5-21【黒塗】VS【風斬り兎】
グレンダに勝利した後、続けて八人の挑戦者を斬殺した後。
二十人目は、これまた知り合いが来た。
「久しぶり、強くなってて益々魅力的」
「ひっ、久しぶりですね。リルカさんも元気そうで良かったです」
騎士コートを着た、空色の髪とピンと立つ兎耳が美しい獣人の女――リルカは、前と同じく何やら熱い視線を送ってくる。
ライトは、少しゾクリと震えながら、言葉を返す。
「うん、私準備万端。いつでも君と一緒に――」
「――なりませんからね!?」
「む〜、いけず」
「僕が悪いわけではないですからね?絶対に」
リルカは、ライトの強さに惚れこみ、結婚しているにも関わらず、本能だから仕方がないと性行為に及ぼうとする中々にヤバイ女である。
その言動と行動にヨルのヤバイ部分に似ている為、ライトは少し苦手としているが別に嫌いなわけではない。
「じゃあ、賭けをしよう」
「…賭け、ですか」(嫌な予感しかしない)
リルカの賭けという唐突な言葉に、彼は不穏を感じてしまう。
「ん〜と、五分の間に君が私を倒せなかったら、何でも言うこと聞いてもらう」
「それ、僕にメリットあります?」
「ある、逆に君が五分以内に私を倒せたら、何でも言うこと聞いてあげる」
「ふ〜む……」(いや、これ受けるの不味くないか?)
ライトは、目先の利益に飛びつく程馬鹿ではないので、この賭けの悪い部分を読み切っていた。
先ず、リルカが勝利した場合では、当然行為の強制をされるだろうということは容易に分かる。
問題なのは、彼が勝利した時にリルカと行為をするという命令をさせられてしまうこと。
彼の読みでは、彼女は本能に忠実に見えて結構頭が回るタイプだ。
いや、本能に忠実だからこそ、それを達成させる為に全力で頭を使うタイプだろうと予想している。
きっと先の先まで回られる気がする。
ならば、彼女よりも先に対応しなければ不味い。
(先ずは、勝たなければ話しにならない)
「それで良いですよ」
「ふふっ、やっていこう」
[さて、次の挑戦者はムルング辺境伯直属騎士団、通称ラビル騎士団の副団長【風斬り兎】の二つ名を持つリルカだ!目で追うのも難しい高速戦闘で風をも斬り裂く彼女は、【黒塗】を斬ることが出来るのか!!]
ソヨの声が訓練場に響く。
初めて聞くリルカの二つ名に安直過ぎないか?という感想を抱きつつ、鋼の長剣を構える。
彼女は、黄色と緑色の短剣を自然体で構えている。
前、"無窮戦陣"『Unlimited Undead Unknown』と戦った時に使っていた元々の片方の短剣とは、違うものだ。
[それじゃあ、レディ――ファイトッ!!]
《黒剛彩王-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-暴虐非道-回避錬術-怪力》
―――蛇剣舞:蛇螺刃風
開始の合図と共に振り抜いた長剣から一陣の風が吹き、リルカが切り刻まれ――なかった。
確かに捉えたのに、霞のように気付いたら元の場所の少し後ろに彼女は移動していた。
僅かにライトの口角が挙がる。
「いいですねっ!そうでなくっちゃ!!」
「中々速かった、でもまだまだ」
「ええ、僕もまだまだですよっ!!」
―――蛇剣舞:雷蛇の拡波
振るった長剣の軌道から、拡散するようにバチリと雷撃が広がる。
―――中級短剣術:スライスエッジ
「ちぃっ!」
「遅いよ、ライト」
雷撃が弾ける最中には、彼女はライトの真横を過ぎ去っており、頬に薄く切り傷を付けられた。
魔力や魔法などを使った形跡は一切なく、スキルや純粋な身体能力だけでの、規格外のスピード。
そして、何より"音"がない。
床を蹴る音が、刃を振るう音が、全てしないのだ。
感じたことのない強さに、笑みを止められない。
「申し訳ないが、絶対に五分以内に倒させてもらう!!」
「さあ、出来るかな?」
「当然、だろっ!」
《黒剛彩王-虚の理-悪逆非道-暴虐非道-偽詐術策-聡明》
―――中級時空魔法:テレポート
―――蛇剣舞:地蛇の剛撃
リルカの背後へ転移し、長剣を振り下ろす。
ライトのいつもの流れだ。
だが、刃に何かが触れた感触が返ってこない。
背後で、僅かに膨れた殺意を研ぎ澄まされた感覚が読み取る。
―――蛇剣舞:炎蛇の咆牙
「――らぁっ!!」
「なんっ!!」
引き戻した長剣を即座に逆手に持ち替え、背後へと薙ぐ。
僅かに刃に感触が返ってきた瞬間、軌跡に残った炎が、ジジッと少し音を立てた後、膨らむように爆ぜる。
物体が床と接触する音と共に、振り返り長剣を元に持ち直す。
「殺意が隠し切れてねぇぜ?リルカ」
「凄い、よく反応した」
「済まないな、最近敏感でね。他の奴なら、反応出来なかったよ」
「じゃあ、次はもっと速く薄く、その首頂く――」
―――上級短剣術:クライムカッター
そう言った次の瞬間には、パッとシーンが切り替わったかのようにリルカが消える。
勘とでも呼ぶべき反射で、ライトは右に少しだけ首を傾けた。
遅れて、空中に薄く線が現れ、それは先程までライトの首があった場所を精確に通っていた。
「ヴッ……クソが」
鋭い痛みが首に走る。
首の左側に手を当てれば、二〜三センチ程の深い切り傷があり、そこからドクドクと黒い血が溢れ出している。
背後に、彼女の気配が現れる。
「あれ?首落としたと思ったのに」
「何とか逃れたよ……馬鹿げた速度だな」
(風を斬る、なんてもんじゃない。音すら置き去りにして空間を斬り裂いていると言っても良い)
「――けど、俺なら追いつける」
「本当に、出来るかな」
痛みが薄れ、黒く凝固した血が傷口を塞ぐ。
人間では止まることなど無いであろうが、ライトは人間ではないので。
首から手を離し振り返ってから自然体になり、深く息を吐いた後、意識を研ぎ澄ませる。
リルカの右足が床から離れ少し前に出される。まだ姿は消えていない。
魔法をイメージし魔法陣が形成される、その一歩が踏み出され切る直前で発動する。
―――超級短剣術:クロスエッジギロチン
―――天級時空魔法:時間加速・光速超越域
視界に映る世界が少し色褪せる。
気づけば、首の手前数ミリで二つの短剣の刃が止まっていた。
その危なさに思わず息が漏れる。しかし、同時に笑みも漏れた。
攻撃を受けないよう、一歩後ろへ下がる。
「勝ったのは、俺みたいだ。リルカ」
―――蛇剣舞:死蛇流光突
長時間の使用は、魔力消費が激しい為しないように、即座に赤黒い光を放つ刃を突き出すと共に、加速を解除した。
「――ア"ッ、ウ…エ……」
「おおっと、これは少し予想外」
別に彼女の速度は落としていないので、勢いはそのままだった。
故に、突き出した刃に、勢いのまま深々とリルカが突き刺さってきた。
胸部を綺麗に貫通した刃が、ドロドロと血に染まり、地面にへとその血を垂らす。
[――ゲームセットッ!勝者、ライト・ミドガルズッ!!]
訓練場の歓声が聞こえてくる。
目の前に居たリルカが消えて、少し後ろへと移動した状態で現れる。
「………負けた」
「はい、そうですね。だから、言うこと聞いてもらいますよ。まだ五分経ってませんからね」
「そうだった、負けたのに驚いて忘れてた」
茫然自失という感じで、こちらを見ていたリルカの瞳の焦点が合う。
「じゃあ、後日一緒にご飯を食べましょう」
「え?あ?……しまった」
「何がしまったんですか?」
「いや、その…」
「ま、聞かないでおいてあげますよ。けど、どっちにしろリルカさんの口車に乗る気はありませんでしたけど」
「むぅ…けどやっぱり、そこまで出来るのは、流石……益々、好きになる。欲しくなる。身体が疼く」
ライトは、確実に失敗したと後悔した。
敗北に驚いている間に畳み掛けたのだが、手際が良すぎたせいで、また好感度が上がってしまった。
別に悪いことではないのだが、いやこの場合は悪いことかしれない。
(……何でしょう、勝ったんですけど、どことなく失敗感が……)
モヤモヤとした、納得のいかない感じを飲み込みながら、ニコニコのリルカをやり過ごし、次への意識を高めた。
◆投稿
次の投稿は7/7(金)です。
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◆技解説
スキル技録
中級短剣術:スライスエッジ 対象の表面を滑るように斬りつける
上級短剣術:クライムカッター 通りすがりに刃を振るい対象を切り裂く 刃の軌道に時間差で再度斬撃を与える
超級短剣術:クロスエッジギロチン 短剣を二つ装備時のみ使用可能 対象を刃で挟み込み切断する 刃が触れた対象の斬撃への耐性を著しく低下させ刃の切断力を向上させる
◆蛇足
語り部「この作品の女キャラは癖が強いなぁ、身近な奴ほどマトモじゃないし」
蛇の王「そうかのう?」
語り部「そうだ、マトモじゃない奴、筆頭様」
白き槍「違うと思います」
語り部「いや、そうだよ、マトモじゃない奴、次席様」
蛇の王&白き槍「そんなことはないのじゃ」です」
語り部(あ〜これ意見しても意味ないやつだ)




