5-13 決闘前の一休み
時間が進むのは早く、この日は決闘の前日。
太陽が温かく照らすヨルの創り出した平原にて、置かれたテーブルを囲んで四人はトランプで遊んでいた。
「「…………」」
やっているのはババ抜きで然も、既に最終盤である。
一枚のトランプを持ち相手のカードを引こうとしているのが、ヨル。
ニ枚のトランプを持ち相手にカードを引かれようとしているのが、ライト。
無言で見つめ合い、互いの思考を探り合っている。
「――こっちじゃ!!」
ライトの手から、一枚のカードが引き抜かれる。
そして、その瞬間、勝負は決した。
彼の手元には、彼自身を嘲笑うかのようなジョーカーのカードが一枚残っていた。
「…………」
「クワッハッハッハッ!!!我の勝ちじゃ!!」
「いや、皆ズルくありません?」
「そんなことはありません、マスター」
「あら、不満でもあるのかしら」
「負け惜しみなど、みっともないぞ」
「そんなことなくないですし、不満はありますし、負け惜しみではなく抗議なんですけど?」
四人でやっているにも関わらず、速攻且つストレートで負けたライトは、不満を隠さない。
正直、仕方がないとも言える。
彼は先ず、ミスティアナを見て口を開く。
「ミスティは、未来予知使うの止めてくれません?引くカード全部ペアになってましたよね。絶対未来見てますよね」
「マスター、スキルの発動は、止められません」
「この間ヨルから聞きましたよ。ミスティが未来予知を制御できるようになったって」
「…黙秘権を行使します」
「ミスティも悪くなりましたね」
ミスティアナは、プイッと顔を背けた。
その仕草は可愛いが、納得が出来るかと言われれば微妙だ。
未来予知は、相手の手札を盗み見てるのとほぼ変わらない故に。
「次に、ナイ。あの『当たれ』って言うの止めてもらえますか?それだと神性で絶対当たるんですよ。対策の仕様がないんですよ」
「別にワタシはただ願掛けをしてるだけよ?ただワタシの言葉に運命が、世界が応えてくれてるだけ」
「いやそれがチートなんですって」
「良いじゃない、ゲームは本気で遊んでこそよ」
「……そうですか」
ナイは、自信満々にそう言う。
所謂ドヤ顔は、馬鹿可愛いがこれもまた納得が出来るかと言われれば微妙だ。
彼女の神性はゲームのルールを破綻させる絶対勝利への片道切符過ぎる。
「最後にヨル、本当にもう…『念話で僕の思考を読み取らないで下さい』よ」
「ふっ、我とお主の仲ではないか」
「いやそういうことではなくてですね。対僕に於いて最強なんですよそれ。ヨルとやると僕は確実に負けるんですから」
「使えるものは使う、それが我らじゃろ?」
「はぁ、そうですかそうですか」
ヨルは、理路整然のように語る。
ニヤニヤと意地の悪い顔をしているのが、ライトの精神を少しずつ苛立たせる。
念和に関しては、そも止めることも出来るのにガンガン使ってくるからこそ納得出来るわけがない。
思考の読み取りから思考の強制、脳内に直接届くのでヨルの声が大きく響き動揺せざるを得ない。
「少し、頭を冷やしてきます」
「はい、待っていますマスター」
「次もやりたいから、早く帰ってきなさいよ〜」
「では我も休むとしよう」
腹立たしさは、何かに発散しなければならない。
彼女らから少し離れた場所まで来たライトは、一旦身体の力を抜く。
深く息を吐いた後で呟いた。
「そのニヤケ顔、マジで潰しにいく」
ライト、結構怒っている。
たかが遊戯程度と言う者もいるかもしれないが、ライトが本気になるのは命の取り合いか遊戯、あと自分の女の為だけだ。
これは、彼の持論だが、遊戯にも本気になれない奴は何にも本気にはなれない、らしい。
だからといって、遊戯外にも感情を持ち出すのはどうかとも思うが。
―――虚の理:≪拡張世界認識・時空≫
世界が紐解け、全てが透けて映り出す。
そうだな、言うなれば、立体的なレントゲン撮影のような形で世界が見えていると思えばいい。
あれよりか若干色は付いているが、大体そんな感じだ。
世界の枠組みと骨組みだけが、彼の思考には映っている。
現力が世界を空間をどう流れているかすら、今の彼には朝飯前に分かる。
「第一段階完了、やっぱりまだ慣れないな」
これは、クロノスが教えた基礎の技。
「眼で世界を認識してちゃ、この先対応できないわよ」と言われたので、渋々従ってライトは覚えた。
結果としては、それで良かった。
この状態であれば、眼球が潰れていようとも耳が抉られていようとも、その他あらゆる五感が遮られたどんな状態であろうとも世界を認識できる。
つまり、光、音や空気などに頼らずとも全てが解るようになるということだ。
「さて、デカい一撃をぶつけさせてもらおうか」
―――虚の理:≪空間支配法則・空間生成≫
―――虚の理:≪空間支配法則・空間圧縮≫
目の前に出した左の掌の周囲の空間が膨らむように歪む、また掌の上に出来上がった点に集まるように空間が歪みだす。
それらが、同時に行われることで、空間は一見正常のように見える。
ライトは、クロノスのやっていた空間投擲攻撃の準備と同じことをしているのだ。
彼女よりも遅いが、それは仕方がない。彼女は時空を司る神なのだから、まだ覚えて練習し始めた彼が勝てるわけがない。
生成した空間を圧縮し、生成し圧縮するを繰り返す。
圧縮だけをすれば、無くなった空間を補填するように集まる空間に合わせて移動する周囲のもの全てを巻き込んで崩壊させてしまう。
生成だけをすれば、突然挿入された空間が辺りの空間を押し退けるような圧力を生み周囲のもの全てを破壊してしまう。
時空に属するものは、須らく世界への影響力が強い為、慎重な操作が必要だ。
「こっからが、僕の応用です。基礎も大事ですけど、やっぱり応用もいいですよね」
―――虚の理:≪螺旋回転≫
掌の上の空間が回転するように歪みだす。
ライトが強制的に圧縮した空間の球――空間圧縮球に本来あるはずのない回転力を与える。
加速度的に周囲の空間を吸い込み始めた。
異次元の引力を保有する空間圧縮球をなんとか空間生成で保持させ続ける。
保持させて数秒、点が肥大化し黒い穴のようなものへと変容する。
「さあ、全ては整った」
彼は、黒穴を掌の上に浮かせたまま三人の方へ向き直る。
掌と黒穴を胸の少し前まで引き寄せ、右手を中指でやる普通のデコピンの形で穴の手前に構えた。
「喰らえ、最強」
―――虚の理:≪空解・虚空真珠≫
中指が親指の止めから開放され、黒穴を弾く。
音は響かない。ただ光速を優に超えた黒穴が、周囲の空間を崩壊させながらヨルへと突き進む。
黒穴――虚空真珠が何をしているかと言えば、空間の開放と吸引だ。
指で弾いた瞬間には、虚空真珠の空間圧縮は止めている。そうすれば何が起きるかと言えば、圧縮された空間の開放、それに伴う力の発散。
だが、虚空真珠の螺旋回転は続いている。そうすれば何が起きるかと言えば、回転によって起こる空間の吸引、それに伴う力の集束。
本来同居する筈がない二つの現象を無理矢理に同居させる。それが出来るのが理の操作。
理の範囲内であれば、矛盾が起こる筈の事象だろうとも何でも出来る。
発散と集束が同時に巻き起こった軌跡上の空間は、二つの力によって板挟みになり引き裂かれるように跡形もなく崩壊してしまう。
空間瓦解、略して空解である。
軌跡が崩壊から世界の理によって修復されない、黒く何も見えない虚空となっている。
それは、この技が操作された理で引き起こされているから。
操作された理の影響は、基本は同じ理で直接対処するしかないのだ。
上の説明は、コレ系の作品によくある時間停止的な奴で言っている。
光速以上で進んでいると言っているのに、全く変だよな。
虚空真珠がヨルへと到達する。
「――っ」
―――神級武術・蛇道:不壊の御手・蛇邪冥命
紫黒に染まった拳が、虚空真珠とぶつかる。
瞬間、ギリギリッとよく分からない摩擦音のようなものが響いたかと思えば、二つの接触点を中心に爆発が巻き起こる。
身体が宙を舞う感覚がライトを襲う。
―――上級重力魔法:空を駆ける者
魔法で身体を空中に保持する。
「お〜っと、これは……」
そこから先は、呟かれることはなかった。
眼下に広がっていたのは、見渡す限りのボロボロ崩壊した、草原の面影もない地面だった。
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次の投稿は6/14(水)です。
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◆技解説
魔法技録
虚の理:≪拡張世界認識・時空≫ 本来世界を認識するのに必要な媒体や身体器官を完全に無視して世界を認識することが出来るようにする とりわけ時空に関するものは精確に認識できる
虚の理:≪空間支配法則≫ 空間に属する使用者が認識したものを意のままに操る 時間制限なし 現力消費なし
虚の理:≪空間支配法則・空間生成≫ 指定した範囲に使用者の好きな量の空間を生成する 現力消費なし
虚の理:≪空間支配法則・空間圧縮≫ 支配下にある空間を指定した箇所に圧縮する 現力消費なし
虚の理:≪螺旋回転≫ 支配・制御下にあるものに縦横無尽の回転を強制的に与える
虚の理:≪空解・虚空真珠≫ 複数の空間操作を使用した混合技 真珠の軌跡と本体の周囲の空間を崩壊させる 空間圧縮解除と螺旋回転発動による力の発散と集束の現象を並行して起こさせることによって空間を瓦解させる




