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5-2 傲慢系の姫様は、やっぱり強引




 ミスティアナの驚異的な成長に一種の悟りを開いた翌日。

 今日は、風の日。ナイが独占優先権を得ている日だ。

 昨日の二人のように、同じソファに座っているが、密着はしていない。


 ナイは、いつものような奇抜な格好良い系の服装ではなく、今は何故かフリル多めの黒と紫色のドレスを着ている。

 タナトスのようなゴスロリ系のドレスと言えば分かりやすいだろうか。

 いつもと大きく雰囲気は違うが、完璧に着こなしている。

 元々常人離れな彼女の美しさが、更に際立っている。恐らくヨルが作った物だと思うのだが、毎度のごとくセンスが良すぎる。

 実はライト、この手の服かなり好きだったりするが、口にはしない。


 彼女の用意してくれた、冷たいレモンティーで喉を潤した後、話しかける



「率直に聞きますけど、ヨルとのこと、どうなったんですか?」

「貴方のお陰で見逃してもらえたわ」

「成程……良かったです」



 ヨルとのこと、とはヨルが彼女の破壊を試みていたことだ。それをライトが拒否したから二人は衝突することになった。

 相打ちになった為、彼は事の顛末を知らない。

 ナイが生きている、二人が共に居ることから、最悪の結果にはなっていないのは分かっていたのだが、一応彼女自身の口から聞いておきたかった。


 安堵の息を吐く。

 すると、ソファについていた手に彼女の手が重ねられ、指が絡められる。

 反射的に彼女の方を向けば、二人の視線が交差する。



「ナイ?」

「ありがとう、ライト」

「何ですか、急に」

「いえ、これだけはハッキリ言っておく必要がある気がしたのよ」

「そうですか…どういたしまして」



 目を合わせて、感謝を述べられると何だか気恥ずかしくなって、顔を逸してしまう。

 くつくつと笑いながらも、彼女はこちらを見続けている。



「何よそれっ」

「仕方ないじゃないですか、慣れてないんです……あの、あんまりこっち見ないでください」

「いやよ、もっと見せなさい」



 紅くなった顔を隠しそっぽを向いて、逃げようとするライトを更にしっかりと指を絡めることで止めるナイ。

 言葉にしょうのない羞恥心を、ゆっくりと時間を掛けて抑え、落ち着きを取り戻した彼へ、ナイが優しくも真剣味を帯びた声で話す。



「でも、本当に感謝してるわ」

「何にですか?そんな大それたことした気はありませんけど」

「貴方にとってはそうかもね。けどワタシからしたらそう感じたってことよ」



 ライトは、思うままに行動しただけ、彼はいつもそうなのだ。

 彼は、知っているのだ。如何に他人の為と言おうとも、個人が行動する理由はほぼ全て自分にしかないのだと。

 他者を助けるのは、自身の傍に居てほしいから、居なく無くなってほしくないから。

 他者との約束を破りたくないのは、自身がその後の結果を不快に思うから。

 そして、他者を信じるのは、自身が他者を信じたいから。


 行動の先に自身への得がある行動しか人は出来ない。他者の存在は、行動の理由足り得ない。全ての理由は自身の内にしか存在し得ない。

 無意識の中、内にて損得勘定が行われ、それを知らずに他者の為と言い行動するのである。

 だが、それでいいのだ。それらを理解する必要はない。


 理解してしまえば、自己中心的な者になってしまうからだ。ライトは、それが丁度良く噛み合う者だった、それだけのこと。

 だからと言って、他を思う心が無いわけではない。彼も他者を大切にするが、行動の理由の根本に他者がない、それを理解している、ただそれだけ。

 それ以上でも以下でもない、気にする必要はない。



「貴方がワタシの下を訪れなきゃ、連れて行ってくれなきゃ、ワタシは彼処で唯朽ちていくだけの存在だった。例えそれが偶然だったとしても、ワタシの中では奇跡であり、必然よ」



 迷いもなく、そして熱の籠もった声でそうナイは言う。

 それと同時に、彼女が着けているライトがあげたドレスには若干合ってない、ペンダントとブレスレットが揺れる。

 彼女は、何故かどんな服装でもこの二つのアクセサリーを着けている。彼女の彼への想いの現れだろう。



「ワタシ、実はね。貴方のことを止める気だったの」

「止める気だった?もしかして、ヨルとの戦いの時ですか?」

「よく分かったわね」

「止める機会なんて、あれしかありませんでしたし」



 少し雰囲気を変えて口にされたナイの言葉から、即座にどういう意味か気付く。

 ライトの言う通り、止める機会はあの時しかなかった。



「あの状況は、ワタシのせいだった。ワタシという存在が全てを招いた戦いだった。ワタシは、ワタシのせいで貴方に傷ついて欲しくなかった」

「でも、結局は止めませんでしたよね」

「ええ、そうよ……」



 そう一旦区切ると、深い愛の垣間見える笑みを彼女は彼に向ける。



「ワタシは貴方に『信じてる』って言ったわよね」

「僕を逃がす時に、ですよね」

「あの時、正直に言って期待してなかった。魔王の力は凄まじかったし、数的不利もあったから、それほど期待してなかったのよ、本当に」

「けど、僕は行きましたね」

「本当に、嬉しかったわ」



 手を握る彼女の力が強くなる。

 無意識に力が籠もってしまっているのだろう。



「そして、貴方は覇王と最も戦いたくないであろう蛇の王、ヨルと戦うことになった」

「……」

「その時、貴方言ってくれたわよね。『俺は俺の為に好きな女を守りたい』『お前の背負う、あらゆる因果すら断ち切ってやる』って」

「ですね……」



 改めて口にされると気恥ずかしくて堪らない。

 また、ライトの顔が紅みを帯びてしまう。

 同じように逃走は許されていないのが、苦しいところだ。



「それを聞いた時、ワタシの中で貴方の存在が変わったの。あの時のワタシは記憶を取り戻した影響か、貴方を少し下に見てた、けど、あの言葉で気づけたわ。やっぱり貴方にはワタシの隣に立っていてほしい……いえ、貴方の隣に立っていたいって思ったのよ」



 気づかぬ前に、ソファの座面に押し倒される。



「ワタシが『信じた』貴方を、ワタシを『信じてくれた』貴方を――好きになったの」

「あの、ナイ?何を――んっ」



 喋るライトの口に強引に唇を重ねられる。

 急で、熱くも優しい、前と同じで彼女らしいキスだ。



「――今日は、出かける予定は無いわよね?」

「駄目です。今は、昼間ですし…」

「夜なら良いのね、言質貰ったわよ」

「い…え、まあ、でもまだナイとはしたことありませんでしたよね?」

「でも、だからって駄目なわけじゃないわよね」

「あ、はい…そうです」



 ナイの瞳から、ヨルやミスティアナと同じ妖しさと覚悟を感じ取ったので、諦めることにした。

 彼女が離れ、ソファの元の位置に戻る。


 話の終わりや雰囲気の切り替わりを感じたライトは、それに応えるべく別の話題を振る。



「ナイはこれからどうするんですか?」

「どうするって何よ」

「何をしていくか、ですよ。記憶を取り戻した今なら、別に僕達に、僕の旅に付いて来る必要は――」

「――付いていくわよ。何を聞いてたのかしら?」



 若干怒ったような顔で、そう言ってくる。というか怒ってる。



「ワ・タ・シ・は!貴方が、好きなのよ、ライト。貴方の下を離れる気はないわ、地獄へも天国へも、死んだその先も、付いていくわ。絶対に逃さないわよ」

「…じゃあ、この先もよろしくおねがいしますね、ナイ」

「ええ、任せなさい!」



 晴れやかな彼女の笑顔は、やはり見惚れるほど美しかった。


 その夜のことは、語らないでおこうと思う。


 語り部の仕事放棄だって?知ったことかよ。



◆投稿

次の投稿は5/14(日)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆蛇足

語り部「ナイ、好感度高いな。何でこんなにもライトはモテるのか」

蛇の王「そういう物語で、そういう風に書かれているからじゃろう?」

語り部「身も蓋もないこと言うな!」

蛇の王「では主人公補正じゃ」

語り部「同じことだろうが!はぁ…、まあナイとの出会いは確かに"作為的"と思えるが、偶然かもしれないだろ?幾ら運命的と言えど」

蛇の王「だから、作者が――」

語り部「――違ーう!そういうことじゃないんよ、蛇王。いつからそんな察し悪くなってしまったんだ」


天を仰ぎ、わざとらしく泣く語り部を冷たい視線で見る蛇王が居た。



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