えている。



「でも、正直コレも考えても仕方ないんですよねぇ、どうなるか読めませんし」



 だが、これは不確定要素が多いので、やっぱりライトは考えるのを止めた。

 思考放棄ではない。


 その後一通り、もう一度作戦を練り直した後、彼は休憩することにした。


 チラリとミスティアナとお仕置き中の二人の方を見る。



「はむっ…あむっ……」


「「…………」」


「何をしてるんですか?」



 二人の前に座り、只管にライトの作ったスイーツを食べ続けているミスティアが居た。

 それに何の意味があるのか、彼には理解できなかった。



「あ、マスター。作戦は練り終わったのですか?」

「そうですね。で、何を?」

「これは、ですね。お二人方が何も出来ないので、マスターのお菓子を食べています」

「ソレがそこにあることとお菓子を食べることに関連性が感じられないんですけど」



 彼女に何をしているか聞けば、見たままのことが返ってきたので尚混乱する。



「マスターのお菓子は、私達三人で平等に分けることになっています」

「いつの間に」

「マスターが奇界から返ってきて寝ている最中に決まったことですので」

「あ、それなら僕が知らなくても当然ですね」



 ライトの作る菓子は、彼女らにとって宝物といって良い程貴重だ。

 特にミスティアナには、かなりの大切な物だ。

 ライトが作ったものならば、無条件で味覚を感じれる彼女にとって、彼の菓子は唯一無二の物、正直に内心を言うならば、他人に取られたくはない。

 


「三人で平等に分けると言いましが、今は二人がコレなので実質マスターのお菓子は私の物ということです」

「その理論は理解出来かねますが、まあ良いでしょう。ミスティの言うことですから」


「「…………」」



 ミスティアナが、よく分からないことを言っているような気がするけれど、ライトがそれを否定することはない。

 彼女の思考の末というのならば、それは彼女の成長と捉えられるので、否定するのは良くないからだ。


 私としては、時には否定という名の修正は必要だと思うが。

 その証拠に、置物二人の視線が若干険しくなった。



「三人の物に戻る前に、食べてしまったほうが、お得ではないかと思ったので食べている次第です」

「態々ソレの前で食べる必要はないんじゃありませんかね」

「いえ、一応食べてますよと、知らせた方がいいかと思いまして」



 彼女は、それが一種の煽りであることを理解していない為、これは仕方のないことだ。

 ライトは、彼女が煽りであると理解していないことを即座に理解し、彼女をそこから移動させる策を考えた。



「じゃあ、特別にミスティに菓子を作りますから、ソファで待っててください。できたてを食べさせてあげますよ」

「っ!?本当ですかマスター!」

「はい、本当です。楽しみに待っててください」



 驚いた顔から、最高の笑みを浮かべるミスティアナ。

 思わずその笑顔に頬が緩むのを抑えながら、ソファに座って待っているように促す。



「さて、お菓子作りと行きますか」


「「…………」」


「あ、そういえば、置物にお菓子は作らないので、期待しないでくださいね。まあ、唯の独り言ですけど」



 そうライトは言い残して部屋を出た。

 そんな彼に対してナイとヨルは、未練がましく視線を送り続けた。



◆投稿

次の投稿は7/22(土)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆蛇足

蛇の王「ライトは、鬼畜じゃなぁ。というか、正座させるの好きじゃな」

語り部「簡潔に何もさせないしないという状態が分かりやすいからな」

蛇の王「それ、表現の問題ということかの?」

語り部「うん、でもこれからドンドンバリエーションは増えていくよ」

白き槍「それは、お二方がこれからもやらかしていく、ということでは?」

語り部「本当に二人だけかねぇ?」



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