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5-6 モヤモヤミスティとブチギレライトと至って冷静且つ綺麗好きなナイ



 目の前に存在する、白く頑丈そうで大きな建物。まあ、ラビルのギルドである。

 ナイが、興味深そうに視線を上げ、外装を見ていた。



「此処が、ギルド…綺麗ね。征管局とは違った風で、温かみを感じるわ。あっちは機械的で冷たかったもの」

「素材がコンクリートでしたし仕方がありません」

「受付嬢も感情が死んでるみたいで、嫌だったわ」



 少し前まで過ごしていた今無き都市の同じような場所と比べているらしい。

 それに反応できるのは、当然ライトだけ。



「確かになんか人形みたいな、命令されてることだけやってるような感じでしたね」

「そうなのよ、本当に。よく普通に話せるな〜って感心してたわ」

「…………」

「話すだけなら、別に問題ありませんよ。会話と呼べもしない、事務的なことだけでしたし」

「でも、あいつら、視線が冷え切り過ぎててやなのよ」

「…………」



 レギノーで過ごしていないミスティアナは、その会話に入れない。

 それが、彼女には面白くない。別に、ナイが嫌いな訳ではない。

 彼女からしたらナイは、ある意味()()と言える存在であるのと、同じ相手を好きという部分で共感し、会ってから日は短いが立派な仲間と言えた。


 だからといって、不満が無いなんてことは無い。

 ミスティアナは、この二ヶ月近くライトという主がいない状態に、飢えて苦しんでいた。

 だというのに、一緒に居た筈のナイと戻ってきてまで喋るのが、少し納得出来ていなかった。

 これはどちらかといえば、主であるライトへの不満だ。


 もっと自分を構って欲しい、有り体に言えば嫉妬、重く言えば独占欲のようなものが彼女の中に芽生えていた。

 そんなことを自分から求めるのは、今まで何度かしてしまっているが、奴隷として駄目なことには気付いている(因みに、ライト的には全然良い)。

 いつもは行為の後に気付いて、軽い自己嫌悪に陥っているが、ナイという存在が居る故に、現在進行系で陥っていた。

 だが、不満もある。ごちゃごちゃになった感情が彼女を混乱させる。

 

 だからか、ミスティアナは二人に声を掛けずに、先にギルドの中に入ってしまう。



「全く、マスターは、もっと私を構うべきです」



 思わず、彼女はそう漏らしてしまう。

 そして、ハッとして立ち止まる。



(違う違うっ!私をマスターが求めてくれなくてマスターに不満を感じるのは、奴隷として駄目です。うぅ…奴隷じゃなかったら、もっとマスターを……いや、私は奴隷でなくては、でなければマスターとは……)



 またグルグルと思考が迷い出す。

 奴隷としての矜持とライトへの大きすぎる愛が、やはり彼女を混乱させる。



「なあ、ミスティアナちゃん。何してんだ?」

「そんなところで立ち止まって、暇なら俺達と遊ぼうや」

「最近来なくて、悲しかったんだぜ?」



 そう、下衆めいた顔で声を掛けてくる三人の男達。

 ミスティアナは、珍しくも不快に顔を歪めた、髪色が暗く、そして少し黒くなっていく。


 この男達は、ライトが居なくなった後に来た新入りの冒険者だ。

 新入りと言っても、このラビルでの話で冒険者としてはそこそこの活動をしているらしい。


 ライトが居ないから一人で活動していた彼女に目をつけて、見つける度に話しかけてくるようになった。

 ミスティアナは、珍しいと言うとアレだが、とんでもない美少女な上に見た目だけならか弱そうな為、狙われたようである。

 彼の居ない間実は、この手のナンパのような結構多かった。彼女は千年に一人の美少女と言っても仕方ないくらい美しいので仕方がない。

 なに?評価が露骨に高い?黙ってろ、ミスティアナは可愛いんだよ。



「いつも言ってる筈です。嫌だと、さっさと消えて下さい」



 ハッキリと彼女はそう言う。

 正直、ミスティアナとしてはライトが敬意を払う相手以外に敬意を払う気がないので、下衆には基本これくらいだ。

 それにライトが敬意を払うに敬意を払うのも、彼の評価や信頼などを落とさない為。

 彼女はライト絶対主義なので、他は大して気にしていない。例外にヨルやナイ、ソヨ、あとはトリスが居るくらいだ。



「そう言わないでさぁ」

「一緒に愉しいことを、な?」

「ヤろうや、流石にそろそろ我慢が出来ないんでな、少し強引に行かせてもらう」



 三人の中の一人が前に出、彼女に触れようと手を伸ばす。

 彼女が攻撃の為に剥奪槍を取り出そうとしたところで、物凄い勢いでギルドの扉が開かれた。



「――おい」


―――彩王(さいおう)覇気(はき)王蛇絢爛(キングスフィール)



 大して大きくないその一言は、広間によく響いた。

 それは、広間が一瞬の内に静寂に包まれていたからだ。


 誰一人として、声を発さない。

 重くなった空気が、喉奥へと通っていかない。


 彼を知っている者は、即座に息を潜める。

 そう彼らは、逸早く危険が迫ってきたと、"暴虐"が帰ってきたと気付いたから。



「そこのゴミ共、俺の女に、何勝手に触れようとしてやがる?」



 明らかに、怒気を含んだその言葉は、ミスティアナに近付いていた男達へと向けられていた。

 言葉の一つも漏らすことが男達には出来ない。


 まるで、処刑を待つ罪人のように。



「さっさと、離れろ」



 身体から放たれる覇気が、形を持っていない筈なのに物理的に空間を歪めているように思えた。


 罪人達は、「動けば殺される」という生存本能が最大に働いた思考のせいで、ただそこに留まり続ける。

 ……そう、彼の言葉に反して。


 ダンッともバンッとも取れる、空気が破裂したかのような音と共に、彼の姿が掻き消える。

 この場に於いて、彼の仲間以外に彼の動きを追えた者はいない。



「――二度も、俺に同じことを言わせる気か?」

「――ヴッ!?」



 彼は、ミスティアナの前に移動しており、足を振り上げていた。

 彼女に最も近かった男の顔面を捉えたその蹴りは、鈍い音と共に男を飛ばす。

 男が吹き飛んだ方向にあったテーブルは、接触の衝撃で砕け散る。



「お前えらの頭ん中には、脳みそが入ってねぇみたいだな」

「――ガッ……」



 まだ男達が動かないことに腹を立てた彼は、ミスティアナに次に近い男の首を掴み持ち上げる。

 その男は、首を絞める力が強いせいか声を出せずにいるが、藻掻いて彼から逃げようとしていた。


 しかし、そんな抵抗、彼に意味があるわけがない。力の差が、あまりにも大きすぎるのだ。



「――ライト、やめなさい」

「あ?ナイ、どうしてだ?内容によってはお前の言葉でも聞けねぇぞ」



 騒動に乗じて、入ってきていたナイが、ライトを止める。

 というか普通に足音を鳴らして入ってきていたが、全員がライトに注目していて気づかれなかった。


 怒りと敵意を全面に出す彼に溜息を吐きながら、彼女は口を開く。



「単純に汚いからよ、そんな男達触れるだけで病気になりそうだわ」



 彼女が止めたのは、男達が気持ち悪くてライトに触れていて欲しくなかっただけである。

 ナイは、見ず知らずの男達の安否を気にするほどの聖女のような存在ではない。別に貶してるわけじゃないぞ?



「ああ、そういうことっ――かっ!」



 ナイの言葉に納得し笑みを浮かべたライトは、掴んでいた男をぶん投げる。

 人の居る場所に飛んでいったが、それを気にするライトじゃない。


 カツカツと靴の音を敢えて鳴らしながら、最後の男に近付く。



「――ヤメッ――」

「うるせぇよ」



 顔面を掴んで床に叩きつけた後に、強く靴で後頭部を踏みつける。



「靴、後で洗いなさいよ?」

「ああ、これを期に綺麗にするわ」



 ライトの行動に、顔を歪めたナイが注意してくるので、彼は素直にそれに従うことにした。

 実際にそうしたかったというのもあるが。


 彼は、ミスティアナの方を向く。



「ミスティ」

「マス、ター……」

「ナイを構ってた俺も悪かったけどさ、勝手に動いちゃ駄目だろ?」

「すみません」

「別に起こってるわけじゃないさ。俺も悪かったんだから。でも、俺はミスティを他人に触れさせたくない」

「あら、ワタシも?」

「例外はある」

「ふふっ、冗談よ」



 少しだけ、場の雰囲気が和らぐ。彼らの中でだけだが。

 周囲は、まだライトの放つ圧に行動を阻害されている。


 ギュッと彼はミスティを抱きしめた。



「今日はやることが終わったら、ミスティを構いますから。今は我慢してくれませんか?」

「……はい、約束…絶対、ですよ?」

「約束ですし絶対です」

「マスター…大好きです」

「はぁ…甘いわね」



 二人の間に漂い始めた甘い雰囲気に、ナイが呆れた顔をする。

 これで取り敢えず一見落着。



「――これは何事だっ!」



 とはならなかった。

 どうやら、これで問題は終わってくれないらしい。



◆投稿

次の投稿は5/24(水)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

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その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆蛇足

語り部「ライトもライトで独占欲強いよな」

白き槍「そうでしょうか?普通では?」

蛇の王「白槍は元々価値観が異常(バグ)っておるから参考にならん」

語り部「まあ、そうだな。で、蛇王は独占欲についてどう思う?」

蛇の王「別に良いのではないか?その者を確かに好いて愛している証拠とも言えるからな」

語り部「そうか、じゃあ問題ないな」

白き槍「ええ、問題ないことです」

語り部「……うん、そうだな」


語り部が凄く微妙な顔をしているのに白き槍は、当然気づかない。



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