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5-5 技術商談…料理の出来ない彼女たち





「セイクさん、コレが何か分かりますか?」



 ライトは、そうトリスに問いかける。



「銃…ですかな。如何せん、うろ覚えの知識ではありますが」

「はい、流石ですトリスさん」



 眉間に皺を寄せ、絞り出すように出した彼の答えに、ライトは称賛を返す。

 武器マニア・オタクの名を欲しいままにする、一種の変態であるライトだからこそ銃について知っていただけで、ミルフィリア全体では、全く知られていない。

 それは、銃という武器が"神器(じんぎ)"という形でしか、存在しないからだ。


 そう知れば、武器マニアだから分かるというのは可笑しいと気付くだろう。

 ならば何故知識としてライトは持っているのか。

 答えは結構単純で、巳蚓魑の中に銃に関する本があっただけだ。



「ですがこれは、神器というわけじゃありません。まあ、神器の銃もありますけどね」

「凄いことを聞いたような気がしますが、流すとしましょう。して、この銃が神器ではないこと、そして商談ということに何の関連があるのですかな?」

「簡単に言えば、技術提供のようなものです。この魔弾式の拳銃、魔法銃そのものとコレに関連した資料。設計図などをセイク商会に売ろうかと思いまして。あ、出所は聞かないでくださいね。説明が面倒なので」



 ナイという仲間が増えたのでそれなりに出費が増えそうだという予想から、ライトは金策を考えた。

 それがトリスへの技術提供、商談だ。



「僕が求めるのは、売るコレに相当する金額と、これの実用化…つまりは安定した販売が出来た場合に限りで宜しいので、その場合に出た収益の一部、ですね」

「ふうむ…悪くはないですな。何故、安定した場合に出た収益の一部を求めるのですかな?」

「これから先も考えて、というところです。別にトリスさんと僕の関係を考えてではありません。無いとは思っていますけど、もし今回の件が失敗したらその分返せとも、安定して無くても最低限は寄越せとも、言えます。でも、僕とトリスとこの先も商談を取引をしようと思ってますのでね。それに不安定な収入なんて良い気しませんし」



 ライトも善意で、物事を進めはしない。行動の裏には損得勘定、自分の得を考えている。

 その上で、トリスとの取引の内容を決めていたのである。


 ニヤリとトリスが笑う。

 瞳の奥には、燃えるような心が見えた、それは覚悟の現れだろう。



「コレだけのものを出されて、失敗はしないと断言しておきますな。このエルトリス・セイク。この件、全身全霊で取り組ませて頂きましょう」

「流石、セイクさん」

「それに、コレは成功すれば、新たなセイク商会の強みにもなると思いますからな」



 大規模な商会を運営しているだけあり、魔法銃の生み出す利益の大きさを漠然と感じ取っているらしい。

 すると、フーリンがライトを見て口を開いた。片手には、彼の作った三色団子が持たれている。



「一つ、聞きたいことがあるのですが、良いですか?」

「いいですよ」

「ライト君は、さっき魔弾式と言っていましたけど、それでは実弾式もあると言っているようなもの。そっちは取引しないのですか?」

「確かに実弾式の拳銃も設計図も解説書もありますけど…でも、実弾式は、難があり過ぎなんですよ」



 ライトは、説明した。実弾式の難点を。

 パーツが多くなる為、製造が面倒ということ。弾丸を使用する為、火薬や鉄などの素材が大量に必要になること。

 そして何より、対して火力が出ないということをだ。


 火力に関しては、彼の主観増し増しだが、弾丸の素材に関しては間違っていない。

 幾らラビルには『大迷宮』という資材宝庫があるにしても、出回った実弾式の銃を完全に運用出来るだけの弾丸を安定して製造することは難しいだろう。

 銃本体は恐らく作れるだろうが、弾丸には問題が多そうだということで、ライトは弾丸の必要ない魔法銃だけに絞った。



「――てな感じで、実弾式は良いかなと判断しました。確かに狩猟とか物量作戦には使えそうですけど、ぶっちゃけ魔法で十分です。魔法が使えない、魔法の練度が低い兵士に持たせるにしても、費用が掛かりすぎる。それに一番は、強者には一切通用しなさそうです」

「実際、ライト君には効かなかったんですよね?」

「はい、それにフーリンさんならきっと弾丸を刀で斬れますよ。僕も多分出来ますし…そこまでの強者なら物量も意味が無い程の攻撃出来ますしね」

「成程、納得しました。……それにしても、この団子美味しいですね。何処のですか?」



 話が終わったことを示すためか、フーリンは話題を変えた。

 その要求に応えて、ライトは皿に乗せたガトーショコラをフォークと共にセイクの前に置きながら、答える。



「僕の手作りですね。このテーブルの上にあるのは、全部、僕の手作りです。元々自炊してて料理は好きですけど、最近は菓子作りの方が好きになってます」

「これが…手作り、ですか…ライト君、君は料理が出来るタイプでしたか……」



 彼は、フーリンの顔に陰が差したのを見逃さなかった。

 ここで定期的にある、彼の空気の読めない言動が発動してしまう。



「フーリンさん、もしかして料理できない感じですか?」

「うっ!?」

「……」

「それは駄目ですよ。まあ、僕の意見ですけど、ある程度は出来ないと困りますよ?」

「…………」



 ライトの言葉に、重くフーリンは口を閉ざした。見れば、団子を持つ手が僅かに震えている。

 彼は別に攻めているわけでも否定しているわけでもなかった。だが、余りにも空気が読めていなかった。いや、心の機微に疎いという方が正確かもしれない。


 そして、彼の言葉は、他の所にも飛び火してしまっていた。



「「…………」」



 フーリンと同じように口を閉ざしている少女が二人、ナイとミスティアナだ。


 ナイは、言わずもがなだろう。性格からして料理などせず、全てをライトに任せている。

 ミスティアナは、確かにライトの居ない間に料理の練習をしていた。しかし、正直に言ってしまえば結果は芳しくなかった。そも、普段味覚の無い彼女に料理というのは難しすぎた。


 つまりこの場に居る女性は誰一人として、彼よりも料理が上手くない、出来ない、ということになる。


 この話の中の仲間外れ、トリスはと言うと、藪をつついて蛇を出さないように、出来るだけ気配を殺してライトのスイーツを堪能していた。

 面の皮の厚い商人や性根の腐った貴族を相手をしてきたトリスは、ライトよりも格段に相手の機微を感じ取ることに長けていたようだ。比較対象が間違っているのかもしれないが……。



「その、ライト君。料理を教えてくれませんか?相応の対価は払いますから」

「別に対価なんていいですよ。何も要りません、僕とフーリンさんの仲でしょう?普通に教えてあげますよ」

「そうですか…ありがとうございます…」



 年下に支持するという事実と女としての矜持が、今の彼女の行動に羞恥の感情を与える。

 それから逃げようとした結果、フーリンは新しくスイーツを手にとって黙々と食べ始めた。



「マスター、私も教えてほしいです」

「ミスティも?ふぅむ、向上心があって良いですね。一緒にやりましょうか」

「ありがとうございます、マスター。頑張ります」



 ライトに見えないように、彼女は小さく拳を握った。

 チャンスを物にしたらしい。

 一方ナイは、先を越されたと歯噛みする。



「ライト、ワタシもやってみたいのだけど、良いかしら」

「ナイもですか?何となく、ナイは好きじゃないかなと思ったんですけど」

「まあ、確かに好きではないわね。けど、挑戦もせずにい言い切るのは違うと思うのよ。何事も挑戦してからよ」

「そうですか、なら良いですよ。但し、途中で投げ出しちゃ駄目ですよ」

「分かってるわよ」



 ぶっきらぼうに言いながら、ナイは顔を逸した。

 それは、笑みが浮かんでしまいそうになる顔を隠す為だ。


 こうして、各々違う思いを秘めながらも、料理勉強会の予定が決まった。



◆投稿

次の投稿は5/22(月)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

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その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆蛇足

白き槍「蛇王、蛇王様は料理が出来るんですか?」

蛇の王「まあ、自炊するのし〜お主より出来るぞ」

語り部「まあ僕よりは出来ないけどな」

蛇の王「はぁ?舐めるなよ、小童が。年季が違うのじゃぞ、こっちは」

語り部「それは女の言い方としてどうなんだ?」

蛇の王「関係ないわ!勝負じゃ、語り部!」

白き槍「では、私が審判を」

語り部「え、えぇ〜…」


語り部、突如として周囲に現れたテレビの料理対決みたいなセットに戸惑った。



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