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5-4 ああ、愛しのラビルよ



 活気溢れる人混みと喧騒に、そう長く離れていた訳ではない筈なのだが、懐かしさのようなものを感じた。

 もう面倒臭くなって、姿を隠していないが故に集まる視線を除けば。



「マスター、何処に向かっているのですか?」

「セイク商会ですよ」

「では、トリス様に会うということで?」

「その通りです」



 ラビル帰還12日目(内7日間は睡眠状態)にして、やっと館を出て都市を巡る。

 というよりは、顔見知りに挨拶をしに行くことにしたライト達。


 運良く空は晴れ渡り、青い空が広がっている。



「その、セイク商会って何よ」



 ラビルでは初めて一緒に歩くナイが、質問をしてくる。

 彼女は、大きめのレザージャケットに変わらずのショートパンツ、最早固定化されているサングラスと前よりかはマッチしたスター感のある服装だ。

 ライトのあげた二つのアクセサリーも着けている。



「セイク商会は、僕がお世話になった商会です。このアウトライル王国最大手の商会でもあります。ミスティを落札したオークションの運営とかもやってる、僕達とは関わりの多い商会です」

「へぇ、ミスティの…じゃあトリスさんってのは誰なの?」

「セイク商会の三代目商会長且つ現商会長、エルトリス・セイクさんのことですね。元々大きかったセイク商会を王国最大手まで大きくしたのは、トリスさんの手腕あってこそだったというのは有名な話です」



 トリスはトリスで、ライト達と方向は違うが異常(バグ)、怪物なのだ。



「そんなすごい人、予約とかなしに面会できるものなの?」

「大丈夫です。僕の名前を出せばトリスさんのとこに通してくれるようになってますから」(1-5 冒険者と迷宮の都市、参照)



 と、そんな話をしていれば、セイク商会本店の裏、レンガ造りの巨大な建物。オークションの時に一度訪れた建物だ。

 此処は、セイク商会総事務所という名称が実はある。まあ、ライト達は知らないが。



「貴方、本当に凄いわよね」

「ええ、マスターは凄いです」

「そういうことじゃないのよ…ミスティ」

「違うのですか?」



 額に手を当てて呆れた目でミスティアナを見るナイと、そんな彼女を不思議そうに見るミスティアナを連れて、事務所の玄関を抜けて中に入る。

 受付に居る女性へ、声を掛ける。



「すみません、トリスさんに会いたいんですけど」

「会長は、現在取引の…いえ、お名前を伺っても宜しいですか?」



 急に現れそう告げたライトに、訝しむような顔をしてトリスの現在を伝えようとしたところで、ハッを気付いたような顔でそう聞いてくる。



「ライト・ミドガルズですけど」

「やはり、ライト様でしたか。申し訳ありません」

「いえいえ、別に良いですよ」

「会長は現在商談をしておりますので、直ぐにとは難しいですがそれでも大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」

「では、応接室に通しますので、私に付いてきてください」

「了解です」



 スタスタと歩き始めた受付嬢に、彼らは付いて行った。




 通されたのは、華美な装飾はなく落ち着いた上品な部屋。


 部屋の中央には、テーブルとそれを挟むように大きなソファが二つ。



「会長にライト様のことを伝えてきますので、此処でごゆっくりと寛ぎ下さい。商談後に会長が参りますので」

「分かりました」



 言葉を言い切った受付嬢が出ていき、扉が静かに閉まる。

 室内に静寂が訪れた。



「さあて、待つとしましょうか」

「そうですね、マスター」

「良い部屋ね、嫌いじゃないわ」



 片側のソファの中央に、ライトがボフッと座る。

 そうすれば、右側にミスティアナが座り、左側にナイが座った。


 商談をしているということで、時間が掛かるだろうと判断した彼は、巳蚓魑から自らが作った菓子達と飲み物を取り出す。



「マスターッ、それは」

「起きてからの空き時間に色々作ってたんですよ」

「美味しそうね、流石ライトだわ」



 系統の統一性は無いが、確かに美味しそうな菓子達が、テーブルの上に並んでいる。

 クッキー、パンケーキ、ガトーショコラ、プリン、カヌレ、バームクーヘン…etc.

 全て、館で目が覚めてから、彼女らとの情事や話し合いの合間に作った物たちだ。

 時間的に無理では?と思うだろうが、彼には時空魔法があるので調理時間は無いに等しい。

 こういう時にも凄い便利なのが、虚属性魔法である。



「ストレート、ミルク、レモン、オレンジ、アップル、グレープ。飲み物も準備してるので、ゆっくりしましょう」

「はい!マスター!」

「ライト、ミルクティーをくれるかしら」

「分かりました」



 ハイテンションで返事をするミスティアナと既にケーキを準備されていた小皿に取っているナイ。

 二人共、甘い物が好きというのもあるが、好きな相手が作った物が食べれるということで、元気になっている。

 特にミスティアナは、ライトが居ない間殆ど、彼女の通常運転ではあるが味覚がない状態が続いた為、溜め込まれた欲が解放されようとしていた。


 笑みを浮かべて、甘味を口へと運ぶ彼女らを脇目に、その笑みに癒やされながら彼もまた、口に甘味を運んだ。




 昼前のスイーツタイムを楽しんで小一時間。


 緩やかな雰囲気が流れているところに、コンコンとドアが軽く叩かれる。



「いいですよ」



 ライトの許可の後、ドアが開かれる。



「失礼しますぞ」



 入ってきたのは、恰幅の良い壮年の男――エルトリス・セイク。

 と、その後ろから、



「失礼しますね」



 薄緑色の浴衣を着た長身のエルフ――フーリン・エアライド。

 


「久しぶりですね。トリスさん、それにフーリンさんも」

「最近、姿を見ないと報告が入っていたので、心配していたのですが、大丈夫そうですな」

「気配も一層深くなってますし、唯フラフラ消えていた訳ではないようですね。ライト君、今度手合わせしましょう」

「心配掛けてすみません。手合わせは、是非にです」



 フーリンが居ることには驚いたが、後で行く予定だった。つまりは好都合だったのでそのまま流した。

 二人共、若干の心配を顔に出していたので、苦笑を浮かべて申し訳なさそうに言葉を返す。



「どうしてお二人は一緒に?」

「トリスと商談をしてたんですよ」

「フーリン様とは、懇意にさせてもらっておりますからな」

「何が懇意ですか、昔はフーリン姉さんと、いつも後を付いて来てた癖に」

「ははっ、懐かしい記憶ですなぁ」



 軽く笑いながらそう言うトリスの顔には笑みがあり、二人の仲の良さが関係の具合が伺えた。

 落ち着けば、二人はライト達の向かいのソファに座るのだが、視線が向くのは当然ナイである。



「ミスティアナとはこの間ぶりですが、そちらのお嬢さんは初めてですな。私は、エルトリス・セイク。この商会の会長をしている者ですな」

「私も、初めまして。時風という古道具屋を営んでいるフーリン・エアライドです。ライト君とは、まあ同好の士というところですかね」

「ご丁寧にどうも。ワタシは、ナイ。色々と説明は面倒なのだけど、取り敢えずはライトの所でお世話になっている者よ。関係としてはそうね、ライトの"恋人"ってところかしら」



 トリス達にいつもと変わらない態度だが、少し丁寧に感じる自己紹介をするナイ。

 そして、彼女の紹介の中に混じった"恋人"という文言にそれぞれが反応を示した。

 少し抗議の現れのような視線を向けたのは、ミスティアナだ。



「何かしらミスティ。別に間違ってないでしょ」

「確かに、そうですが……」

「ワタシには、貴方みたいに奴隷になることもヨルみたいに師匠になることも出来ないわ。上も下も埋まってるなら、横しか無いわよね?」

「……まあ、良いとしましょう」



 それで良いのかと思う説得により、ミスティアナは僅かな敵意を掻き消し引き下がった。


 次に、思い出したかのような顔でライトの方を見たのは、フーリン。



「そういえば、ライト君は婚約紋がありましたね。では、彼女がそうなんですか?」

「いえ、違います。婚約者はまた別に居ます。まあ、ナイは…確かに恋人ですかね」

「ライト君…それは不純では?」

「別にヨル、婚約者も納得してますし、一夜を共にしながら恋人ではないという程に関係は浅くは…無いと思いますし」

「何でちょっと間があるのよ」

「時間が全てとは言いませんが、確かにナイと会ってからまだ時間は長くはありませんしね。関係の深さ、という点を言い切るには少しハッキリと出来なかっただけです。けど、ナイはやっぱり恋人ですね。それが一番しっくりきます」



 明らかに、最低な男を見る目に変わったフーリンに釈明をしつつ、ライトはナイが恋人というのにしっかりと肯定の意を示した。

 期間が短いとは思うが、大事なのは記憶。彼女との思い出は、恋人と言うに彼の中で値したし、一番しっくり来た。


 飽くまで客観的な意見だが、ヨルは、師匠という関係から婚約者でも上に感じるし、ミスティアナは、奴隷という関係から好きであり身体の関わりがあろうとも下に感じてしまうのだろう。

 存在する関係、それから生じるバイアスが納得をさせにくくしているのだ。

 ある意味では、関係が薄いと言える。つまりはバイアスが薄いナイだからこそ、恋人と言えるのだと思う。


 しかし、別に彼は好意に順列をつけている訳ではないので、そこは悪しからず。

 しっかり三人とも大好きである。



「別に重婚は禁止されていませんし、当事者同士が納得しているなら余計な口出しはしませんが、ライト君」

「何でしょうか」

「気を付けて下さいね。恐らく、それ以上広がってしまえば……刺されますよ」

「……頭の片隅に置いておきますね」



 ドが付きそうな程真面目な顔で言うフーリンの忠告を真摯に受け止めるライト。

 その裏には言葉から不意に想像してしまった、自身の胴を剥奪槍で貫いているミスティアナが、妙にリアルだったという事情がある。


 そして、反応を示した最後の人物、トリスはというと、



「…………」



 変わらない温和な笑みを浮かべて顎を撫で、ナイを見ているだけだ。

 その瞳には、別に策謀や警戒などの暗さはないが、少しの驚きと興奮が見えた。

 別に彼が少女趣味というわけではないと、しっかりここで言及しておこう。



「それでですね。今日来たのは、帰ってきた挨拶、だけではなくて。僕も一つ商談をと思いまして」

「ほう、ライト殿は毎度面白いものを提供してくれますからな、この歳ながら胸が踊りますな」



 トリスの瞳が商人のものへと変わる。


 実は、エンシェントフォレストドラゴンの魔石や素材の取引後にも、何度かセイク商会を訪れては素材を売っていたりした。

 主に、ソヨへの借金の返済時が多かったが、その後も普通に金稼ぎに来ている。



「今回は…いつもとは、一味違いますよ」



 ニヤリと笑いそう言ってから、ライトはテーブルの上に『一丁の拳銃』を置いた。



◆投稿

次の投稿は5/20(土)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

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その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆蛇足

白き槍「語り部様、お菓子が食べたいです」

語り部「仕方ないなぁ、準備するとしようか」

蛇の王「ちょっと待て、我の時はそんなことしようとせんかったろ、ある物から探してたじゃろ」

語り部「まあ、蛇王だし…それで良いかなって」

蛇の王「我の扱いっ!?」

白き槍「蛇王様、自分の胸に聞けば分かる筈ですよ」

蛇の王「何がじゃ?」

白き槍「語り部様の対応が雑な理由ですよ」

蛇の王「はて……」


惚けたような顔した蛇王の脳内には、常日頃から暴力を語り部に振るう自分の姿が浮かんでいた。



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