5-8 決闘決定と事情説明
「――決闘だっ!!」
いつの間にか立ち上がっていたイスカルの、そんな言葉が響き渡る。
ライトは、周囲の者と同じように不快に顔を歪めた。
「決闘?する意味があるのか?お前はさっき地に伏せた。それこそが俺とお前の力の差の証明だろ?」
嘲弄と侮蔑を目一杯に籠めた態度と言葉と共に、ライトはイスカルを見下す。
隠す必要の無い本心をそのままに。
「ふざけるなっ!何か仕込んだに違いない!私を嵌める為に何かをしたのだろう、この卑怯者め!」
「だから決闘ってか、随分と良い思考してんな、お前」
「黙れ、この痴れ者が!今此処で叩きのめしてやる!」
「へぇ、良いぜ。死んでも文句言うなよ?ああ、済まん死んだら口利けねぇか」
ライトは、額に青筋を浮かべてブチギレていた。
それこそ、ミスティアナに男達が触れようとしていた時以上に怒りが溜まっていた。
見ず知らずの格下に、痴れ者と言われる謂れはないからだ。
今にも、拳をイスカルに振り下ろし、物言わぬ肉塊へと変えようとしていた彼の肩に、手が置かれる。
(待って、ライくん)
(何だよソヨ。今からアイツの息の根を止めるとこなのに)
(お願いだから待って。もしかしたら、上手く運べば公爵家ごと潰せられそうだからさ。あと、普通に殺人は駄目だよ?)
(ちっ、分かったよ……その代わりに少し僕にも付き合って下さい。中々怒りが収まりそうにないので)
(うん、勿論。じゃ、少し話し合わせて)
宥められたライトは、大人しくソヨの言うことを聞く。
正直、彼の精神状況から考えれば、彼女かヨルの言葉でなければ強引に殺っていたかもしれにない。
その基準には、自身を止められる強者であるかと立場の差がある。そういう意味では、ソヨは適任だった。
何故なら、今現在ヨルは居ないからだ。何でも『七種覇王』共に会いに行くから、今日一日居ないとのこと。
「ちょっと待ってくれる?イスカル君」
「む?ラビットニア女史ではないか、邪魔をしないでくれ。私はその男を倒さなければならないのだ!」
「決闘をするんだよね?」
「ああ、正々堂々、卑怯な手など使わせずに倒す!」
ギリッと音が立ちそうな程に歯を食いしばり、拳を握り込んでライトはソヨの言う通りに自分を抑え込む。
トラッシュ・ドーカスの息子というのもあるだろうが、目の前の青年が肯定のしようもない愚者だからだろう。
同時に、ライトはそれ程辛抱強くもないのが悪い。それこそもっと精神力を鍛えた方が良いと思う。
理性面は強固なのに、感情面では脆弱過ぎる。
「それじゃあ今はやめた方が良いよ」
「何故だ!?」
「そりゃあ、自分の姿見れば分かると思うけど?鎧は壊れてれば、剣も折れてる。正直、その装備じゃ勝負にならないんじゃないかな」(まあ、装備あっても勝負にならないと思うけど)
諭すようなソヨの言葉に、イスカルは改て自身を見てそのボロボロさに気付く。
あまりにも遅いが、もう彼に関しては気にしても仕方が無いだろう。
「平等じゃなきゃ、それは決闘とは言えないよ」
「では、どうすればっ」
「簡単だよ、日を改めれば良い。一週間位が丁度いいかな。それに、もっと周囲にこの話を広げて証人を増やしたりすると良いかもね。いっそのこと、公爵である君のお父様にも伝えたら?きっと君の支援と晴れ姿を見に来てくれる筈だよ」
「成程…助かった、ラビットニア女史。また奴の罠に嵌るところだったというわけか」
(いや、直ぐに決闘って言ったのお前だろ!)
(殺気抑えてライくんっ!あんな馬鹿でも気付いちゃうかもしれないでしょ!)
(あ、すみません……)
ソヨの言葉を真に受けて、真剣に考え始める彼はライトの視界には酷く滑稽に映る。
全てが敵の手の上だということも疑わず、踊る愚者を憐れに――思いなどしない!
ライトはそんな清らかな精神を持ち合わせてなどいない為、悪感情を持つ相手に慈悲など存在しない。
やがて、何かを決めたのかイスカルは、顔をあげてライトを睨む。
「決闘は"一週間後"だ痴れ者!ギルドの訓練場にて、貴様を待つ!我が刃を持ってして貴様を断罪する!首を長くして待っていろ!」
「はいはい、分かったよ」
「じゃあ私の方から、宣伝はやっておくからね〜」
「協力感謝する」
そう告げてから、覚悟を決めたような顔でギルドを出ていった。
一つの嵐が去った広間に静寂が訪れる。
もう一つの嵐と彼の仲間達へソヨが声を掛ける。
「さて、ライくん。それにミスティちゃんにナイちゃん。奥行こっか、此処じゃ話しずらいしね」
「そうね」
「分かりました」
「行きましょうか……」
ライトの足取りだけが、四人の中で重たかった。
◆◇◆
ソヨに連られたのは、いつもの執務室ではなく、恐らく応接室。
座りやすそうなフカフカのソファとテーブルに棚というシンプルな無いそうだが、暖かみが感じられた。
どこでも同じように、テーブルを挟むように置かれた二つのソファ。
片方にはライト達三人、もう片方にはソヨが一人で座っている。
「ライくん。ライくんは問題を起こさずにはいられない質なのかな?」
「いや、すみません。でも、あの男達がですね――」
「――言い訳なんて、聞いてないの」
「……はい」
何が行われているかと言えば、説教だ。
騒動に愛されて止まない彼に、ソヨはお怒りである。
彼女のギルドであるからに、ギルドの騒動によって生じる負荷は彼女に集束する為だ。
だが、内心彼女もライトを責めても仕方がないことを理解していた。
ある意味では冒険者を御し切れていない彼女のせいでもあり、彼の愛は非常に大きなものであるのも分かっているから。
しかしながら、心を鬼にして言わなければならない。
これからもあり続けると本当に困るので。
淡々とライトの何がいけなかったかを説き、イスカルとは比べ物にならない程に慈愛に溢れた心で諭す。
「――だから、これからは気を付けてね?」
「はい、分かりました。ソヨさん、すみません…これからは、善処します」
「はぁ、断言してほしいなぁ……まあでも、これ以上は可哀想だから、今日はこれくらいにしてあげる」
憂い気な表情でそう言って引き下がってくれる彼女に、ライトは本当に申し訳なくなる。
気をつけようと、心に刻んだ。そこまでが、彼女の策略であるとも知らずに。
「それで今日は何しに来たの?」
「えと、帰ってきたっていう報告と、こっちのナイに関しての話をしに来ました」
「うん、想定通りだね。正直に言って、どっちも要らないんだよね」
「え?」
想定外のソヨの言葉に彼は驚いた。
ニコニコとした顔から、それが嘘ではないことが分かる。
自分が掌で踊らされていることを理解するのに、そこまで時間が掛からなかった。
「ミスティちゃんの修行の関係でライくんの館に言ってたからね。ライくんが戻って来てるのも知ってるし、その時にナイちゃんにも会ってこれからどうするか聞いてたんだよ」
「な、成程…」
「それにライくん気付いてなかったけど、さっき移動する時に、ナイちゃんって呼んでたんだよ?初対面でそれは変だよね」
「くっ、それはイスカルがっ」
「ライくんも鈍くなったなぁ」
ニタニタと笑う彼女は、非常に愉しそうで勝てる気がしない。
そこでライトは、コレを知っていただろうナイを見た。
「ナイも教えてくれても良かったじゃありませんか」
「別に必要ないじゃない、結果は同じだもの。それにソヨとは会ってたけどギルドには来たことなかったから、嘘は吐いてないし」
「じゃあ、ミスティ――」
「――私を構ってくれないマスターには、教えてあげるつもりはありませんでした」
ナイには当然、という顔をされたので、今度はミスティアナに縋ろうとすれば、即座に離される。
頬を膨らませ、プイッと顔を背ける彼女は可愛かったが、悪いことしたなという少しの罪悪感がライトを襲う。
ライトがあたふたとし出した所で、テーブルの上に『赤いカード』が置かれる。
「はい、ナイちゃん。これがナイちゃんのギルドカードだよ。偽造もしてあるから心配しないで。〈黒蛇白塗〉のパーティー登録も済ませておいたから、直ぐにでも冒険者として活動できるから、頑張ってね」
「ありがとうね、ソヨ」
「あれ?Aランクなんですか?試験なしじゃAランクは」
「もう終わってるわ、貴方が寝ている間にね」
「……全部済んでますね。本当に」
自分の立てていた計画が既に先回りで終わっていることに、大きく溜息を吐く。
別に悪いことではない、と納得すれば良いのだがどうにも、モヤモヤしてしまう。
ままならない感情に振り回されて混乱するライトを、彼女らは密かに楽しんだ。
◆投稿
次の投稿は5/28(日)です。
◆作者の願い
『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。
後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!
その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!
□■□■□
◆蛇足
蛇の王「イスカル、流石に馬鹿すぎるのではないか?」
語り部「何の意味もなく、そんな風にするわけないだろ。きっと理由があるんだろ」
白き槍「そうに決まっているではありませんか」
蛇の王「うぬ〜やはり不味いぞ。白槍は語り部を肯定しすぎる。必然的にニ対一の構図になるぞ」
語り部「別に良いじゃん。蛇王強いし、実質二人分でニ対ニでしょ」
蛇の王「無理矢理が過ぎるぞ!横暴だ!」
語り部「僕は常にその横暴に晒されていた!仕返しだぞ蛇王!」
蛇の王「ぐぬあぁ!!」




