4-E 旅の終わり、夢の間で
「――へうあっ!?」
妙なくすぐったさを感じて、ライトは飛び起きた。
「やっと起きた、この馬鹿」
「そう悪く言わないで……可愛そう……」
「はぁ?コイツのせいで、アタシがどれだけ苦労したと思ってるの?」
よく響いているが、聞き覚えのない声に思考が覚めていく。
そして、通常の世界では感じることの無い独特な感覚に、此処がどこであるか理解する。
「他の界なら、『八彩鉱王』の座から外されても可笑しくなかったの!罵倒くらいで済むなら安いでしょ!!」
「うん……そっか……」
「うえ…タナトスしゃま?――ううんっ!タナトス様?」
身体を起こして、声の聞こえた方を向く。まあ、正面なのだが。
そこには二人の、いや二柱の神が居た。片方は言わずもがな、死神のタナトス。
もう片方は、というと。
「敬いなさい、この馬鹿王」
「……タナトス様、この生意気なガキは?」
「誰がガキよっ!!」
白と水色を基調とした法衣、空色の長いサイドテール、青みがかった白い瞳とその奥に見える時計の紋様、タナトスと同様にこの世の者とは思えない美貌、そしてライトと変わらない身長の少女。
この空間に居ることから、神であることは確定なのだが、初対面でのあまりに尊大な態度で彼の敬う心は消え去った。
別に彼は神を元々敬っている訳ではないので、当然とも言える。
「時空神……クロノス……私と同じで君の管理下の理……その神格存在だよ……」
「時空神、こんなちんちくりんがですか?」
「ちんちくりんで悪かったわ、ね!!」
「ヴッッッ!?」
明らかに煽るようなライトの言葉の直後、クロノスの拳が彼の腹を抉る。
膝から頽れ、蹲る彼を冷たい瞳で彼女は見下ろす。
タナトスが、辛そうな彼に近付く。不思議とその顔には笑みが浮かんでいた。
「ゲホッゴホッゴホッ」
「ああっ……大丈夫?……今治すね……」
「そんなやつ、治してやる必要ないわよタナトス」
「うるさい……クロノス……ちょっと黙ってて……殺すよ?……」
「ちょっ、ちょっと待ちなさい。純戦闘向きのアンタとアタシじゃ勝負になんないでしょ?止めましょ?」
「だから……殺すって言った……そもそも……負けるなんて……思ってない……」
ピキッと、何がとは言わないがキレた音が聞こえたような気がする。
クロノスが、歪んだ笑みを浮かべた。
「へぇ、そんな風に言うことあるのね、タナトス。喧嘩売ってるのかしら?」
「そっちこそ……私とこの子の時間……邪魔しないで……目障り……」
「ふぅん、じゃあやりましょうか。確かにアタシは戦闘向きじゃないけど別に弱いって訳じゃないのよ?」
「弱い犬ほどよく吠える……雑魚なクロノスには……敗北がお似合い……」
「…絶対泣かす」
二柱のしょうもない理由からは始まった戦闘が行われる。
次元の違う力がぶつかっても、同じような力で作られた空間だからか、周囲に負荷が掛かっているようには思えない。
数分後。
「うぅ、すみませんでしたぁ」
「口ほどにもない……本当に雑魚……」
ボロッボロの身体で地に頭をつけて謝罪するクロノスとそんな彼女を笑みを浮かべて愉しげに見下ろすタナトス。
ライトには、早すぎて何が起きているか認識出来なかったが、恐ろしく早く戦闘が終わったのは理解している。
何をすれば良いのかわからなくなった彼は、取り敢えず彼女らの方に近付いていく。
「それで、今回は何で呼ばれたんです?」
「君は……何処まで覚えてる?……」
「覚えてる?……………覚えてませんねぇ、何か記憶が曖昧です。ナイと…ナイと…いやヨルとか?あ、あれ?」
「やっぱり……記憶の混濁が……起きてるか……」
「どういうことですか?」
頭の上に?マークを浮かべて、あたふとと首をひねるライトを見て、勝手にタナトスは納得する。
そこで、バッと音を立ててクロノスが起き上がった。その身体・服には傷の一つもない。
「それは馬鹿王、アンタが無闇矢鱈に時間遡行を使ったからよ」
「時間遡行?……言われれば、やったような気がします」
「やったようなじゃなくて、やったの然も適当にね」
「適当だと何か問題があるんですか?」
「大ありよ!!」
直ぐ横で大きな声を発された為、耳を塞いだライト。
直ぐさま不満を顔に表して、彼女の方を向く。
「うるさいんですけどクロノス」
「何でアタシには様付けしないのよ!」
「威厳ありませんし、タナトス様とは格が違います」
「アンタ、本当に生意気ね」
「そっちこそですよ」
この二人、多分かなり相性が悪い。
互いに初めから、相手に対して敬うという気が無い為に衝突しやすい。
「クロノス……先に事情を説明してあげて……」
「けっ、仕方ないわね。一回しか言わないからしっかり聞きなさい」
「言われなくても」
「アンタは蛇の王と戦ってたのよ、事情は後で思い出しなさい。何はともあれ蛇の王と戦ってたアンタは、管理している虚の理を使って、時間遡行をしたの」
「時間遡行、巻き戻しですか」
見に覚えのあるような無いような、不思議な感覚を覚えながらもライトは話を聞く。
「さっきも言ったように適当な、ね。適当な時間遡行は、状況の矛盾を作っちゃうのよ。周囲の環境は戻ってるのに、殺した生物の状態は戻ってないみたいな感じで」
「ふむふむ」
これは、ライト自身が体験し疑問に思ったことだ(今は微妙だが)。
雑だと何かしらの問題が起きるのは何処でも同じだ。
「でよ、その状況の矛盾が、今度は時空の歪みっていうのを作っちゃうのよ」
「時空の歪み……」
「時空の歪みはね、世界の腫瘍のようなものだと思いなさい。放置していると、加速度的に広がって世界を崩壊させてしまうわ。それを、それをアンタは三つも作ったのよ!!消すのにアタシがどれだけ苦労したと思ってんのよ!!」
「くあっ、やめっ――」
コートの襟部分を掴まれ、前後に大きく揺らされる。
視界が動き、気持ち悪さを感じ始めたところで、漸く止められた。
今ので理解したが、見た目はアレだがライトよりも力は強いらしい。
「はぁはぁ…」
「クロノス、てめ、うっぷ…気持ち悪っ」
「ふっ、いっ好い気味ね。はぁ、疲れた」
「体力、無さすぎだろ」
「うるっ、さいわねぇ」
明らかに息を切らし、疲労を露にする彼女に益々神であることが信じられなくなってきたライト。
疑心が、顔に出ている。
「クロノスは一応……これでも……神……」
「本当、ですかね?まあ、どっちでも良いです」
「良くないわ!アタシは神よ!」
「で、今日呼んだのは、もう、適当に使って時空の歪み作んなって注意する為ってところですか」
「ちっ、ええそうよ」
彼は、クロノスの言葉から呼ばれた大体の理由を察していた。
しっかりとした記憶は無いが、タナトスが居る以上は嘘ではないのだろうと判断した。
「当然、その為に何かしらしてくれるんですよね?」
「え?」
「何ですかその反応、注意だけで操作が上手くなるわけ無いじゃないですか。何かしてくれますよね?そんなまさか、崇高な存在である時空神クロノスに限って何もしてくれないなんてことありませんよねぇ?ねぇ?ねぇ!」
流石の態度である。
こんな時でも、相手から掠め取ること、自分の得を逃さないように増やすようにしていく姿勢、嫌いじゃない。
わなわなと彼女の口が震えだす。
やがて、決心したようにキッと鋭い目をライトに向けてくる。
「この、今回だけよ、馬鹿王!」
「ちょ、何をっ」
「黙ってなさいっ――」
先程と同じように掴まれたが、先程とは違い揺らされるのではなく、彼女の顔に引き寄せられた。
強引に唇が重ねられた。
彼の印象としては、不器用な慣れていない人がするキス、というところだ。
そのくせ熱く重ねられており、下手さが滲み出ている。
唇が離された。
「あ、アタシの加護をやるわっ。これで多分操作しやすいわよっ…」
「そうですか…それにしてもクロノス」
「何よ?アタシの加護なんか要らないって言うわけ?」
「そうではなく」
「じゃあ、何よ」
「キス、ヘッタクソですね」
瞬間、ライトはクロノスを見失っていた。
鈍く強烈な痛みが走る最中見たのは、腰を低くして拳を自身の腹にめり込ます彼女の姿。
「ゴッハッ!?!?」
「この、この…馬鹿王がぁ!!!」
彼が最後に見たのは、倒れた自身に馬乗りになった彼女が、涙目で拳を振り下ろしてくるシーンだった。
第4章 奇界な旅路と王を冠す者
―――Read Finish.
◆投稿
次の投稿は5/8(月)です。
◆読者の皆様へ
これにて『第4章 奇界な旅路と王を冠す者』終了。
ここまで読んで戴きありがとうございます。そして、面白いと思って頂けたなら幸いです。
最近は更新が酷く不安定になっておりました、体調不良と仕事などの区切り目が重なりまして、誠に申し訳ありません。
今章は、今までとは場所を変え、魔王と覇王などの存在の登場に、多くの伏線を張った戦闘多めの感じでした。次章は元に戻りつつ、戦闘少なめの穏やかかもしれない章になる予定です。
新たに加わったナイが問題を?ヨルとライトの関係に何かが?遂にミスティが完全に暴走?等々、飽くまで予定ではありますが賑やかになりそうですのでお楽しみにしてお待ちぐださい。
あと何時も通り下の『◆作者の願い』通りにして頂けますとその通りに、大変励みになりますので是非に!
それでは皆様、お身体に気を付けて。
◆作者の願い
『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。
後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!
その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!
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◆蛇足
蛇の王「久しぶりに、我ら、復活!」
語り部「いやぁ〜やっぱり戦闘を書くのは難しいですなぁ、そのせいでこのコーナー削れたと言っても過言じゃないし」
蛇の王「もっと頑張れ、作者、我らの活躍を増やすのじゃ!」
語り部「僕達、後書きだから脇役ですやん」
蛇の王「脇役が主役を喰って何が悪い」
語り部「呆れたよ、蛇王には」
蛇の王「そんな事言って、我と一緒に居られて嬉しいじゃろ〜?」
語り部「そりゃそうだろ!」
その後も二人は、出来の悪い小ボケを続けた。




