5-18 喧嘩上等、そしてまた勝手に決まる決闘……え?
「いや、何でそんな気の抜けた感じで」
[正直結果は分かってたし、一方的な戦いってのは途中からつまらなくなるものだよ]
「そんなもんですか、まあ実際僕も楽しくありませんでしたし」
会場に広く響くソヨの声と暢気に会話するライト。
静寂は打ち消されたが、ザワザワとしていて勝利を祝うような雰囲気ではない。
勝利の仕方が仕方なので、これまた仕方がないだろう。
[医療班は、イスカルを医務室に連れて行ってくれる?邪魔だから]
「ハッキリ言いますね」
[別に濁しても仕方がないからさ]
ライトが入ってきた訓練場の入口の扉が開き、白い服を着た如何にも医療関係っぽい服装の者達が現れる。
意識を失い床に横たわるイスカルを担架に乗せて、連れて行ってしまった。
[何はともあれ、ライくんは決闘に正式に勝った。衆人観衆の目、証人が居る限りこれが揺らぐことはないよ。勝ち方は圧倒的すぎてアレだったけどさ]
「アレ…ですか、結果は良いですし――」
「――認められるものかっ!!!」
訓練場に怒号が響き渡る。
声がした方を見れば、顔を真っ赤に染めて怒りを表すカエル貴族が居た。
ゴテゴテに装飾された貴族服を来た、脂ぎったデブ、トラッシュ・ドーカス公爵家当主だ。
「こんなもの無効だ無効!!我が公爵家を陥れる為の策謀に違いないのだ!!」
「はぁ、勝手に色々言うのは親子揃ってか――うるっせぇんだよ!!クソガエルがっ!!」
喚き散らかすトラッシュにライトが怒号を返す。
不快な声をずっと聞く趣味は無い上に、別に貴族への敬意はない為、ガンガン返していく。
「実際に動いてねぇくせに何を言ってやがる。まだ実際に戦ったイスカルなら良いが、金を使うだけ使って装備や魔道具を与えただけで見物してたお前に言う権利はねぇよ」
「下民が我に意見をするなっ!!大体貴様が負けていれば良かったものを!!」
「その平民を下に見える思考も同じかよ……――残念だったな!!お前の倅は装備もまともに扱えない無能だったぜ!怒るなら俺にじゃなくて、無能な息子……いや、そんな無価値な存在を生み出した自分自身にしたらどうだ?」
「何をっ!!!」
別に馬鹿ではあるが、イスカルは無能と言うほどでもなかったと思われる。
実際のところは分からないが、装備はそもそもライトが奪った上に、実力差がありすぎた。
「言わせておけばっ、この薄汚い冒険者風情がっ!!今すぐに貴様を処刑してくれる!」
「――おっと、そいつは困るな、公爵殿」
「――私としても、それは問題がありますな、ドーカス公爵殿」
[――それは聞き逃せないねぇ、トラッシュ]
トラッシュの言葉に意を唱える声が三つ。
一人目は、訓練場内に響く声、スピーカー的な魔道具を使っている為当然なのだが――ギルドマスター、ソヨ・ラビットニア。
二人目は、温和のように聞こえるが、内に含む怒りが分かる声、彼にしては珍しい――セイク商会3代目会長、エルトリス・セイク。
三人目は、飄々としているように感じるが冷え切った声、鋭い目も相まってそこそこ怖い――ムルング辺境伯家当主、デーウルス・ムルング。
何故、文章の順番的に逆の順から紹介するのだろうか。
「揃いも揃って何だ!我を公爵家当主、トラッシュ・ドーカスと知っての狼藉か!」
「当然だろ」
「たかが公爵家当主が笑わせてくれますな」
[そっちこそ、こっちはギルドマスターなんだけど、相手が分かってるの?]
「き、貴様らっ!」
トラッシュの権力などまるで気にしていないかのように、三人はそれぞれ言う。
最初に口論の口火を切ったのはデーウルスだ。
「ライトはな、一応このラビルに家を持ってるんだ。つまりウチの領民ってことになる。流石のアンタでも他家の領地の民を正当な理由なく処刑は出来ない筈だぜ?それにだ!ムルング辺境伯家は、ライトと正式な素材提供の契約を結んでいてな。当然契約書もある。ライトが処刑されるのは、辺境伯家にとって著しい不利益になる。だから、もしアンタがライトに手を出すってんなら、ムルング辺境伯家はアンタの敵になるぞ」
「くっ、辺境伯風情が、我の邪魔を…」
ライトはデーウルス、というかムルング辺境伯家に素材提供の代わりに館を借りているので、ラビルの住人と言える。まあ、今の所あまり居ないが。
この行動はデーウルスの心情を無視しても、ムルング辺境伯家としてライトを守った方がドーカス公爵家と敵対するよりも得だと判断したということであり、デーウルスがそれだけライトという存在を重要視しているのが分かる。
苦渋の表情を浮かべるトラッシュを見て、ニヤリと笑ったトリスが動く。
「ライト殿とセイク商会はこの度、大規模且つ長期的な商業契約を交わしましてな。それこそ、ドーカス公爵殿、貴方との契約とは比べ物にならない程の利益を生み出す契約でしてな。ライト殿に死んでもらうのは大変困まる、というのがセイク商会の会長としての意見ですな。よって、我らセイク商会は、ドーカス公爵家との間にある全ての契約を破棄することにしましたぞ」
「トリス、貴様ッ!?」
「我が商会は、商会に不利益を生み、害を為す相手とまで契約を結んでいる程、脳天気ではない。それに、これまでの行ってきた商人を舐めきった数々の行動、私は覚えているぞ。王国最大手の商会を舐めたこと、後悔するがいい」
ライトがセイク商会と結んだ契約、それは魔法銃の製造に関する契約だ。
魔法銃は他のどの商会、ましてや魔道具を専門とする所でも持っていない、絶対的なアドバンテージ。
成功すれば爆発的な利益を生むことが確定していると言っていい、言わば金の卵を産む鵞鳥。
そんな鵞鳥を捌き、金を産ませないようにしようとする相手を、商人であるトリスが止めないわけがない。
[君さぁ、本当にあんまり舐めたこと言わないでくれるかな?今直ぐ殺しちゃいそうになるよ]
「ハッ、小娘がほざけ!」
[まだそう言える度胸は本当に凄いね。けどさ、相手も分かんないのは駄目だよ。私さぁ、結構ギルド協会でも地位が高いんだけど。あんまり君が喚くと…]
「喚くと何なのだ」
[アウトライル王国からギルド協会を完全撤退させちゃうよ?]
「なっ!?」
「――おいソヨッ!?」
「これは不味いですなぁ」
ソヨの言葉に訓練場内がざわめく。
ギルド協会、及びそれに所属する冒険者は、基本的には土地に縛られない中立的存在だ。
直接的な関わり、政治などには干渉しないが、それでも魔物の討伐や採集での素材提供など様々な依頼を受けることで国を間接的に支える、国民とは別の存在、それが冒険者。
そして、そんな冒険者をある程度管理しているのが、国から独立している世界そのものが運営する組織、ギルド協会。
表向き直接には繋がっていないが、どんな国の運営からは切っても切り離せない組織なのだ。
何故なら、世界そのものが運営しているから、ギルド協会と繋がりがない国は、それ即ち世界に認められていないと同義なのだから。
そこが、アウトライル王国から撤退するとなれば、大問題である。
[その意味、幾ら無能な君でも理解できるよね?君は王国の何もかもを地に落とした張本人になるってこと。きっと君の方こそ、処刑でもされちゃうんじゃないかな]
「はっ、ハッタリだ!我を動揺させる為のハッタリに決まっている!」
「じゃ、試してみる?私はライくんに、法外に手を出すなら、容赦はしないよ?この国を滅ぼすくらいなら、やっちゃうかも」
「くっ、うぅ……」
彼女の言葉の内に含まれる本気が僅かに感じられてしまうくらいには、無能ではないトラッシュは苦々しい顔をして口を閉ざす。
それすらも分からない馬鹿ならば、きっとこの場で首が落ちていただろう。
沈黙が流れること数分、突如トラッシュが思案から閃きを見せ、顔を上げる。
耳が汚れるような大声が響く。
「――ならば、ライト・ミドガルズ!貴様に決闘を申し込む!今度こそ貴様をドーカス公爵家の名に掛け、全て持って叩きのめす!時は一ヶ月後、場所はラビル西のハグロ平原だ!首を洗って待っていろ!!」
「は?」
口早にそう言い放ち、トラッシュは連れていた従者と共に訓練場を去ってしまう。
親子共、やることは一緒だ。
ライトは理解が出来ていない。
[――さて皆!今日のメインはこれで片が付いた!でも本番は此処からだよっ!]
「え?」
予想していなかったソヨの言葉が、突然響く。
[【黒塗】ライト・ミドガルズの百人斬りは、この後少し休憩を挟んだ三十分後だから、皆是非楽しんでねっ!!]
「……え?」
ライトは、ソヨの言葉を聞いて今度こそ彫刻のように停止した。
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