4-18 魔の王を冠す者
「ちっ――ハッ!」
瘴気の波をイグニティで切り裂き、吹き飛ばす。
晴れた視界に影が射した。
「まあ、この程度で終わらないわよね」
「お前…マジで何者だ。そんな濃度の瘴気、生物が耐えられるもんじゃない」
宙から二人を見下ろしていたのは、蝙蝠のような巨大な翼を持つ女。
赤紫色の首上で切り揃えられた髪、やたらと布面積の少なめで扇情的な服。細長い鞭のような尻尾に、悪魔のような上に伸びた黒い角。
血に染まったかのような真紅の瞳で、こちらを見下ろしていた。
ライトは、その女が纏う吐き気を催しそうな程の濃度の瘴気に警戒を最大にまで引き上げる。
「フフッ、じゃあ教えてあげるわ。私は『六天魔王』が一人、『幻惑の魔王』イルズィオーン。以後お見知りおきを、といってももう短いでしょうけどね」
「……魔王、か」
「ライト、『六天魔王』って…」
女――イルズィオーンの言葉を受けて、彼は一つの疑念を抱いた。
ナイが酷く怯えた表情で、彼の腕を掴む。
その様子に珍しさを感じながらも、彼女を安心させように優しく髪を撫でる。
「嘘を吐くな」
「あら?嘘じゃないわよ?」
「嘘だ。いや、嘘でもないのか?…どっちにしろ、お前"弱すぎる"んだよ」
「ちっ、そこまで分かるのね。貴方の存在こそ、私にとって最大の誤算ね」
苦々しい顔で言うイルズィオーンに、ライトは嬉しそうに口を歪めた。
だが、油断はしていない、寧ろイグニティを握る手に力を込める。
「あれか?復活して長くねぇから完全じゃないってところか?それとも、魔王ともあろう者が、素でそんな強さな訳がねぇよな?ま、『幻惑の魔王』は元々戦闘ではなく、裏工作と支援メインだから、強くないのも不思議じゃないがな」
「っ!?貴方、本当に一体何処からその情報を…そもそも、現代には私達の情報は残ってない筈よ。貴方の方こそっ、何者なのよ!」
イルズィオーンが声を荒げる。だが、別に彼は答える気など全く無い。当然、態々敵に情報を与える必要など無いからだ。
ライトは、ヨルから『六天魔王』について説明を受け、詳細に知っている。先に相手の手の内をしれているというのは、大きなアドバンテージである。
イグニティを正面に構え、ナイに耳打ちをする。
「ナイ、恐らくアイツの狙いはナイだ」
「わっワタシ?どういうことよ?」
「アイツの視線が明らかに俺じゃなくてナイに向いている時があった。俺の方が脅威になるにも関わらずだ。理由は分からないが、狙われてるのはナイで間違いない。だから気を付けろ」
「気を付けろって、どうすればいいのよ…」
「広間から出ないこと、アイツと目を合わせないこと。この二つだけ注意してくれればいい」
「理由はいいわ。分かった、それと支援だけにワタシは集中するわ。貴方は敵にだけ意識を向けていなさい」
「了解」
彼女を放して、ライトは自身の後ろに移動させた後に、彼は強く駆け出した。
◆◇◆
「――ハッ!」
「くっ重いわねっ」
「まだまだだぜ?魔王さんよぉ!」
魔力で身体強化を施し、ライトは魔王へと斬りかかる。
それは何処から出したのか、レイピアで受け止められた。
イグニティの一撃を受け止めて折れない所から、相当な業物であるのは分かるが、"六王武装"ではないようだ。
まあ、それも当然なのだが。
受け止められたレイピアに更に力を込め、押し切り吹き飛ばす。
けれども、吹き飛ばすのは意味が無かった。
「――っと残念だったわね」
「忘れてた、翼あるから飛べるんだったな。お前」
バサリと翼が広げられ、魔王が宙を舞う。
「ええ…………」
「…お前が今、考えていることあててやろうか?」
「何?分かるわけ無いわ」
「いや分かるね。大方、何でコイツ視線を合わせないんだ?ってとこだろ」
「っ!?」
「図星か、お前やっぱ戦闘に向いてねぇな。感情が顔に出過ぎる」
彼の言葉に、明らかに動揺した顔をする魔王。
それを見て、凶悪な笑みを浮かべる。
精神的に優位に立つというのは、戦闘に於いて大きい。
彼は、そのままツラツラと口を開く。
「合わせるわけねぇだろ、バーカ。お前の眼が、魅了系最上位の魔眼であることを知った上で、合わせる訳ない。眼を合わせるだけで籠絡し、精神を掌握するなんて怖いねぇ、節操の無さは色情魔みたいだぜ」
「きっ!私を色情魔などと…」
魔王の顔が赤く染まり、怒りが分かる。
しかし、彼は口を開くことを止めない。
「いや、間違ってないだろ?だって『幻惑の魔王』は――」
「やめなさい」
「――夢魔の異常個体の魔王なんだから」
「……」
「夢魔といえば、相手の精気、命気とも呼ぶものを糧に生きる種族だ。精気を吸い取る行為故に、性欲が強い。それに率先でなければ生きていけないから。正に、色情魔の種族と呼ぶに相応しい」
別に、ライトは他種族を見下したりをしない。見下す場合は、種族全体ではなく、個人か集団の単位である。
そんな彼が何故、一種族を批判するようなことを言っているかというと、これこそが『幻惑の魔王』に有効な策だからだ。
どういうことかと言うと、
(『幻惑の魔王』イルズィオーンは、そもそも戦闘がそこまで得意ではない。あと"精神的に脆い"。彼女は、魅了の力故に他者に反抗や意見されることに慣れていないから、感情に左右されやすいってヨルが言ってた。まさか役に立つとは思ってませんでしたけど)
「そんな種族が元のお前だって、当然そうだろ?寧ろ上に居るお前はその上を行くかもな。つまりはあれだ、『幻惑の魔王』は歴史に名だたる変態だってことだなっ!くくくっ、これは傑作」
(そして、彼女の最大の弱点は――)
「――このっ!クソガキがぁ!!」
(――夢魔が元の筈なのに"性的なことが大嫌い"という点)
そういうことだ。
イルズィオーンは、夢魔の突然変異個体の魔王。
なのだが、極端に性的なことが嫌いだった。彼女自身ですら理解していないが、何故か嫌いだったのである。
だから、自身の血統、夢魔であることを言われるとブチ切れる。
その精神的弱点の多さこそが、ヨルに『六天魔王中、最弱』と言わしめた要因なのだ。
魔王から赤紫色で瘴気混じりの魔力が溢れ出し、突撃してくる。
「ライトッ!効果的な作戦なのは分かるけど、ちょっとその戦い方はどうかと思うわ!」
「仕方ない!これが本来の俺の戦い方だ!」
(そういえば、ナイにはこの手の戦い方は見せてませんでしたね)
「――死ねっ!!」
「攻撃の筋が単調だぜ魔王様ッ!!」
彼のやり方に苦言を呈してきたナイに、適当に返しながら、レイピアで突きを放ってくる魔王を跳ね除ける。
宙に浮いて、衝撃を殺した魔王の翼から紫色の羽のようなものが飛んできた。
それらをイグニティで斬り伏せようとしたところで、背後から炎が飛来し羽を焼き尽くす。
「ライト、あの手の物を近接で対処するのは良くないわ」
「ありがと」
「――余所見とは、余裕ね」
「はっや――あ"っ」
ナイへと一瞬気を逸した瞬間には、魔王が接近していた。
肩口をレイピアが貫いており、更に腹に蹴りが放たれる。
地面を跳ねる身体をイグニティで無理矢理に止めようとしたところで、
『―――』
「ぐゔっ!?」
木の幹のような太さのナニカが、的確にライトの顔面を捉えて振るわれ、受け身などの行動を取ることすら許されない弾丸のような速度で吹き飛ばされる。
地面とぶつかり鈍い痛みが全身に走る。
思考が追いつかない、だがしかし身体は痛みを伴いながらも勝手に動き、既にプログラムされていたことを実行するかのように立ち上がった。
霞む視界を正常に無理矢理に戻し、何が起きたのかいや――何が介入してきたか確認する。
「…ははっ、クソが…確かに、予想はしていたが、冗談キツイぜ」
『本気で頭を壊しに行ったのだがな。中々の強度のようだ』
「ヴァーンズィン、手出しはいらないっていったわよね?」
[ワレガ、ヤレト言ッタ。明ラカニ、イルズィオーンガ正気ヲ失イカケテイタノデナ]
「そう…まあ、ありがとうね」
[気ニスルナ]
そこには、新たに二つの悪意が現れていた。
◆投稿
次の投稿は4/6(木)です。
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◆蛇足
語り部「さて、ライトの姑息な戦い方は通用するのだろうか?」
蛇の王「多分、無理じゃろうな。意表を突く戦い方は一対一の時が一番効果が高い。他の目があると気づかれるたり横槍を挟まれるからな」
語り部「じゃあ不味いねえ、どう進んでくのか気になるー!」
蛇の王「お主、先まで台本準備されておるから内容分かるじゃろうが」
語り部「はぁ、駄目だよチミー、そういうこと言うのは」
蛇の王「…面倒くさいのう」
語り部「ストレートな言葉が痛いよ……」




