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4-26 感動の再会とはいかないらしい



 吹き飛ばされた身体が、地面を跳ねる。

 止まれば、無くなった部位から熱が抜けていく感覚を覚えた



「なっ、にが……どこの、どいつだっ」

「名乗る程ではない、唯の通りすがりの龍です。竜ではなく龍ですので、間違えないように」

「何言って、やがる…」



 視線を上げて見えたのは、一人の青年。

 炭を思わせる混じり気の無い黒い瞳と首に巻いた赤いマフラー、瞳と同色の大きなドラゴンの翼が特徴的だった。


 そして、何よりも警戒すべきは、途轍もなく強いだろうということ。

 見た目からは信じられない程の圧倒的魔力密度、ヨルと似ているとライトは感じた。



(確か、人化の術を巨大な生物が使うとなりがちだって、言ってた。つまりコイツは、本来ヨルと近しいサイズのドラゴンだってことだ)



 相手を観察し、その強さを予測するが本当に化け物染みていて、勝てる想像が全く見えなかった。


 すると、青年の隣の空間が歪み、花魁のような格好の九つの狐の尾を持つ長身の女が現れる。

 倒れ伏すライトを見て眉を吊り上げて、青年に怒鳴った。



「ムートはんっ!!何やっとう!!この子に手ぇ出したら駄目やんか!!」

「うぅ〜声が大きいですね。そんなに不味かったですか?」

「この子!ヨルはん言うてた子やろが!!ムートはんも、ヨルはんがこの子にかなり入れ込んでること知ってるやろ。後で何されても、うちは知らんからな」

「治せば問題ありません、バレませんよ」

「楽観すぎや。あのヨルはんなら、既に見てるやろうし、表面上の取り繕いなんて無駄やさかい。御愁傷様やな」

「………」



 静寂が一時的に辺りを包み、彼らの意識からライトが外れる。

 その隙を逃さず、身体の修復を行う。



《黒剛彩王-虚の理-神罰執行-悪逆非道-暴虐非道-偽詐術策-聡明》


―――虚の理:≪時間支配法則(TimeRule)時戻しの全舞(ギア・クロニカル)



 首元に現れた淡く光る全舞が、高速で回転しだして1秒、既に身体は元に戻っていた。

 だが、此処で大きな誤算と問題が生じる。


 身体を起き上がらせ、周囲を見回す。



「あ、れ?…建物が元に戻ってる?」



 壊した、壊された筈の建造物が、レギノーが元に戻っていた。

 しかし、完全に一緒ではなかった。



「でも、死体は普通にあるな、アレは確実に俺がぶった斬った死体だし」



 道に転がっている死体を確認して、益々状況が理解できなくなる。


 少しの時間を使って、現状を確認した。

 都市は元に戻っているが、住民は全て死んでしまっていて居ない。曇りではあるが、霧はない。

 瘴気は漂っているし、魔王共の気配もない。神罰執行状態は解除されているし、身体に損傷はない。


 前後の状態状況が混ざっており、矛盾が生じている。

 そんな中、真っ先に頭に浮かんだのは、ナイのことだった。



「助けないと、瘴気があるなら魔王はまだ居る筈だ、助けにいかなくちゃ」



 全身に魔力を流し、道を蹴りナイが居た倉庫の方へと駆け出す。




 数分もしないで、目的地へと到着する。

 脚へと力を全力で籠め、地面を砕く程に蹴り上げ空中へと行く。



《黒剛彩王-虚の理-蛇王蛇法-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-暴虐非道-偽詐術策-回避錬術-怪力-聡明》


―――八彩王法:黒剣は、極星を墜とすイオルム・ステラエンド



 前と同様に黒き王気を纏わせたイグニティを全力で振るう。

 極大の斬撃が倉庫を切り押し潰した瞬間、王気が解放され黒い爆発が巻き起こる。


 最中、ライトは気付いた。

 倉庫の中には、魔王など居なかったことに、そして、『水晶に囚われたままのナイ』が倉庫の中に居たことに。


 直ぐに、彼女のもとへと降りる。



「どういう…やっぱり矛盾が生じてる。一体何でこんなことに…」



 割と本気の八彩王法を受けて、表面に傷一つ無い水晶に触れながら唖然と呟く。

 中の彼女は瞳を閉じ、安らかに眠っている。

 整った顔は作られたかのように美しい…実際に創られているのだから当然とも言える。



「これは、ナイの神性で作られたものだって言ってた。神気も感じるし、間違いじゃない…もう一回神罰執行を使う必要があるな……っ!」



 ある筈の無い生命の気配、慣れ親しんだ気配を感じ、ライトは背後へ振り向いた。

 すると、殆どの王気は既に消えていた。



「…ヨ、ル?ヨルッ!?」



 反射的に駆け出していた。視界に映った何時も通りのドレスを着た少女の元へ。

 駆ける最中に立ち上がった彼女に抱き着こうと、軽く跳ぶ。

 二人が触れ合う――そのギリギリで彼の顔面を的確に捉えた彼女の拳が振り抜かれる。



「ふんっ!」

「――ぐぬばっ!?」



 空中で二、三回程回転した後に、ライトは地面へと倒れ伏す。

 が、すぐさま起き上がり、彼女の方を向く。



「何するんですかっ!!!」

「お主が悪い、お主が悪いのだぞ」

「僕何にもしてませんけど?」

「ほう、よく言うわ」



 抗議をしながらヨルを見ると、何だが少しボロッとしているというか、服が若干乱れているように見えた。

 何もしていないと言えば、とんでもなく呆れた風な溜息と少し背筋がゾクリとする半目を向けられる。



「ライト、周囲を見ろ。先程、お主はこの建物に何を放った」

「そりゃあ、八彩王法を……成程、そういうことですか」

「ああ、そういうことだ。後で何かしらのお仕置きをするとしよう」

「…そうですか。にしても、来てくれて助かりました。この界から戻る方法、分かりませんでしたし」



 そう戯けたように話す、しかし、思っていたような楽しげな反応は返ってこない。

 ライトは、ヨルの瞳に剣呑な色を見た。

 同時に、周囲にヨル以外に五つの反応があることに気付く。

 直感だったが、ヨルからナイの前へと転移を行う。



「ライト、どうかしたのか?」

「…ヨル、何を考えてる?そして、誰だ?さっさと出てこい」

「ふむ、意識は我に向けさせていた筈なのだがな。もうよい、お前ら、出てきてよいぞ」



 刹那、隠れていた五つの存在が現れる。


 竜の翼を持つ、コートにマフラーという厚着の青年。

 宙に浮きどことなく神秘的な雰囲気を放つ、見慣れない民族衣装の少女。

 九つの狐の尾を持つ、花魁のような紫色の豪華な着物の女

 全身が青い半透明で奥が透けている頭に冠を乗せた人型の生物。

 白い羽をで作られたマントのような物を羽織っている、羽の装飾が多い男。


 内二人は、見覚えがあるが何故かボロボロだった。



「…大体何者だか想像が着いたよ。けど、なら一人足りねぇんじゃないか?」

「リヴァイアは、ミスティの相手をしておる。仕方ない」

「ミスティに、何かしたのか?ヨル、お前でも、それは許容出来ねぇ――」

「――ヨルさんにその態度止めて貰っても――」

「――黙れ、俺はお前に話しかけてねぇ、ヨルに話しかけてるんだ」

「そうだ、黙れバハムート。我は主の行動を見ていたぞ、命惜しくば、黙っていろ。これ以上我らの邪魔をするな。"殺す"ぞ」

「…了解しました」



 二人の会話に口を挟んできた青年へ、二人共が怒りの感情を向ける。

 特にヨルの方は、凄まじく本当に殺意が乗っていた。

 空気が少し悪くなる。


 一旦の間を置いて、ヨルが口を開く。



「ミスティについては心配するな。恐らく今頃は寝ていることだろう。我が信頼に値する者に任せた。もし何かあった場合は我が全責任を負う」

「なら、今は信用しよう。…それで、何を企んでいる。ヨル、唯俺を連れ戻しに来ただけ、じゃないんだろう?」

「分かるか…流石我が伴侶だ」



 いつもと変わらない言葉の筈なのに、今はそれが非常に彼にとっては腹立たしかった。

 それは、その言葉が一種の取り繕いだと分かっているから。

 誤魔化しが効く程、二人の関係は浅い。



「ヨル、俺が聞きたいのは、そんなことじゃない」

「そうか…分かった。単刀直入に言おう、我らは、その神の器を"破壊"しに来た」



 ヨルは、ライトが彼女の口から今一番言ってほしくなかったことを、事も無げに言い放った。

 イグニティを握る手に、力が籠もる。

 今にでも、怒りを開放してしまいそうになるのを精神力で抑えつけて、深く息を吐く。

 ゆっくりと、彼女の言葉を反芻し噛み砕き理解した上で、そうゆっくりと口を開いた。



「……それはつまりだ。ヨル、お前は()()()になるってことで良いんだな?」



 怒りと敵意隠さず、ライトはそうヨルへと告げた。



◆投稿

次の投稿は4/21(金)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

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◆技解説

虚の理:≪時間支配法則(TimeRule)時戻しの全舞(ギア・クロニカル)≫ 時間を巻き戻す全舞を出現させる 効果範囲は使用者が存在する界全域 回転数に応じて巻き戻される時間が変わる 非常に繊細であり正確な時間指定をしなければ適当な遡行が行われ時間現状齟齬(タイムパラドックス)が生じる場合がある



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