5-7 面倒な公爵家嫡男
「――これは何事だっ!」
広間に居た全員の視線が、ライトからその声の発生源へと移る。
そして、大半の者が顔を不快に歪めた。
声を発してたのは、一人の青年だった。
光を強く反射する鎧、煌めく金髪に端正な顔立ち。怒りを表すその姿には、傲慢さが見え隠れしている。
一言で言えば、冒険者っぽくない青年が、そこには居た。
ライトは、即座に感じ取った。彼が貴族という立場に身を置く者であることに。
彼の問いには、誰も答えない。彼よりも、今行動することでライトの目が向けられることの方が怖いからだ。
すると、彼は、ライトをキッと鋭い目で見る。
嫌な予感を感じたライトは、ミスティアナを離してナイと一緒に自身の後ろに下がらせる。
「お前がやったのか?」
「初対面の相手に対してお前、とはどうなんだ?」
「そんなことはどうでも良い!彼らをあんな風に痛めつけたのはお前かと聞いているんだ!」
「……だったら、何だって言うんだ?」
無礼も良い所の端から礼節に欠ける対応をされたことで、ライトの方も棘のある返しをする。
事情も知らずに、勝手に悪者と認識するような相手に対する礼など、元々持ち合わせてはいないのだが。
青年が、腰から長剣を引き抜き構える。
剣自体は、業物と言えるかなり質の良い物だが、ライトにはハッキリと分かっていた。
青年には、不相応な武器であると。武器が可愛そうだと密かに思う。
「そんな悪党は、このイスカル・"ドーカス"が許しはしない!」
「ん?今お前、ドーカスって――」
「――ハァァッ!!」
ライトの疑問に感じた話も聞かず、イスカルは剣を彼へと振りかぶる。
剣筋は、素人とまではいかないが、戦闘をする者の筋では無かった。
やはりか、と内心溜息を吐きながら、後ろの二人に動くなと合図を送ってから、剣が当たるであろう箇所に魔力を流し身体強化を施す。
剣の刃をライトの身体がぶつかる。
「――なっ!?」
「はぁ、武器が可哀想だ」
金属音が響いたかと思えば、イスカルの剣の刀身がライトの身体に接触した瞬間、砕け散る。
それは偏に、ライトの魔力強化した身体強度に剣が耐えられなかっただけの話。
剣に魔力が籠もっていれば、また違う結果になったかもしれない。
どっちにしろ、ライトが負けることは無いと思うけれど。
「お、お前何をした!?」
「別に?ただ受けただけだ。あんな馬鹿みたいに真っ直ぐな剣、避ける必要もない」
「ふざけるな!この剣はドワーフに拵えさせた業物だぞ!こんな簡単に折れる筈がっ」
「確かに業物だったな。お前が使ってなきゃ、もっと世界で活躍できた筈だよ、可哀想に」
「この卑怯者め!何か仕組んだに違いない!」
「ちっとは、話を聞け、やっ!!」
「ゴフッ!?」
話を聞かずに自身を罵るイスカルに嫌気が差したライトは、彼の腹に蹴りを叩き込む。
綺麗に宙を舞い、床へと落ちた彼は蹲る。
見れば、鎧が大きく損傷している。どうやら、ライトも強くなっているようだ。
今までならば、魔力強化なしであそこまでにはならなかっただろう。
こんな時でなければ、彼も成長を素直に喜べたと思う。
「話を聞かないカスは、地べたを這っているのがお似合いだ……ん?」
イスカルへと侮蔑の言葉を吐き捨てた後で床に落ちた『紫色のカード』が目に入る。
それを手に取り、様々な角度から観察し確認する。
「こんな雑魚がBランク?……まさか、偽造か?」
視線の先で、まだ立ち上がれないでいる格下が、カードの示す強さと一致しないことから、偽装を疑う。
しかしながら、カード自体は本物だった。
勘繰り続けるライトに、声がかかる。
「そのカードは正真正銘本物。面倒なことに、イスカル・ドーカスは公式にBランク冒険者だよ」
「この声…ソヨさん?」
振り返れば、このギルドの主とでも言うべき神獣、ソヨ・ラビットニアが居た。
モフモフな兎耳は今日も健在で、それを触りたい欲をライトは何とか抑えて、話に集中することにした。
「うん。久しぶり、ライくん」
「その、勝ったに居なくなってしまい、すみません。色々と事情がありまして……」
「別に深くは聞かない。冒険者は別にギルドに拘束されてる存在じゃないからね。でも、私も寂しかったからさ、埋め合わせくらいはしてよ?」
「それは勿論、それでなんですけど、あそこの奴がBランクなのって本当に本当なんですか?」
顔に明らかに寂しさが浮かんでいたソヨに約束をしてから話を戻す。
幾らソヨの言葉といえど、確認を取らずにはいられなかった。
「本当、面倒だけどね」
「だって、剣筋なんてズブの素人みたいな、Dランクの冒険者でももっと良い剣振るくらいには雑魚でしたよ?」
「だから、面倒だって言ってるでしょ。本当に、ライくんが居なくなってからは、アレが私の疲労の原因だよ」
「それ、暗に元々は僕が疲労の原因だったって言ってません?」
ライトの言葉に、ソヨはサッと目を逸した。
その行動そのものが肯定を示しており、彼の心は少し傷ついた。
彼女は、そんな彼を気にせず、イスカルを見て口を開く。
「イスカル・ドーカスは、その名前からも分かる通り、ドーカス公爵家の人間。然も嫡男、次期当主様だね」
「アレがですか?いや…あのゴミさ加減は、確かにあの豚の息子ですね」
現ドーカス公爵家当主、トラッシュ・ドーカスとはまともに会ったことも見たこともないライトだが、トラッシュの評価は最底辺だった。
ミスティアナのオークションの件から偏見はあるが、その他ソヨやトリス、世間からの評判、聞こえてくる情報に良いものが一つもないのだ。
とんでもない好色家であり、複数の妻が居るにも関わらず、外部の女性を取っ替え引っ替えにしているとか。
奴隷を、特に他種族の奴隷を好み、気に入った奴隷の為には馬鹿げた大金を投げ出すとか。
裏では、他国に王国の情報を売り、利益のためだけに民に麻薬を流しているだとか。
どれも確かな証拠があるわけではないが、火のない所に煙は立たない。
全てと言わずとも、当たるっているものもあるだろう。まあ、全てかもしれないが。
「それだけ言えば、察しの良いライくんならどうしてBランクか分かるんじゃない?」
「……Bランクまでは、試験が無くて、一定の難易度の依頼を一定数受けるだけで上がれる。まあ、それが難しいから、BランクとCランクの冒険者の数が大きく違うわけですけど……多分、金に物を言わせたんでしょうね」
「その通り、正解」
ライトが考えたのは、とても単純なこと。
次期公爵家当主ということは、大層金がある筈。その金を使って高ランクの冒険者を雇い、一緒に依頼をしてもらえば、ほら簡単にランクが上げられるという訳だ。
そうだとすれば、実力の無さにも納得というもの。
ソヨが肯定したことで、推測が当たっていることが確定してしまう。
「そんなことして、何になるんですかね」
「さあ?私には理解できない」
「ですよねぇ……」
二人は顔を見合わせながら、苦笑いを浮かべた。
理解し難い行動を考えるのに、疲れたらしい。
そんなライトとソヨを見て、ナイとミスティアナがヒソヒソと話す。
(何でライト、ソヨとあんな親しげなのよ)
(確か、マスターのお世話になった方とソヨ様が友人で、その繋がりから仲が良かったかと)
(ふ〜ん、色々とありそうねぇ)
(はい、そしてソヨ様は警戒が必要です)
(どうしてよ?まあ、色々と謎は多そうだけど)
(ソヨ様は、マスターを狙っています。前に、マスターは覚えてませんでしたが、確実にソヨ様はマスターと身体を重ねました)
(あ〜女としてってことね、分かったわ。それはワタシの方でもしとくわ)
この状況に似合わず、ある意味この二人の話題は明るかった。
そうして、終わっていない状況が収まっていこうとしていた。
がしかし、そう行くわけもなく。
「――決闘だっ!!」
悲しくも、まだまだ問題は終わってくれないらしい。
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次の投稿は5/26(金)です。
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◆蛇足
語り部「ソヨの苦労も分からんでもない、ライトは不特定多数の人間と上手くやれるような性格じゃないからな」
白き槍「そうでしょうか?ライト様は、慈悲深き方、どんな者でも仲良くしたくなるに違いありません」
蛇の王「相変わらずの肯定思考じゃな、まあ否定はせんでおく」
語り部「いや、そこは否定しておくべきでは?」
蛇の王「面倒じゃから…」
語り部「この駄王が」




