4-30 第ニ次 黒剛の王VS蛇の覇王 下
《黒剛彩王-虚の理-神罰執行-悪逆非道-暴虐非道-etc.+疑神暗戯-終末的退廃理論-狂気恐悦-傲慢不遜-etc.+戦威無為》
―――八彩王法:黒刃は、天地を壊す
黒が空間を破壊していく最中、鮮血を散らしながら宙を舞うヨルの腕を反射的に掴んでいた。
その意識の隙を突かれる。
《蛇之覇王-蛇王蛇法-武術・蛇道:神級-戦威無為-堅牢堅固-神喰-不動-隔絶-破魔-etc.》
―――超級武術・蛇道:奇紺翠の光蹴・命蛇吸牙
首裏、項の辺りに青緑の光を放つ蹴りを受けた。
明確に、骨の砕ける音が辺りと脳内に響く。吹き飛び、跳び転がる身体を止めようとするが、全く動くことはない。
(だめ…だ……)
意識があるのが、生きているのが不思議な状態だった。
攻撃箇所的に、脊髄を逝かれた筈。
人間とは違うとしても、基本的な身体構造は大差ない。既に死ぬか意識を失っていても可笑しくないのである。
感覚は殆ど無く、この惨状にも関わらず痛みはそこまで感じていなかった。
(い、や……まだ…)
《黒剛彩王-虚の理-神罰執行-悪逆非道-暴虐非道-etc.+疑神暗戯-終末的退廃理論-狂気恐悦-傲慢不遜-etc.+戦威無為》
―――虚の理:≪時間支配法則・時戻しの全舞≫
首元に浮かんだ淡く光る全舞がギリッと音を立てて回転する。
遡行したのは、イグニティを地面に振り切った場面。これまでとは違い、直近に巻き戻った。
宙を舞うヨルの腕を掴み、今度は背後で膨れ上がる殺気に気付く。
イグニティを即座に逆手で持ち直し、強引に地面を這い上げるように背後へ振り上げる。
さっき程ではないが強い衝撃が襲い掛かる。だが、生身で無いからか、それほどのダメージは受けていない。
「くっ、危ねぇ」
「やられたぞライト。よもや我が腕を持っていくとはな」
「こっちは心臓持ってかれそうになったんだ。文句言うなよ?」
「む?心臓だと?何を言っておるのだ?」
「は?そっちこそ、人の胸を貫いておいて何を」
「我の記憶には、欠片もないな」
二人の会話は噛み合っていなかった。
ライトは、確かに心臓をヨルに握られたが当の彼女は知らないと言う。
そんなことは無いと知っているが故に否定するが、どうにも要領を得ていないように思える。
(時間遡行の前の記憶は、俺しか覚えてないのか?)
思考の後、そんな考えに至る。というかそうとしか考えられなかった。
偏にヨルが嘘を吐いているように思えないのもあるが、何より嘘を吐く必要がないからだ。
嘘ならば同じ攻撃をする意味がないのもある。
同じ攻撃は対応される確率が高い、他の技を使う方が当然得策と言える。
(ヨルなら的確に対応する筈、ならやっぱヨルに遡行前の記憶がないってことだ)
「全くライト、お主は戦闘中に頭を働かせすぎる」
「……」
「例え、切断面が黒の王気の【侵蝕】で荒れようとも、直せないとでも思ったのか?」
「いや、そういう訳ではないんだけどな…」
今の思考力を使用した思考時間は三秒にも満たなかったが、彼女にはそれでも駄目だったらしい。
まあ、光速戦闘ならば、絶え間なく攻撃を行い合う。一秒以下の隙も確かに致命的になる。
斬った筈のヨルの腕は、元に戻っていた。しかし、斬った腕はライトが持っている。矛盾ではない。
熟、蛇王蛇法の治療は厄介だ。普段頼りにしているものが敵に回ると面倒だということを思い知らされた。
「じゃあ注文通り」
「――遅い」
―――神級武術・蛇道:天拳白金・迅雷蛇孔
「グッ!?」
叩きつけるような、白光の拳を反射的に両腕を交差させて受けた。
腕に爆発したかのような痛みが走る。それが、骨の砕けた痛みだと理解するのに時間は掛からない。
(さっきより威力が段違いだっ。やっぱ上があるかっ!!)
「まだ終わっていないぞ」
後方へと飛ばされるライトにヨルが切迫し、拳を振り抜こうとしていた。
「それは、こっちもだよ!」
―――虚の理:≪時間支配法則・時戻しの全舞≫
明確なイメージの下、時間遡行を行う。ギリッと金属音が鳴る。
身体は飛ばされていない、腕の骨は砕けていない。
イグニティとヨルの腕を持っている。
彼女の拳が――迫っている。
逆手で持ったままのイグニティの刃を持ち上げ、またしても強引に身体と拳の間に滑り込ませた。
「――フゥッ!」
「対応するか。気を抜いていたと思ったんじゃがな」
「ああ、抜いてたよ。だけど間に合っ――な、ぬぐ…」
(ヤバい、頭痛ぇ、前が見えない。何が起こった)
攻撃を防いで距離を取った瞬間、彼は膝を突いた。
グワングワンと視界が歪み、時折黒くなる。所謂、眼前暗黒感と呼ばれるものだ。
今の状況で何故起こってしまったのか、運が悪い…訳ではない、これは必然的に起こっている。
(ちょっと待て…俺今魔力すっからかんじゃないか…どうして、つまりこれは魔力切れの症状か…。一体何故、どうして…いつ使った。そもそも、魔法なんて使ってない。術で少しつかったとしても、これだけは……加速加重も初級魔法くらいの魔力しか使って―――まさかっ)
時間遡行のような超常の現象が何の対価も無しに使えるわけがなかった。
呼吸が荒くなる。その異変を感じてか、ヨルは手を出してこない。本気でやるといくら言っても、こうして情けを掛けられているのだ。
(たった四回、四回だぞ?)
ライトが時間遡行を使用した回数である。
(神罰執行で魔力そのものが増え、模倣で魔力量だけが増えた分、徐々に回復してた。それで尚、切れたって言うのか……)
何度目か分からない問い掛けを自分自身へと投げた。
答えは返ってくることはない、確証はない、事実はない。だが、心の奥底では、そうであると理解していた。
敗北の二文字が頭を揺らし、諦めの二文字が思考を鈍らす。
(こんなことで終わりだって言うのか?)
絶望の二文字が重くのし掛かってきた。
(全ては俺の管理能力の杜撰さ原因か……っ)
不意に手に持つヨルの腕に目が行く。
何故か、反射的に掴んでしまったそれは、異様な存在感を放っている。
そして、最悪な考えが頭を過った。
だが、一度考えてしまった考えは抜けない。ブクブクと膨れ上がり、我が物顔で脳内に居座り続ける。
やがてそれは、強迫観念へと変わり、そうすべきだと俺に訴え掛けてきた。
怠い腕を動かし、ヨルの腕を持ち上げる。
「ライト、何を――」
そんな戸惑いの無視して、彼は持つヨルの腕の人差し指にかぶりつく。
肉を裂き、骨を断ち、血を啜り、咀嚼する。
一通り砕き噛み締めたそれを、喉の奥へと流し込む。
彼は、酷く顔を歪めた。それは、指が不味かったからではなく『美味しかった』から。
愛する者の一部を喰らい、ましてやそれに美味しさを感じる自分自身が気持ち悪くて仕方がなかった。
それでも尚、手を止めることは出来ない。
美味がもたらす飢えが、停止を許さない。
ただ、肉を咀嚼する音だけが辺りに響いていた。
数分もしない内に、ライトはヨルの腕を貪り尽くしてしまった。
幸福感、満足感とも呼べるものに浸り、彼はボーっと虚空を眺める。
「……ら、ライト…お主…」
「…――っ!?ととっ、危ない」
明らかに戸惑いを含むヨルの声で、意識が覚める。
血に濡れた口元を行儀悪くもコートの袖で拭い、立ち上がる。
視界の歪みや苦しさは嘘のように消えていた。冷めた思考がよく回る。
「いやぁ、済みません。待ってもらって」
「そ、そういうわけではないのだがな……」
清々しい顔で言うライトに、ヨルは曖昧な笑みを返す。
そんな緩い雰囲気は、直ぐに消えた。
「情けを受けたわけですし、不甲斐ないところは見せません」
「聞きたいことは、多くあるが、今は良いとしよう――構え直せ、ライト」
「はい、ヨル」
再度、戦意がぶつかる。
◆投稿
次の投稿は5/2(火)です。
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◆技解説
スキル技録
超級武術・蛇道:奇紺翠の光蹴・命蛇吸牙 時空系身体加速を行い蹴りを放つ 使用した対象に状態保持を付与する 使用した対象から命気を吸収し自身の命気へ変化する
補足:状態保持 付与対象を付与時の状態で保持・固定する 最高位であれば時間経過の無効化や死亡するほどの怪我でも生存可能
神級武術・蛇道:天拳白金・迅雷蛇孔 身体の硬質化を行った拳を叩きつける 雷を纏うことによる雷電系身体加速あり 対象の身体を破壊した場合全・身体能力上昇 使用中は身体接触により起こる状態異常を全て反射又は無効にする




