4-27 それでも、譲れないもの
「何故、そうなる?」
「しらばっくれないでくれよ。お前は、知っているんだろう?ナイが、俺にとって見殺すなんて到底出来ない存在であることなんて」
「……ああ、そうだ。その上で、我はその神の器を壊すと言っている」
「それは許せない。だから、お前は俺の敵になる、それで良いかと確認した」
両者から放たれる圧と魔力がぶつかり合い、空間が軋むような音を立て始める。
飽くまでも冷静な言葉のヨルと言動の節々に怒気と敵意滲ませているライト。
一触即発、とまでは行かなくともかなりギリギリな状態であった。
「何故、その器に執着する?ライト、たかが合って一ヶ月前後の相手に、何故そこまで」
「時間じゃねぇんだよ、ヨル。ナイは、俺が俺自身が守りたいと思えるだけの女だ。器だとか、そんなことどうだっていいだよ。普通に喜怒哀楽を示す、少し面倒な一人の女。だからこそ、その背負うものから俺は守ると決めた」
「そうか…では、我はどうなのだ?」
真剣な顔で、彼女は問うてくる。
それに対して彼もまた真剣に返した。
「同じくらいに大切だし、守りたいとも思う…愛しているさ。だけど、それは俺がお前と敵対を止める理由にも決定打にもならない。俺は、俺の意志で動いてる。俺がお前の行動を許せないと判断した以上、俺がお前の邪魔をしないことはない。俺は、ヨルがナイを殺すことを許容できない。だから、全力でそれを阻ませてもらう」
ヨルを前にして、そう彼は言い切った。
彼女とは、これ程までの言い合いをしたことが無かった。する必要が無かったとも言える。
話題が違えど、同じような状況の時には、どちらかが早々に折れてそれで問題なく収まっていたのだ。
ならば何故今、こうしてぶつかっているかと言えば、それは双方共に譲れないものがあるからだろう。
「平行線、なのだろうな」
「今の俺達には、妥協なんてあり得る訳がない。お前の言う通り、このまま話し合いで終わることはないだろうな」
「……やることは、一つという訳か、だが――」
「――お主では我に勝てない。なんて言うんじゃないだろうな?ヨル」
「…………」
その沈黙が、ライトの言葉を何よりも肯定していた。
忌々しそうに、顔を歪める。言葉自体は、確かに間違っていないことを彼自身理解しているからだ。
ヨルと行動を共にしていなかった約一ヶ月間、その程度で彼女との実力の差は埋まる訳が無い。
絶対的な差がある、生半可な時間では、才能では覆せない差が。
故に、彼女は『最強』なのだ。知る者が少ない中でも誰も異を唱えることはない。
『最強』と名乗れるだけの、強さを彼女は持っているから。
「舐めるなよ、最強。お前がどこまでしってるか俺には分からねぇが、俺は最強を超える男だ。お前へのお前へだけの対策を準備していないとでも思ったのか?」
「……なればこそ、見せてみよ、その策とやらを。蛮勇宿す、黒き王よ」
彼女はニヤリと、見慣れた笑みを浮かべる。
状況が状況でなければ、ライトもまた笑みを浮かべていたことだろう。
今にも戦いが始まりそうな雰囲気なのだが、このまま始められると非常に彼としては困るというか、戦いに集中できない可能性があった。
「戦う前に言うのも何だと、虫の良いことだと分かってるんだが、言っておかなきゃいけないことがある」
「何だ?」
「正直、横槍が入った場合には俺は絶対に勝てない。ヨルの態度を見るに『七種覇王』なんだろうがよ、そんな化け物同時には相手出来ない」
これは本心でもあり、嘘でもあった。
全員を相手にするだけの秘策は無い訳でも無かったが、それは不確定要素が多すぎる上に自爆に等しい行動だった。
故に、彼はヨルに万全に且つ、無駄な無理せず戦える状況を求める。
「成程、我は元々一対一の予定じゃったが。そういうこともあるか。では、存分に戦えるようにしよう」
「求めるのは三つ、俺達の戦闘への不介入と戦闘終了時までのナイの安全保障、そして俺が戦闘に勝った場合、お前ら全員が神の器の破壊を諦めることだ」
「あい、分かった」
彼の言いたいこと、要求の意味を理解した彼女は後ろ、自らの仲間の方を向く。
いつもは感じさせない王の覇気を放ちながら、鷹揚に口を開いた。
「これは命令だ。我とライトの戦闘の最中に我らと神の器への干渉を一切合切全て禁ずる。戦闘終了後は我の命令無しに行動することも禁ずる。これを破った者は、殺すか折檻じゃ。疑わしきは罰せよ、そも何もする必要はない、だから何もするな。何かした時点で我に反したと見なす。我は二度同じことは言わん、分かったな?」
『…………』
ヨルの言葉が終わると、5人?は二人から距離を取り、全員が一箇所に集まり地面へと腰を下ろした。
訓練された騎士のような、一糸乱れぬ動きに若干の気味悪さ感じる。
しかし、そんなことを気にしている必要はない。
彼女の言葉の途中で、ライトはナイの囚われた水晶へと手を伸ばして、触れていた。
「…ナイ、お前がどういう存在であるか」
「俺には完全には把握しきれてないし、把握する必要もないと思ってる」
「重要なのは、ナイがナイであるということだ」
「傲慢不遜だけど、繊細華奢なナイが好きだよ」
「好きだから、俺は俺の為に好きな女を守りたい」
「生まれ持った何かが、ナイの幸せの邪魔をするのなら」
「俺は、俺の全てもってして――」
答える筈もないのに、言葉にする。
「――お前の背負う、あらゆる因果すら断ち切ってやる」
―――神罰執行
だが、彼の顔には、しっかりとした覚悟が刻まれていた。
ライトの変化と同時に水晶が光を放ち、砕け散る。
中から出た、ナイをいつものお姫様抱っこの形で、抱える。
開かれた、黄金の瞳が彼を射抜く。
「この、馬鹿っ…」
「説教は後で幾らでも聞くさ、だから今は離れていてくれ」
「本当にっ…唯で済まさないから…だからライト…」
「何だ?」
「絶対にワタシを――『守りなさい』」
「ああ――んっ」
首裏へと腕が回され、顔が近づき、唇が重ねられる。
急に、強引にはするが、行為自体は熱くも優しい。彼女を表したかのようなキスだった。
キスの後に、ライトは一気に跳んでヨル居る場所から、150m程離れた場所にナイを降ろした。
彼はしゃがみ込み、彼女と真っ直ぐ視線を合わせる。
―――蛇形記章・才能同調
二人の右の瞳にウロボロスの紋様が刻まれた。
ライトの場合は、髑髏の紋様を囲むように刻まれている。
「んっ///何よっ、これぇ…」
「少しだけ、ナイの借りさせてくれ」
「ハァ、ハァッ、そういうのは言ってからにしなさい、よ…」
「それは…ごめん」
「まあ、許してあげるわ…だから、絶対に勝ちなさい。そして、ワタシの下に帰ってきなさい」
「約束するよ…じゃあ、行ってくる」
先程とは違う、明るい笑みを浮かべて彼は、ヨルの方へと駆けていった。
小さく、ナイは溜息を吐く。
本来ならば彼女は、ライトを"止めようとしていた"。
(ワタシは、今此処に居るべき存在ではないんだから、ライトが傷つく必要なんて無いのに…止めようとしてた。あの途方もない強さの女、きっとライトの言ってた師匠よね。なら、戦うのは苦しい筈、ライトには心も身体も傷ついてほしくなんて無い)
自身が何者があるか完全に思い出していたのだ。
そもそも、表に出ることなど無く、あの森で眠り朽ちていくだけの存在だったと理解しているからこそ、元からそういう運命のなのだから、何かをしてもらう必要などなかった。
そんな建前など、どうでもよく、彼女は唯好きな男に傷ついてほしくなかっただけだ。
(でも、ライトは言ってくれた。守ってやるって、あらゆる因果すら断ち切ってやるって……モノである筈のワタシを思って、そう淀みも無く。なら、そんな相手を、ライトをワタシが信じないわけにはいかないのよ)
けれども、ナイは彼を見送った。それこそが、自分の本当の願いだと気付いたから。
勝ち目が無いと思えようとも、それが求められた運命でなかろうとも、信じたいから信じたい相手を信じる。
ライトと全く同じ思考だ。守りたいから守る、信じたいから信じる。他の何もかもを考えず今はそれを只管に。
案外、二人は似た者どうしなのかもしれない。
「ライト…勝ちなさい、そして守りなさい…『信じてるわ』」
そんな言葉は、風に流れていった。
彼は、ヨルの前へと立って、相対していた。
右手に握られているのは、相棒である銀河のような刃を持つ剣――イグニティ。
「今一度問おう、ライトよ。お主は、我に挑むのだな?」
「そうだ。例え、お前を傷つけることになっても、無謀であろうとも、俺はお前と戦う。それでも、譲れないものがあるから」
「覚悟は、とく聞き届けた。我も、本気で相手をするとしよう」
「負ける気は、無い」
再度、空気が悲鳴を上げ始める。
これより、始まるは互いに譲れないものを賭けた、王と王の本気のぶつかり合い。
「「行くぞ、ヨルッ!!」」
何の変哲もない、そんな声と共に、戦いの火蓋は切って落とされた。
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次の投稿は4/23(日)です。
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◆技解説
蛇王蛇法技録
蛇形記章・才能同調 使用した相手のスキルのみを同調させる 使用した相手の瞳にウロボロスの紋様が現れる




