5-23【黒塗】VS【牙狼剣】
レーガッツに微妙な勝利をした後、十七人の挑戦者を蹴散らした。
六十九人目の挑戦者は…何で目の前に居るのかよく分からなかった。
というか、戦っていのか分からない。
「何で参加してるんですか、"デーウルス"さん」
「別に何の問題もないだろ?このイベントの参加条件は冒険者であること、つまりはギルドに所属していることだ。俺は今でもギルドカードがあって正式に冒険者だから参加して大丈夫だ」
そう憮然とした顔で言うのは、この迷宮都市ラビルの統治者、ムルング辺境伯家当主デーウルス・ムルング。
いつもの貴族服ではなく、暗赤色の軽装備に身を包み鮮紅色の剣を持つその姿は、髪の色も相まった一体感がかなりの威圧感を与える。
「その装備…」
「ああ、分かったか」
「まあ、僕が渡した"素材"ですし」
彼の纏う赤には、見覚えがあった。
ある意味、その赤はライトにとって始まりであるからに。
「『阿修羅土蜘蛛』の素材で作った装備ですか」
「おう、やっと完成してな。一回部下に流す前に自分の身で試してみたくてな」
「ただ、特災で出来た数少ない装備を使いたいだけですよね?」
「そ、そんなわけあるか!」
露骨に視線を逸らす様子から、ライトの言葉が図星だということが分かる。
だが、その興奮や興味は分からないものではない。
珍しいものを使ってみたいという欲求は誰しも抱いたことがあるだろう。
[さて、お次の挑戦者は何とも珍しい!このラビルの統治者、【牙狼剣】の二つ名を持つデーウルス・ムルングだ!貴族らしからぬ豪胆さと度胸、荒々しい剣を扱う彼は、【黒塗】に一糸報うことが出来るのか!!因みにだが、彼の装備は【黒塗】が辺境伯家との契約で提供した特災の素材を使って作られている!素材の時点で負けているので、最早負けは確定していると言ってもいい!!]
これまでよりも割増に解説された感じを聞くに、ソヨはデーウルスを煽っている。
彼とて男であり、かつては冒険者として少しは名を馳せた者、序でに戦闘も好きだ。
ここまで言われてしまえば、黙っているわけがない。
「あの化け兎め……済まんがライト。少し、本気で行かせてもらう。俺も男なんでな、あそこまで言われてマジにならない程、廃れちゃいねぇ」
「そうですか、頑張ってください」
「流石、アイツのお墨付きだ。その余裕顔、崩してやるよ!」
デーウルスは鮮紅色の剣を握りしめ、切っ先をライトへと向ける。
ライトは、これまで通り鋼の長剣を自然体で構える。
[それじゃあ、レディ――ファイトッ!!]
「おりゃっ!!」
「ふっ――ッ!?」
開始の合図と同時に距離を詰め、乱雑ながらもかなりの速度で赤き剣を振るわれる。
当然ライトが目で追えない訳がなく、長剣が鮮紅色の刃に宛てがわれる。
しかし、その結果は彼が予測したものではなかった。
鮮紅色の刃が鋼の刃に触れた瞬間、するりと鋼の刃が切り落とされた。
防御に失敗し赤が身体へと迫る中、足に魔力を籠めて振り上げる。
精確にデーウルスの腹部を捉えたその蹴りにより、彼は吹き飛んでいく。
「――ぐっごはっ、ハァハァ…痛いが、動けないほどじゃない。やっぱり優秀な装備だな」
「馬鹿げた剣ですね。セイク商会の剣がこんな風に切れちゃうなんて」
「土蜘蛛の鎌を出来るだけそのまま流用した剣だからな、切れ味はそれだけで業物並みだ!」
立ち上がり、再度駆けて赤き剣が振るわれた。
連続で迫る鮮紅色の刃に細心の注意を向け、ヒラリヒラリとそれを避けていく。
十回程避けたところで、デーウルスの動きが若干精彩を欠いたところで、
《黒剛彩王-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-暴虐非道-回避錬術-怪力》
―――上級杖術:型無き戦刃・薙流
剣を持つ手首に向けて、蹴りを放つ。
籠められた魔力が開放され、腕が無理矢理に動かされ赤き剣が零れ落ちる。
痛みに顔を歪ませる彼の隙を見逃さない。
《黒剛彩王-蛇王蛇法-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-暴虐非道-回避錬術-怪力》
―――蛇剣舞:炎蛇の咆牙
折れた長剣が彼の胸に触れた刹那、軌跡に炎が走り爆発し視界が炎に包まれる。
「――っぐぁ!」
「現役の僕と前線から退いたウルスさんとでは、やっぱり戦いにもなりませんよ。幾ら装備が良かろうと、です」
「ハァ…これが、ソヨが化け物と評した奴の強か。前々から気づいてはいたが、本当に次元が違うな。攻撃が目で追えないっ」
彼が立て直すよりも早く、ライトは後ろに回っており、折れた長剣を振り下ろしていた。
「――終わりです」
―――蛇剣舞:嵐蛇激甚斬
翡翠の風の刃ががら空きの背中を捉え両断する。
そこから生じた嵐が、デーウルスをズタズタに引き裂く。
鮮紅色で嵐が染まる。
[――ゲームセットッ!勝者、ライト・ミドガルズッ!!]
訓練場の歓声が聞こえてくる。
嵐が止み、引き裂かれた肉と血が再構成され、目の前に正常なデーウルスが現れた。
彼は、苦笑いを浮かべている。
「お前さんが強すぎて、あんま性能が分からなかったな」
「まあ勝負事なので手は抜けませんし、もし気になるのでしたら後日改めて協力しますよ」
「そりゃありがたいね……ライト、少しいいか?あんま他人には知られたくないことでな」
「なら別に此処でする必要は…」
「ソヨの奴が、今は舞台の音が外部に伝わらないようにしてくれてる。今が絶好だ」
「ソヨさんも把握済みの重要な案件ってことですか、良いですよ」
何やら急に真剣な顔になったデーウルスへと近づく。
悪いことではなさそうだが、面倒事ではありそうな気がしていた。
「一ヶ月後、お前があの豚公と決闘する日だ。その日に、秘密裏にアイツの屋敷を捜索することになった。目的は、アイツの不正の証拠を手に入れる為だな」
「トラッシュ本人が、屋敷を離れ且つ決闘用に騎士団などの戦力や警備が少なくなるから、ですか?」
「その通りだ。これほどの好機、逃すわけには行かない」
「けど、そんなこと無断でして大丈夫なんですか?他領に密偵を送るなんて、いくら辺境伯と言えど、バレれば唯じゃ済みませんよ」
ライトは心配した。
確かに作戦自体は良いと思う。必要なことではあるだろうし、成功すれば邪魔な公爵家を潰せる上に恐らく成功率も高い。
だがしかし、その分リスクも大きい。デーウルスがそれを行うということが、それだけで危険ではないかと思ってしまう。
それを言葉にすれば、彼はそうだな…そう、悪巧みをする子供のような顔とでも言えばいいのか、ともかく"良い"笑顔をした。
「それが心配無用なんだよ。これが」
「確証を聞いても?」
「良いぜ。ところでライトは、ロゴラリー伯爵を知ってるか?」
「え〜と、聞いたことはあるような気がしますけど、如何せん貴族にも政治にも興味はあまりないので……」
「だと思ったよ、それでたロゴラリー伯爵ってのは、この国の"法務大臣"だ。カイエン・ロゴラリー、今の法務大臣の男の名前だ。覚えておくと良い」
元々アウトライル王国民の癖して、ライトは国の要人の名前も知らない。何なら、国王の名前でも知らない。
それは偏に彼が政治への興味を持っていないからであろう。
彼の前で、権力は意味を為さない、通用するのは純粋な力だけなのだ。
「で、そのカイエンがどうしたんですか?」
「カイとは、まあ旧知の仲というやつでな。今回の件を緊急で連絡したら、協力してもらえることになった」
「法務大臣が味方に付いたってわけですか。それって凄いことじゃ」
「ああ、何でもアイツからしても豚公は厄介らしくてな。不正をしている筈なのに権力を盾に深い捜索が出来ないでいたそうだ。だから、今回のことは渡りに船らしい」
法務大臣が味方に付くというのはかなり面白そうだ、とライトは笑みを浮かべる。
政治に興味がなくとも、法務大臣が法律や刑罰関係の役職であること程度は知っている。
「捜索や密偵自体はグレーゾーンだが、証拠さえ出せばそんなものどうとでもなる、ってことらしいぜ」
「成程、じゃあ僕は吉報を待って、トラッシュの気を目一杯引くのを頑張るとしますよ」
「ああ、頼む。お前もお前で今回の作戦の要だからな」
「僕が負けるとでも?」
「いいや、全く。寧ろ、お前の攻撃の被害がラビルまで届かないか心配だよ」
「ふっ、そんなこと言ってると、邸宅だけ魔法で吹き飛ばしますよ?」
「おぉそりゃ怖い。これは俺も本気でやらなきゃぁな」
二人は、これまた"良い"笑みを浮かべながら、それぞれ分かれた。
ドーカス公爵家終了までのカウンドダウンは、この時には既に始まっていた。
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次の投稿は7/12(水)です。
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◆蛇足
語り部「公爵家崩壊のカウントダウンが始まったねぇ!」
蛇の王「お主喜びすぎじゃろ」
語り部「人の不幸は蜜の味ィ!」
蛇の王「破綻した倫理感じゃな」
白き槍「それでこそ語り部様です」
蛇の王「肯定するでないっ!」




