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4-16 力を合わせて、やる気だったわよ?



 巨人の腕が振り下ろされる。



「ハッ!やっぱり骨だからか、そこまで重たくはないな」



 イグニティで振り下ろされた腕を、上へ跳ね上げる。

 衝撃はあったが、想像以上に重たくはなく防御は簡単だった。


 地面を搔き上げるように、もう片方の腕が振るわれる。



「ちぃっ、ナイの方に行くか。まだっ、間に合うっ!」



 足に魔力を流し地面を蹴り上げ、勢いにままにイグニティを振るう。

 その剣圧で腕を吹き飛ばした。


 普段のライトならば、魔法で転移したり防いだりするのだが、今はしない。

 ナイが魔法を使うからだ。別に彼が魔法を使用してもそれ程、彼女に影響はないのだが、一応の気遣いというものだ。

 それに、使わなくてもいいのならば、使わない方が良い。緊急事態に備えて、ある程度は力は残しておくもの。



「何度やっても、同じだっ!」



 再度振るわれた腕を、同じ要領で弾く。


 巨体故か、動きが大振りなお陰で対処が簡単だった。



(前回の肉塊みたいに、油断はしない方が良い。まだ何か仕込まれてる筈だ)



 それでも、ライトは気を抜かず警戒を怠らない。

 同じ失態は、二度しない為に。


 巨人が、両手を握り合わせる。両手の触手が絡み合わさり融合していく。

 出来上がったのは、肉の槌とでも呼ぶべき代物。


 それが、赤黒く変色し振り下ろされる。



「ラァッ!!」


《黒剛彩王-蛇王蛇法-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-回避錬術-怪力》


―――蛇剣舞:地蛇(ちだ)剛撃(ごうげき)



 イグニティの刃が槌と接触すると、衝撃音と共に槌が粉々に吹き飛ばされる。

 やはり、と言うべきか耐久力はないようだ。


 そのタイミングで、ときは満ちた。



「――ライトッ!出来たわ!」

「漸くかっ…何だその量」

「比較するなら、一気にやった方がいいでしょ?」

「ナイにしては遅いと思ってたけど、そういうことか」



 ナイの目の前は、十を超えるそれぞれ別の色をした魔法陣が並んでいた。

 別種の魔法を中級のものばかりとはいえ、これだけ同時に暴発せずに形成・保持できる者は、世界を探しても一握りだろう。



「なら、やってくれ!幸い今は腕がないからな!」

「ええ、喰らいなさいっ!!」



 魔法陣が光輝いて霧散し、そこから現れた様々な球体が巨人へと向かう。

 通る属性を探すだけなので、威力は求めていない。


 そう、求めていなかったのだ。



「よし、問題なく当たったわ…ね?」

「何か変じゃないか?」

「変ね…」



 巨人に魔法が命中した瞬間、巨人の動きが止まり、その体が薄黒く変色していく。

 それは確かな異変だった。しかしながら、ライトは動かないでいた。

 何故なら、その様子がどうにも意図されたようなものではないように見えたから。

 明らかに"弱っていっている"のが意図されているとは到底思えなかった。



「何か、弱ってないか?…体、崩れていってるし。そんな強力な魔法使ったか?」

「いえ、魔法分類上の属性全ての中級魔法だった筈よ」

「だよなぁ、俺にもそう見え……」

「どうかしたかしら?何か分かったの?」



 彼は、今目の前で崩れて死に絶えていく巨人と、ナイの言葉から一つの可能性に至る。

 そんなまさか、と一度否定したが、どう考え直してもそれ以外にあり得なかった。

 彼女の方を向いて口を開く。



「なあ、ナイ。さっき魔法分類上の属性全てって言ったよな?」

「そうね、それがどうしたの?」

「その中に、『死属性』ってあったか?」

「当然よ――ってまさか!?」

「ああ、そのまさかだと思うぞ」



 あり得ないという顔を彼女はするが、ライトはそれを否定した。


 魔法分類上の属性とは。

 普通分ける場合の属性は炎・水・風・地・光・闇・無・虚の八つだ。

 だが、更に魔法では詳細に分けられる。例を上げれば、通常水属性の中の氷魔法なのだが、魔法分類上では氷属性として分けられる。

 この分類が一番影響を受けるのは、当然虚属性、分類が難しい属性全てを虚属性と括っている為だ。


 今回そんな中で注目すべきは死属性。

 死属性は、全ての強さの魔法が死に直結する効果を持つ特殊な属性である。

 その凶悪さと危険故に忌避もされる。そもそも、虚属性の中でも特に才能と適正が必要であり、使い手も少ないのだが。


 全ての強さの魔法が死に直結する効果を持つ、これだけで勘の良い皆様はもう気づいているだろう。



「死魔法が決まったんだろうな」

「そ、そんなことって、だって中級で死ぬ確率なんて――」

「――ほぼ無い、だろ?けど、この状況は、あの様子はそうとしか考えられない」



 上記の通りと言っても、どの強さでも確実に使用した相手が死ぬ訳では当然無い。

 そんなだと、幾ら使い手が存在しないとしても、強力過ぎてバランス崩壊である。

 基本は、一定の確率で死ぬ。最高位だと確定死もあるが、やはり基本は確率、強力なほど確率が高くなる感じだ。

 でだ、中級の場合、その確率はというと、一番良い宝くじが当たる確率くらいには低い。


 当たるは筈がないと誰もが思い、あり得ないと誰もが考える。



「でもでもっ」

「結果がそう示している。いくら否定したところで事実は変わらない。それにだ、別にそれで良いじゃないか、倒せてるなら。納得は行かないだろうが、楽はできたしすぐに終わった」

「そう、ね…けど、何かやっぱり納得出来ないわ」

「はぁ、変なところで意地っ張りだよな。後で、マッサージでも何でもしてやるから、それで機嫌直してく――」

「――本当にっ!?何でもっ!?」

(あーこれ、不味いかも)



 あまりにも呆気なく終わってしまった戦いに、不満満載なナイ。

 その機嫌を直す為に、何でもすると言ってしまったライト。

 彼の言葉を聞いた瞬間、彼女はキラキラした瞳で見てきた。

 瞬間、彼は自身の失策を理解する。



「今、何でもって言ったわね?言質取ったわよ?後で駄目なんて言っても聞かないから」

「は、はい」

「早く戻るわよライト!こんな気味悪い場所、居続ける必要は無いわ!」



 彼女はスタスタと歩き出す。そこには、先程まで不満を表していた少女の姿は全く無かった。同一人物とも思えない。

 ライトは、何を言われるのかと、肩を落としながら戦々恐々という様子で付いて行った。



◆◇◆





「ライト、来なさい」

「…………」

「早く」

「…はい」



 場所戻って『ドローレ』。

 彼女の定位置であるベッドの上に腰掛けたナイは、ライトに命令する。

 命令を聞かず、動かないでいると、その精神を抑えつける何処かの蛇のような圧で催促してきたので、抗えずに彼は、彼女のもとへ近づく。



「ベッドの上に寝なさい、服はそのままで良いわ」

「分かりました」



 言われるがまま、ライトはベッドに寝る。

 すると、ナイは彼の上に跨った。

 その行動に、僅かに体が跳ねる。



「ナイ、何をする気――」

「――黙ってなさい。ワタシにされるがままになっていなさい。今の貴方は人形よ、ワタシの行動に異を唱えることも無ければ、抵抗することも無い。ワタシに言われたことだけをする、そんな人形。良いわね?」

「……」

「返事は?」

「はい」

「ええ、良い子ね」



 優しく頬を撫でられた。

 それだけで、思考が鈍らされる。抵抗の意志が削がれる。



(何かが変だ……ナイの言う通りにしてしまう。もしかして、ナイのスキルの効果かも。しまった、先に詳細を調べておくんだった)



 この自身の失態による状況に、後悔を重ねる。


 彼女が、ライトの首元に顔を近づける。



「すぅ〜、良いわね。やっぱり貴方は良い匂い。甘い、果物みたいな、それでいて妙に惹かれる独特な匂い。女を惹きつける匂いって言ってもいいわ。これで、どれだけの相手を……許せないわね」

「……」

「ワタシのものの癖に、生意気よ。貴方を、ワタシの色に染めてあげる。その胸に刻み込んであげるわ、ワタシという存在を」

(いや、やっぱりこれ不味くないか?)



 明らかにギラついた、いつも相手がしていると嫌ではないが嫌なことに合う目をしているナイに、本能が警鐘を鳴らす。

 だが、残念ながら異を唱えられなければ、抵抗も出来ない。

 彼は、運命に身を委ねた。


 一つ言っておくとするば、最終的に一線は超えていない。

 まあ飽くまでも、超えてはいないだけだが。



◆投稿

次の投稿は4/2(日)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆蛇足

語り部「ナイ、結構バグった性能してるよね。魔法特化で」

蛇の王「今までのメインキャラは、変則と物理型だけだったから、いいバランスじゃろ?」

語り部「キャラ制作の裏事情の欠片を語るな」

蛇の王「これは失敬」

語り部「既に今章も半分を切った、大きく展開が動くぜ!」

蛇の王「では来月もよろしくじゃ」



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