5-9【黒塗】ライトVS【白閃】ミスティアナ 上
見渡す限りの大草原にて、黒と白が相対する。
決闘決定翌日、互いの実力の確認の為、ライトとミスティアナは模擬戦を行うことにした。
模擬戦と言っても、飽くまで相手を殺さないというルールがあるだけの本気の戦いだ。
「さて、始めますか。ミスティ」
「はい、マスター」
二人は向き合い、戦意を迸らせる。
「二人共、頑張りなさ〜い」
「不甲斐ない戦いをしたら、両者とも修行倍増じゃぞ〜」
上から降ってくる言葉が、更に二人のやる気を上げる。主にヨルの言葉が。
ナイとヨルは、草原の上空に存在する半透明の円盤の上に置かれたソファで寛いでいる。一緒に用意されたライト手作りのスイーツ達を食べながら。
ライトは、ポケットに予め入れておいた金貨を取り出す。
「金貨が地面に落ちた瞬間からスタートです」
「分かりました」
「それじゃ、行きますよっ――」
金貨を指で弾き上がり、気持ちの良い、金属が空を切る音が立つ。
二人は、既に武器を構えていた。
光を反射し煌めく硬貨が地へと落ちたその時、戦闘は始まった。
◆◇◆
金貨が地に着くと同時に、イグニティを振り下ろした。
響くのは、金属が強くぶつかる音。
視線を下げれば、既に拳が届くほどまで迫り、腰を低くして剥奪槍の穂先で刃を受け止めるミスティの姿が。
彼女ならこうしてくると、僕は分かっていた。分かっていたからこそ、対応できた。
「流石ですねマスター。止められるとは」
「ミスティなら、速攻で終わらせに来る思ってたからな」
背中に冷たい汗が流れるのを、動揺と焦りを悟られないように会話する。
ミスティが得意なのは、速度を活かした戦い方。
そして、それの代表例が今の攻撃。素の状態で出せる最高速で放たれる不意の先制攻撃だ。
知っていなければ、殆どの場合防げない。単純で協力な奇襲、思いっきり姿表してるけどね。
こんな暢気な思考をしていられるのも今だけ。
正直、素の動体視力じゃミスティを完全には捉えきれない。全く、強くなりすぎでしょ。
イグニティに更に力を込め、穂先を地面へと接触させてから、魔力を載せた蹴りを放つ。
「――くっ」
力では勝っている為、腕で受けようともミスティは吹き飛んでいく。
剥奪槍を手放さないのは流石だね。
出来上がった隙を有効活用させてもらうとしよう。
《黒剛彩王-虚の理-偽詐術策-聡明-会心》
―――八彩王法:王の外套・黒虚
掌から溢れた黒き王気が蠢き、漆黒の外套と化す。
起き上がったミスティがこちらを見ていた。
「それは、ヨル様を使う時しか使っていなかったと思いますが」
「まあ、俺も成長しているってわけだよ。戦争の後くらいには、ヨル無しで常時展開できるくらいにはなってたぜ?仲間だからって、全てを教えてるわけじゃない。それは、ミスティもだろ?」
「はい、その通りです。――マスター」
最後の一言は、背後から聞こえた。
それを正確に理解するよりも早く、身体は動いていた。
振り返りながら、王気を纏わせたイグニティを横薙ぎに振るう。
僅かに残る黒い軌跡の上にはミスティは居ない。
瞬間、視界の端に白銀の何かが映る。
無理矢理に身体を翻し、それを避けた。
頬を滑る穂先に意識が持っていかれ、同時に足に鋭い痛みが走る。
《未来予知-零落簒奪-槍術:神級-神雷絶火-無絶技-天羅眼-神刹風-真深愛》
攻撃を受けた箇所を確認する暇もなく、引き戻されていた剥奪槍から繰り出される連続の突きが襲い来る。
回避途中の不安定な状態で、それらを避けるのは至難の技だった。
そも、一撃一撃が速すぎて元々避けられない。
思考が導き出した行動は一つ、
《黒剛彩王-虚の理-偽詐術策-聡明》
―――虚の理:≪脱兎の如く、避ける時≫
転移による長距離移動回避。
理を使った、妨害されることの無い転移、加速する思考が切り替わった視界にも関わらず、驚嘆に染められる。
僕は転移でミスティとの距離を取ったのだ。それもかなりの距離2〜3km程離れた。
のに、だ。彼女は"今目の前で"剥奪槍を上から下へ落とすように穂先を向けている。
全てがスローモーションに映る中、コマ送りのように徐々に迫る白銀に意識を集中させ、対応の策を練る。
後手後手に回っているのが解せないからか、少し企みを混ぜた行動をすることにした。
《黒剛彩王-虚の理-蛇王蛇法-悪逆非道-聡明-会心》
―――天級音魔法:音無き殺人鬼
―――八彩王法:喰らい妨げろ、黒盾
右の手袋の上に消音マークが、浮かび上がり行動の全ての音を殺す。
目の前に現れた、漆黒の盾が剥奪槍を防ぐ。
足元に形成された紫色の魔法陣を、発動せずに保持したままにする。
隠されているが、僕には隠しきれない気配を察知して彼女の移動を確認した。
「――掛かったな」
「マスッ――」
―――天級毒魔法・邪道:壊毒苦殺爆陣
―――虚の理:≪猛毒支配法則≫
―――虚の理:≪構成変化≫=堕落毒
―――虚の理:≪状態凝固≫
足元から爆発するようにドロリとした毒が溢れ出す。
それらが一瞬の内に流動し、背後に移動してたミスティに絡みつく。
毒がネオンピンクへと変色する。
液体だったそれらは、個体へと変わり周囲を静止させた。
振り向いて、即席の拘束を抜け出せないでいる彼女を見る。
「やっぱりそこら辺は、直ってないみたいだな」
「身体能力では、マスターよりも上の筈なのですが、やはり敵いませんね」
「能力は上がってるし、技術も上達してる。けど、攻撃全体の単調さは消えてない。別に背後じゃなくても頭上でも良かったと思うぜ?」
会話を行いながらも、自身の傷の確認をしていく。
真っ先にやったのは、足の不可解な痛みへの対応。これは見れば、原因はすぐに分かった。
太ももに真っ白なナイフが深々と刺さっていた。柄を握り引き抜けば『黒い血』が出る。
白いナイフの刀身に黒い血が付いていると言うのに、妙な感覚を覚える。
この黒い血についてだが、いつの間にか真っ黒になってしまっていた。
前は普通の血の色だったのは確かに覚えている。明確に黒くなったのを理解したのは、先日のヨルとの戦い。
何が原因だか分からないのが怖い所だけど、今の所身体に悪影響は出ていないので、放置している。
ヨルに聞いたところ、神化の影響か『八彩鉱王』のスキルによる影響かのどちらかだと言っていた。
正確には断定できないらしい。
―――神級時空魔法・変異:非想天の逆巻時計
「本来ならあまり出来ませんけど、出来る状況ならやるべきだよな」
頭上に浮かんだ魔法陣が霧散すると、身体に付いた傷が修復されていく。
これ失敗すると傷が広がるらしいので、自分以外にこれで回復をすることは無い。
ふぅ、と息を吐いた後、ミスティへと改めて視線を向けた。
彼女は、若干苦しそうに見えるが戦意は衰えていないし、寧ろ何かを企んでいるように見える。
「マスターは、やはり遠いですね」
「そうか?そうでもない気がするけど」
「いえ…届きそうにありません、全てに於いて」
あまり否定したくはないが、全くの見当違いだと思う。
「だから、私の今出来る全力をぶつけたい。受け止めてくれますか?マスター」
「まあ、模擬戦だし、断る理由もないよ。だから、掛かってこい」
「ありがとうごいます。マスター」
はい、全然嘘です。正直全力は嫌です。
だってさぁ、ミスティ滅茶苦茶強くなってるから仕方ないよね。
でも流石にそうとは言えない、主だし、男だし、見栄は張りたい。
その選択を後悔するのは、直後だった。
「では、マスターを全力で、倒しに行きます――《神器開放》」
―――剥奪槍⇛開放:≪全能から墜とし簒奪する者≫
「やっ!?」
その言葉が紡がれた瞬間、僕は後方へと跳躍し距離を取っていた。
凝固した毒の拘束が弾けて崩壊すると同時に、明らかな変化を果たしたミスティへ意識の全てを注ぐ。
一番大きく変化していたのは、剥奪槍 ディグレストーン。
これまでよりも、大きく伸びた穂先は白銀色から白金色へと変わっており、真っ白な柄には黒い幾何学模様が走っていた。
彼女自身にも、僅かに変化が起こっており、彼女の両手はいつもの白い手袋ではなく、白銀の籠手に覆われている。
更に髪はいつもよりも白く、純白という言葉がよく合う程に清い透き通るような白へと変化している。
顔が焦りを隠せているか不安になる。
それ程に、今のミスティは異様な雰囲気を放っていた。
「マスター、行きますよ」
純白の巫女は、白き矛を構えながら、そう告げてきた。
◆投稿
次の投稿は5/31(水)です。
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◆蛇足
蛇の王「また何か、語り方が違うような…」
語り部「一人称っぽい語り口調にしてるからな、違うのは当然だ」
白き槍「そうする必要性はあるのでしょうか?」
語り部「まあ、色々と試作段階ってっとこ。書きやすさや読みやすさ、伝わりやすさによって今後使い分けしていく予定らしいぜ?これまでは三人称視点で完全に進めてい行く気だったけど、まあ柔軟な方が良いと思い立ったらしい」
白き槍「成程…分かりました」
蛇の王「つまり、お主の仕事が増えたということじゃな」
語り部「実は、そうなんだよねぇ」




