4-21 例えそれが、傲慢であろうとも
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最純二択―Q.3 貴方にとってはどちらが重要か?
集団 or 個人
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「集団か、個人か…どういうこと…ん?あれ?」
その問いの出方は、これまでと何ら変わり無かった。
唐突に現れ、唐突に二択は迫ってくる。しかし、少しだけ違う点があった。
二択のウィンドウの横に、もう一つ小さなウィンドウがあったのだ。
何が表示されていたかと言うと、
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問いを最適化しますか? □Tap□
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である。
「最適化?…まあ、よく分からない場合は押して見るに限る」
この男、考えなしだ。
迷いなくライトはTapと表示に触れた。
ウィンドウに光が走り、バラバラになって消えてしまう。
すると、元々のウィンドウがザザッ、と音を立てる。
そちらへと視線を戻せば、表示されていた内容が変わっていた。
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最純二択―Q.3.opt 貴方にとってはどちらが重要か?
矜持 or 姫様
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「………そういう、ことか」
見た瞬間、彼は先程の問いと今の問いが何を意味していたか理解した。
深く深く、息を吐く。
これは、彼がこの空間に来る前に悩んでいたことへの問いだった。
「魔王の場所は探れない。なら、強行策を取るしかない。でも、それをするのを俺は躊躇った、民間人を、関係の無い人間を殺さないという矜持の下で」
彼が考えた強行策は、探せないなら相手から来なければならない状況にすればいい、というのを前提とし、民間人への被害を全て無視し都市中を攻撃して、居る筈の魔王を誘き出すというもの。
最も簡単で最も早い策だと、彼は思った。
だが、それをするのは憚られた、彼自身の矜持が敵以外の存在を殺すことを許さなかったから。
「……つまりこの二択は、俺にこう言ってる訳だ。『矜持を守り、ナイを見捨てる』か、それとも『矜持を捨てて、ナイを助ける』か、どっちか選べと」
ライトは、もう一度溜息を吐いた。
拳は、強く握られている。
「選べ、ねぇよ。どちらも捨てられない、捨てたくない…でも……」
トロッコ問題というものを知っているだろうか。
あるいはトロリー問題とも言われるそれは、「ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるか?」という趣旨の倫理学上の問題。
ある線路上を走っているトロッコが制御不可能になってしまう、そのままだと十人の前方で作業中の人間が死んでしまう。
この時、思考者は線路の分岐器の直ぐ傍に居た。線路を切り替えれば、十人の命は助かる。
しかし、切り替えれば切り替えた線路の先で作業をしていた一人の命が奪われてしまう。
果たして、線路を切り替えるべきなのか?という問題である。
その他色々なパターンがあり、様々な条件付けと仮定を行うことで無数の思考を行うことが出来る、非常に有用な問題なのだ。
では、今のライトの状況をこれに合わせて考えてみよう。
今回、彼はトロッコであり分岐器だ。
何もしないでその線路を進んだ場合、大勢の命は助かり自身の矜持も守れるが、ナイという大切な存在を失う。
切り替えて進んだ場合、大勢の命と矜持を捨てることになるが、ナイという大切な存在は手に入る可能性がある。
この時、もう一つ考えるとが良いことがある。
『一人の命の価値は、複数の、大勢の命の価値に相当するのか?』というもの。
命の価値、それこそが上記の問題の決め手になる。
きっと大勢の者は言うであろう、『一人の命の価値は一人分しかない』と。
しかし本当にそうなのだろうか?その決めつけは、正しいと言えるのだろうか?
「いや、違う」
そう、彼は口に出していた。
「俺は前、重要なのは『生命』よりも『記憶』だと選んだ。だって、記憶には代替が利かないから。それに俺は、命にも何にも本来価値はないのだと思う。何故なら、全ては神によって創られた物事による結果と偶然の産物なのだから」
自分の中の考えや思いを整理するように、敢えて言葉にする。
「じゃあ何で皆、価値を持つと考えるのか。それは積み重ねられた『記憶』によって出来上がった価値観があるからだ。価値観が無価値なものに価値を与える。硬貨が一番分かり易い、あれは見る人が見れば唯の鉱物の塊だ。けれども、皆それが価値があると考える、だから硬貨の働きをする。そういう記憶を、価値観を持つから」
「価値観が違えば、見える考える価値も変わる。人の価値だってそうなんだ」
「だからこそ、俺はこう言おう。『一人の命の価値が時に、何千もの何万もの命の価値を上回ることだってある』と、そう」
彼の中では、もうどうするか決まっていた。
「……『信じてる』とそう言ってくれた、一人の女が居た。なら、応えない訳にはいかない。だって、俺も男だから、好きな女の前じゃあ格好つけたいもんだ」
「例えこの選択が、自分勝手だと、愚かだと、傲慢であると言われても、知ったこっちゃねぇ」
「俺は、俺の価値観で、俺が思う、俺が守りたいものを、人を、女を守る」
「逆に言ってやるさ、"王が傲慢で何が悪い"ってな」
その瞳は、強い覚悟を示していた。
「感謝を述べておこう、毎回誰だか知らないが、二択を準備してくれる者に」
「きっと俺は、こう問われなければ決めれずグズグズして、全てを失っていたかもしれない」
「だから、ありがとう…」
ウィンドウの表示が変わる。
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最純二択―Q.3 貴方にとってはどちらが重要か?
Answer― 姫様―Decision
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何かが、断ち切れるような音がする。
刹那、再度ウィンドウに光が走り、切り替わった。
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貴方の運命に幸多からんこと
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そんな言葉が、一瞬目に写った。
また、視界が切り替わり、ライトは元の場所に立っていた。
前と変わらず身体の内から力が溢れ出す感覚を覚える。
「覚悟は、決まった」
何ら変わりないようで、大きく変わってしまった都市の中、彼は虚空から取り出したイグニティを構える。
綺麗な孤を描いた笑みのまま、口を開いた。
「さあ、助けに行こうか、俺の――『姫様』を」
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次の投稿は4/10(月)です。
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◆蛇足
蛇の王「何か、姫様のルビ振り間違っとらんか?あれだとニャイじゃろ」
語り部「問題ない!敢えてやってるからな」
蛇の王「そうなのか…にしてもライト、格好良いのう」
語り部「まだまだこれからだと思うけどな。まだ覚悟決めただけだし」
蛇の王「それもそうか、ではどんな手を使い勝利を掴むか、待つとしよう」




