5-22【黒塗】VS【破城戦斧】
リルカに勝利後、特に手こずることもなく三十人の挑戦者を叩き潰した。
記念すべき後半戦一人目、五十一人目は全く知らない相手だった。
だが、身に纏うそれは、何処か見たことがあり…。
「初めまして、と言っておこうか。貴殿がライト殿だな?」
「はい、そうですけど…騎士団の方で?」
「如何にも、俺はラビル騎士団団長、レーガッツだ」
筋骨隆々というのが、騎士団の意匠が施された大鎧の上からでも分かる、かなり獅子に近い獣人の男――レーガッツは、獰猛な笑みを浮かべてライトへと話しかけてくる。
全身から放たれる戦意は、今日闘った者達とは正に一線を画し、相当な強者であることが読み取れた。
「騎士団長、ということは、リルカさんの上ですか」
「ああ、このラビルの警備や防衛の最上位職ではあるが、そんなことはこの場では関係ない。俺は、今ただ一人の戦士として此処に立っている。その意味が分かるか?」
「何も気にせず全力で来い、とそういうわけですね」
「流石だ」
「言われなくても、元からそのつもりですよ」
彼程に獣っぽい獣人に合ったことはないので、内心結構興奮しているライト。
対して、自身の圧を意に介さず言葉を返す彼に、笑みを浮かべてしまうレーガッツ。
獣感マシマシで、とても怖めだがライトにとってはそんなでもないらしい。
「そうかそうか、リルカから聞いていた通り、やはり良い気概を持っているようだ。では、正々堂々本気で」
「ええ、愉しい戦いを期待しています」
[休憩から明けまして、それでは皆様再開といきましょう!後半戦最初の挑戦者はラビル騎士団の団長【破城戦斧】の二つ名を持つレーガッツ!触れるだけで岩を砕き、振るえば城門すら一撃で破壊するとまで言われる、その斧は【黒塗】へと届くのか!]
ソヨの声が訓練場に響く。
レーガッツが、背負っていた己が武器を構える。
背の高い彼の半分以上はある、長い柄の両刃の斧、左右対称な形状を見るにラブリュスだろう。
ライトから見て右側の刃は灰色でひび割れのような模様が入っており、左側の刃には燃え盛る炎のような模様が入っている。
鋼の長剣を虚空から取り出し、自然体で構える。
[それじゃあ、レディ――ファイトッ!!]
「――ふんっ!!」
開始早々に、灰色の刃が振り下ろされる。
長剣を振り上げ刃に合わせ、衝撃を殺しながら軌道を逸らしいなそうとする…が、
「な、にっ!?」
斧の刃に触れた瞬間、妙に長剣及びに身体が重くなった。
危険を感じたと認識するよりも先にライトは反射的に、長剣を手放していた。それより少し遅れて後方へと跳ぶ。
斧が長剣と共に床へと触れると、接触点から床が不自然に大きく凹む。
当然、それに巻き込まれた長剣は粉々に砕け散ってしまった。
「成程、厄介な能力です」
「今の一撃だけで、能力を読むか」
「それは、僕の分野なので」
(限定的な重力操作、魔法ではない所を見るに、あの斧の能力ですか)
自身の感覚と視覚からの情報のみで、斧の能力を理解した。
今回に限ってはかなり運が良かった。
能力がライトの得意分野だったからだ。
(でも、能力が無かったにしても、剣は折られてたかもいれませんね。とんでもなく重かったですし)
「さてと」
虚空から新しい鋼の長剣を取り出す。
「次は、俺から行かせてもらおう」
《黒剛彩王-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-暴虐非道-回避錬術-怪力》
―――蛇剣舞:地蛇の破砕刃
刃が薄黒い結晶に包まれ、それをレーガッツの二の腕辺りを狙って軽く飛んで振るう。
「――なぐっ、ぶねぇ!」
見た目にそぐわない軽快な動きで後ろへと避けられ、斧の灰色の刃がぶつけられた。
瞬間、身体の重さが増し地面へと引き寄せられる。
そんな隙を相手が見逃すわけもなく、一度引かれた後クルリと一回転させた勢いのままに叩きつけられようとした刃を、床を転がるように跳ね起きて避けた。
「やっぱ、厄介だな」
―――蛇剣舞:地蛇の貫牙
剣先を床へ触れさせ、そのまま滑らせながら振り上げる。
長剣の少し前の床が膨れたかと思えば、巨大な牙を模して突き出しレーガッツを貫こうとする。
―――中級斧術:インパクトスレイ
「面白い技だ。次は何を見せてくれるのか」
「次の技はアンタが絶対くらう技だよ!」
牙は一撃の下に粉々に粉砕された。重力操作も相まった振り下ろしは、簡素な技でも破壊力大だ。
笑うレーガッツの顔を歪めたいと奇策を練り上げる。
長剣で抜刀の構えを取る。
―――蛇剣舞:蜿蜒長蛇・曲湾影刃
長剣に柄から切っ先へウネウネとしている蛇の模様が現れる。
刃が伸びた長剣を左から右へと真横に振るう。
ビュッ、と空気を切りながら、柄よりも僅かに遅れた剣先がレーガッツと接触しようとする。
それに反応した彼は、斧の灰色の刃をしなる刃へとぶつけようと構えた。
「――なにっ!?」
だが、斧に刃はぶつからなかった。結果を言えば、ライトから見て"右"の腕の鎧部分と頬が斬られた。
模様が消え、伸びた刃が元に戻る。
「絶対にくらうとはよく言ったものだ。一体どんな仕掛けなのか」
「さあ?自分で考えてみてくれ」
頬から流れる血を拭い尚、先程よりも怖さの増した獰猛な笑みを浮かべるレーガッツに、煽るような言葉を返すライト。
さっきの攻撃、実はそんなに難しいことはしていない。
蜿蜒長蛇を使用した剣は、謂わば切れる鞭のような状態である。
初めは左から右へ、動作通りに普通に動かしただけなのだが、刃がぶつかるよりも速く、レーガッツの頭上を通るように剣を動かし、左から右へと切り上げるように動かせば、あのようになる。
これで難しいのは鞭のような状態なので、柄の動きと剣先の動きにタイムラグが生まれる為、剣先がぶつからないように若干は速く柄を動かす必要があるところだ。
「ならば、何度も使われる前に倒させてもらうとしよう!」
―――上級斧術:アースクラッシャー
「おいおい、舞台を壊す――だけじゃねぇだとっ」
地面へと斧の赤色の刃がぶつかると、その箇所から罅が急速に広がる。
罅が赤く光ったかと思えば、爆発するように炎が溢れ出す。
間一髪で炎の影響範囲外へと避けたが、行動が制限された。
「こんなかを走り回れとか、言うな――」
―――上級斧術:タイラントブレイク
「――よっ!?」
炎の中から現れたレーガッツが放つ、斧での袈裟切りを身体を捻り回避する。
炎の暑さはヨル製コートで無いにしても、視界が悪すぎると胸の中で悪態を吐く。
「よくぞ避けた!」
「ありがとよ!炎は、もう効かねぇんだ!」
―――蛇剣舞:氷蛇解獄斬
不可視の斬撃が炎を切り分け、氷へと変換する。
氷の柱が無数に立つ幻想的な世界へと舞台が早変わりだ。
眼の前に出来上がった氷の彫像も、迫力満点で素晴らしい。
そう、氷像がビキビキと音を立てて砕け、動き出さなければの話だが。
―――超級斧術:アトラスエルグリス
レーガッツが出来る極限まで魔力の籠もった斧の一撃が迫る。
集中力が一瞬にして高められ、世界がコマ送りのように遅れ対応策を探させる。
以外にも早く策は見つかった。
《黒剛彩王-虚の理-蛇王蛇法-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-暴虐非道-偽詐術策-回避錬術-怪力-聡明》
―――蛇剣舞・変異:地蛇の剛撃・衝黒鎚
黒き王気を纏った長剣を振り上げ斧へぶつける。衝撃で斧が空中へと跳ね上がった。
だが無理矢理に籠めた力に耐えられなかった長剣がボロボロに砕け散る。
刹那、拳を引き魔力を籠め王気を纏わせる。
―――八彩王法:斬り別て、黒尾
「ウグアッ!?!?」
「――っぅ!?」
拳の周囲を高速回転する王気が鎧を削り取り、肉を裂き腹を穿つ。
しかして、生身で使うのは危険すぎた。手の表面が剥げ、ダラダラと血が流れる。
伴う激痛が嫌な汗を搔かせる。
[――ゲームセットッ!勝者、ライト・ミドガルズッ!!]
訓練場の歓声が聞こえてくる。
目の前に居たレーガッツが消えて、少し後ろへと移動した状態で現れる。
手の痛みが消え、汗もなくなる。
だが、危機に陥ったという感覚は消えない。
「また手合わせしたいものだ」
「ええ、僕もです。今度はもっとしっかり勝ちます」
双方ともが何やら微妙な表情で言葉を交わした後、レーガッツは出口へライトはそこに留まる。
(はぁ、確かにこういう色んな人との戦いは反省が多くて良いですね…本当に)
深く溜め息を吐きながら、ライトは次の相手を待つことにした。
◆投稿
次の投稿は7/10(月)です。
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◆技解説
スキル技録
蛇剣舞:地蛇の破砕刃 刀身を結晶で包み破壊力を増強する 一定以上の衝撃が加わると結晶が飛散し攻撃対象に突き刺さる
蛇剣舞:地蛇の貫牙 触れた任意の物体を牙状に変形させて対象を貫く 物体の硬度により変形時間変動
蛇剣舞:蜿蜒長蛇・曲湾影刃 蜿蜒長蛇+初動とは逆の方向に攻撃を加えるフェイント攻撃
中級斧術:インパクトスレイ 刃から対象へと衝撃を伝播させ対象を粉砕する
上級斧術:アースクラッシャー 振り降ろした箇所から一定範囲の地面を崩す
上級斧術:タイラントブレイク 極めて切断力の高い一撃 対象が大きいほど威力上昇
超級斧術:アトラスエルグリス 武器に魔力の籠めた状態でのみ使用可能 刃が触れた対象を切った瞬間に魔力を流し内部のみを破壊する




