5-14 続・決闘前の一休み
「それで、申し開きはあるか?」
「…無いです」
ライトは、仁王立ちするヨルの前で正座している。
場所は館の食堂だ。
彼女の後ろには、若干土に塗れた身体を魔法で綺麗にするミスティアナとナイの姿がある。
「我も悪かったと思っておる。お主の勝利への渇望を甘く見ていた。だが、それにしても堪え性がないのではないか?」
彼女は、酷く呆れていた。
確かに彼の怒りは分からないでもなかったが、それによって生じた被害が大きすぎた。
彼は、他者からの評価を基本気にすることはない。
しかし、例外もある。それは、その評価にヨル・ミスティアナ・ナイ等々親しい者が関わる時。
彼女らが評価の対象になるでも、評価をしてくる者になるでもいい。
「何でなんでしょう、正直勝ち負けはどうでも良かったんですけど、どうにも納得がいかなくて」
「そこから間違っておる。ライト、お主は元来意地っ張りじゃぞ」
「そう、ですかね?」
ライトは、自分の能力に関しての理解は深いが、性格など内面的なものへの理解は浅い。
難しいことではあるが、彼は概要すら掴み損ねている。
それには、理由がないと言えば嘘になる部分もあるのだが、何となくくらいは分かるだろうに。
「お主は、自分の中に気にするかしないかの判断基準、ラインが存在する。それも絶対的なものじゃ。そのラインの外側の物事には自分から意識を向けなければ気にもしない。そも意識すら向けないだろう。逆に、ラインの内側だと勝手に意識が向いて、お主の素がよく出るのじゃ」
「僕の素ですか」
「鋼のように頑強なようで、ガラスのように繊細で乱れやすい、それがお主じゃ」
「もう少し、気を付けます」
簡単に出来る訳がないことは分かっているが、今はそう答えるしか無かった。
そう言い、態度に示すことこそが、今の自身に出来ることだと思ったからだろう。
だが、意外にも優しい言葉が返ってくる。
「別にそのままで良いのじゃよ、お主はお主のなんじゃから。…じゃが、まあ確かにもう少し改善、せめて物や他人に当たらないように頑張ればいい」
「ヨル…」
ヨルとしても思うところがあったのか、本当に珍しく言動が優しい。
温かい雰囲気が流れ始めたところで、声が掛かる。
「――何良い感じに終わらせようとしてんのよ」
「私達はまだ納得してませんよ」
「……あの、駄目ですかね」
「駄目よ」
「駄目です」
「我はちょっと用事を思い出したの〜」
「ちょっ、ヨル」
嫌な予感を感じ取ったヨルは、即座にその場からそそくさと退散する。
きっと今のライトは、怯えた表情をしていたことだろう。
「さあライト。行くわよ」
「マスター、逃げないでくださいね?」
「あのっ、ちょっと、何処に行くかだけ――」
彼の問いに答えてくれる者は居ない。
◆◇◆
カポーン。
「気持ち良いわねぇ〜」
「はい、お昼に入るのはまた違って」
「…………」
此処は、館の中にある浴場。
そこで何をしているかと言われたら、当然お風呂に入っている。
ライトは今、無心になろうとしていた。
理由は言わずとも分かるだろう。
「ライト、何でそんな深く浸かってんのよ。流石に苦しくない?」
「いえ、別に大丈夫です」
「マスター、のぼせたりしていませんか?」
「いえ、別に大丈夫です」
口の上まで浸かり、話をする時だけ口を湯の上に出すという面倒なことをしている。
湯船は滅茶苦茶に広いが、ある程度集まっているので、気が抜けない。
好意を抱く者が、警戒もせずその生身を晒してくれているという、中々に理性が試される状態にある為、全ての思考を削ぎ落としていた。
お風呂等、全く楽しんでいない。
因みに今まで、一緒にお風呂に入ったことなど無かった。
ミスティアナは、入り方など分からなかったが、そこら辺は何故かヨルが対応してくれた。
「何、恥ずかしいのかしら?」
「いえ……」
「恥ずかしいみたいです、ナイ」
「ええ、そうみたい、ねっ!」
「――うっ!?」
突如、ナイがスーっとライトの背後に移動し、抱き着く。
目は開けていても、意識は向けていなかったので、驚いて倒れ込み、口内にお湯が流れ込んだ。
それに気づいたミスティアナが前から彼を引き上げる。
「ゲホッゴホッゴホッ、ハアッハアッハアッ」
体外へ水を吐き出し、浅く何度も息を吸い込む。
「何、するんですか」
「ごめん。その、考えが足りなかったわ」
「危ないですよナイ、驚いても問題ない程度に、ゆっくりやらないと駄目です」
「いや、そもそも風呂場でそういうことは危ないので、全て止めるべきだと思いますけど」
ミスティアナの少しズレた注意にツッコミを入れつつも、ライトは息を整えた。
そこでふと、普通に話せていることに気づく。
(う〜ん、確かに面倒に気にしていたのは僕の方かもしれませんね。肩肘張ったり、恥ずかしがる必要なんて………いや、やっぱりそれは必要ですねっ)
冷静なって、視線を彼女らに向ければ、引き上げられたのだから当然立っているわけで、更には湯にタオルを巻いて浸かるわけもない。
瑞々しい二人の柔肌が、目に映ってしまった。
「さあ、早く上がりましょうか、長風呂はよくありませんし」
「まだ五分も入ってないわよ」
「マスター、ドサクサに紛れて逃げては駄目です。これは、マスターへの罰でもあるんですから」
そう、この混浴は二人に攻撃してしまったことへの詫びや罰を兼ねたもので、ライトに拒否権や逃亡権は与えられていなかった。
だがライトとしても、このまま続行することは避けたかった。
「まあ、そうですよね。けど、僕にもそうは言ってられない事情があるので、逃げさせてもらいます――よっ!」
―――初級重力魔法:加重力
―――取出・巳蚓魑
―――超級時空魔法:先駆ける星は跳躍の橋
灰色の魔法陣が、身体に付いた水分を床へ落とし、いつものヨル製のコート等々の服を身に纏う。
空色の魔法陣が霧散すれば、視線の先に星の紋様が現れる。
身体が浮遊感に包まれたかと思えば、先程星の紋様が現れた位置に居た。
「また埋め合わせはしますので、今日はこれでっ!」
「――待ちなさいっ!」
「――マスターッ!」
浴場を出て、廊下を見れば、またその先に星の紋様が現れた。
即座にその場所へと転移する。
そうして、連続の転移を繰り返して、ライトは逃げ延びた。
日が落ち、夜も更けてきた頃。
いつまでも逃げれるわけもなく、ライトは自室にてミスティアナとナイと共に居た。
「本当に、駄目ですかね」
「今日はもういいわ。日も落ちたし、また今度よ。でも、絶対にしてもらうから」
「私は、絶対に忘れませんからね」
溜息を吐きながらベッドに倒れ込む。
(まあ、仕方がありませんか。これも戒めです)
ライトは、今後を考えて甘んじて再度罰を受けることを認めた。
深く、自分の中に戒めを刻んで。
この行動が吉と出るか凶と出るか、それは神のみぞ知る。
◆投稿
次の投稿は6/16(金)です。
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◆技解説
魔法技録
初級重力魔法:加重力 指定した対象に自由な方向に少量の重力を与える
超級時空魔法:先駆ける星は跳躍の橋 一定時間視界の先に転移できるようになる 転移位置に星の紋様が現れる 視界の先が転移位置になる為視界が塞がれている又は眼球が存在しないと効果を発揮しない




