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5-16【黒塗】ライトVS【蛮勇】イスカル 上



 普段はよっぽどでも、埋まることの無い訓練場の観客席が完全に埋まっていた。

 まあ、貴族用席として場所を取っている箇所もあり若干の隙間はあるが、それ以外は埋まっている。

 結界が張ってあるのか、舞台外の音はかなり小さくなっているがそれでも、溢れる熱意が伝わる。


 訓練場の舞台の真ん中に歩いていけば、今日の相手が嫌でも目に入る。



「逃げずに来たか、痴れ者」

「……」

「どうした、私の姿を見て、今更怖気づいたか?ふっ、仕方のないことだ。この父上から与えられた――」

「――ククッハハハハッ、お前、目腐ってんのか?そんなクソダサい格好よくしてられんな」

「貴様ッ!!」



 金ピカの鎧に、赤い宝石がゴッテゴテに散りばめられた装身具を複数身につける姿は、正に成金。

 これを笑わないわけにはいかない、少なくとも戦闘をする者がする格好ではないからだ。

 あと、普通にダサい。



「そうカッカすんなって。この後、全てが決まるんだから、この程度流せよ。お坊ちゃん」

「くっ、これだから下民はっ」

「おいおいそんなこと言って良いのかい?外の声は内では薄れるが、内での声は外で拡大されてるんだぜ?そもそもよぉ、国や貴族は税収を支払う民が居なきゃ成立しねぇんだよ。それを下に見るってのは、貴族としてあっちゃいけねぇことだろ」



 隙を見つけたら即座に突く、ライトの得意技だ。

 実際の所、全く間違いじゃないからこそ、反論が難しいのがイスカルにとって痛いだろう。

 それを理解するだけの知能があるかは知らないが。


 ギャァギャァと、騒ぎ出したイスカルの声をシャットアウトし、ライトは注意深く彼が身につけている物に付いている宝石を見ていた。



(あれ、唯の宝石じゃないな……独特な鈍い光の反射からして、『生命(いのち)血石(けっせき)』か。どうやら、トラッシュは相当本気らしい)

 


 超精度の瞳と知識が、赤い宝石が普通の品でないことを看破する。

 イスカルの装備に付いている『生命(いのち)血石(けっせき)』は、奇跡のような効果を持つ宝石だ。



(その効果は、"所持者の死を肩代わりする"。どんな手を使ったら、あの宝石をあんだけ手に入れられる?益々きな臭いぞ、ドーカス公爵家)



 『生命(いのち)血石(けっせき)』は、古代の遺跡などから稀に出る宝石で、どのようにして生成されているか、何故死を肩代わり効果を持つのか、詳細が殆ど解明がされていないものなのである。

 だから、こんなに大量にあるのは不可解と言える。

 ライトの中で疑念が深まった。



[ビ〜〜〜!!]

「音デカいな」

「始まりということか」



 訓練場に少し耳に痛い、機械音のようなものが響く。

 かと思えば、ソヨの声が聞こえてきた。



[さて、会場に集まった皆様。決闘の時間になりました。本日のメイン、楽しんでいきましょう!]



 うお〜!と微かに観客の熱い声が聞こえる。



[私から見て右側に見えます、全身を真っ黒な装備で統一した男は、このラビルのギルドに居るのならば、一度は名前を聞いたことがあるであろう、暴虐の権化!【黒塗】の異名を持つAランク冒険者、ライト・ミドガルズッ!!]

(いや、暴虐の権化って……) 



 別に間違ってはいないのだろうが、何だか釈然としないライト。

 多分、影で言われる分にはいいが、大々的に言われると反応しづらいのだろう。


 因みに観客席からは歓声が響いていた。



[左側に見えます、全身を金一色にした男は、最近になって名を知られた、無謀の権化!その馬鹿を体現したような振る舞いから【蛮勇】の蔑称を付けられた成金のBランク冒険者、イスカル・ドーカスッ!]

(凄い、滅茶苦茶に煽るじゃん。トラッシュも居るんですよ?そんなことして大丈夫なんですか?)

「ふっ【蛮勇】か勇気溢れる私に相応しい」

「言葉の勉強からし直してこいよ」(あ〜そうだな)「おっと、建前と本音が逆になってしまった」



 【蛮勇】という二つ名に、しきりに頷いているイスカルにライトの言葉は聞こえていない。

 異名として付けられているか、蔑称として付けられているかというのは、大きな違いだと思うのだが彼には関係ないらしい。



[両者、指定の位置に立ち、構えてください]

「りょ〜かい」



 響くソヨの言葉に従い、恐らく確実に自分が立つであろう舞台に黒い四角の上に立つ。

 振り返り、イスカルの方を向けば、彼もまた自分の位置に立っていた。

 あれでも話は聞いていたようだ。


 構えろと言われたが、ライトはイグニティを出すことはしない。

 対称的にイスカルは、背負っていた黄金の大剣を構えている。


 ライトの口には笑みが浮かんでいる。



[それでは、合図と共に、決闘開始です]

「目指すは、完勝、それ以外には無い。多少技の実験台くらいにはなってくれよ?」



 シン、と会場が静寂に包まれる。



[3…2…1――]



 深く息を吐き、脚に力を込めた。



[――始めっ!!]

「――はっ!」

「――当たるかよ、そんな見え見えの攻撃」



 開始の合図と共に、横薙ぎに振るわれた大剣から放たれた赤い斬撃。

 それを直上への跳躍で避ける。



《黒剛彩王-虚の理-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-暴虐非道-偽詐術策-回避錬術-怪力-聡明》


―――中級時空魔法:テレポート


「――背中がお留守だぜ、お坊ちゃん」

「ア"カ"ッ!?」



 イスカルの背後へ転移して、万力を籠めた蹴りをがら空きの背中に叩き込む。

 斜め上へ重力に逆らって吹き飛んでいく彼を見据え笑みを浮かべる。


 そんなライトの右手の上に複数個浮いている空色の魔法陣の一つが霧散する。


 切り替わった視界。自身の方へと飛んでくるイスカルが既に見える。

 身体が落下するよりも早く、蹴りをイスカルへと放ち再度吹き飛ばす。


 更に視界が切り替わる。飛んでくるイスカルを蹴る。


 そうして転移と蹴りを瞬間的に繰り返すこと十回程。



「さて、そろそろかっ!」



 これまでとは違い、真上にイスカルを蹴り上げる。

 手元に残る魔法陣は、あと二つ。その片方が霧散した。



「――落ちろ」


《黒剛彩王-蛇王蛇法-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-暴虐非道-回避錬術-怪力》


―――再事翼蛇(リントヴルム)=超級武術・蛇道:流麗転脚(リュウレイテンキャク)()地蛇玄烙(チダゲンラク)



 飛ぶ彼の真上に転移したライトは、高速の踵落としを叩き込む。

 

 落下の浮遊感を感じた瞬間に、転移を行う。

 舞台に足が着いた感覚を感じると同時に、間近でドンッと破砕音が響き、土煙が舞う。



「良い音したねぇ、けど死んでねぇだろうな。何個血石が砕けたかね。二十個くらいあったから、五個行けば十分か」

「うっ、ぐっ貴様ァ!!」

「おっ、起きたか。早く来いよ、次やるぞ」



 ブンッと音がしたかと思えば、土煙が吹き飛ばされ、黄金の大剣が光を反射する。

 黄金の鎧には少しの罅が入っているが徐々に修復されている。

 着けている装身具に付く赤い宝石は何個か砕けていた。



「よっぽど良い装備みたいだ。お父上に感謝しておけよ。お前みたいな雑魚でも、俺の攻撃を受けてまだ生きてられるんだからな」

「ふっ、そうだ。確かに私の力ではないが、これがあれば貴様を倒せる」

「あっそ――じゃあ、()()()()()


―――超級時空魔法:スナッチアポーツ

―――超級時空魔法:スナッチアポーツ


「え?」

「いやぁ、ありがとう。後で有効活用させてもらうわ」



 二つの空色の魔法陣が霧散すると、ライトの手元に黄金の大剣と鎧が現れる。

 そう、これはヨルの戦法と同じ、相手から武器を奪うというもの。

 彼としては、面白くないので余り使わない戦法だが、イスカル相手にその配慮は要らないと判断した。


 装身具も回収しようとしたが、何故か魔法が無効化されてしまった為に出来なかった。

 だが、それで良かった。回収してしまえば、イスカルが直ぐに死んでしまって"良い"ショーにならないからだ。



―――収納(シュウノウ)()巳蚓魑(ミヅチ)


「よしじゃあ、続きをしようか」

「……え?」



 黄金装備を仕舞い込んだライトが、笑顔でイスカルに言う。


 決闘は、まだ続く。



◆投稿

次の投稿は6/21(水)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆蛇足

蛇の王「戦いと言いながら、半分は会話ではないか。駄目じゃぞ〜」

語り部「ま、仕方ないっしょ」

白き槍「やはり、ライト様は笑みが似合っています」

蛇の王「これは最早癖じゃよな」

語り部「格好良い笑顔だろ?」

白き槍「はい、本当に」

蛇の王「そうかのう、怖いと思うが」

白き槍「いいえ、そんなことはありません」

蛇の王「あ、そうか…」



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