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5-3.5 回想――王と神から簒奪する者

5/21…《神器開放(じんぎかいほう)》の技表記を少し変更しました。



 これは、白き少女の回想だ。


 詰まる所、ミスティアナに何があったか、である。



◆◇◆



 吹き飛ばされた身体が壁へとぶつかり、砕けた石材が降り注ぐ。

 痛みは無いが、身体から血が流れ出すのが分かる。

 手へと目を向ければ、身体よりも更に"白い血"が流れていた。


 思えば、初めて自分の血を見た気がした。

 これまでの戦闘で、身体に傷が付いた記憶がない。


 瞬間、向けられた戦意に意識が現実に引き戻される。



「まだ、立てるよね、ミスティアナちゃん」

「待て…ミスティ、お主何故怪我を…いや、そういうことか」

「ん?何か分かったの?ヨルちゃん」

「もう模擬戦は止めた方が良いかもしれん、ミスティの精神が限界だ」

「何処からそう判断したの?」



 耳に、主の婚約者である最強(ヨルムンガンド)圧倒的格上の神獣(ソヨ・ラビットニア)の声が聞こえてきた。

 いつもより、嫌に重い身体を無理矢理に動かし、起き上がる。

 主から与えられた唯一の武器、白き槍を握り締めて。



「まだ…出来ます…ヨル様…」

「いや、駄目だ。明らかに身体強度が下がっているではないか。現代の天羅は、身体強度、防御力、魔力密度が精神状態によって左右される。先祖返りのようなミスティにも、現代の天羅の特性が残っているというわけだ」

「それって、ミスティアナちゃんにとって、強みにも大きな弱みにもなりそうな感じだね」

「ああ、その通りだ。ライトの存在が精神を強くも脆くもする。それに伴い身体能力も変動してしまうからな。全く、相性最悪な過去と現代の特性ばかりが残っておる」



 ヨルの口から自分にも分からぬ、自分の特性を語られ、動揺してしまう。

 身体から微かに力が抜け、視界が霞む。


 それでも尚、倒れはせず槍を構えるのを止めない。



「まだ、出来ます」

「だから、駄目だと――「それでは…」――ミスティ?」

「それ、では――駄目なのですっ!!」


 

 自分でも、驚くほど声が出た。

 身体に限界に近い、無茶だと己でも理解しながらも、諦めるという選択肢だけは選べなかった。

 それは、最愛の主が最も嫌悪することだから。(多分、違うと思うよ?)


 弾け溢れてしまった激情は、止めることが出来ない。

 だが、その激情は良い方向に働いた。



「今、どうなっているかも分からないですが、きっと危険に身を晒しているマスターを差し置いて、私が怠惰を貪るなど、許されてはいけないのです」

「いや、多分ライくんなら休んでって言うと思うよ?」

「私を惑わさないで下さい、ソヨ様。それに、そうではないのです。マスターが、今の私を見てどう言うかなど、関係のないこと。マスターがどうなっているか分からないこの状況で、私が何を思い、何をしたいか。それが重要なのです」



 主は言っていた。自分で考え自分で動け、と。自身の言ったことが全てではないのだと。

 奴隷という身にも関わらず、自分に自由を許し。基軸から外れた異常である、主無ければ生きて行けぬこの身を、愛して下さる主。

 そんな御方の為に、何かをしていたいと思うのは、きっと間違っていない筈。

 理由が不純であろうと、思考が歪曲していようと、この選択と行動は主の意に沿い、且つ自分の意思だ。


 誰が相手でも、主以外ならば曲げるつもりはない。



「そうか……ならば、良いだろう」

「本当に大丈夫?精神ヤバイんじゃないの?」

「かもしれぬが、本人の選択を我らが折るわけにもいかぬ」



 彼女らの会話が、僅かに聞こえる。



「確実に、あのようなことを言っていようともライトの接触が絶たれている現在精神は崩壊寸前だろう。我が幾ら先延ばしにしていても限界がある」

「じゃあ不味いじゃん、誤って殺したりしたら尚不味いよ。ライくんに顔向けできないどころか殺されちゃう」

「そこら辺は何とかしろ、依り代の状態と言えど、お主神じゃろうが。殺さないように意識を奪え、して後はライトを連れ戻すまで、強制的に眠らせておく」

「全く無茶言うなぁ」



 正確には聞こえなかったが、続行はしてくれそうだ。

 意識を集中し、視界を明瞭に戻す。

 震える手に魔力を流し、強化を施す。

 思考を覚まし、相手にのみ狙いを定める。


 話が終わったであろうタイミングを見計らって、口を開く。



「では、行きます」



 返答を待たずして、駆け出した。

 剥奪槍を床と並行に構え、ただ速く駆ける。


 ヨルよりもほんの少しだけソヨへ、拳が構えられるよりも先に穂先を繰り出す。



「――カッ、ハ」



 瞬間、身体が弾けるように飛ぶ。

 肺から空気が押し出され、白血と共に口外へと出る。

 床へと落ちた身体が転がる。同時に、乾いた骨の折れる音が聞こえた。

 左腕に出来痛が走る。地面と接触する時に、こちらが下だったからだろう。



「馬鹿者ッ!強すぎだ!」

「あわわっ!?だから言ったじゃん!止めた方が良いって!滅茶苦茶に弱く、いつもの十分の一くらいで殴ったのに、吹き飛んだんだけどっ!?」

「ミスティの速度も考えろ!――くっ、間に合ってくれ」



 血を流し床に伏す自分へと、駆け寄ってくる足音が近付いてくる。

 音の発生位置と感覚から私が何を思い、何をしたいか、自分の直ぐ傍に近付くタイミングを予測する。



「――い"つ"っ――ハッ!!」



 折れた左腕で身体を起こし、掬い上げるようにして槍を振るう。

 動かした腕に痛みが走るが無視する。

 不意を突いたお陰か穂先が少しだけだが、ヨルの腹に刺さっていた。



「ミス――」

「――《命気剥奪(ロスト・エーテル)》」



 剥奪槍の穂先が僅かに輝いたかと思えば、マグマのように熱い生命の力が流れ込んでくる。


 そしてその刹那、反射且つ位置的に顔面を捉えてしまったであろう、ヨルの蹴りにより再度転がる。

 攻撃の瞬間、ほんの一瞬だけ意識が途切れた。

 意識を取り戻した時には、全身に新たな鈍痛が響いていた。


 しかし、身体は先程よりも動く。

 剥奪槍を杖のようにして立ち上がる。



「ヨル様、ソヨ様。戦いは、まだ終わっていません」

「何でそこまでするのかな?私は止めといた方が良いと思うよ?」

「ミスティ、止めるのだ。それ以上は、保たぬ」

「駄目、駄目、駄目なんです」



 そう、駄目なのだ。

 自分にとってそれは、絶対に許されないこと。

 今だけは、諦めることが出来ない。



「敗北は…死ぬことと同じ…」



 主が、よく口にしていることだ。

 自分が脆くなっているのは、理解している。

 それでも、主の言葉に背けなかった。いや、背きたくなかったの方が正しい。

 


「ミスティアナちゃん…それはライくんが…」

「それはライトの意に反していると――」

「――先程も言いました。私が何を思い、何をしたいか。それが重要だと。私が、そう、したいのです」



 そう言いながら剥奪槍を強く握る。

 自分の意志に呼応したかのように、剥奪槍から意志のようなものが伝わってきた。


 何をどうすればいいのか、いや何を口にすればいいのかが分かった。

 無意識に、口は動いていた。



「――《神器開放(じんぎかいほう)》」


―――剥奪槍(ディグレストーン)⇛開放:≪全能から墜と(ミスティルテイ)し簒奪する者(ン・ロンギヌス)

 


 剥奪槍が神々しい光を放つ。

 視界を塞ぐ程の光は直ぐに収まった。



「ヨル様、ソヨ様…勝たせていただきます」

「ヨルちゃん、アレ不味くない?」

「ああ、かなり不味いな…恐らく、性質が"神殺し"と同じだ。喰らったら、唯では済まぬかもしれないぞ」



 大きく伸びた穂先が白銀から白金色へ変わり、真っ白な柄には黒い幾何学模様が走っている。

 何故か槍の周囲だけ空間が重くなるような感覚を受けた。



「では――行きます」



 バチバチと白い雷を放ちだした、神々しい槍を構えて、再度駆け出した。



 その後は、さあどうなったのだろうか?

 大体の想像は付くであろう。

 それでは、回想は終了。続きを語っていくとしよう。


 にしても、勝手に主人公よりも超強化の入るヒロインとは、どうなのだろう?

 気にしても、仕方がないか……。



◆投稿

次の投稿は5/18(木)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆蛇足

蛇の王「何か今日は少し語り口調が違ったような…語り部、どうした?」

語り部「当然じゃん、最後以外僕じゃないですし」

蛇の王「それはどういう」

白き槍「…………」

蛇の王「ぬおっ!?いつの間にっ!?」

白き槍「これは…そのそういう体ですればいいのでしょうか」

語り部「うん、それでいい」

白き槍「では、分かりました。初めましてですね、蛇王様」

蛇の王「う、うむ…よろしく、な?」

白き槍「はい」


こうして、愉快な仲間が最果ての観測所に、仲間が一人増えた。



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