5-15 舞台は整っている
燦々と太陽が輝く朝、ライト達はギルドへと歩いていた。
今日はイスカルとの決闘の日。
いつも繁盛している商売通りは、何故かいつも以上に活気が溢れているように感じた。
「何か、人多くありません?」
「確かにね、でも祭りとか行事の予定なんて無かったと思うわ」
「普段の2.14倍というところです。明らかに人が多いと思います。確実に何かあるかと、調べますか?マスター」
「何でそんな精確に計れるんですか。まあ、でも調べる必要はありません。ソヨさんに聞くくらいで良いんじゃないんですかね」
「それもそうね」
「分かりました」
三人は、人が多い理由が思いつかず、また原因の追求を諦めた。
脳内に溜息の音が響く。
フードの中に居る蛇状態のヨルが、もぞもぞと動くのを感じる。
「何ですか?ヨル」
<お主ら、本当に分かっておらぬのか?>
「何がよ」
<今日我らがギルドに行く理由そのものが、この人の多さの原因だということにじゃよ>
「どういうことなのですか?」
呆れたようで明らかに事情を知っているその言い方に、三人共が首を傾げる。
皆様も決闘が決定した時のソヨの話を思い出してみよう。
<ソヨは言っていたじゃろう。大々的に決闘のことは宣伝しておくと>
「あ〜〜確かに言っていた気がします」
「そんなこと言ってたかしら」
「私は確かに記憶しています」
「え?じゃあ、分かってたんじゃないですか?」
「空気を読む、というものを理解しました」
ミスティアナは、確かにライトが居ない間に成長していた。
少しズレた方向に。
「それは少し違うと思うわよ。別に知ってるなら普通に言っていいと思うわ」
「そう、なのですか?空気を読むとは難しいですね。物理的に読めないのに、どうしてそう言うのでしょうか」
「……後で教えますのでこの話題は一旦止めましょう」
「はい、マスター」
ライトは、彼女への指導を後回しにした。
最近になって薄れてきたかと思った彼女の知識不足は、全然解消されていないらしい。
自主性は喜ばしいが、間違った知識を吸収されても困るので、彼は後でだが即座に修正と制限をしようと決めた。
「それじゃ、人が多いわけも分かったところで、ギルドに行きましょう」
「ええ、そうね」
「分かりました、マスター」
移動が再開された。
通りとは対称的に、あまり人の多くないギルドにライト達は到着した。
中に入れば、受付の上に、ソヨが座って待っていた。
「おはよ~ライくん、ミスティちゃん、ナイちゃん」
「おはようございます。なんでギルドに人が少ないんですか?」
「訓練場の整備・管理、観客の案内だったり、外部の投影魔道具の設置・配備に動いてもらっててさ。そもそも今日はライくんの決闘の管理をするから、ギルドは一時的に通常の営業を停止するって公表してるから問題はないよ」
「ほう、そういうことですか」
あまりにも閑散としたギルドに驚いて、思わず聞いたが、何一つの問題はなく、寧ろ既に全て終わっているらしい。
目の前のソヨは、何故だか凄く楽しそうだ。
ライトは、彼女が浮かべる笑みに強い愉快と期待を読み取る。
「愉しそうですね」
「そりゃもう、今日で面倒な公爵家を潰せそうだからね。いや、確実に潰せるかそれに繋がる状況は作れると私は確信してる」
「ソヨさんとしても、ドーカス公爵家は面倒なんですか」
「当然でしょ、というかあそこが面倒じゃない奴らなんて、あそこの傘下だけだよ。国王だって面倒だって言ってたし」
ドーカス公爵家は、その権力を使い数々の横暴を行ってきた、正真正銘の国の腫瘍。
多くの者がそれの切除にあたったが、公爵家の権力の強さによってそれらは跳ね除けられてしまった。
だが、無能な嫡男のお陰で、今回その厚い壁をぶち壊せる機会が作れた。
そんな目隠しをしないでスイカ割りをするような、見逃せない的をこの兎神獣が外すわけがない。
叩ける時に徹底的に叩く、実にライト好みな行動だ。
「自分の息子が負けないように、トラッシュが馬鹿みたいに散財してくれたお陰で、国は潤うわ財力は削げるわ。本当にイスカルに感謝しなくちゃいけない」
「幾ら無能と言えど息子は息子、無能な親でも親心はあるみたいですね」
「ま、全部無駄なんだけどね。ありったけの金で最高級の装備や魔道具を準備したみたいだけど、その程度で実力の差が埋まる程、イスカルとライくんの差は小さくない」
きっと比較対象がもっとまともだったならば、ライトも彼女が正当に評価してくれていると素直に喜べただろう。
しかしながら、相手は格下の為、少し嬉しいくらいで留まってしまう。
「いくら無能だって言っても、その公爵だって流石にライトとの実力の差くらい分かりそうじゃないかしら?」
「無理だよ、ナイちゃん」
「どうして断言できるのよ」
「そりゃ、資料上はイスカルとライくんはランクがたった一つ違うだけだからね」
「成程、そういうことですか。ドーカス公爵は、冒険者というものを理解していないのですね?」
「そういうこと」
「どういうことよ?」
ナイの言うことをしっかりと否定するソヨ。少しナイは不満気に見える。
その横で、ミスティアナがソヨの言葉を理解していた。
先を越されたことに驚きながらも、ナイはミスティアナに聞く。
「ドーカス公爵は、冒険者を理解していない。それが示すのは単純です。ランクの違う冒険者の強さの差を分かっていないのです」
「そんな訳ないじゃない、一ランク違うだけでも、馬鹿げた実力差があるじゃない」
「だから、ドーカス公爵はそれを分かっていないってことです」
「…成程、そういうことね」
「恐らく、イスカルが金でランクを上げたことも知らないんでしょうねぇ」
公爵の勘違いは、ライト達にとって大きなメリットだ。
さそ、無様な姿を晒すイスカルに驚いてくれるだろう。
これは、面白くなってきた。と、ライトの口が弧を描く。
「ライくん、意地の悪い顔してるよ」
「そういうソヨさんこそ」
「考えることは一緒ってわけだね。流石ライくん」
彼からすれば、一週間溜めていた怒りを盛大に開放できるわけで、楽しみじゃない訳がない。
更には邪魔な相手も消せるというのだから、尚更だ。
「じゃあ、そろそろ時間だからさ。行こうか、馬鹿な公爵家当主と嫡男の下に」
「ええ、さっさとぶち殺しに行きますか」
「うん、存分にぶっ殺していいからね。訓練場の機能で蘇生できるから」
抑えきれない程の高揚を胸に、ライト達は、訓練場へと歩き始めた。
訓練場の入口の前に立つ。
ナイとミスティアナは、特別に用意された観客席があるらしく、そちらへ行った為、今現在は一緒に居ない。
隣に居るのは、ソヨだけだ。
「もうイスカルは訓練場の中に居るから、後は私の決闘開始の合図を待ってボコボコにするだけ、頑張ってねライくん」
「相手がアレでなきゃ、嬉しい言葉なんですけどね」
「それもそっか」
深く息を吐く、緊張は欠片もない。
「それじゃあ、楽しめライくん。愉快なショーを期待してるよ」
「ええ、最高のショーを見せてあげますよ」
「くくっ、それは楽しみ」
笑みを浮かべて、ライトは訓練場の入口の扉を開いた。
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