5-25 トリを飾るのは?
クリームとの色々と得るものが多かった戦いの後、九人の挑戦者を動きや立ち回りの実験体として、斬り殺し蹴り殺し殴り殺した。
百人目、この百人斬りのトリは、予想しつつもそれでも無いだろうと思っていた相手だった。
「ワタシが来たわよ、ライト!」
「やっぱり、ナイですか。ミスティは別に戦闘には興味なさそうなので、来ないとは思ってましたけど…にしても最後とは、少し予想外です」
「ソヨに飛び入り参加するって言ったら、最後にされたわ!」
「ああ、ソヨさんですか」
大きめのレザージャケットにショートパンツ、レンズが虹色の縞模様に見える(所謂偏光レンズ)サングラス。そして、いつも着けている二つの特定のアクセサリー。
毎度ながら何処で手に入れてきているのか分からないが、最近やっと固定化されてきたファッションの少女――ナイは、気色満面の笑みを浮かべながらライトの前に立っている。
「ライト」
「何ですか?」
「ワタシは、やるからには本気よ。貴方に本気で勝ちに行く」
「僕も負ける気はないので、頑張って下さいよ、ナイ」
「その余裕、多分開始の後すぐに崩れるわよ」
「どうでしょうね?」
何やら、秘策の有りそうな雰囲気にライトは、軽く返しながらも警戒を強めた。
[さてさて皆様ッ!時間が経つのは早いもので、百人斬りも最後の挑戦者となりました!今日のトリ、百人目の挑戦者は、実は【黒塗】のパーティー〈黒蛇白塗〉のメンバーにしてAランク冒険者、ナイだ!実際にラビルへ来たのは最近の為、その強さを知らぬ者も多い彼女は、リーダーである【黒塗】を打ち砕けるか!]
ソヨの声が響く中、彼はイグニティを虚空から取り出し、構えた。
結局、クリーム以外にはイグニティは使わなかったが、ナイ相手には恐らくそうはいないだろうと考えている。
運動神経が悪いにも程があるナイだが、無策で突っ込んでくるわけがない。
それに、さっき本気で勝ちに行くと言っていたのだから、警戒をしない方が馬鹿だ。
そこでふと、彼女には得物が無いので、構えないことに気がつく。
彼女は、神性による言葉と素の身体で使う魔法で戦う、魔法使いの癖して杖を使わないのである。
だが、それには理由があり、それは彼女が人間ではなく神の依り代、造物だからだ。
彼女の身体は、途轍もない魔力伝導率と増幅率を誇り、下手な杖を使うよりも素手で使った方が魔法が強い。
彼女も彼女で、化け物らしい。
「とっておきの秘策を、見せてあげるわ!」
―――神喰螺旋蛇杖
「――お〜いっ!ちょっと待ていっ!!」
ナイが虚空に手を伸ばすと、眩い光と共に大いに見覚えのある2m程の黒い杖が現れ、彼女はそれを掴んだ。
ライトは、ツッコミせざるを得ない。
どうやら、敵は一人ではなく、一人と一匹だったようだ。
「い…や、それは卑怯じゃ、ないですか」
「何処がよ、ルール違反なんてしてないわよ?」
「そういうことではなく、いやヨル、何勝手に僕以外に使われてるんですか、駄目ですよ」
<何を言っている?別に良いではないか>
ブチッとライトの中で何かが切れる音がした。
「は?何言ってるんですか?初めに言ったのは、ヨルじゃないですか」
<何のことじゃ?>
「僕が、ドレッドノートを使った時、ヨルはなんて言ったか、覚えてますよね」
<え、え〜とじゃな>
「――我が使えぬからと言って、浮気は良くないのではないか。ですよ、まさか忘れたとでも言うんですか?言いませんよね、ねぇ、ねぇ、ねぇっ!!」
ライトの目は、完全にキマっていた。
彼は、仲間・身内との約束は、生命の危機に瀕していなければ絶対に守る質だ。
そして、隣りに立つような相手には、同じレベルをある程度求める。
でなければ、対等ではないと考えているから、いやそれこそが対等というものだと考えているから。
「僕に求めていながら、自分は勝手に?……許せるか?いや、許せるわけがない。わけが、ない!!!」
怒号と共に彼の身体だから、黒い魔力が立ち昇り、ドロリとした粘性のある王気が掌から溢れ、イグニティを伝って床へと落ちる。
訓練場の空気が、物理的に重くなっかのような錯覚を受ける程に、その場にいたミスティアナ以外の全員が息苦しさを感じていた。
「ちょ〜っとヨル、あれ絶対に不味いわよ。今までに見たことがない具合でキレてるんだけど、目のハイライトが消えてるんだけど」
<我もだ。つまり、とんでもなく不味いということじゃ……のう、ナイ>
「何かしら」
<我らは運命共同体じゃよな>
「共犯者、の間違いじゃないかしら」
ヨルとナイは、見たことのない明らかに怒り心頭、怒髪天を衝くというライトに焦り散らかしている。
「ソヨッ!早く開始の合図を!」
[――あえ?えっ、え〜っと、それじゃあ、レディ――ファイトッ!!]
「フッ!!」
身体の弾性を最大限に使い、床が砕ける程に籠めた脚の力を開放する。
ピンと伸びたゴムの紐が急速に縮まるように、一瞬で距離は無くなった。
黒いペンキに浸けたのかと思うほどに、混じり気がない不透明な漆黒に染まったイグニティを、杖を構えるナイに振り下ろす。
《黒剛彩王-虚の理-蛇王蛇法-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-暴虐非道-偽詐術策-回避錬術-怪力-聡明》
《疑神暗戯-終末的退廃理論-傲慢不遜-魔法》
―――八彩王法:黒刃は、天地を壊す
―――中級時空魔法:テレポート
黒き刃が床に触れた瞬間、その周囲の空間が歪み罅が入り王気が侵食していく。
やがて、罅が亀裂へと変わり決壊すれば、溢れ出した王気が物体を崩壊させた。
巨大なクレーターのようになった舞台の一角で、一連の現象が終わったライトは相手を殺せていないのに気付いていた。
床を蹴り上げ、落ちし穴の縁に移動する。
「避けるな」
「いや、避けないわけ無いでしょ。にしても、本気――」
《黒剛彩王-虚の理-悪逆非道-暴虐非道-偽詐術策-聡明》
―――超級時空魔法:スナッチアポーツ
「――『嫌よ』」
ナイを引き寄せようと魔法を使おうとするが、彼女の言葉により魔法陣が砕け散り
「チッ、そうかよ!!」
―――八彩王法:咬み穿て、黒爪
振るわれた切っ先から薄く鋭い、黒き斬撃が飛ぶ。
その斬撃は、想像の倍以上に軽快に振るわれた杖により、砕かれる。
「こっちからも行くわよ」
―――超級雷魔法:ガウスサンダー
「――速い、でも威力はない」
「あら、そう?じゃあ増やしても問題ないわね」
黄色の魔法陣から放たれた、目に追えない速度の雷光が身体を貫くが、特段ダメージは受けなかった。
そこから溢れた余裕を読み取られたのか、ニヤリとナイが嫌な笑みが浮かべられる。
刹那、あまりの力の高まりに総毛立つ。
ナイの魔力が杖に流れたかと思えば、それが一瞬にして何百倍何万倍に増幅された。
余剰なのか、杖先から溢れた黄金の魔力が彼女の身体をゆっくりと覆っているのは、恐らく見間違いではないだろう。
ゾクリと身体が震えた瞬間、舞台を綺麗に覆うほどの黄色の魔法陣が大量に形成された。
―――超級雷魔法:ガウスサンダー・百五十連
「マズッ――」
カッと魔法陣が輝けば、無数の雷光がほぼ同時に全身を貫く。
血が沸騰するとでも言えば良いのか、ライトという一点に集束した雷光が確かな熱にかわり彼を内と外から焼き尽くす。
魔法が止めば、フラリと視界が揺らぎ膝を突く。
「ふっ、はぁ、はぁ、はぁ、ズバ抜けた魔法精度と形成速度、そしてズルとでも呼べる魔力量。ふざけるな……」
「まだまだ終わりじゃないわよ。実は今の魔法別に攻撃魔法じゃないのよ」
「は?」
「今のはね、一定時間喰らった対象への雷魔法の威力を増幅させる魔法よ!」
―――天級雷魔法:亜空を穿つ稲妻
―――八彩王法:喰らい妨げろ、黒盾
彼女の背後に形成された、巨大な魔法陣から白き稲妻が弾け、ライトへと迫る。
混乱しながらも、狙いを即座に理解した彼は、目の前に漆黒の盾を作り出す。
「フンッ!!」
そして、その盾を前方へ"蹴り飛ばした"。
空気抵抗なんて無いかのような軌道で、突き進む漆黒の盾が白き稲妻を喰らう。
そのまま突き進み、それはナイへとぶつかり彼女を吹き飛ばす。
別にヨルを使っているからといって、別に身体能力が上がるわけではないので彼女にあの速度が避けられるわけがない。
「ああ、まだまだ終わりじゃない」
「――つぅ、全く、本当に容赦無いわね」
「さっさと続きをするぞ。俺が勝った暁には……お前ら二人共お仕置きだ」
<……ゴクッ>
「ちょっとヨル、分からないでもないけど、お仕置きを想像して生唾飲み込まないでくれる?」
<しかして、これは興奮せずには――>
「――気ィ抜いてんじゃねぇぞ!!」
―――八彩王法:斬り別て、黒尾
イグニティを突っ立ち脳内口論を繰り広げるナイ達へと、ぶつける。
杖で受け吹っ飛んでいくナイ。
「此処は戦場、気を抜く時間はない」
遠くで構え直し、魔法を形成するナイを見ながら、ライトは再度イグニティを構え直した。
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次の投稿は7/17(月)です。
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◆魔法技録
魔法技録
超級雷魔法:ガウスサンダー 指定した対象に雷撃を放つ 被撃した対象は一定時間喰らう全ての雷属性の攻撃の威力が跳ね上がる
天級雷魔法:亜空を穿つ稲妻 超熱量の雷を任意の方向に放出する




