4-17 霧と暗雲立ち込める……
奇怪なる怪物、謎の巨人を討伐して更に一週間。
「…何だか霧が濃いですね、今日」
「ええ、なのに雲が厚くて暗いわ。嫌な予感がする、何で毎週なのかしら」
宿の窓から都市の景色を見ると、妙に霧が掛かっていた。
そもそも二人は、この都市で霧が掛かっているのを見たことが無かった。
よって、直ぐさま異変だと気付く。
「あの霧、魔力を感じます。魔法で作られてますね」
「てことは、誰かが意図的にレギノーを霧で満たしてるってことになるわけね。何の目的なのかしら?」
「知りませんが、企みがあることは確実です」
霧から魔力を感じることから、この霧の街状態が意図的に作られていることを看破する。
しかし、その目的までは当然分からなかった。
二人は同時に、嫌そうに顔を歪めた。
「「面倒、ですね」」
当然、それが面倒だからだった。
この都市で生活し始めて、既に一ヶ月近く、ライトは都市の殆どを探索し終えている。
その上で、彼はナイに断言した。「自分より強い者は、この都市の中に居ない」と。
同時に、次点はナイであることも。
そも、元々世界で上から数えた方が早いライトと彼に指導されたナイを超える者など、そうそう居ないのだ。
「レギノーは外壁は要塞並、設備や技術だって高いです。けど、戦いへの修練が足りてません。言わば道具頼りなんですよね。だから、人材が育たない、いざという時への危機感に欠けてます」
「ワタシ達だってずっと居るわけじゃないんだから、自分達でなんとかしてほしいわよね」
「ま、無理なことです。それに僕達も勝手にやってる訳ですから」
「面倒って言っても、他にやれる人が居ないなら、ワタシ達はワタシ達の安全と安寧の為に行動せざるを得ない。勝手にやるしかないって訳ね」
彼女は溜息を吐きながらも、ベッドから立ち上がる。
行動から、どうするか察したライトは、同じくソファーから立ち上がった。
そう、二人には異変が起きた時点から選択肢など無かったのである。
「行くわよ、ライト。多分元凶はワタシ達が出会った森に居るわ」
「了解です」
装備を整え、二人は『ドローレ』を飛び出した。
◆◇◆
レギノーを出て今は、鬱蒼とした二人の始まりの森を進んでいる。
「森の異常性が消えてますね」
「まあ、助かったわね。あのギミック出るようにしか作られてなかったし、奥に進む方法なかったもの」
「都合の良いことで…これも仕組まれているとしたら、一筋縄では行かなそうです」
霧は、変わらず濃く視界の邪魔をしている。
確実に、レギノーよりも濃くなっており、自分達が元凶へと近付いていることを知らせてくれていた。
「……凄く、嫌な予感がするわ。今までに無いくらいに」
「強く警戒しろと、そういうことですね」
「ええ」
「分かっ――伏せろっ!!」
ライトの声を聞いたナイは彼に合わせて、転ぶように伏せる。
真上を何かが通り過ぎた。
視線を上げれば、周囲の木々が薙ぎ払われ、折られていた。
何者かが、それをやった。だが、彼はその存在を捉え切れなかった。
(この霧、視界の邪魔以外にも気配を隠すような効果があるっ…これは――誘い込まれたな」
「誘い込まれた?それって、どうい――」
「――ちっ、走れっ!全力で!話してる暇はない!」
「忙しいわねっ!!」
脳内に警鐘が鳴り響いた、勘とも呼ぶそれに従い、ナイの手を引いて無理矢理に起き上がらせ、全力で駆け出す。
途中でナイが遅れて来たので、一気に強く引き宙へと上げ、何時も通りのお姫様抱っこの形にして走る。
「ちょっとっ!?手首痛いんだけど!」
「気にしてる暇はねぇ。走ってる内に自分で治してくれ」
「大体何で走って……これ」
「やっぱり、聞こえるか」
抱える彼女から苦言が呈されるが、気にしている暇は無かった。
何故なら気付いていたから、何かが背後から木々を薙ぎ倒すような音と共に近付いてくる"ナニカ"に。
「速い、このままだと追いつかれる」
「木が倒される音からしても、かなり大きいわよ」
「だから、下手に横に回避できない。サイズが分からなきゃ、回避距離が判断できない。適当に飛んでそれでも足りなかったら終わりだ」
「転移でもしたら?」
「無理だ、視界が悪すぎる。確実に転移事故が起きる。二人して、木の中にめり込んでグチャグチャになって死にたくはないだろ?」
「貴方と一緒に死ねるなら…いえ、嫌ね」
(今一瞬肯定しかけなかったか?)
走りながら、策を考えるが一向に成功しそうなものは思い浮かばない。
そうしている間にも、ドンドンとナニカの音は近付いてきていた。
首筋に冷たい汗が流れ、焦りが募る。
「――こっちだ!!ライトくん!!」
「っ!!」
刹那、聞こえた声に従い、そちらへとライトは大きく足を踏み出した。
大きく踏み出し過ぎたせいか、空中での身体制御に失敗し、地面を転がる。
その前にナイを強く抱き寄せ身体に密着させた為、こんな時でも彼女への被害は少なくすることに成功した。
直ぐさまナイを離して一緒に起き上がり、周囲を確認する。
「此処は、あの場所か?」
「ええ、そうみたいね…さっきの声は」
声の先には、広間があった。それも、二人の始まりの広間だ。
この広間には、何故か霧が無く、視界が晴れていた。
「危なかったね…二人とも…」
「っ!?」
「ど、どうしてこんなところに」
声の先に居たのは、木に背を預け血の滲んだ軍服を着たボロボロの『トーラス』だった。
二人は、そのことに驚く。
「こっちの森から霧が出てるのが分かってね…異変の調査に来たんだが…この様さ…」
「…………」
「ちょっとっ!傷だらけじゃないっ!?今治す――」
「――待て、ナイ」
「ら、ライト?」
『トーラス』の処へ駆け寄ろうとするナイの腕を掴む。
彼女は、困惑した表情で彼を見るが、その彼はというと鋭い目で『トーラス』を見ていた。
剣呑さの強く出る瞳に彼女は酷く驚く。
「なぁ…お前、本当に『トーラス』か?」
「な、何を言ってるんだい?」
「いや、この際お前が本物かどうか何者かなんて関係無いか」
「どういうこと?ライト」
「可笑しいんだよ、アイツ」
ゆっくりと再度ナイを抱き寄せながら、イグニティを虚空から取り出す。
戦う気満々という態度の彼に、『トーラス』は動揺している。
一拍おいてから、口を開いた。
「この広間は違うがレギノーからこの森にかけて、濃い霧が出てるんだ。それこそ、1m先しか見えないくらいに濃いのがな。見れば分かるが、この広間の外縁から直ぐに霧が出ている、そんな中どうやって"森を移動しているのが俺だって分かる"?何者かが移動しているのは分かるが、俺だとは分かる訳がないんだよ」
「確かに…」
「それに、だ。トーラスは防衛副官なんだ。レギノーの組織図はこっそり見させて貰ったが、中々に上官だった。そりゃ当然だよな?防衛副官、レギノーという巨大都市の防衛を管理する者の二番手なんだから。そんな重要な人間はな、戦場には出ない。指揮官、部隊単位で兵士という駒を操作する役目の人間だからだ。前線に出ないから、あそこまでの重傷を負うわけがない」
「…………」
ライトが口にしたのは、彼がこの広間に入った瞬間と『トーラス』の言葉から感じた違和感だった。
視点を変え、状況を仮定すれば、広間に居る彼は、酷く不自然に感じられた。
ナイは、ライトの言葉を聞き、警戒の目を『トーラス』に向ける。
目を向けられた彼は、口を閉ざしている。
「あと、お前そんな血だらけなのによ、何で移動した痕跡が無いんだ?その出血量なら、血の跡が多少は地面なんかに移動の跡に残るんだよ」
「…………」
「決定的なのは、この広間だ。何で霧が此処には無いんだ?この広間だけに霧が無い。周りの霧は、魔法で作られている。この2つから答えは簡単に導き出せる。この広間だけに霧が掛からないように操作されてるんだよ。そして、そこにお前はいる。こんなの、お前かお前の仲間が霧を操作しているという証拠以外の何ものでもない」
「…………」
「お前は、何者だ?俺達を此処に誘き出し、何を考えている?お前の目的は、一体何だ?」
ライトは、強く問う、血濡れた『トーラス』だか何か分からない存在に。
数秒の間、辺りに沈黙が流れる。
そんな沈黙を破ったのは『トーラス』だった。
狂ったような笑い声が、広間に響く。
「――ハァ、本当に、誤算だよ。ライトくん」
『トーラス』は傷など何とも無いように立ち上がる。
その顔には、狂気染みた笑顔が貼り付けられていた。
「まさか、気付くとはね。目算が甘かったみたい」
声が変わり、男のものとは違う高く通る女の声になる。
「けど、此処まで来たなら問題はないわ……」
『トーラス』の身体がグニャリと歪む。
「運が悪いわね、少年。大人しくしていれば、楽に殺してあげたのにっ!!」
一瞬の閃光の後に、瘴気の波が二人を襲った。
◆投稿
次の投稿は4/5(水)です。
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◆蛇足
語り部「よく喋るねぇ、ライト。それにしてもトーラスは何者なんだろうな?」
蛇の王「ま、多分分かっておると思うがな」
語り部「いや、そうでもないって、意外と要素少ないし」
蛇の王「次話で分かることじゃ、そこまで深堀する必要も無いじゃろ」
語り部「それもそっか。それでは皆様、次回から戦闘続くのでお楽しみを〜」




