4-20 二択は迫る、覚悟を
「チッ、ふざけんなよ。強制的に変質させた紛い物だとしても…本物の半分くらいの威力はある筈だ」
『――――――!!!!』
「何で、その形を保ってられる。神すら侵し殺す毒だぞ?」
ライトは、言語化出来ない叫びを上げながら、のたうつように脈動する、狂気――ヴァーンズィンを見て、唖然という様子で漏らす。
彼は虚の理を有する者。故に理の内にあるものをある程度操作できる。
唯の強力な毒の塊であった竜の、毒を特別な毒へと変化させた。
それが、神毒。神が創りし、神すらも殺すことが可能な毒だ。
無理矢理に変化させているせいで、効果が落ちているがそれでも強力な代物だった。
だから、目の前の現状を認められない。
神毒を受けて尚、その形を保っている狂気が。
(『六天魔王』は、俺の想像以上の化け物なのかもしれねぇ……)
という疑念を抱いたライト。
よく考えれば、かつて『八彩鉱王』が討伐した存在。そう、神々の尖兵とも呼べる彩王が出張る必要があった脅威なのだ。
そしてその疑念は、大きく当たっており、不運ながら外れることはなかった。
赤い稲妻が眼前で弾け、身体を焼く。
「――っぐぁ!?」
[貴様ァ!ワガ友ニ何ヲスルッ!]
「つっぐぅ――不味いなっ!」
体勢を立て直し、視線を上げる。
いつの間にか晴れていた霧の無い周囲に、数えるのが馬鹿らしくなる量の魔方陣が現れた。
それらを一瞬にして形成する手腕は、正に魔王と呼ぶに相応しい。
「逃げっ!?クソッ――」
[死ニ絶エロ]
《不死魔王-不死の理-魔法・邪道:神級-確定確立-魔導深淵-叡智-月蝕-背理-悪意》
転移で逃げるのは何か危険な気がして、走り出そうとしたところで、地面から這い出た触手が絡みつき動きを阻害する。
今度こそ転移をと考えた瞬間には、既に時は遅く全ての魔法陣が霧散した。
視界は白く染まり、身体には何が何だか分からない、尋常ではない衝撃と痛みが走る。
飛びそうになる意識を何とか繋ぎ止めながら耐えて時を待つ。
数十秒に及ぶ、魔法の連撃をライトは耐えきった。
地面に身体が触れた感触と同時に、重い身体を起こす。
目を開くが、霞んでおり状況を正確に判断できない
(早く、術を…口が、動かねぇ)
「遅いわよっ!!」
「ぐはっ!?」
彼の腹に幻惑の蹴りが放たれ、衝撃で地面を何度か跳ねるように飛ばされる。
痛みは強い、だが距離が取れたのは良いことだった。
朧げな意識と回らない口を最大まで働かして、紡ぐ。
―――癒し…治す、聖蛇
「危、ねぇ…死ぬとこだった」
白い蛇が身体を癒やし復元する。
意識がハッキリとし、身体は滑らかに動く。
起き上がり、隣に転がっていたイグニティを拾い構える。
[マダ、動クカ]
「呆れた耐久力ね」
「済まねぇが、負けられないもんでな」
『ならば、その身に最後の敗北を刻んでやろう』
「チッ、もう再生しきったのか」
視界に映るのは、”完全に無傷"の三体の魔王。
直接あれ程の被害を受けた狂気ですら、その形を綺麗に取り戻していた。
これを、絶望と言わずして何というのか。
それでも、ライトの瞳は死んでいない。
「だが、負けられねぇんだよ」
『そう戯言ほざいて死ね!』
《黒剛彩王-虚の理-蛇王蛇法-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-偽詐術策-回避錬術-怪力-聡明》
《狂気魔王-狂気の理-武術・邪道:神級-触烙奇手-不倶戴天-破壊砕衝動-天賦-絶腕-狂乱》
―――八彩王法:我は確たる終幕を語る
―――六魔王法:狂壊・我王冥衝閃
同時に放たれた、黒き波動の斬撃と紅き破壊の砲撃がぶつかり合う。
空間が現力のぶつかりと同時に軋み、爆ぜて相殺される。
右後方で殺気が膨れ上がる。
「死になさいっ」
「そりゃ無理だな、読めてる」
[―――では、ワレはどうだった?]
「グッ!?テッ、メェ…いつの間に…」
幻惑のレイピアをイグニティで弾き、意識を集中させた所で、脇腹に鋭い痛みが走り身体から力が抜ける。
不死には、全く気付くことが出来ていなかった。完全に気配を絶たれていた。
痛む箇所を見れば、紫色の骨のナイフのような物が突き立てられている。
抜こうとするが、身体が動かない。辛うじて口は動くが。
すると、耳に爆音が響き、身体が浮き転がる。
『なっ何をするっ!?』
「邪魔よっ!!」
薄れ行く意識の中見えたのは、燃え上がる狂気から繰り出される触手を何とか避けているナイ。
そのナイが、触手に捕まる最中、こちらに手を突き出す。
遠目で意識も薄い為、本来分かる筈もなかったが、何故か彼女の口の動きが、何を言ったか分かった。
「―――『信じてる』―――」
と、そう言っていた。
それと時同じく、身体が何かに包まれる感覚と共に、ライトは意識を手放してしまう。
脳裏に残ったのは、負の感情ばかりだった。
◆◇◆
「――……ぅぁ……いっ、てぇ…」
意識が判然としない、身体が重い、正常な状態ではない身体に違和感しか覚えない。
それでも、身体を起こした。
自身を見れば、ボロボロもボロボロ。傷だらけ、汚れだらけで気持ちが悪い。
喉が酷く乾いており、水分が欲しかった。
―――初級水魔法:クリエイトウォーター
―――初級水魔法:フロウウォーター
目の前に形成した魔法陣から溢れた水が、動きライトの口に入る。
何の変哲も無い水が喉を潤す。
それは身体に染み渡るようで、意識を活性化せていく。
「俺は……っ」
何をしていたのかを思い出し、どうして此処に居るのかを予想しほぼ確定させた。
「魔王共にやられて…ナイに逃されたんだ」
強く拳を握り、歯を噛み合わせる。
言葉にはしない、後悔と屈辱が現れていた。
「こんなとこにいる場合じゃない。そもそも此処何処だ?」
辺りを見回すと、見覚えがあることに気付く。
彼が寝ていたのは、ナイと魔法の修行をした草原だった。
「取り敢えず、レギノーに戻ろう。それからだ、でも時間もない、急ぐか」
―――上級時空魔法:リムーブワープ
空色の魔法陣が霧散し、視界が光に包まれると同時にライトはレギノーの門の目の前に居た。
「うっ!?…何だこれ…」
彼は、門の前に立った瞬間に不快感を覚えた。
「…瘴気か、つまりレギノーに今魔王共は居るわけだ。なら…」
招待が瘴気であることから、魔王が都市の内に居ることと予想し、その気配を探ろうとして足を止める。
眉を寄せ、敵の作戦を理解してしまったからだ。
「木を隠すなら森と、そういうことか」
瘴気が強すぎて、レギノーの内に居る筈の魔王の気配が全く掴めないのである。
「一旦、入ってみるか…」
少し歩き、門を潜る。
彼は驚く、何故ならこの瘴気の中でも、
「何で普通に生活している?……あの、すみません」
「…………」
「…そういうことか」
都市の人間たちは普通に道を歩き生活していたからだ。
人間が耐えられる瘴気ではないので、確認の為歩いていた一人に声を掛けるが、完全に無視された。
その時に、ライトは見た。その人間の目が虚ろだったのを。
他の人間も確認してみた。
「…全員、"催眠"に掛かっているか。化け物じみた能力だ」
恐らく、都市内の全員が催眠に掛けられているのだろうと、予想した。
大規模なその能力に、嫌な汗が流れる。
「魔王が居る筈なのに、探れない。催眠に掛けられているが民間人がいるから強行策も取れない……魔王らしい卑怯な作戦だよ」
称賛するような言い方をしながらも、その顔は焦りに満ちていた。
人の前で無かったら、叫び散らかしていただろう。
洗脳されているとはいえ、そのようなことをするのは彼の精神が許さなかった。
《最純二択-黒剛彩王-世界開闢言語理論-悪逆非道-暴虐非道-偽詐術策-聡明》
刹那、視界が切り替わる。真っ黒な何もない空間に。
頭がクールダウンさせられ、思考が落ち着く。同時に感情が削がれたかのように焦燥感がなくなった。
「…此処は」
いつものように辺りを見回し、そして、見つけた。
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最純二択―Q.3 貴方にとってはどちらが重要か?
集団 or 個人
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現れた二択は、迫り問うてきていた。
彼の王の覚悟を。
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◆技解説
王法技録
六魔王法:狂壊・我王冥衝閃 王気を圧縮収束させて解放して一直線上に光線を放つ 触れた王気以外の現力を破壊する 触れた生命の機能を破壊する 精神体にも攻撃可能




